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第六話 セカナイールに着いた

「宿屋が空いていないだって?」

「うん、だから私たちは他のポータルの置いていない宿を取らなくちゃいけない。」


 ガックリだ。もう完全に帰れると思っていただけに余計につらく重くのしかかってくる。


「まぁそんなにうなだれてないでさ、この町ちょっと見て回ろうよ。」


 正直もう疲れて眠っていたい気分だった。

 だが興味がないわけではない。妥協の提案をせざるを得ない。


「一回眠らせて。」


 人間睡魔には勝てない。


「じゃあちょっとだけ寝よっか。」


 自分の意見が通るのはやたらと嬉しいが、今はただ布団で寝たい気分でいっぱいだった。


「あれ一部屋だけ?」


 宿まで連れてこられたわけだが空いてそうな部屋は一つしかなかった。

 それならそれで仕方ないとはいえ、僕たちは一応男女、一人一部屋は贅沢だがそう取らざるを得ないはずだ。


「布団は二つあるから大丈夫だよ。」


 それはありがたい話だがそうじゃない。


 もしかして二部屋取るには資金が足らなかったのか?

 そもそも僕たちは拠点で一緒に寝ていたし今更と言えばそうだが。


 いや、考えるのはよそう。今はただ布団に入り込めばいい。


 僕は勢いよく布団にダイブした。

 あまり分厚くはない敷布団だったので鼻を打ったが気にせず寝転んだ。


 やはり疲れていたのだろうか。

 僕はすぐに眠たくなってそのまま眠った。


 ものの五分で目が覚めてしまった。


 いくら眠たくても一日に何度も寝ていたら早くに起きてしまう。

 二度寝しようにも完全覚醒しているせいで眠る気にもならない。


 部長は寝ているのだろうかと布団を見てみたが、いないというよりも使用した形跡すら見当たらない。どこへ行ったんだろうか。


 まあ僕が目を覚ました時に部長がいないのはいつものことなのであまり気にしていないが、あまり一人でうろつかないで欲しいものである。


 ここは森の中ではなく町の中、当然外よりも安全な場所だ。

 部長を探しに行く必要はないだろうし、この機会に色々と考え事をしよう。


 最近は目まぐるしく景色が揺れ動いていたせいでゆっくりと考えることはしていなかった。


 いくら考え事をしても結局部長に聞くことになるわけだが、言い渋ったり勿体ぶったりする癖がある部長が素直に教えてくれるはずがない。

 疑問の量が多ければ多いほどはぐらかされる可能性は高い。


 間隔をあけてゆっくりと聞いていこう。


「やぁやぁ起きているかい霊明君。もうそろそろ起きないと昼夜逆転してしまうよ。

 ・・・ってなんだ起きてたのか。あんなにいっぱい寝てたら眠れないよね。」


 それは皮肉か?

