第四話 冒険には戦闘がつきものである
「それで隣町のルートとかってちゃんと分っているの?」
これで知らないと言われたらさすがの僕もチョコを振りまいて暴れる。
「まぁ分からないって程じゃないけどね、ただ道に沿って歩くなんて面白く、もとい研究のし甲斐がなくない?」
今更言い直しても部長がこの世界を楽しんでいるのは分かりきっている。かくいう僕もそれなりに楽しみではある。一応ファンタジーな世界だし。
「研究と言っても歩くだけなんじゃ・・・。多少モンスターに出会うこともあるかもしれないけどさ。なんか倒したら消滅するし研究のしようがないんじゃないか。」
この前、神雨虚子っぽい人を追いかけてモンスターに出会ってしまった時、結局横から部長が掻っ攫っていったが、そのままモンスターは消えてしまった。
処理に困って腐っていくよりはマシだがそれはそれで謎である。人間も同じように消えるのだろうか。
「歩いている内に見つかるでしょっ。じゃあ行こっか。」
・・・・・行き当たりばったりってことか。全く、冒険者らしいと言えばらしいな。
そういえば道具とか何にも用意していない。
そもそも装備という概念すらまだはっきりとわかっていない。よくゲームなら体力が減れば薬草などを食べるがこの世界でもそうなのだろうか。
正直薬草なんてものを体力が減る都度食べないといけないとなると辛いものがある。苦そうだし。
「あ、霊明君。道具の買い出しのこと忘れてたね。それも兼ねて色々この町のこと説明してあげよう。」
そういうことはもっと早くしてほしかった。後、僕の考えていることを読み取るな。それとも偶然か、偶然だな。
「それじゃあちゃんと説明してね。部長。」
「任せてよっ。」
正直不安でしかないよその自信に満ちた笑顔。
「ここが道具屋。ポーションとか売っているよ。後、私が最初に見せた水と炎の玉もここで買えるよ。凄いよねポーションて。傷がどんどん癒されていくんだよ、まるでファンタジーだね。」
ファンタジーだよこの世界は。
・・・・・オカルトはもうやめたのか。
「そしてここは武器や防具が売っているお店。でも能力が溢れるこの世界で繁盛してるって凄いね。」
確かに賑わっている。まぁこんな危険な世界じゃあこういうのも普通なのかもしれない。
僕自身必要かどうか微妙なところだが部長は必要あるんじゃないか?
「部長は何か買うんですか?」
「私はもう買ったよ、防具と小刀。軽装だし武器のリーチも短いけど私の能力に合ってるかなって。どう思う?」
「え?あぁいいんじゃないかな。」
意外とよく考えている。
部長は僕よりも早くこのオカルト世界に来たみたいだが順応が早すぎるな。
っとそういえば僕も武器はいらないにしても防具はそれなりに必要な気がする。
重装備の必要はないかもしれないがそれなりに防御力がほしい。
「あっ。」
そういえば財布がない。そもそもお金の概念が分からない。
持っていないというよりも何が金銭価値を持つのか分かるはずもない。
「部長、防具を買いたいんだけどさ。お金が無くて。」
ひも男みたいだがこればっかりは仕方ないな。
「霊明君、シュリットさんに何か貰わなかった?もし何か貰ってたらそれを店員に見せてみなよ。」
そういえばシュリットさんに何か投げつけられた。これを持って行けと言われただけだがこれを見せれば何かあるのか?
