12/27【ホルスタインの振袖を着た女、るんるんと離島デート♪】
<今日の作者のひとこと>
歴史の中で、時おり疫病が人間に猛威を振るっているのは「神からの罰」だというけど、
それが本当なら、今ごろそれを治療するための場は設けられていない。
…と、シーク教の方はおっしゃっています。
タイトル:
ホルスタインの振袖を着た女、るんるんと離島デート♪
テーマ、舞台:
干支
お題:
明日
星
今から間に合うかは分からないけど、この俺ジョン・カムリはいま、全招待客と、ここプライムでお世話になった人たち向けに年賀状を纏めている。
裏面のテンプレートは既に数パターンが出来上がっているので、あとはそれぞれの住所とスタンプを押して郵便局に届ければいいだけだ。ただ、本州はまだしも離島は今から元旦当日までに間に合わないので、書いたら直接届けにいくことにしよう。というわけで、
「じゃじゃーん!」
俺の自宅であるウッドハウスのクローゼットから、マリアが笑顔で登場した。
和服にしては珍しい、ホルスタイン柄の振袖に紅白の帯、そして牛牙で出来た数珠とピアス。来年の干支である「丑」にちなんだ、今にもミルクを押し売りしてきそうなバストGカップ娘の着物姿お披露目である。悪くはないんだけど、うん… オッサン受けは良さそう。
「クリスチャンの下の階で売れ残っていたものを買ったの。すごく暖かいよ♪」
「マリアそれ、全部自分1人で着付けやったのか!?」
「うん、そうだけど」
着物の着付けって、メチャクチャ大変なんだよな。俺も今は「和ローブ」といって、あの銀河戦争ハリウッド映画でバリーさんみたいな見た目の強ぇオッサンたちが着用している和服を、クリスの下の階の和服屋から譲り受けているんだけど、これでさえ少し手間がかかるものである。その正統な女性モノを、それも振袖をマリアは5分でこなしてみせたのだ。
当のマリアはそれを訊かれて首を傾げているが、そういえばマリアって父方の婆ちゃんが日本人で、しかもあの桜吹雪財閥の出身なんだっけ。あそこは確か呉服屋も営んでいるから、そういうのに詳しかったか。そう考えると、着付けが出来ても別に不思議じゃないな。
「そうだジョン。もう皆の分のスタンプは押し終わった?」
「あぁ、もうこれだけやったら完成だよ。しかし、今年はあっという間だったな」
マリアが俺の返事を聞きながら、ちゃぶ台を向かい合ってチョコンと座った。しかし、こうして間近で見ると、その巨乳っぷり隠しきれてないんだよなぁ。寸胴に合わせて作られた和服でカバーしてても、やはりその風格は現れる。骨格がしっかりしているから尚更だ。
「アゲハの元いる世界では色々大変な事があって、テラの元いる世界でもちょっと不穏な影が動いているみたいで… このプライムもそう。本当に、激動の1年だったと思うよ。来年は、これ以上悪い事が起こらない様に祈るしかないね」
「なに、これ以上悪化したら溜まったもんじゃないだろ。その為の祈りと周回に、これから俺たち2人で向かうんだから。よし! 全部押し終わった」
「お? じゃあ、早速いく? 離島へ」
マリアがそういって、元の笑顔に戻った。ちゃぶ台に置いてある、俺が押しておいた全ての年賀状を手際よく重ねてそれを紙袋に入れていった。俺もここは背筋を伸ばす様に立ち上がり、マリアとともにウッドハウスを出る。
「あ、モブ! ここで会うなんて奇遇だな!」
こうして本州、次に荒樫と続いて、最後のレシヴァへと着いた俺たちは、最初に同級生のモブオと落ち合った。そいつは俺のクラスメイトで、普段は成田でたまに会うくらいだ。
て、本州、次に荒樫と続いて、最後のレシヴァへ… ってかなり流れが飛んでしまったが、本編にはあまり関係のない場面だったので、そこはカットさせて頂きました。サーセン!
