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第八話 帰ってきた日常と現実

 疲れた足でトボトボと歩きながら家に着いた。


 普通にいつも通り家を開けるつもりなのだが少し違和感があった。

 

 時間としてはそれほどオカルト世界に居た訳では無いが、妙な緊張感もなく安全な世界、安全な家というのは違和感を感じてしまう。


「ただいま。」


 一応挨拶はするが返事は無い。

 家族はどこかへ出かけているのだろう。


 僕は帰ってきた時は何をしていただろうか。

 まずリビングへ行き手洗いを済ませ飲み物を飲んでいた。

 

 いつも当たり前のように飲んでいたお茶が久しぶりに感じる。

 

 実際の僕の感覚だと本当に久しぶりな訳だが、この世界での僕は別段久しぶりという訳では無い。


「ふぅ。」


 コップにお茶を注いで直ぐに飲む。

 そしてもう1回注ぎ直してからテーブルに持っていき椅子に座る。


 いつも通りの行動していたら自然と現実の僕を思い出してきたようだ。


 テーブルを見てみると書き置きが置いてある。

 『買い物に行ってきます。 』母からのものだった。

 やはり予想通り出掛けていたようだ。


 お茶で一息ついたら重い腰を上げもう一度注ぎに行く。

 今度は置いてあるジュースを注いで自分の部屋に持っていく。


 階段を登る音が懐かしく思ってしまうな。


 部屋に着いた。

 当然何も変わっていないが自分の部屋というものに少し感動した。


 オカルト世界に行く前の僕は、自分の部屋に不満があるわけでもなくただ当たり前のように過ごしていた。


 だがこの世界に帰ってきてからなら言える。


「部屋、最高だな。」


 心からそう思えた。


 机の上にコップを置き服を着替える。

 今日はもうどこかに行きたいという欲求はない。

 心置き無く寝てしまおうと思う。

 まだ昼な訳だが許されるだろう。


「・・・・・・・・・・っ。」


 起きた。

 自分のそれなりに使ってきた布団の匂いを久しぶりに嗅いだ。


 目をハッキリとさせ起き上がり時計を見る。

 帰ってきてから2時間ぐらいしか経っていないようだ。


 携帯がブルブルと震えている。

 母からのLINEのようだった。


『 昼ごはんは冷蔵庫にあります。』そういえばまだ食べてなかったな。

 お腹が空きすぎて倒れそうだ。

 早く取りに行こう。


 ガチャ・・・・・・


 冷蔵庫を開けて昼ごはんらしきものを出す。

 皿に乗ったウインナーや卵焼きが懐かしく思う。

 それらをレンジで温めながら茶碗にご飯をよそう。

 温め過ぎないようにレンジから皿を取り出しケチャップとマスタードを乗せる。


「いただきます。」


 ・・・・・・・・・・・おいしい。


 考えてみれば僕のいつも食べているこのご飯やおかずは向こうでは食べられないわけだ。

 

 向こうは向こうで美味しいものが食べられる訳だが、こっちの簡単に作れる料理も負けていないと思う。

 舌が大人ではないということなのだろうか。


 久しぶりに白飯を食べて改めて思う。

 やはり白飯はおいしい。

 オカルト世界の方では白飯の文化はあるのだろうか。

 魚米があるのならどこかの町にはあるのかもしれない。


 食事を終え再び部屋に戻る。

 オカルト世界に帰ってきた時は一日中寝てやろうかと思っていたが、案外少し寝ただけで睡眠欲は抑えられているようだ。


「久しぶりにゲームでもしよう。」


 ピッ・・・・・


 ゲームのハードを起動しコントローラーを手にする。

 やるゲームはアクションだ。

 オカルト世界に通用するかどうかはわからないが一応役に立つかもしれない。


 というのは建前で、オカルト世界に行ってから何故かゲーム欲が出てきた。

 似たようなものだからなのだろうか。


 今日は積んでいたゲームを進めていくつもりだ。

 ストーリーが何回という訳ではなく単純に自分が下手くそなだけだが、今ならなんとなく行ける気がする。


 ・・・・・・・・ダメだった。


 だが積む前よりは進めている気がする。

 そして何が足りないかも分かっている。

 足りないものは体力と技術だ。


 脳筋プレイの弊害だろうか、ゴリ押し戦法をいつも取ってしまう。

 それはオカルト世界に行っても同じことだった。


 しかしその考えを止めるつもりも変えるつもりもない。


 すなわち僕に一番足りないものを補うのは回復役だ。

 脳筋で行き、後ろで回復を繰り返せば打開できるはずだと考える。

 回復薬のようなものはあるが使うより殴る方を優先してしまう。


 部長に回復してもらおうか。

 いやそれよりも神雨虚子が入ればまた変わってくるか?