 まぁいい。質問は色々あるが軽く答えられそうなものを聞いていこう。


「ここの宿代の分のお金はどこから捻出したんだ?」

「それはモンスターの換金だね。

 嬉しいことにこの前のモンスターの素材をあの人がわざわざ置いていってくれてたし。」


 本当に聖人かよその人は。

 所謂初心者を助けてくれる上級者の方なんだろうな。


 僕の中で好感度がどんどん上昇していく。


「それは良いとしてさ、君も起きたんだし町を見て回ろうよ。」

 それは良いってことにはならないが確かに寝転がったまま話をしていてもだらしない。

 何にもしないよりかは町に繰り出している方がいいだろう。


「行こうか部長。」

「うん!」


 満面の笑みだな。家から一歩出るだけのようなものなのに。


「それで部長、さっき部屋にいなかったってことはもしかして事前にこの町のこと調べてたんだろ?」

「察しがいいなぁ君は。

 そうだよ、といってもあんまり調べすぎても面白くないし、君と見回るためにちょっとだけだけどね。」


 こういう所はとても可愛らしいと思う。

 出会った頃の変な語尾と中々情報を出さない異世界部長の過程が無ければ惚れていたかもしれない。


「じゃあそのちょっとってのは。」

「まぁ食事処だね。この町は水産に力を入れてるみたい。美味しい魚料理とかが有名らしいよ。」

「料理か。お腹も減ってたしちょうどいいな。」


 まるでデートみたいな会話だと客観的に見ればそう思うだろう。

 こういう会話を神雨虚子と出来る権利なんてあるなら喜んで買う奴が学校に何人もいるはずだ。

 あいつ自身はそういうことしないだろうが。


 グゥ~~~~


「あ、お腹が鳴った。」


 部長の腹が鳴るとつられて僕のお腹も鳴りそうになる。

 はっ、そういえば料理屋に行くのは良いがお金はあるのだろうか。


「部長、資金はどれくらいあるの?」

「ちゃんと二人分食べれるよ。でもそこから後は足りないかもね。」


 つまり宿から追い出される可能性もあるわけか。

 まぁポータルに入ってしまえば関係なくなるわけだが。


「今お金なくてもポータルはいればいいなんて思ってたでしょ。」


 この人はサトリなのか。それとも僕がサトラレなのか。

 心の中を見透かされるのと察しがいいのは少し違う。正直むずがゆい気分だ。


「まぁその通りと言えばその通りなんだけどね。

 でも私的には何か行動するにもそれなりに資金は持っておきたいんだよね。

 君もゲームするときはそうするでしょ。」

「・・・・・否定はしない。」


 完全に図星だ。

 それに今ポータルに入ったところで次入った時は結局一文無しなのだ。

 それなら今のうちに稼いでおくべきだろう。


「でもその前に腹ごしらえだ。」


 そういえば僕のチョコは腹を満たせるのだろうか。

 このチョコを作るのに体力を使い、そして食べれば腹が満たされる。需要に対して供給は釣り合っているのだろうか。


 ・・・今更な疑問だが。


「私もお腹ペコペコだよ。」


 二人してお腹を摩りながら歩いているのはとても奇異な光景かもしれない。

 もしくは変人。


「あ、この店だ。安くて美味しいんだよ。」


 外観はとてもいい雰囲気だ。

 看板は謎の魚の形をしているのが気になるが中々良さそうな所だった。


「早速入ろうか。」

 こういう決めたら即決ですぐ動くところ、ちょっと尊敬するよ。


「いらっしゃいませ~。」

 中に入ると何かの魚を焼いているのだろうか。とても香ばしい匂いがする。

 その香りが僕のお腹をさらに空かせる。


「二名様でしょうか?」

「あ、はい。」

「ではこちらのお席へどうぞ。」


 僕が現実世界でいつも行くファミリーレストランみたいなものではなくしっかりと食事処という感じだ。


「ほら霊明君、置いていくよ。」


 おっと、店の内観をじっくりと見ていたらいつの間にか部長が色々としていくれている。

 正直人見知りな人間である僕はこういうのに慣れていないからありがたい。

 ここに来て部長の頼もしさが僕の中でどんどん上がっていっている気がする。


 もしかして案外僕はちょろいのでは?


