第五話 いざ行かん隣町
目を覚ますとまた見知らぬ場所だった。
今回はそれなりに記憶がはっきりしている。それに原因も分かっているつもりだ。
だがそれゆえに少し不安になってくる。
今戦っていたモンスターは、所謂初めの町から出てすぐ会えるモンスターだ。
そんなモンスター一体にこれほど苦戦していてはこの先どうなるのか分からない。
でも、さっきのモンスター戦は中々いいチームワークを発揮出来たんじゃないかと思っている。
僕は当たり前のように囮だと理解し、そして行動することが出来た。
基本的に部長に任せきりになるわけだが、モンスターに近づくにはうってつけの能力を持っているのでこれからも頼ることになりそうだ。
その部長は今は見えない。どこかへ行っているのだろうか。
そういえば僕は部長の悲鳴を聞いて急いで駆け付けたせいで、水を汲む器をどこかへ放り投げてしまっていたはずだ。
当然これからも必要になってくるものなので取りにいかなければ。
「さて、行くかな。」
長い時間硬い場所で寝ていたせいか、それとも先のモンスターとの戦闘による疲れなのか分からないが、体の節々に痛みが走る。
痛く感じる所を手で摩りながらノロノロと川の方へ向かう。
川へ行く途中、偶然にも道に器が落ちていたおかげで探す手間が省けた。
探す時間だけを考慮していたのでついでに水を汲みに行くことにする。
川のせせらぎが聞こえてくる頃、水の跳ねる音が聞こえてきた。
モンスターかもしれないと思った僕は、慎重に進みこっそりと覗き込んだ。
「ここの川ってとっても綺麗な水なんだね。
ちょっと冷たいけど、焚火の準備は出来ているから風邪は引かないかな。」
・・・・・・・・・誰かいる。というか部長がいる。
―――――――――パキッ
「・・・・?霊明君?いるの?」
思わず足に力を入れてしまった。
そのせいで落ちていた木の枝の折ってしまいバレてしまった。
ここは大人しく姿を現すとしよう。
「そう、僕だよ。水を汲みに来た――――――って部長裸じゃねえかっ!」
「あ、そうだったね。あはははは。」
笑っている場合じゃない。こっちとしては早く隠れるなりなんなりして欲しい所だ。
「と、とりあえず水を汲むのはまた今度で。」
その方がいいと考えた。余計なことを考えるととんでもないことをしでかしそうだ。
「あ、ちょっと待って。出来ればそこの焚火の所で待っててよ。」
森の中に赤く明るい場所がある。
おそらく部長がここに入る前に作っておいたのだろう。ある程度川から隠れているならすぐに移動しよう。
「わかった。とりあえず待っておくよ。」
焚火の所に来たものの、あるのは部長の服が吊られているだけで座る場所は無い。
おとなしく火を見ておくぐらいしかやることは無いようだ。
「やぁやぁお待たせ霊明君。」
部長が来たがここに服が置いてあるということは今も裸の可能性は高い。
もしくは布一枚は羽織っているのかもしれないが、一高校生としてそれは過激すぎる気がする。
「何でこっち向かないかは分かるけど心配いらないよ。」
部長の心配いらないは信用ならないが、このままずっと首を曲げていても痛いだけなので部長の方へ向く。
これはあくまで首のためであって部長の姿が見たいというわけではない。
「じゃあそういうことなら。」
「ほらね。」
ばっちりと二着目を着用していた。装備というか私服は二つ所持が可能らしい。
ちょっとがっかりな気もするがこれでいいんだ。
「あのモンスターとの戦闘でさ、霊明君、私が言わなくても囮になってくれてたよね。
最初はそういう動きを考えてやったわけじゃないけど自然とそうなって、それでここまで上手くいった。」
さっきも考えていたことだが、このパーティはバランスがいい気がしてくる。
というよりも部長の能力はかなり便利で単純に強い。
僕の能力も最初はどうかと思っていたが色々な形を作り出すということがこれほど役に立つとは思わなかった。
そういえば、モンスターの攻撃を防いだ時に咄嗟に出した盾は意外といい仕事をしてくれた。