 ふぅ。


 ゲームのことを考えていたつもりが自然とオカルト世界のことを考えてしまっている。

 それほど自分はあの世界に囚われてしまっているのだろうかと疑問符を浮かべた。


 一旦コントローラーを置いて一服することにした。

 

 そばに置いてあるジュースを喉に流し込む。

 炭酸が喉に程よい刺激を与えて体に入っていく。

 冷蔵庫から出した時は冷たかったが、一度寝て食事をし、そしてゲームをした後だと流石にぬるくなっている。


 程よくのどを潤したところでゲームを再開する。

 真正面から特攻をかける戦法を止めるつもりは無いが、その戦法を手助けできる要素を今回は探していく。

 探せば探すほど道が開けていく。

 面倒くさい道を省いて進んできたせいなのか、まだまだ自分の特攻は強化できる余地があった。


「なるほど、ここにはこれがあったのか。これならゴリ押していけるな。」


 所謂補助キャラだ。

 仲間になるほどではないが共に付いてきてくれるキャラクターらしい。

 結局力で何もかも解決していくのだから話は全く変わらないわけだが。


「・・・・・・・・・・簡単すぎる。」


 補助キャラ一人を入れるだけで、攻撃以外に費やしていた無駄な時間を無くすことが出来た。


 それに関しては良いことなのだが、一応このゲームはオカルト研究部に応用できるものと考えてやり始めた。


 だが結局のところ、回復薬がいればそれでいいということだ。


 そしてオカルト世界の能力は完全にランダムに付与され自分の思い通りの好きな能力というわけにはいかない。

 神雨虚子が回復役になるという保証は全くない。


「まぁ虚子自体回復役って感じじゃないしな。」


 引き続きおとなしく回復薬や薬草を駆使していくことになる。


「さて、ゲームの続きをしよう。せっかく進めたんだ、僕のイメージの糧にするか。」


 イメージの力は偉大である。


 あのモンスターや獣相手に自分のチョコがどれ程通用するか分からない状況で考えたのがただただ硬いチョコだった。

 現実の世界のチョコなら間違いなく通用するはずのないものだ。

 武器として使うと言ったなら十中八九馬鹿にされるだろう。


 ・・・正直言えば賭けだった。


 現実の世界ではありえないオカルト世界だからこそ考えることが出来た、想像以上の硬さを持つチョコレート。

 誰がこんなものを食べるのかと思ってしまうほどの硬さ、そしてモンスターや獣の体を貫く鋭さを持った戦闘兵器チョコレート

 そしてそれを作ってしまえたということはオカルト世界ではあの硬さのチョコレートが存在するかもしれないという疑問。


 ますます不可思議でファンタジーでメルヘンな世界である。


 ふと、思いついたように手を翳してみる。


 当然チョコなんて出るはずもない。

 端から見れば中二病か頭のおかしい奴か、演技の練習なのかと思われる。


「親に見られていたら憤死物だなこれは。」


 一応耳を傾けてみるが、静かな空気が流れているだけだった。


 当たり前のようにオカルト世界のことを考えているが、あの世界がものすごくよく出来た夢の可能性だってあるかもしれない。

 なのに今この瞬間、本当のことだと信じ切ってしまっている。


 オカルト世界のことは一度離れてパズルゲームを取り出す。

 何となく買ったものだがほとんど手を付けていないものだ。

 ちょうどいい機会なのでやってみることにした。


「ん、・・・あれ。―――――くそっ。」


 全然頭が働いていないのか全くできない。

 このままやけになっても仕方ないのでゲームの電源を落とし不貞寝する。


 だが寝たばかりの体では寝転ぶだけしかできなかった。

 寝転ぶだけでは当然暇なので結局考え事を始めてしまう。


 ・・・考え事というよりも妄想に近いものだが。


 自分達の能力を再確認する。

 変幻自在のチョコを生み出す能力と物を転移させる能力。

 ふざけているようにしか見えない能力と使って来たらふざけるなと激怒してしまうそうになる能力。