 店は中々広い。

 個室もあるみたいなので周りの目を気にせず食べたい僕みたいな人間にとってはここは正に最高の食事処だろう。

 今回は個室が空いていないようなのでファミリーレストランのような感じだ。


「飲み物の注文はいかがされますか?」

「あ、私は水で。」

「僕も水でお願いします。」


 まだこちらの世界に来てまもない僕らにとっては、どんな飲み物が出てくるか全然わかっていない。

 水が安定の飲み物だ。


「では注文をする際には近くを通りかかった店員にお申し付けください。お水は後ほどお持ちします。」

「あ、はい。」


 さて、早速だがメニューを見てみる。


「何のことだかまるで分らない・・・。」


 当たり前だが魚の種類、ソースの名前などあらゆるものが僕は無知だ。

 この世界にとって僕はまだ赤ちゃんの段階のようだと改めて実感する。

 それとも勇気を出して注文してみるか。


「霊明君、メニュー見て驚愕してるねぇ。

 まぁ私もまだ何が何だかわかんないんだけどね。

 とりあえず美味しいって聞いたものを選んでみようかな。」


 そういえば部長は事前にリサーチしていたはずだ。

 ここは変に攻めずに部長に任せよう。


「近くに店員が来るのを待つのもいいけど、いつ来るか分からないし呼ぼうか。

 すいませーん。注文良いですか?」


 人見知りだが何故かこういうことは出来る。

 謎だな。それよりもこんな現実の世界みたいな感じで大丈夫なんだろうか。

 僕らの世界では当たり前な行動が実は・・・なんて事が起きてしまったら。


 ・・・・・そうならないように祈ろう。


「ご注文はお決まりですか?」

「はい、え~と白身魚のフライ、野草と小魚のスープ、あと魚米?を二つずつ下さい。」

「かしこまりました。」


 スラスラ頼んでいたが最後に注文した時に少し疑問符がついていたのはなぜだ。

 不安になるからやめてほしい。


「勢いで頼んじゃったんだけど魚米ってなんだろうね。」

「来、来てからのお楽しみだな。」


 まさか部長が勢いで頼んでしまうとは。僕もこうはいっているが内心不安でいっぱいだ。

 魚米以外は普通に現実にもありそうな名前だ。


「え~お待たせしました。こちら白身魚のフライ、野草と小魚のスープ、あと魚米になりま~す。ではごゆっくり。」


 ついに来てしまった。フライとスープは美味しそうな匂いがしてきている。

 魚米も意外と見た目はいい感じだ。パッと見た感じでは普通の白米みたいだ。


「じゃあいただきますか部長。」

「うん、いただきます。」


 まずはメインから、と行きたいところだがとりあえずこの魚米をどうにかしたい。

 いや魚米は別に悪くない見た目だが、後味が悪くなるのは防ぎたい。

 ならば先に処理しておくのは当然だと考える。


「ではいただきます。」

「お、早速その魚米に行くんだね。」

 アンタが頼んだんだろうが。


「・・・・・・・・うん。」


 ・・・おいしい。思っていたよりもおいしい。


 魚米ということだから実は魚でできた米なんじゃないかと思っていたが正しくそうだった。

 でもその予想でも超えてくるぐらい美味かった。


「これ美味しいよ部長。」

「あ、そうなんだ。やっぱり私は良い目を持っているね。」


 自惚れるな。と言いたいが確かに部長が頼まなければ微妙に頼まないラインだ。


「フライとスープも美味しいよ。」

 フライの方にはタルタルソースだろうか。


 ・・・・・うんタルタルソースに近い何かだ。

 この世界にもこういうソースがあるのは驚きだ。


 そしてそれほど完成度の高いものだったとは、少し感動を覚えられるな。

 このフライと魚米を一緒に食べるとさらにおいしい。


 こっちはスープか。


 こっちもなかなか美味い。確かにこれはお勧めしたくなるのも分かる気がする。


「いい店を見つけたな部長。」

「そうだねぇ。教えてもらえて本当よかったよ。」


 僕たちは黙々と食べ続ける。

 皿の上がドンドンと減っていく。

 干し肉やドライフルーツみたいな軽食しか食べていなかったから余計に箸が進んでいった。


 どうせこの後の冒険でまたこういう食生活に戻るので今のこのご飯をよく噛み締めた。


「ふぅ~美味しかったねぇ。」

「ああ、完全に腹八分を超えてしまった。」


 ちょっと歩きづらくなるほど食べてしまった。それほどうまい店だった。


「さてさて次に行こう。本当はここを一番連れて行きたかったんだよね。」


 部長が一番連れてきたかったとこ?

 もう何が来ても驚かないが少し用心だけはしとこう。道場みたいなことにはならないだろうが。


「ここ、冒険者ギルド。」


 なんとこの世界にもこういうのがあるのか。

 スーテムには無かったからてっきりこの世界にはないものと思っていたが、やはり異世界あるもの冒険者ギルドありなんだな。


 そういえば僕たちは勝手に冒険者を名乗っているが正式に決められていないんだろうか。


「なぁ部長、僕たちって正式に冒険者って決められてたりするのか?」

「うん、知らなかったの?シュリットさんに貰ったものがあるでしょ、引換券。

 あれがいわば冒険者の証明だよ。」


 なるほど、あんなに雑に投げつけられたものが冒険者の正式な証明書だったとは。


「でもあれすぐに捨てそうにならないか。小さいしどこかに行きそうだ。」

「それなら安心だよ。あれ自体はただの引換券だからね。

 あれをもらうと同時に正式に冒険者としての資格を体に刻み込まれるんだって。便利だねぇ。」


 刻み込まれるとは大げさだな。

 ということはシュリットさんのあの道場は冒険者ギルドなのか。

 わかりにくいな異色すぎて。それに比べればここはギルドだと分かりやすい。


「ところでこの冒険者ギルドに何の用があるんだ?」

「もちろん冒険者特有の依頼だよ。」


 ドォン!!!


