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見送った友へ  作者: 薙神田浅
7/10

絶望

あのドラゴン・・・


ヴァイスは困惑した頭で必死に考える。


―――間違いない。

伝承でしか聞いたことはないが、直感で分かる。あの黒い翼と、濡れたように光る黒い鱗は――


「――『ダークドラゴン』。」


数多(あまた)の国家を滅ぼしてきた・・・S級(ディザスタークラス)の魔物。


「どうしてS級(ディザスタークラス)の魔物がここに!?」


ヴァイスの頭の中が真っ白になる。S級(ディザスタークラス)と言えば、10国の、魔法が使える者たちを含めた軍隊を(もっ)てしても倒すことができない相手だ。

その怪物が――私たちの『ロザリオ』の上にいる――。


「シスター!!町に逃げて下さい!!」


やっとのことで叫ぶ。そうだ。皆を助けるんだ。


「で、でも・・・子供たちが・・・。」

「大丈夫です!!リテアが・・・リテアが助けています!!」


根拠はない。でも――


――そうよね・・・?リテア・・・。だってあなたは――私の命をいとも簡単に助けてくれたのだから――。


「だから早く逃げて下さい!!子供たちを――。子供たちを、絶対に死なせたりはしません!!」

「わ、わかったわ。」


シスターが急いで丘を下る。ダークドラゴンは何かに気を取られているのか、微動だにしない。


「よしっ!」


気合を入れようと、震える手で頬を打つ。


「リテアと――子供たちを探さなくちゃ!」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「・・・。ヴァイスの魔力量は凄まじいな。こんな奴まで呼ぶのか。」


目の前にはダークドラゴンがいる。そして背後には子供たちが。

咄嗟に『物理障壁(バリア)』を展開したので、リテアと子供たちには怪我一つない。

皆が不安そうにリテアを見つめる。


「そんなに不安そうな顔をするなよ。・・・大丈夫だ。僕が追い払ってあげるから。」


子供たちの中で、一番年上に見える男の子が口を開いた。


「手伝います。」


こいつは確か――

リテアは記憶を探る。ヴァイスに抱きしめられていた少年――名前は確か・・・


「なあアンスリウム、気持ちは嬉しいが、一人で大丈夫だ。姉さんの傍にいてやれ。」


アンスリウムは不服そうな面持ちだ。少し考えた後、アンスリウムは再び口を開いた。


「しかし・・」

「言いたいことは分かる。」


アンスリウムの話が終わらないうちに、言葉を被せる。


「だがな、姉さんは今、一人だろう?誰が守るんだ?こいつらが守れるのか?」


アンスリウム以外の子供たちを指さす。


「・・・おまえが、守らなくちゃいけないんだ。――後悔してからじゃ・・・・・遅いんだ。」


――そう。後悔してからじゃ遅い。


「わかりました。」


はっきりとした返答。アンスリウムの顔からは決意の表情のみが読み取れる。


「さあ、行くんだ。」


リテアは子供たちを送り出す。姿が見えなくなったところで、ダークドラゴンと対峙する。


魔石を喰らう魔人とは違い、他の魔物は魔石を()()する。吸収して強くなっていくのだが、もちろん上限がある。スライムがいい例だ。ほとんど吸収できないので、たいして強くもならない。 ―――吸収しなくとも生きていけるので、戦わず逃げることに特化した魔物もいる。


ドラゴン種は吸収できる容量が大きいからな。手っ取り早く強くなろうと、ヴァイスを襲いに来たのか。


ダークドラゴンはこちらを凝視している。


「あぁ。お前ほどの強さだと分かるのか。僕のほうがヴァイスよりも魔力量が多いって。」


腰の剣を抜く。


「硬そうな鱗だな。」


キイィンッ


話終わらないうちに、ダークドラゴンの足へと剣を叩きつける。予想通り弾き返される。


「にしても・・・。」


ダークドラゴンの足に視線を送る。


「音速を超えた、僕の斬撃に無傷だなんて。」


はあ。と深い深いため息。


「この場所から極力動きたくなかったのに。・・・仕方ないね。」


ダークドラゴンの身体を見回す。


「おっ!首の――」


ダークドラゴンが炎を吐く。鋼鉄をも溶かす熱風と、海のような炎が辺りを包む。手加減というものを知らないのか、炎は町にまで及ぼうとしている。


「おいおい、人の話は最後まで聞けって。」


リテアは軽く手を上げる。


「『氷結(フローズン)』」


辺りを覆いつくしていた炎が、一瞬にして凍り、四散する。熱風は今では冷風へと変わり、熱によって噴き出た汗に心地よい。


「まあ、どうせ聞いても答えてくれないだろうが・・・。」


リテアは笑う。


「お前の首元、(やわ)そうだな?」



―――――――――――――――――――――――――――――



「お姉ちゃん!!」


呼ばれた方向に振り返ると、子供たちがこちらに向かって来ているのが見えた。


――よかった。無事だった。リテアにはお礼を言わないと。



キイィンッ


けたたましい、金属がぶつかる音がした。


――リテアが戦ってるんだ!!


「皆!こっちまできて!町に避難するわよ!」


町を指差して言う。

ヴァイスが指示を出した瞬間だった。


「熱っ!?」


急に高温の熱風が襲い掛かってきた。汗が噴き出す。

ヴァイスはダークドラゴンの方へと顔を向ける。


・・・頭に浮かぶのは ()() の二文字。 ――今にもマグマのような炎が到達しようとしていた。


「皆逃げてェェェ!!!」


叫ぶと同時に、炎は氷となって四散した。


「・・・へ?」


そしてさらに信じられないことが。


「うそ・・・・。」



ずるり



ダークドラゴンの首が、静かに落ちた音だった。

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