 実際部長がその能力を使えばほとんど無敵になるはずだ。

 近づくものは遠ざける、離れたものは近づける、そしてあらゆる方向に向きを変える。


 考えれば考えるほど強い能力だ。


 以前討伐したモンスター、結構大きいモンスターだったはずだが部長はいとも簡単に転移することが出来た。

 今はまだ距離自体がそう長くないが、伸びれば最強の力になるはずだ。


 一方チョコレートの方はというと、絵面はかなりふざけているようだが実はなかなか強く感じる。

 完全に贔屓目に見ての話になるが。


 虚子がオカルト世界に入って能力を得たらどんな能力になるんだろうか。

 考えても仕方がないことだが暇なので仕方ない。

 他のオカルト世界の住人も色々な能力を持っているはずだ。


 自分たちは向こうの世界ではそれほど人に接触していないため、まだ分からないが。


「そもそもオカルト世界に行ったのなんて一回じゃないか。何にも分からないに決まっているよな。」


 ついつい独り言を喋ってしまう。


 無駄に暇な時間を費やして考えことをしていたせいか、眠くなってきていた。


 もう寝転んだ状態なのでいつでも寝れる状態なわけだが、何となく堪えてみる。


「・・・・・・寝てた。」


 時計を見ずに寝ていたため何時間寝ていたのか分からないが今回はそれなりに寝ていたのだろう。

 体が少し楽になっている。


「それよりももう七時じゃないか。腹が減ったな。」


 いつもなら寝ている時でも起こしに来るはずなのだが今日は特に何も聞こえなかった。

 手元にある携帯の光がチカチカと点滅している。

 何かしらの通知の印だ。


 確認したところ母からの連絡だ。

 『晩御飯遅れます』と来ていた。おそらく買い物が思っていたよりも長引いているのだろう。


 母親を待つ間、少し外に出てみることにした。


「少し寒いな。」


 最近は温かくなってきてはいるが、やはり夜はまだ少し寒い。

 外でじっと止まっているだけでは風邪をひきそうなのでほんの少しの時間、家の付近を歩くことにした。


 歩きやすい道、見慣れた住宅街、やはり夜薄暗いと言っても知っている場所は安心感がある。

 オカルト世界なら昼間でも気が抜けない状態になる。

 ファンタジーとは程遠い血生臭い戦場みたいだった。


 いや、ファンタジーは案外血なまぐさいものかもしれない。


「あら、禍々士くん。」


 嫌な声が聞こえた。綺麗な声だが。


「げっ・・・、神雨・・・虚子。」

「人の顔を見るなり嫌そうな顔をしないで欲しいのだけれど。」

「それは、すまないな。」


 神雨虚子の顔を見ると嫌な思い出が蘇る。


 だから自然と神雨虚子の顔を見ないように生きてきた。

 出来るだけ避けて生活していくつもりだったのだがそれは叶いそうにない。


 何故なら同じオカルト研究部なのだから。

 嫌そうにしている割にはさっき神雨虚子の能力に妄想を白熱してたが、それとこれとは別なのだ。


「それといつもみたいに虚子って呼んでもいいのよ。」

「そう・・・・・だな。気が向いたらな。」


 虚子と名前で呼ぶのも嫌な思い出が甦る条件だ。

 当然避けていかざるを得ない。


 正直、気にしすぎている感は否めない。それにもう高校生なのだからそんな態度は改めないといけないのかもしれない。


 そんな勇気があるのならとっくに変わっているか。


「こんな夜に何してるんだ。」


 沈黙したままだと昔のことをぶり返してきそうなので話題を提供する。


「散歩よ。」

「そうか。」


 まるで会話が続かない。

 これでも幼馴染の筈だ。もう少しこんなイベントでも盛り上がるのが普通ではないか。


「今日はオカルト研究部で何をしてたの?」

「色々だな。っ!?」


 普通にスルーしてしまうところだった。

 時間は進んでいないはずなのに何故二人で何かしていたことがわかるんだろうか。


 まさかの黒幕説か?