「やっほー。今日はデート?」
そう言って、モブは俺からマリアへと振り向いたが… うん。明らかに目線がそっちの方向を向いている。マリアがそれに気づいていようが否が、俺が少し前にでてこう答えた。
「年賀状を、郵便に届けるんだよ。あとは、招待客達のご家族へ会いにかな」
「へぇ。あ、そういえばカムリンのお母さんって、こっちでセロ大の理事長をやってるんだっけ?」
「そうだよ。彼女は、そのセロ大に通っているんだ。な? マリア」
「うん!」
マリアは天真爛漫な笑顔で答えた。モブが、少しニヤついた笑顔で俺たちペアの和服姿を見ているがまぁ、恋愛経験の浅い男にありがちな妄想でもしているんだろう。正直ちょっと気持ち悪いが、この男と会うのも恐らく今日が最後なので、そこは寛容に接した。
「あれ!? あの2人、カムリンとマリアちゃんじゃん」
「やっほー」
と、そこに今度は女子2人がかけつけてきた。マリアが、その顔を見て笑顔で手を振る。
「お!? やっほーキミカ、ミドリ。2人ともレシヴァ旅行?」
マリアは、その2人が何者なのかを知っている。ここプライムではサッカーが得意なシアンの追っかけだ。俺は1,2回会った事がある程度である。女子2人は俺に会釈をしてから、マリアと女子の会話を繰り広げた。
「冬休みだから、暖かい所へ旅行しに来ましたー。てゆうかすごい、なにその着物の柄!? 牛、だよね?」
「うん。来年の干支が『丑』だから、それにちなんでホルスタイン柄の振袖を着て、年賀状を出しに回っているんだよ。今から届けるにしても、本州から離島は日数がかかるから」
「そっかぁ。え、彼氏さんも和服ってお揃いじゃん」
「ジョンのはネズミ色を基調としているんだよ。子年の『子』。来年は良い事がありますようにって、今年の振り返りも含めてこの組み合わせなんだ」
「「へー」」
「おい」
マリアのやつ、俺の和ローブについてかなり適当な事を言いだした。話の場を盛り上げるために咄嗟に思いついたネタなんだけど、確かに言われてみれば俺の服装はもう、ネズミ色にしか見えない。一応、シルバーグレーなんだけどな。まぁ悪い意味でいったワケじゃないだろうから、そこも俺は適当に受け流した。女子2人は、微笑ましく俺たちを見つめていた。
「あら、2人ともいらっしゃい。今、ちょうど姪っ子とビデオ通話をしている所よ」
「私もお邪魔しているわよージョナサン! あ、マリアも一緒なのね」
こうして最後に到着したのはセロ大理事長・鈴木ミサ、俺の母さんの自宅だ。ちょうど姉のジェニファーもお邪魔していて、中は少し賑やかな雰囲気が漂っている。玄関にある傘立てを見ると、ここじゃ使わない雪用傘が1本刺さっていた。雪国から来たお客様がいるな?