所詮チョコの硬さなんだろうが、もしかしたらこの世界のチョコはとても頑丈なんじゃないかと思う。
亜人種もいるみたいだし、そもそも現実の世界と文化も文明もかけ離れているし。
「私たちはそれなりにいい相性なのかもね。
そしてそこに新たな部員が入れば、もっと盤石になると思うよこのパーティはさ。」
「僕自身が戦っている想像をあまりしなかったけど、神雨虚子が戦っている姿はもっと想像しにくいな。」
もし、神雨虚子がこの世界に来たらどんな能力を引っ提げてくるのだろうか。
僕としては微妙な能力をもらってくれると嬉しい。
僕の上位互換の能力なんて使うことが出来たら僕の必要性が皆無になってしまう。それだけは勘弁だ。
「確かにね。
そうだ、あのモンスターはまだ弱いし一匹しかいなかったけど、これからはもっとつらくなっていくかもしれないよね。
そうなったら霊明君も一戦一戦で倒れているわけにはいかないよ。」
耳が痛い話であるが全くその通りだ。
こんな初期モンスターにボス並みの体力を使っているようじゃダメだろう。
体力をもっとつけないといけないな。
「でも霊明君の能力ってとっても便利だよね。なんか槍を造ったり盾を造ったり。
もしかして武器とかじゃなくて他にも出来たりするんじゃない?」
いたずらっ子のような純真な子供のような笑顔で言ってくるが、さっき体力をもっとつけようという話ではなかったのか。
そんなことをしていてはまた倒れるかもしれない。
「さっき裸を見たお詫び代わりにねっ。」
完全に不慮の事故だったわけなんだが、何故か僕が覗きに行ったことになっている。
だが期待に応えないわけにはいかない。
色々と考えているときに思いついた現実の世界にもあるものをイメージする。
たまにホテルのバイキングにある奴を。
「チョコフォンデュだっ!」
頭と両手からチョコを垂れ流し、滝のように体を覆っていく。
なんとなくの思い付きでやってみたが、これはエネルギーの消費は激しすぎるようだ。
すぐに体力が無くなっていきへたり込む。
「はぁ・・・はぁ・・・、どうだ僕の芸は。」
「ちょっと期待してたのとは違うかな。」
ガーーーン。
結構頑張ったのに反応がかなり薄い。
こっちは命がけでやったんだ。
おかげで体力も無くなってここでへばっているんだからな。
「でもちょっと面白かったよ。」
「そ・・・それは良かったよ。」
これはもう二度とやることは無いだろう。
不可抗力のラッキースケベの代償にしては少しこちらの方がつらいような気がしてきた。
体力が戻ってきた僕は水を汲んで拠点に戻ってきた。
ある意味モンスターとの戦闘よりも疲れた気がする。
よくよく考えたらまだ町から出発して間もない場所にいるわけだが、こんなにペースが遅めでいいのだろうか。
「よし、出発の準備しようか。どんどん進んでいかないとね。」
良かった、一応進む気はあるようだ。そうと決まれば大急ぎで準備をしよう。
「ようし出発出発。」
拠点からようやく離れ隣町を目指している、・・・・・はず。
町から町までどれぐらいの距離があるのだろうか。
もしかしたらまた途中の拠点に泊まることになるかもしれない。
「部長、隣町までどれくらいかかる予定?」
「う~ん、まだまだだよ。」
やっぱりか。
どうやらまだまだ隣町に着きそうにない。ゆっくりと進んでいくしかないだろう。
「まぁでも今回は大分進んでいく予定だから、途中の拠点は粗方スルーしていくよ。」
それはありがたいな。
だがモンスターの襲撃なんてのもあるかもしれない。
・・・用心に越したことは無いか。
ただ森の中を歩いていく姿はハイキングのようだ。
モンスターとの戦闘は無く、途中休憩の水分補給や携帯食を食べたりすることはあってもただ進んでいく。
何かしらの調査や研究をしているわけでもない僕らは、果たして冒険者と言えるのか。
ここまでは普通の異世界観光だ。
いや、僕としてはそれでも満足なわけだが、せっかく冒険者としての役割を果たすための努力をしてきたわけだし、何かしらしたいと思うのは普通のことだと思う。
「何か聞きたそうな顔だねぇ霊明君。」