「あの、これ。」
「おう、それかい。ちょっと見せてくれ。・・・・・よしわかった。初心者用の装備だな。
一応軽重装備、武器の制限もあるが適当に持って行ってくれ。」
なんとこのよく分からないものは引換券みたいなことが出来るのか。
便利なものをくれたことには感謝するがもう少し説明を加えておいてほしかった。
それほど僕が急いでいるように見えたのだろうか。
「じゃあこの軽装の鎧とナイフください。」
とりあえず一応武器も貰っておこう。能力が出せなかった時用に持っておけば役に立つだろうから。
「あいよ。じゃあな冒険者見習いさん。」
無愛想な店員だ。僕としてはこういう感じの方が良かったりもするが。
「無事に買えたみたいだね。それは引換券みたいなものだから一回限りだよ。ちなみに道具屋でも一回だけ使えるよ。」
そういうことをもっと早くいってほしいと僕は部長にいつも思ってしまう。たぶんこれからも思っていくんだろう。
とりあえず武器や防具は買えた。後は部長の言うように道具屋にでも行って準備を整えるだけだ。
・・・・・部長に帰りたいと言ってはいたがこうなってくると楽しくはなってくる。僕の求める高校デビューとはいかないがある意味デビューではある。
「じゃあ道具のところまで戻るとしますか部長。」
「お、やる気が出てきたねぇ。嬉しいよオカルト的に。」
戻ると言ってもすぐ近くにあった。僕はさっきと同じ手順で素早く済ませた。シュリットさんに貰ったものを受け取った店員はおそらく何かしらの印でも付けているんだろうか。
「はいこれ。」
店員から受け取ったものは意外と量が多いものだった。
本当にスターターパックといったものなのだろう。
登山用のリュックサックみたいな多機能ザックの中にポーションや、いわゆる状態異常を回復する薬みたいなものが入っている。
そしてそれの説明書も入っている。
ありがたいことこの上ない。
現状、部長が謎の出し惜しみをしてくるせいで余計な手間が増えるばかりだからな。
「一応準備は出来たけど本当に行くの?まぁ行くしかないんだけどさ。」
部長が隣町にポータルを作りやがったから帰るに帰れない状況ゆえ、無理やり町を出ることになるんだが、やはり怖いものは怖い。
「もちろん行くよ。それにお金を稼ぐ手段は冒険者なら町の外にしかないしね。」
モンスターを狩るということなのか。でもこの前のはすぐに消えてしまったはず。
あまり良く見ていなかったが剥ぎ取るという行為をする程残っているとは思えない。他の手段でもあるのか?
「どうやって稼げばいい。」
「まぁ色々あるけどね。
別に町の外にはモンスターだけしか住んでいないというわけではないからさ、動物なんかも生きているんだ。
それにモンスターを倒した後も何か残るものはあるよ。この前もあったし。」
「残るものとは?」
「石・・・みたいなものなんだけどね。宝石みたいだけどそこまでキラキラしてない奴。
換金所で交換できるんだけどそこそこお金にはなるよ。」
なるほど、何も残っていなかったというよりも僕が見る前に部長が回収していたのか。
いつの間にそんなことをしていたのか分からないが結構やり手だな。
こう考えるとそれなりに頼もしい人ではある。
色々と勿体ぶるところは玉に瑕だがそれ以外は何となく頼もしいと思う。
「まぁ霊明君が早く帰りたいのも分かるからさ。もう出発しようか。」
「そうしよう。」
やっと出発だ。
正直もっと特別感のある出発をしたかったが仕方ない。
初めて町から出るわけではないがしっかり冒険をするという目的で出るのは初めてだ。
町の門についた。最初出た時はよく見ていなかったがそれなりに装飾がなされているように見える。
「それじゃあ行こうか。
とりあえず目的としては隣町だね。
一日では行けないかもしれないから、途中でキャンプを取ることになるよ。」
ついに冒険者生活がスタートした。
普通ならここで盛り上がるテンションでいるわけなんだが、ちょっと疲れているせいで盛り上がりきれない自分がいる。
なんせ、道場での修業を終えた日に即出発ときたもんだ。
ハードスケジュールにも程がある。
「部長、キャンプの仕方なんて知っているのか?」
「大丈夫っ、説明書があるよ。」
「知らないのかよっ!」
よくそんな危ない橋を平然と進めるなこの人は。
説明書で何とかなるって、そんなにこの説明書万能なのかよ。
そんなに有能な説明書があるなら部長の説明なんかよりもよっぽど分かりやすい気がしてきた。