「あ。今、ちょうどジョナサン達もきた」
『ホントだ! こんにちは~♪』
リビングに入ると、そこにいたのはキャミ。まさかの来客だ。彼の前方に設置されているタブレットはビデオ通話がONになっており、そこには彼の妹ケイコが映っている。
といったって、これも冷静に考えたら別におかしい話ではないか。もう既にお気づきの方もいるかと思うが、俺たちカムリ姉弟と、キャミ&ケイコ兄妹は、母親が姉妹なのでイトコ同士だ。まぁ生まれも育ちも全然違うし、まず母さんの姉である鈴木ミラとはメチャクチャ仲が悪いから、元いる世界で交流する事は滅多にないんだけどな。
『マリアさん、牛の着物着てる♪ 来年の干支をイメージしたの?』
「うんそうだよ。年賀状を出しに回って、今やっと全部の仕事が終わったところ」
「ケイコ、久々に見たからか前と印象違くね? そっちの生活が充実しているようだな」
と、俺とマリアもキャミの横に座る形でビデオ通話に参加した。その後ろには母さんとジェニファーも加わり、皆でカナダからの中継を見続ける。ケイコが笑顔で答えた。
『新しいコーチがついてから、練習も試合も順調なの。チームメイトもみんな良い人たちばかりで、凄く楽しいよ。明日には、みんなでニューヨーク旅行にも行く予定なんだ。あ、そうだ。お兄ちゃんの通っているハーバーリンネなんだけど』
と、ここで何かを思い出したようにケイコが両手を叩いた。キャミが「ん? それが何か?」と首を傾げたのを見て、ケイコが質問をする。
『そっちに、確かマイキさんって通ってたよね?』
「あぁ通ってるよ。いうなれば俺のクラスメイトだけど、それがどうかしたのか?」
『やっぱそうだよね? 来年、親の都合でハーバーリンネに転校する先輩がいるんだけど、その人マイキさんのご親族と交流のある人なんだって。で、もしかしたらマイキさんと同じ所になるのかな? みたいな話を前に噂できいたんだ』
「ほう」
てゆうか、そんな事聞いてどうすんだよと俺は突っ込みたくなったが、そこは流石に人様の家庭事情なので、敢えて訊かないでおいた。言ってしまえばそれ、来年の話だし、きっと俺たち招待客以外の人間はその頃になれば皆、今日話した事は忘れていると思う。悲しいけど、そういう事にしておこう。その辺はきっとキャミも理解しているはずだ。
「来年、入学や転校を迎える子たちは、その学校に招待客がいないかって気にするものなのかしらね? ジョンもそうだけど、もうすっかり有名なグループになっちゃって」
「そりゃそうよ、色々すごい事をしてきた人たちなんだから。さて、来年はどんな子が来るのかしら? 新しく招待客の仲間入りを果たすような、期待の新星が現れる事を楽しみにしているわよ♪」
なんて、母さんもジェニファーも来年に期待を込めたコメントをして、この会話をまとめた。俺もマリアも、その事だけは密かに気になっているものである。
「いやぁ、終わったね~ジョン! この後は、一緒にステーキか牛丼が食べたいな♡」
「そのホルスタイン柄の着物姿でいわれると、まるで共食いみたいに聞こえるんだが」
といって、俺たちはあれから数十分屯したあと、揃って母さんの自宅を後にした。キャミとは帰りの道が別だ。それはそうと、俺たち2人はマリアの自宅である海の家までの道中、こんな話をしていった。
「今年の漢字は『夢』、来年の抱負は『光』! だなんて、昨日兄ちゃんが呟いていたんだよね。確かに、今年はこのプライムという夢世界で生活をしてきた。元いる世界がどこも不穏だったから、来年は本当にちゃんとした光がさしてほしいって意味なのかな?」
「まぁ、そういう事だろうな。本当に、来年は良い年になってほしいよ」
「そうだね… ねぇねぇ知ってる? 干支の順番って、先頭がウシだったんだけど、ネズミがその背中に乗っていたんだって。それで、終盤は牛から降りて1着になったそうだよ」
「それ知ってる。ウシは何とも思わなかったのかね? そういう事をされて」
「さぁ? 意外と満更でもなかったんじゃない?」
「そうなのかな。で、何で急にそんな事を訊いてきたんだ? 俺に」
「うふふん…♡」
…なんて茶番はどうでも良いとして、みんなはこの1年、どう過ごしてきただろうか?
とはいっても、今年は世界中で今までの"当たり前"が崩れ、人々の暮らしが大きく変化した年だったと思う。ぶっちゃけ「もう良いだろう」と愚痴りたくなるような、そんな印象的な経験を過ごしてきたはずだ。来年こそは、色んな所へ遊びに行って、皆とワイワイ喋って過ごせる年になってほしい! と、俺は皆の幸福を願う。
【完】