「いやちょっと気になったんだけど、冒険者って具体的に何するの?」
そういえば何も考えずに冒険者になってみたがどういうことをすれば冒険者らしいのだろうか。
ゲームや小説なら冒険者なら依頼などを受けたりするものだ。
この世界にもそういうシステムはあるのだろうか。
「う~ん特に考えてなかったな。」
考えなしでなろうって言ってたのかよ。本当に先が思いやられる。
このままだと本当にちょっとサバイバルが過ぎる観光みたいだ。
「なんというかワクワクが先行しちゃったみたいなさ。君にもあるでしょ?」
「無いわけではないが、規模が違うと思う。」
僕も見たこともないゲームのパッケージだが、なんとなく何も考えずに面白そうだと決めつけて買ってしまうことはあるにはある。
「ま、そんな感じだよ。
確かに今のこの状態だと冒険者らしいとは言えないよね。
でも大丈夫。隣町に行けば色々と新しい発見ができると思うよ。」
ほう、そんな大きな町なのかな。まぁ僕は付いたら速攻家に帰ることになるんだろうけどさ。
「だからそれまではゆっくり平和を楽しんでいこう。もうだいぶ進んできてはいるけどね。」
部長の言う平和がどういうことなのか分からないが、今どうこう言っても仕方ない。
冒険者らしくないのは事実だがゆっくり今を楽しんでいこう。
ガサッ・・・・・
「今、ガサッて音しなかった?」
「したような気がする。これはさっそく平和がぶち壊される可能性が出てきたな。」
平和っていうのはいつだって短いものなのかもしれないな。
ズンッ――――――――――
森の中でもさらに緑の濃い場所からモンスターが出てきた。
しかもそれは前に見たモンスターと同じ形状をしているがそれよりも大きい。
「霊明君、さっきと同じ作戦で行こう。今度のは手強そ―――――――――っ痛!」
モンスターと部長を目を行ったり来たりしていたら知らない間に、モンスターの攻撃を部長が喰らっていた。
「大丈夫かよ部長。」
「うん、大丈夫それよりも君はモンスターから目線をそらせないで。」
どう見ても大丈夫そうじゃないケガだ。僕がモンスターに受けた傷よりもかなりひどい。
だがモンスターから目を背けてはならない。
このモンスターの攻撃は見えづらくそして早い。
モンスターの小さく動く体の動きを見極めて対処をしないと。
「!?もう攻撃は始まっているのか!」
太陽の赤で光ったモンスターの攻撃が少し見えた。
僕はすかさず盾を作り僕と部長を覆う。
無事に防ぐことは出来たがやはり前と違うようだ。盾に亀裂が出来ている。
「部長、動けるか?」
「今治療中。もうちょっと掛かる。」
僕の遠距離攻撃が簡単に避けられてしまう以上、部長の近距離が決定的なダメージを与える最善の策だ。
あるいは僕が近距離攻撃をしても良いかもしれないがリスクしかない。
もう少しイメージというものを変えていかなければ。
「よし、回復完了。行けるよ。」
「じゃあいつも通りの作戦で。」
僕は囮の役割を果たしつつ自分を守り、部長は近づいて致命的な攻撃を喰らわす。
単純な戦術ではあるが意外に有効だ。
「囮をするならヘイトを集めておかないとな。」
前に戦ったモンスターと同じようなモンスターなら、僕の攻撃は避けられるかもしれない。
だが僕にはこれしかない、仕方なく槍を作り出す。
今度はただ真っすぐで細長い槍ではなく、少し歪な横にも得物が付いている形をイメージする。
正直実際に手に持ちながら戦うと邪魔でしょうがないものだが、空中に浮いて放り投げるだけならただの範囲攻撃だ。
「多少傷つく程度でもいいんだが、なっ!」
槍を放つ。
前みたいに小さく動いて避けるなら横の得物に引っ掛かりダメージを与えられる。大きく避けるならある程度予測して次を投げれば致命的なダメージになりうる。
「さぁ、どうなる。」
――――――――ガゥン
「なっ?正面からぶち壊すだと?」
その可能性はあまり考えてはいなかった。
避けるよりも正面からぶち壊す技量とパワーがあるならそれに越したことは無い。
こんなにあっさりと僕の槍が壊されるとは思わなかった。
やはりチョコではだめなのか?