 依頼の紙が壁中に貼られている。上の方にあるのは見えにくいんじゃないか。


「壁に貼られている依頼は上から順に難しくなっているんだって。

 受付の人にこういう依頼があると紙を持っていけばランク付けをして壁に貼っていくって仕組みだよ。 

 だから上の方の紙を取るのは猛者ということだね。」

 はぁなるほどな。


 でもランク付けか。

 報酬で決められているわけじゃないみたいだが、ここに来る冒険者が猛者ばかりになったら下の方の依頼は誰も取らなくなるんじゃないか?


「じゃあ私たちも取ろっか。

 と言いたいけど、実はもう決めてあるんだよね。え・・・っと、これだね。」


 部長が壁から一枚の紙を取る。そしてそのまま僕の方へ向けてきた。


「何々・・・・・、素材集めかなるほどね。初心者らしいクエストじゃないか。」

「もちろん、最初だし、まだ部員、もといパーティも少ないからね。」

「部長のことだから場違いにランクの高い依頼に能天気に挑むのかと思ったよ。」

「私のことどう思ってるか、君に問いただしたいところだけど・・・今は良いや。

 行くよ霊明君。依頼は待ってくれないんだよ。」


 どちらかと言えば依頼者の方が待っていそうだと思うんだがな。


「さてと、外に出る準備は済ませたし後は依頼の品を集めるだけだね。」

「期限とか書いてないのか?」

「うーん、書いてないなぁ。

 でもあまり時間をかけすぎるのもダメだし手早く済ませようね。」


 さっきは初心者らしい依頼と思っていたが、それは形式がそうなだけで僕は集める素材がなんなのか全然わからない。

 結局ここも部長任せになる可能性があるのは気が引けるが仕方ない。


「部長はこの素材がどんなものか知っているのか?」

「まぁちょっとだけ見た事があるよ。

 名前の通り草だね、水辺に生えてることが多いんだよ。」


 改めて依頼書をよく見てみる。素材の名前はミズベツリグサというらしい。


「多分だけどさ、ザックの中にそれなりに野草とか色々乗っている本が入っているはずだよ。」


 部長に言われた通りザックの中を探してみると本があった。

 本というほど分厚いものでは無いがそれなりに情報が乗せられている。

 その中の項目にちゃんとミズベツリグサが乗っていた。


 釣竿のように太い茎から先へ進むほど細くなっていき、先の方に獲物に吸いつかせるための液体を出し、吸い付いた獲物を養分にすることから付けられたとされている。

 と書かれている。


 それなりにわかりやすい特徴らしいので見つけるのは意外と簡単かもしれない。


「それじゃあ早速レッツゴーだね。」


 もう出発か。まだ何にも考察とかしていない。闇雲に探し回っても意味が無い。


「一体どこを進む気なんだ。」

「拠点だよ。まずはそこを目指すよ。大丈夫、ちゃんと考えはあるんだから。」

「だから部長の大丈夫は心配になるんだって。ってもうかなり進んでいるし。」


 はぁ、仕方ない。部長がそう進むなら僕も同じように進もうか。


「う~んやっぱりここの拠点はそんなに綺麗じゃないね。冒険者らしくていいけど。」


 冒険者らしいとは何なのか。

 僕からすればこんな拠点にいる時点でもう冒険者らしい冒険者だと思う。