「何をそんなに驚くことがあるのかしら。」

「逆に何をどう思ったら、何かしているのを分かるんだ?」

「?別にどう思うとかは関係ないけれど。

 あなたが部長さんと仲睦まじく話しているように見えたからかしら。」


「・・・・・なるほど。」


 確かに、僕からすれば部長とは何日間か共に過ごした仲だが、神雨虚子からすれば全くの他人である僕達が仲良く話しているのは不思議かもしれない。


 何が黒幕説だよ。


「休みが明けたら部長さんが何か話してくれるらしいけど、それ関連ね。」

「あぁ、察しがいいな。」

「お褒めに預かり光栄ね。」


 褒めているわけではないのだがわざわざ否定する程のことではない。


「休み明けを待たなくても、あなたに聞けばいいのだけれど。教えてもらえるかしら。」

「あぁ・・・なんと説明すればいいか。」


 正直話しづらい。神雨虚子だからというわけではなく話す内容が内容だからだ。

 オカルト研究部の部室に変な物体があって、そこに体を突っ込むと異世界へ行けるんだっ!何て言ったら間違いなく馬鹿にされる。


 そしていい病院を紹介されるだろう。


「なるほど、ちょっと部長の気持ちが分かったかもしれないな・・・。」

「何か言ったかしら。」

「いや何も。」


 説明するよりも直接見せる方がいいかな。

 僕と同じようにポータルに突き落とそう。


 それに部長も説明を先延ばしにしたということはビックリさせたいんだろうしな。

 楽しみを奪うのはよくないか。


「説明したいんだが、正直聞いて理解するよりも見てもらった方が早い気がする。

 それに部長もお前にドヤ顔で説明したがっているだろうしな。」

「随分部長さんのことを分かっているのね。分かったわ、じゃあもうそれ以上は聞かない。」


 相変わらず察しがいいなとつくづく思う。


 ヒュウウウゥゥゥゥ―――――――――


 風が出てきた。流石に少し肌寒い夜に歩きもせず、立って話し続けていると体が冷えていく。


「風が冷たいわね。もう家に帰りましょうか。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」

「また学校で。」


 返事をする前にもう神雨虚子は振り返って家の方向へと歩き出していた。

 帰宅するときの速さだけは僕にもほしい。

 今のところはオカルト世界ぐらいでしか使えないが。


「さて、家に帰るか。」

 母も帰ってきているだろうし。


「ただいま。」

「おかえりなさい。今ご飯作ってるから。」


 家に帰ると母が台所で皿を出したり電子レンジで温めたりしている。

 料理を作るわけではないらしい。

 お惣菜が乗せられた皿が置いてある。僕はそれを運ぶ役目を担っている。


 別に親は料理を作らないわけではない。今日はたまたま遅かっただけでいつも作っている。


「いただきます。」

「いただきます。」


 ご飯はいつの間にか炊いていたらしい。ただ少し水の量が多くてご飯が柔らかくなっていた。


「学校はどう?虚子ちゃんと同じクラスなんでしょ?」

「まぁ普通だよ。」


 学校のことを聞かれる。


 新入生なのだから当たり前か。

 それよりも何故神雨虚子と同じクラスだと知っているのか。

 一度も話題に出した覚えはないのだが。


「やっぱり高校だと同じ中学の子がいると安心でしょ?」

「まあね。」


 それが神雨虚子なのだから憂鬱なのだ。まぁでもその内友達出来るだろう。


「ごちそうさま。」

「お腹いっぱいになった?」

「うん。」


 食べ終わったら皿を持っていく。

 そしてその足で自分の部屋に直行する。

 あまり続けたくない話題の時はいつもこんな感じだ。


 部屋に入ってもやることはゲームぐらいしか思いつかない。

 今はまだ学校から課題を出されているわけではないし、予習なんてするはずもない。


 しかしやるゲームと言っても、さっきもさんざんやっていたゲームだ。


 外の空気を吸い腹も満たして気分は少し変わっている。

 このぐらいの気分転換をしないと一日に同じゲームを何回も出来ない。

 相当面白いゲームならそういうこともあり得るのだろうが、生憎これは積んでいた物だ。


「ん?」


 ゲームをダウンロードする場所に自分の欲しいゲームの体験版が出ていた。

 これはラッキーだとばかりに僕はそれをダウンロードした。

 結構容量の大きいゲームだが時間つぶしにはもってこいのゲームはある。


「さて続きからと行くか。」


 ボスを倒せば次の町に進めるゲームだ。

 いつの間にか地図が広がっていた。

 行ける場所は増えたが行く場所は素材集めだ。


 下手にストーリーを進めるとダウンロードが終わってしまう。

 黙々と時間つぶしを素材に捧げることにする。


 ピコンッ・・・・・


「おっ。終わったな。」


 ダウンロード完了の表示が出た。

 程よい時間のダウンロードのおかげで素材も効率よく取れている気がする。


 だがこのゲームは一旦置いておいて明日に取っておくことにする。


「さ~て始めるか。」


 いざゲーム起動。


「・・・・・・なんだこれ。」


 欲しかったゲームは思っていたものと全く違う方向性だった。

 要するに求めていた物とは違うものだった。


