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蒙古斑が光るのは

「……は?」


 何を言われたのか理解できず、麗珠(レイジュ)は目を瞬かせる。

 楽しそうに翡翠の瞳を細めた龍蛍(リュウケイ)は、麗珠の手から簪を抜き取るとそのまま髪に挿し戻した。


「皇帝って……だって、即位して十年だって聞いたわ」

「そうだな」

 あっさりうなずいているが、おかしい所しかない。


「何だか急に大きくなったけれど、それでも今十五歳くらいでしょう?」

 そもそもは五歳くらいだったので、今の大きさも納得がいかないが、それでも即位から十年経った皇帝だと言い張るのは無理がある。


「そこなんだ、問題は」



 龍蛍はため息をつくと長椅子に腰かけ、麗珠を手招きする。

 さすがに同年代くらいに見える男性の隣に座るのはどうなのだろう。


 だが、相手はお子様龍蛍なので気にするのもおかしいし、皇帝だというのなら指示に応じなければ失礼に当たるのかもしれない。

 どうしたものかと思ってちらりと浩俊(コウシュン)に視線を向けると、言いたいことは伝わったのか苦笑される。


「龍蛍は言葉が足りないんですよ。隣に座ってほしい、と麗珠様にきちんと伝えなければ」

 浩俊はそう言うと、優雅な手の動きで龍蛍の隣に促す。


「そもそも、そこに座る意味がわからないけれど」

 座るにしても龍蛍の向かいに椅子はあるのだから、普通はそちらではないだろうか。


「立ち話では落ち着かない」

「そうじゃなくて。何で隣なのかってこと」


「巷の独身の女性ならば男性の隣に座るのを躊躇うのもわかります。ですが、ここは後宮で龍蛍はその主である皇帝。そして麗珠様は後宮入りしている姫です。隣に座ることに何の問題もありませんよ」


 そう言われれば、そうかもしれない。

 実際はともかく、世間的には後宮入りした時点で皇帝のものなのだ。


 釈然としない部分は多いが、ここで粘る意味もない。

 麗珠が隣に座ると、龍蛍は満足そうに微笑んだ。



「皇帝なら……陛下と呼ぶべき……ですよね」


 考えるまでもないことではあるが、何せお子様だと思っていた相手だ。

 麗珠の中でまだ混乱していて、判断が鈍っている。


「いや。麗珠はそのままでいい」

「でも」

「名前もだが、言葉遣いもそのままでいい。……まあ、公式行事の際には猫を被ってもらうが」


 それは麗珠としては楽だが、皇帝相手にどうなのだろう。

 後宮内の基準がわからず浩俊をちらりと見ると、笑顔でうなずかれる。


 これはつまり、指示に従えと言うことなのだろう。

 麗珠もうなずくと、それを見た龍蛍は満足そうに微笑んだ。


「皇家には、桃斑(とうはん)と呼ばれる痣を持って生まれる者がいる。加護を得る代わりに大体五歳前後で成長が止まるんだ。暁妃(ぎょうひ)と呼ばれる存在に光を与えられると成長し、本来の姿に戻ることができる」