「それで部長、これからどうする?」

「この拠点の近くの池に行こう。一応水辺だし。」

「あ、あぁ」


 ちゃんと考えていたとは驚きだ。これは早く終われそうな雰囲気だな。


「これ池なんですか。」

「う、うんそうだと思う。」


 思っていたよりも大きかった。

 池というよりも湖だ。

 僕の常識が通用しないのはこの世界に来た時から何度も起きてはいるが、改めてこういうのを目にすると考えてしまう。


 完全に池のイメージでいたからこの大きさのものを考えるとかなり探すのに手間も時間もかかりそうだ。

 それにこの大きさだ。

 深さはどれぐらいかは分からないが、底が暗くなっているところを見ると結構深いはずだ。


 何か潜んでいそうだ。


「ちょっと危ないけど手分けして探そうか。」

「まぁそうなるか。とりあえず危なそうな感じなら叫ぼう。」


 とりあえず部長とは離れてミズベツリグサを探すことにした。


 まず探すのは池に近い場所ではなく、すこし湿っている場所で探すことにした。

 いきなり池の近くは正直危険だと判断した。


 本を見ながら探す。

 あれでもないこれでもないと探し続けるがそれらしい草は生えていない。


 まだ諦めるには早いが、お腹が空いてきた。

 さっき食べたばかりだと思っていたが、気づけば太陽は沈み始めていた。


 ずっと下を見ながら歩いていたせいだろう。

 上を見る機会が減って太陽の位置が分からなくなっていた。


「ふぅ一度拠点に戻るか。」

 部長も戻ってきているだろうか。


「う~んこの魚米結び、美味しいなあ。あ、霊明君お疲れ。」


 部長は先に帰っている様だった。

 僕も腹が減って仕方ないので魚米結びを取り出し頬張る。


 うん、やはりこれは旨い。


 この世界に来て一番の嬉しいことは今の所この魚米に出会えたことだろう。

 それほどまでに美味しいものだ。現実の世界でも作れないだろうか。


「霊明君はミズベツリグサを見つけられた?」

「全く。それらしいものすら見つかっていない状態だな。」

「う~んやっぱりそう簡単に依頼達成は出来ないもんだねぇ。

 ま、だから依頼に出しているんだろうけどさ。」


 やはり依頼に出しているものはいくらランクが低いと言っても難しいということだ。勉強になるな。


「よし、ごちそうさま。さてと続きと行こうかな。」

「大分体も休まったしな。」

 再びミズベツリグサを探しに行く。日が完全に沈み込む前にそれらしいものが発見できたらいいが。


 午前で探していた場所までついた。


 さて、今度はもっと池に近い場所で探すとしようか。

 池に近い場所はそれなりに足場が悪いバランスを崩すと池に飲み込まれてしまいそうだ。

 あの深さなら浮かび上がるのは一苦労かもしれない。


 チャポンッ・・・・・


「っ!?」


 水の跳ねた音がした。急いで首を回したせいで少し痛い。


 が、この痛みは無駄に終わった。池を見てみるが何もなかった。

 何もないのはそれはそれでおかしいが、気にしていても仕方ない。


 モンスターが来たら対処すればいいだけだ。


 だいぶ探したはずだが未だに手掛かりは見つからない。

 太陽も沈んできている。辺りが暗くなってきたようだ。

 