――――――――ドサッ
何かが落ちてきた。嫌な予感がする。
「はぁ・・・はぁ。」
「まさか部長?」
いや見間違うはずもない。
あれは間違いなく部長だ!そして体中に無数の棘が刺さっている。
「くっ。何振り構ってはいられないな!」
今はモンスターを倒すよりも部長を運び出し拠点へと走るしかない。だが部長との距離はモンスターの方が近い。
だがここで怯むわけにはいかない。
僕もあの棘が刺されば危険だ。しかしそれも何とか気合で耐えるしかない。
――――――イメージするのは鎧だ。
そして一番想像しやすいのはつい最近会ったばかりのシュリットさんの装備。
あれが一番イメージしやすく形を作りやすい。この際体力の消費は考えないようにしよう。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
とにかく走る。
当然モンスターも動いてくる。部長に早くつ辿り着けば僕も部長も両方とも始末できるからだ。だがそれがどうした。
先回りされるなら突っ込んでしまえばいい。
―――――――――ガァンッッッ!!!
チョコで作った鎧は砕け散った。
僕の体に痛みが走り衝撃で頭痛がする。
だがモンスターもそれなりに吹き飛ばすことが出来た。
部長を確保し走りだす時間の猶予はあるだろう。
「部長、拠点まで僕にしっかり掴まっていてくれよ。」
「う、うん。」
握る手はかなり弱々しい。
僕は落とさないようしっかりと部長を密着させ背中に乗せて走る。多少の振動は我慢してもらいたい。
走りながら部長の地図を見る。
何が書かれているか分からないところが多いが拠点になりそうなところは何となくわかる。
森の中は危険だが、道に走っていっても隣町まではかなり距離がある。
近くの拠点に身を潜めて時間を稼ぐしかないだろう。今はとにかく走るしかない。
「はぁ・・・はぁ・・・。くっ、もう少しで拠点があるな。」
幸運にも拠点はすぐ近くにあった。もうそろそろ見えてくる頃だ。
「あ、あったぞ拠点が。とにかくあそこに転がりこ―――――――――
――――――――グサッ
「ぐうぅぅぅっ。」
足に何かが刺さった拍子に倒れてしまった。勢いよく倒れたせいで部長が離れた所にいる。
足の部分を見る。あのモンスターの棘だ。
もう近くまで追って来ていた。
「はぁ・・・はぁ・・・、もうここまでか。」
―――――体力も残っていない。
―――――瞼も落ちてきている。
モンスターの影が見えているが戦うどころか立ち上がることすら出来ないぐらいに自分の体が弱り切っている。
「ダメだ、もう動・・・・か・・・・・・な・・い。」
瞼が落ちて目の前が真っ暗になっていく。
「ここで死んでいてはいけませんよ。」
・・・誰かの声が聞こえる。
・・・聞いたことのある声な気がする。
・・・瞼の裏から光が漏れている。
もしかしたらもうすでに僕は天国にいるかもしれない。
ならもう考える必要はない。ゆっくりと眠るだけだ・・・・・。
「はっ!」
僕は飛び起きた。というか生きていた。
いや実はもう死んでいるかもしれない。
所謂あの世で死後の人生の幕開けという可能性も無きにしも非ずだ。
「あ、おはよう霊明君。元気そうで何よりだよ。」
部長の声が聞こえる。幻聴だろうか。
「なんか反応薄いなぁ、もしかして寝ぼけてる?」
いや幻聴じゃなさそうだ。
というよりこの展開がデフォルトになりつつある。
嫌なテンプレートだ、しかしそれも仕方ないのかもしれない。
なんせ僕は勇者でもない一般人の冒険者。死んでいないだけマシだと思おう。
「部長は元気そうで何よりだな。」
「まぁね。」
それにしてもあの時は危ない状態だった。
正直今でも生きているのが不思議なくらいだ。
誰かの声を聴き、何かの光を見て、そして意識を失った。
その後どうなったか部長は知っているんだろうか。
「部長は何か覚えていることは無いの?」
「うん、私も君の手から離れた時に気を失っていたからね。
でもあの後のことは大体わかっているよ。」
なんとあの状況からこの状況に至るまで分かるらしい。
もったいぶらずに教えてくれるとありがたい。
「君がここに初めて来たときに話したこと覚えてる?