「そういえばさ、何で霊明君は町から出てたの?能力出せてはしゃいでたの?」
はしゃいでんのはあなたの方だと言いたい。
「いや特にそういうわけではない。神雨虚子っぽい人を見かけたんで、追いかけてったらいつの間にか町を出てた。」
「ふぅん、そうなんだね。」
そんなに興味が無いのか、それともあまり面白くない答えだったからなのかは知らないが、その薄い反応は心に来るからやめてくれ。
「私もそういうの見かけたことあるよ。」
「部長もなのか。案外似たような人間がこの世界にも作られている可能性もあるのかもしれないな。」
このオカルト世界にもやはり神みたいな存在がいて、この世界の住人を作ったのだろうか。
僕たちの世界が先にできたのか、同時に出来た世界なのかはまだ分からない。
現実の世界の人間に似ている人間もこの世界にいるのかもしれない。
たまたま僕が見たのが神雨虚子によく似た人間だっただけで、実はこの世界と僕らの世界はあまり変わらないのかもしれない。
一種のパラレルワールドのような物ということになる。
・・・・・まぁ僕にとってはその真実を知る必要はないわけだが、部長が同じ疑問を抱いているなら、これを知ることを研究の最終目標にしていそうだ。
「というより、神雨さんだけじゃなくて君も見たよ。後ろからだけじゃなくて正面からちゃんとね。」
「なんと・・・僕の姿まで。」
ぽい人とかではなく、雰囲気が似ているというわけでもなくはっきりと僕たちを見たといった。
やはりこの世界は繋がっているのだろうか。
はたまたこの世界に入ることが出来る人間だけの姿をここに映しているのか。
・・・また疑問が増える。
「うん、だから君がオカルト研究部に来た時びっくりしたよ。
だってこのオカルト世界で出会った人とそっくりそのままの形で向こうの世界で出会えたんだから。
こんな偶然オカルト以外にはあり得ないよね。」
そもそもこの世界がすでにオカルトなわけだが、確かにそんな奇妙なことが起きれば変な語尾になるのも分からなくもない。
「じゃあ部長は僕らが入る前からこの世界に入ってたってわけなのか。一体いつから?」
「実はかなり最近なんだよね。現実の世界からすると霊明君が部室に入ってくるちょっと前になるかな。」
最近過ぎるだろ。
まぁ確かに部長が言うには、この世界で時間がどれだけ経っていても自分の世界じゃ全然時間が経ってないって言うし、あり得なくもない話なんだろう。
だが、そう考えると少し怖いような気もする。
背筋がぞわぞわする感覚だ。
ファンタジーだなんだ、オカルト的だなんだと茶化してきたが、実際にオカルトに直面すると怖いと思ってしまう。
本当にこの世界は何なんだろう。
「部長は僕の姿と神雨虚子の姿を見た。
僕は先にこのオカルト研究部に入って来てこの世界に来た。
そして神雨もこの世界に入るだろうな。」
「拒否しても入れるよ。」
それはちょっと強引すぎるだろ。
神雨は意外と身長も高いし部長は力負けするんじゃ・・・。
その時は僕も手伝おう。
「もしかしてこの世界は近い未来にこの世界に入ってくる人を映し出しているんじゃないか。」
「お、なかなか研究熱心だねぇ。
私も君を見て、そして神雨さんを誘って入ってくれた時にも同じことを思ったんだよね。
もしかして私が見たものは正夢みたいに実際に起こることなんじゃないかって。」
僕もいつの間にか熱くなっている。
普段はこういう面倒くさい考え事なんてしないししたくもないはずだ。
この世界に感化されて僕も変わってきているのだろうか。
「じゃあ部長は僕と神雨を見たんだよな。
で、それでオカルト研究部は三人。
部活として認められるには顧問の先生とあともう一人の生徒が必要になる。
灯暮先生が顧問だって言っていたからそれは良いとして後は誰が入るんだ?」
「それはもう決まっているよ。まだ名前は知らないんだけどね。
それにまだ学校で見てもいないけど。」
つまり、この世界でその姿を見たということか。
だが、この世界で見たとしてもそれが自分の世界にいる人間だと分かるだろうか。
ましては学校で見たことない人らしいし。
そう考えたら僕のこともおかしい。
僕は基本的にどこにでもいる普通の人間である。神雨ならわかる気もするが。
「部長はその新入部員(仮)や僕たちのことをどうしてこの世界にいると思ったんだ?」
「いや私も知らなかったって。びっくりしたって言ったでしょ?