 もう今日は拠点へ戻ろう。とりあえず僕は今探している場所に印をつけ拠点へと走り出した。


 拠点へ帰ってきたが部長はまだ帰っていないようだった。

 一足先に帰ってきてしまったが僕のやることは変わらない。


 まずファイアーボールで火をつける。

 木と木を擦りつけたりだとかマッチで火を木炭に付けてちょっとずつ火を大きくするだとかしなくても、火を大きく簡単に作れるのはやはり楽だ。

 この道具を現実の世界に持っていくことは出来ないのだろうか、後で部長に聞いてみよう。


「お、霊明君。火を起こしてくれたんだね。やっぱり夜はちょっと冷えるね。」

 噂をすれば部長が来た。


「一応この世界にも熱いとか寒いの概念はあるんだな。」

「それは当然だよ。」


 まぁ確かに無いと生きてる実感がないかもしれないし。

「このファイアーボールで火を付けるのって本当簡単だな。

 これを現実の世界に持っていけないのか?」

「うん無理だよ。

 今着てる服も装備ももちろん無理だよ。

 持っていけるのは記憶だけだね。」


 サラッといったがそうか記憶まで持っていけない可能性もあったのか。

 まぁそれはそれでいつでも新鮮な気持ちで入れるかもしれないが。

 記憶が消えたり増えたりしていたら確実に脳味噌に悪影響を及ぼすな。


「話は変わるけどさ、見つけたかい?ミズベツリグサ。」

「結局見つめることは出来なかった。部長は?」

「同じツリグサは見つけることが出来たんだけど、ミズベツリグサじゃないんだよね。がっかり。」


 ツリグサにも色んな種類があるのか。これはよく本と見比べないと間違えそうだ。


「まぁ今日はこんな感じだけど、明日からはもっと本格的に探していこうね。

 今日はとりあえずご飯を食べよう。」


 今日は色々と町でやっていたことが多かったから時間をそっちに取られすぎた。

 明日は一日中探せるようになるな。


 尤も早く見つけることが出来ればそれだけ早く終われるんだが、そう簡単にはいかせてくれないようだ。


「僕も腹が減ってきた。

 あのお店で買ってきた、魚の煮物が詰められている容器はどこに置いたっけ。」

「私が持っているよ。じゃあ君はお湯を用意しといて。」


 大きな鍋は持ってこれないので小さい鍋を焚火の上に敷いた鉄の網の上に乗せる。

 そしてその中にウォーターボールを入れる。丸くなっているボールが溶け出し水になる。


「まさかこんなものが売ってあるとは。」

「川が無くても安心だね。」


 いちいち器に掬って持ってこなくてもこのウォーターボールで水を瞬時に取り出せる。

 便利な世界だ。


「沸騰してきたね、じゃあこれを入れるよ。」


 ガサッ


 拠点の外で音が聞こえた。草が風に揺られている音だろうか。


「もしかしたら、ほかの冒険者の可能性もあるかもね。一応拠点はみんな利用するし。」


 グルルルルルルルルルルゥ・・・・・


 今まで見たモンスターではなさそうだ。一応部長に確認してみる。


「あれはたぶん、普通に獣だと思う。

 獰猛なね。火の明るさに近づいてきたんだと思う。」


 なるほど、町の外はモンスターだけじゃなくああいった獣もいるのか。


「それでどうする?完全に敵意丸出しなんだが。」

「もちろん狩るよ。お金にもなるし。」


 簡単に言ってくれる。

 僕は狩りもしたことない。あるのはモンスター退治だけだ。


 でもやらないとこっちが殺されるのだろう。

 なら覚悟を決めるしかないよな。


「いつもの作戦で行こう。これが今の私たちに取って一番やりやすい戦い方だし。」


 そうは言ってもここはまだ拠点の近くだ。

 森が切り開かれているためいつもの作戦は取りづらい。


「いやちょっと考え方を変えよう。」

「何か作戦が?」


 作戦というほどのものではない。

 だが今までの作戦が出来ない以上、この方法が一番僕にとってはやりやすいと思う。


「簡単な話だよ。二人で突っ込むだけ。」

「え、それ作戦じゃなくない?」

「いいから行くぞ部長。」


 僕は獣へ突っ込んでいく。獣もそれをわかってか、僕の方を向く。


「ってもう早いよ君は!」


 部長も生き急いでいるみたいに早いけどな。

 獣までは意外と近くて遠い。


「そういえば部長聞いてなかったんだけど。

 その転移能力って対象を同じ方向に変化させるだけ?」

「どういうこと?」


 僕が思い浮かべているように進めるには部長の能力が僕の思っている様なものでないといけない。

 そうでないなら正面衝突だ。


「前に走っている人間を空中に下を向かせるように転移できるかってことだよ。」

「一応できると思うよ。」

「じゃあ僕の合図で頼む。」


 部長の返事を待たずにさらに加速させていく。

 獣との距離がだんだん近くなってきた。そろそろ僕の能力を使わなくては。


「イメージは鎧だ。棘付きのな。」


 地面から湧き出るようにチョコが僕の体を纏っていく。

 そしてそれは形を作っていき鎧へと変化していく。その前方には長く鋭い棘を纏いながら。


 足の動きが早くなっていく。

 もう途中で止めようとすれば足を崩し盛大にこけるほどの、脳で理解できていない程の速さで駆け抜ける。


 そして獣のギリギリまで近づいた。


「部長、今だ!」

「はああああ!」

 獣の目と鼻の先まで突っ込みそして視界が変わる。

 さっきまで見ていた敵意丸出しの獣の顔から背中の部分へと変わっていく。

 勢いを乗せたまま獣の背中へ突っ込む。


 ズシュッ! ズシュッ!


