1話
とりあえずの前置きみたいなの一、二話続きます。よろしくお願いします!
---ピピピ。
機械音が耳に届いて意識が浮上する。
聞きなれない音の方が寝坊をしない気がして購入した全く可愛げのない目覚まし時計はいまや重宝すべきモノで。
まあ朝がかなり弱い方ではなかったけれど。
「うぅー」
布団の中のまだ暖かい温もりを堪能しつつ、寝返りをうちながら爆発してるであろう髪を手ぐしで整える。直りにくさに、もしかして今日の天気は荒れてるのかもと思った所で、声がかけられた。
『8時を過ぎたけどいーのかしら?』
明るい声、なのに。
何故かいつも雨みたいに、聞こえる。
それも、しとしと降る静かだが心地の良い音。
『起きなくていーの?遅刻よ、遅刻。』
「ぅえ?!」
ギシイッとベッドから不穏な音が鳴るが構わず隣を見れば、こんもりと盛り上がる布団からぴょこんと出た顔が見えた。
気持ち良さそう。ものすごく良い寝顔だ。
しかし、大声で話しかけ揺さぶる。
「起きてー!透、とぉーる!やばい!」
「は、…ぅん?なぁに、はるちゃ」
「わあ、無駄に可愛いしぐさ、写メしてい?いや、遅刻!」
『…心の声が駄々漏れよ。』
叶井はる、15才。
全寮制のこの学園に通いだして、半年が過ぎようとしている。
同室の何だかキラキラ可愛い女子、いや美少女の壱佳透との暮らしも少しは慣れた。
二人して朝に弱いのは悩みの種ではあるけど。
「とーる、それ私のネクタイ!」
「あ~ごめん。はるちゃん髪はねてるよ。」
「あー、後でやる。」
適当に黒ゴムで結びながら答えつつ、透にカバンを渡して自分はリュックを背負う。
「休み時間に可愛くしてあげるね」
「ん、ありがと」
学校まで歩いて10分。
出席確認まで、あと8分くらい。
うーん、微妙。私は足が遅い。
靴を履きながら、部屋を見れば茶色の瞳と目が合う。珈琲のような焦げた色。呆れたような感情を乗せながら見てくる。
「…いって来まーす」
静かにドアを閉めつつ、お礼を声に出さずにかすかに伝えれば、さらに呆れ顔でため息を吐く姿が見えた。
「偉いよね毎回律儀に挨拶…」
「いや、なんか習慣よ。習慣。」
「ふぅん…」
まあ無人の部屋に挨拶する習慣など本当は無いけど、きっと閉められた部屋の中で彼女も挨拶を返してる気がするから。
気を付けなさいよ。とか何とか言ってる気がする。
学校に向かいながらもう一人の同室者の存在に思いを馳せる。
彼女は誰にも見えないし。
声も聞こえない。
というより、存在が確認出来ない。
私…叶井はる以外には。
彼女が言うには地縛霊らしい。
彼女の名前は六夜波留
そんな波留との出会いは、半年くらい前に遡る。