「はぁ~がっかりだ。もう寝るか。」


 ゲームの電源を消して布団に入る。


「っとその前に風呂に入らないとな。」


 そもそもまだ寝間着ですらない。

 急いで寝る準備をしよう。


 どうせ明日は休日なので風呂も適当に済ませ速攻で布団へ直行した。

 良い具合に暖かい布団の魔力には勝てずすぐに寝てしまった。


「うぅぅぅぅ・・・・・。腹痛えぇ。」


 朝起きたと思っていたらもう昼だった。


 それはいいが腹が痛い。

 今日は一日中トイレと付き合うことになりそうだ。


 ・・・もう半日しかないが。


 ご飯を食べる気にならない。

 食べたら腹痛が加速しそうだ。

 もう少し待ってから食事を取ろう。


 結局腹痛は夜に治り食事はいつもよりも遅めとなってしまった。

 せっかく楽しみに取っておいたゲームもまた今度ということになった。

 夜すればいい話だが明日は学校だ。

 今日はもう寝ることにする。


 けたたましい目覚まし時計の音が耳に鳴り響く。

 押して止めるものではなく携帯の機能を使ったものなので消すのにも一苦労だ。


 しかし今日はそれなりに調子はいい。

 昨日の腹痛が嘘のようだ。


「とりあえず学校行く準備をしよう・・・。」


 今日はオカルト世界に虚子も連れていくことになるのだろうがどうなることやら。


 朝の登校、これほど憂鬱なものはあまりないかもしれない。

 九月一日ほどではないが足取りは自然と重くなる。

 四月でこれなら五月はもっと酷くなりそうだ。


 学校へ着いた。

 教室にはそれなりに人がいる。前の席の奴もだ。


「お、霊明君。おはよう。」

「あぁおはよう。」


 僕の前の席の奴はコミュ力があるらしい。

 僕みたいなやつにも話しかけてくる。


「それにしても俺、この学校に来て本当に良かったって思えるよ。」


 いきなり語り出した。


「何でさ。」

「だってあんな綺麗な子がいるんだぜ?」


 前の席の奴の視線を辿った先には神雨虚子がいた。

 正直見なくても分かっていたが。


「そりゃよかったな。」

「ああ!」


 朝から元気だな全く。

 綺麗な女の子と一緒にいるだけで元気になれるって魔法みたいだな。


「みなさん、おはようございます。」


 いつの間にか先生が来ていた。また新たな学校生活が始まる。


「お前ずっと寝てたな。」


 前の奴が話しかけてくる。


「眠たかった。」

「あんな堂々と寝るってすげえな。ま、いいけどさ。じゃあまた明日な。」

「あぁまた明日。」


 僕にとっては明日かどうかわからないが。


 さて、放課後だ。オカルト研究部に行こうか。


 ガラ―――――


「やぁやぁおはよう部員の諸君。」


 ドアを開けたら仁王立ちの部長がいた。・・・・・諸君?


「入ったらどう?」

「うおっ。」


 いつの間にか後ろに虚子が立っていた。


「今日は初めて三人での活動だね。」

「ここは何の活動をするのかしら。」


 部長の期待通りの返答をしてやる虚子。

 部長の顔が笑顔からドヤ顔に変わっていく。


「ふっふっふ、見て驚くことなかれ。これだぁ!」


 ホワイトボードを動かして、後ろにあるポータルを見せた。


「・・・・・?」


 思ったよりも虚子の反応が薄い。


「何か気になるかい?近づいてみてごらんよ。」


 お、このやり取りをするってことは突き飛ばす気だな部長。

 ということは僕も虚子が入った後にすぐに入れるようにしないと。


「一体何かしらねこれ。」


 まんまと部長の策に嵌まりポータルに近づく虚子。

 その後ろに部長が構えていた。


「そぉい!」


 部長が勢いよく虚子を押した!と思ったが。


「ん?」


 寸前で綺麗に避けた。

 そしてそのまま部長だけが吸い込まれていった。


 ってボーっと見てる場合じゃない!早く入らなければ。


「部長さん消えたわ・・・ってちょっと霊明君!」

「うおおおおおお!」

 神雨虚子をダッシュしながら抱き抱えポータルへイノシシのように突進した。


 そしてそのままポータルの中をユラユラと進んでいった。


「はっ!?」

「気が付いた?」


 気が付いたら最後に止まった宿屋の中にいた。

 そして部長の声が聞こえるということは無事に入れたということだ。


「部長、やるならちゃんとやってくれよな。結構ギリギリになったんだからさ。」

「ごめんごめん。・・・でその神雨さんは?」

「はい?一緒に連れてきましたけど。」


 周りを見渡してみる。

 虚子の声が聞こえないならまだ寝ているだろうと思い、寝顔をじっくり見てやろうと思っていたがいない。


「もしかして先にどっか出掛けたとか?」

「ねぇ霊明君仮説なんだけどさ、聞いてくれる?」

「うん。」

「私たちのいる町はセカナイールでしょ?もしかしたら神雨さん、スーテムにいるかも。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「えええええええええええええっっ!!!!!!?」


お読みいただきありがとうございます。

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