 鎧の先に付けた棘が獣の体を貫いていく。

 僕の体にも衝撃は来るが何とか耐える。


 痛みに悶え暴れている獣に振り落されないようにしっかりとチョコを強化していく。


「・・・・・?うあっ。」


 暴れていた獣が急におとなしくなり倒れた勢いで、僕の鎧が砕け軽く吹っ飛んだ。


「やったね、霊明君。君は参謀になれるんじゃないかな。」

「そんな良いものじゃないよ。」


 こんな無茶な作戦は二度とやりたくないな。

 神雨虚子が来たらこんなことしなくてもいいようになるかもな。

 あぁー早く帰りたいな。


「って君また眠ろうとしてる?」

「はっ!またいつもみたいに眠りそうだった。」


 正直こうやって全力を出し切ってそのまますぐに眠ってしまうのはやめたい。

 どうやら僕は思っているよりも自分の限界以上の能力を使ってしまうようだ。

 で、結果は体力の浪費だ。疲れがたまってしょうがない。


「それでこの獣どうするの?」

「とりあえず町まで持って帰る?それとも皮を剥いだり肉を食べたりする?」


 どっちの選択肢も取りたくないレベルだ。

 さっきは無我夢中だったからよかったものの、初めて生き物らしい生き物を倒した。


「答えにくそうだね、でも大丈夫。明日の食卓に私が並べておくよ。」


 いらない気遣いだがここは部長に任せよう。

 僕にはこの状態は手に余るようだし。


 でもお金儲けって言うのはこんなに大変なんだな。また思い知ったよ。


「あ、そういや結局魚の煮物食べてないな。」

「すっかり忘れてたね。

 一応鍋は火から退かしているからウォーターボールが完全に無駄になることは無いけど。

 魚の方はもう開けちゃったからすぐ食べないとね。」

「じゃあ先に戻ってまた準備しておくよ。」

「よろしくね。」


 さて、戻ってお湯作る作業に戻りますか。


「結局さっきは食べ損ねたからものすごくお腹が空いてるよ。」

「それは僕もだよ。早く食べよう。」


 良い匂いがする。

さっきは全力でお腹が空いている時だったから、今はもうお腹の空き加減が限界突破している。


「じゃあいただきます。」


 魚の実がホロホロで美味い。魚米は明日に取っているがこれは米がほしくなる。

 しかし味が濃いものを食べてしまったら余計に何か欲しくなってしまう。


 でも今は我慢だ。ただひたすらにこの美味い煮つけを食べ続けよう。


「部長はあの獣の処理できるんだな。」

「まぁね、君がここに来る前に色々と教えてもらったから。

 実は結構ここに来て長かったりする。」


 それにしては知らないことが多すぎるような気がする。

 初見じゃないにしては初見らしい反応ばかりだ。

 もし演技ならそれはそれで凄いがやめてほしい。


 だがこういうことが出来る人間がいるのは好ましい。

 冒険者としての質が上がってより楽しく出来そうだ。部長はそういうことも考えていたのか?


「ふぅごちそう様。さて剣でも研いでおこうかな。」


 部長は食後に剣を研ぐみたいだ。


 そういう僕はというと剣は全く使っていない状態だ。

 ずっと能力で武器を作り上げて戦っている。

 そのまま使わないようになるかもしれないが一応僕も研いでおこう。


「部長、その砥石鞄の中に入ってるのか?」

「入ってるよ~。」


 本当に色々入っているんだな。


「お、あったあった。これだな。」

 早速剣を抜いて研ぐ。

 まだまだ全然綺麗なので正直そんなにするつもりは無いが一応研いでおいた。


 軽く研いだだけだが眠くなってきた。

 そういえばさっきまで僕は獣と戦っていたんだった。そりゃ疲れるに決まっているか。


「僕先に寝るよ。部長は?」

「私もすぐに寝るよ。」

「そうか。」


 拠点の平たい所に寝る場所を作り眠る。

 現実ではベッドに入ってもすぐに寝ずに考え事をしたりしていたが、こっちの世界ではすぐに眠ってしまうな。


 まぁ睡眠自体は良いことだから別にいいが。


 さて寝ようか。


お読みいただきありがとうございます。

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