 一気に知らない単語が出てきて理解が追い付かないが、とりあえず気になるのは最後の部分だ。



「ええと。つまり龍蛍は、もともと十五歳くらいだったの?」

「ずっと言っているだろう。俺は大人だって」


「だって……それで、光って何なの?」

「俺が麗珠に出会って光ったと言えば?」

 その笑顔に、麗珠ははっと気が付いた。


「おしりに、炭――!」

「だから、入れていない!」

 間髪入れずに叫ぶと、龍蛍は大きなため息をついた。


「あれは、桃斑が光ったんだ。それを機に、俺の体は成長を始めた」

「いや、待って。何だか誤魔化されそうになったけれど、光っていたのはおしりよ⁉」



「そうだ。桃斑は蒙古斑が変化したもの。つまり――おしりが光る!」



 美しく成長した顔で堂々と宣言されても、言っている内容は酷い。


「それなら、そう言えばよかったのに。おしりに炭を入れて遊ぶ変態少年なのかと思っていたわ」


 何度も訂正する機会はあったのだから、光っているのはおしりで火傷の心配はないと言ってくれればいい。

 そうすれば龍蛍と服を引っ張り合って、破廉恥女呼ばわりされることもなかったのに。



「あのな。桃斑の存在は公にされていない。皇帝が子供の姿だなんて、危険だし問題だろう。だから影官がいる」

 龍蛍の視線の先で、扉の横に控えている浩俊が小さく礼をした。


「影官は皇帝がそれなりの大きさに成長するまで、代理で表舞台に立つ。成長後は補佐に回る役目だ」


 浩俊は先代皇帝の息子だと言っていたので、恐らく龍蛍とは異母兄弟か何かなのだろう。

 容姿も似ているし、うってつけというわけだ。


「そうだったのね、頑張って。……それじゃあ、私はこれで」


 皇帝に直訴して即刻退出の夢は難しそうだが、どちらにしても異母妹が来れば同じこと。

 おしりの無事もわかったことだし、あとは朱宮でのんびりとお茶でもしよう。


 だが椅子から立ち上がろうとする麗珠の手を龍蛍が掴み、バランスを崩したせいでそのまま椅子に腰を下ろした。


「ちょっと、何するのよ。世にも不思議な成長物語は聞いたし、もう戻るわ。それとも、後宮から出してくれるの?」



「……おまえ、話を聞いていたか?」

 邪魔をしたのは龍蛍の方なのに、麗珠が不満そうな眼差しを向けられているのは何故だろう。


「聞いたわよ。龍蛍が皇帝で、おしりが光って大きくなって、浩俊さんが小さい間の代理でしょう。じゃあね」

 今度は腰を浮かせる前に腕を掴まれたので、立ち上がることもできない。


「何なの? 放してくれない?」

「話は終わっていないし、肝心なところが抜けている。大体、何で浩俊はさん付けなんだよ」

「大人の男性を呼び捨てにはできないでしょう」


 浩俊は見たところ二十代半ばくらいだし、明らかに麗珠よりも年上だ。

 親しく名を呼ぶ間柄でもないのだから、普通の対応だと思うのだが、何故か龍蛍の眉間には皺が寄っている。


「俺だって、大人だ」

「はいはい」

 ぞんざいな返事を返すと、龍蛍の眉間の皺が更に深くなった。


「どうぞ、私のことは浩俊とお呼びください。……龍蛍の機嫌を損ねるので」

「よくわからないけれど、あなたも大変ね。浩俊」

 浩俊とうなずき合う麗珠を見て、龍蛍は大きなため息をつく。



「俺の桃斑を光らせて成長させたのは麗珠。つまり、麗珠が暁妃だ」

「へえ」


「……本当にわかっていないな。暁妃。妃だ、妃! その役割の重要性から、麗珠は俺の妃という扱いになる」


 妃という言葉を脳内で反芻した麗珠は思わず体を引いた。



そろそろ光ってほしくなる……。

モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆


中華後宮風蒙古斑ヒーローラブコメ「一石二寵」!

よろしければ、感想やブックマーク等いただけると大変励みになりますm(_ _)m

明日も2話更新予定です。



「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

12/2書籍2巻発売、12/3コミカライズ連載開始!

こちらもよろしくお願いいたします。


※現在1巻が品薄です。詳しくは活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中華風世界の皇帝なのだから、万歳爺 浩俊はたぶん弟 精神年齢が気になるところ 朝政の意思反映もたぶん…体に引っ張られてたらこの国危ないな
[一言] >その役割の重要性から、麗珠は俺の妃という扱いになる 育つのに必要であって育った後はお役御免な役割のような? 歴代にも育ったあとに真実の愛()に生きた皇帝も居るんじゃない?
[気になる点] 龍蛍本当は一体何歳?
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