この世界のことを色々と教えてくれた人がいるって話。
その人がモンスターを退治して私たちをこの拠点まで送ってくれたんだよ。」
色々と話してくれた人はシュリットさんじゃなかったのか。
何かおかしいなとは思っていたんだ、あの人何にも教えてくれないし。
「なるほどなぁ。僕もその人に会ってみたかったよ。」
「まぁどこかでばったり会えるかもね。」
確かに。
案外隣町に行けば道を歩いているかもしれない。
もし会ったら感謝の言葉を伝えないと。一応の礼儀だ。
「でも今回は結構危なかったね。」
「そうだよ部長。もう意地張らずに道を歩いていこうな。」
今回はその聖人みたいな人がいたから助かったものの、その人がいなかったらとっくに僕たちは棺桶だ。
もしくは森の肥料さ。
「う~ん確かにね。もう大分冒険者らしいこと出来たし、隣町に行こうか。」
やっとその気になってくれた。
鞄も軽くなってきていたし、ひもじい思いをするくらいなら近道を行きたい。
「まだちょっと体が重いけどいけるかな、霊明君。」
「全然行けるよさぁ行こう。いざ隣町だ。」
「そんなに気合を入れなくてもいいよ。」
道だ。
舗装されたとても歩きやすい道。
昨日のモンスターとの戦闘の傷がまだ痛んでいるがそれでも歩きやすい道。
いくら森の中を歩きやすくしたところでこの道に勝ることは無い。
「やはり道は素晴らしいな。」
「道だけでそんなに喜べるのは君だけだよ。」
部長はこの道を踏みしだいて何にも思わないのだろうか。
昨日まで歩いてきた道がおかしいだけで本来人間の歩く場所はここのはずだ。
当たり前の幸福とはこういうことなのだろう。
「それで隣町にはどれくらい掛かる?」
「この道ならあと一回昼休憩を挟んでも余裕で着くと思うよ。」
やっぱり道は素晴らしい。
冒険者や勇者よりもこういう職人こそもっと評価されるべきではないかと思う今日この頃。
昼休憩、少し道からそれて森の中で飯を食べる。
ふと体を休めると頭が働きだす。
つまり考え事が出来てボーっとしてしまう。そんな時一つの疑問が湧いて出てきた。
「そういえば隣町ってずっと言ってるけど、名前とかって付いてないの?」
ずっと隣町隣町と言っていても味気ないしややこしい。
名前があるなら分かりやすい。
「一応あるよ。そういうの気にするタイプなんだ。」
「気にしないタイプって何だよ。」
おっと、つい口に出してしまった。
「何かのほほ~んとして生きてる感じだね。」
部長のことだなそれは。
成程、分かりやすい例が目の前にいるのはありがたいですな。
後、部長は話を途中で入れてくるから話し忘れがあるんだと思う。
今のは僕が掘り下げてしまったので口には出さないが、今後酷いようであれば文句を言わざるを得ないだろう。
「何か言いたそうな顔だね、いいけどさ。
まぁ別に勿体ぶるような話でもないしさっさというけど。
確か・・・・・。」
地図を開いている。さっさと言うといった割には時間がかかっているな。
「あ、思い出した思い出した。
私たちが最初にここに着いたときにいた町はスーテム。
そして今から行く町はセカナイールだよ。」
ファンタジー感溢れる名前だ。それに何だか覚えやすい名前でよかった。
「じゃあそのセカナイールまでどんどん進もうか。」
いつまでも昼休憩で時間を取っていてはいけない。
正直疲れに疲れ切っているので家に帰りたい一心だった。
「すぐ着いた・・・。」
「だから余裕で着くっていったじゃん。」
いつも通り適当に言っていると思っていたがすぐに着いてしまった。
門には海鮮物に則った装飾を施されている。
だがじっくりとこの町について調べるのはまた今度だ。
「よし部長、すぐに宿屋に行こう。」
「君はせっかちだね色々と。」
僕たちは(というより僕だけだが)足早に門へと近づいていき潜り抜けた。
お読みいただきありがとうございます。