まぁそういうことじゃないだろうけどね。
この世界に普通に生きてる人にはない、少しぼんやりとした物体があったんだよ。
そしてそれは人の形をしていた。
なんかそんな人いたら気になるじゃん。だから顔をじっくり見たんだよ。
明らかに周りと違う雰囲気だし他の人には見えていないような感じもした。」
そういえば僕も神雨を見た時、少し雰囲気が違うことを感じていた。
なるほど、上手く追いつけなかったのは周りの人を気にせずゆらゆらと進んでいたからなのか。
「ということはこのオカルト研究部にもまた新たに部員が入ってくるってことなのか。」
「うん、そうだね。」
なるほどなるほど。
それはまぁいいやそれよりも。
「僕たち全然進んでなくね。」
振り返るとまだ町の門が見える場所にいた。
「話し込みすぎたね。君は話しやすくていいね。」
聞き上手ということか、誉め言葉として受け取っておこう。
「じゃあどんどん進んでいこう。」
「そうしよう。」
もう太陽も沈みかけている時間だけどな。
道から逸れて行きながら進み森へと入っていく。
だが少し進むだけでもう日が大分落ちてきていた。
「暗くなる前に拠点を造ろう。」
冒険者としての活動は全くできていないわけだが、それでも暗くなってからの行動は控えた方がいいような気がする。
「拠点を造るのは良いけど襲撃に対しての対処はどうすれば?」
拠点と言っても丸裸同然のテントに、焚火用の道具だ。
道具と言っても着火剤は無く、衝撃を与えると空気と混ざり合って炎を瞬時に作り出す玉しかない。
火を維持するなら自分で木の枝を現地調達するしかないようだ。
「あ、テントは滅多に使わないよ。
こういう森の中には拠点になる場所があるんだ。そこで寝泊まりしたり食事を取ったりするよ。」
それは先人たちが作り上げたものなのだろうか。
森がやけに歩きやすいと思っていたが、誰かが先に森の草を分け、道を切り開いていたのだろう。
だが、果たして敷かれたレールの上を歩くだけで冒険者と言えるのだろうか。
そういうものがある前提で冒険者になるのは少しおかしい気がする。
そんな便利なものが用意されているならそれはキャンプに等しい。ツアーでも組んでいそうだ。
しかしそんなことを気にしていても、あるものはあるとしてこれを使わない手はないだろう。
「それでその拠点とやらはどこにあるんだ?」
「もうすぐ見えてくるよ。ほらそこ。」
それなりに整備された森の道を歩いた先にはそれなりに立派な建物があった。
第一印象はまさしく拠点だ。
町に近い拠点のせいで人はあまりここに来ないのだろうか。
葉っぱや木の枝が散らばっている。
だがそれでもテント暮らしに比べればスウィートルームみたいなものだ。
「随分と立派な建物だ。でもそうなるとやっぱり冒険者らしいと言えるのか疑問だ・・・。」
「もう、君は何でもかんでも気にしすぎだよ。もっと楽しくいこうよ。」
確かに気にしすぎかもしれないな。でも部長はもっと気にしよう。
「食事は食料となる物を全く取れてないから、干し肉しか腹を満たせそうな物が無いな。」
「まぁそれもおいおいね。こういう立派な拠点もいっぱいあるってわけじゃないし、今ぐらいちょっと楽しても問題ないよ。」
「じゃあお言葉に甘えて、少し寝転ぶとするかな。」
いやその前に水の確保をしておこう。
ここに拠点があるということは近くに水の確保できる場所があるはずだ。探しに行こう。
「部長、ちょっと水の確保してくるよ。川の位置とか地図にない?」
寝具に凭れ掛かった後にすぐ立たせるのは申し訳ないが、水が無いとお互いに困るのでここは確保を優先する。
「ちょっとまってね。
・・・・・うん、近くにあるよ。ここから拠点の裏を進むとあるね。二人で行こうか?」
「いやそれはいい。部長はここで火を作っておいてくれ。まぁ何かあったら叫ぶなりなんなりするよ。」
何もないことを祈るが僕たちは冒険者だ。そういうことは幾度となく起きるだろう。
「うん、じゃあ待ってるね。」
部長に手を振り僕は川を目指す。
出来るだけ水は多い方がいいだろうと器は大きめのものを持ってきたが、両手が塞がってしまうことを失念していた。
これでは脅威に立ち向かうことは出来ない。
いや、僕の能力なら手を使わなくても出せる。想像力を働かせれば何とかなるはずだ。
「ん?」
整備されきっていない森の道から水の流れる音が聞こえた。僕はその場へ小走りして向かった。
「川だ。」
森の中にある川は無条件で綺麗なものだと勝手に思い込んでいたが、想像以上に綺麗なものだった。
月の光が反射してイルミネーションのようだった。
「こういうのは部長の方が好きかもなぁ。連れてきた方がよかったかも。
まぁそれは明日でもいいかな、今は水を運ぼう。」
月の写った川から水を掬う。
少し現実の世界の月とは違って白色過ぎるがそこまで不気味には感じなかった。
「ふぅ、これぐらいでいいかな。あんまりいっぱい持ち運ぶと歩くのが遅すぎるし。早く戻ろうか―――――
「きゃあああああっ!!!」
誰かの悲鳴だ!
おそらく部長の声だろうが、声を張り上げているせいで微妙に違う人の声に聞こえる。
「急いでいかないと!」
僕は器を放り投げ急いで部長のところに向かった。
「大丈夫か!?部長っ!生きているか!?」
拠点に向かうと火がついていた。部長が作っていたものだろう。今はそんなことよりも部長の安否だ。部長はどこにいるんだろうか。
「霊明君!」
部長の声が聞こえた。とりあえず声のする方向へ向かって走っていく。
「あ、霊明君!ちょうどいい所に。絶賛モンスターに襲われ中だよ。」
いつも通りちょっと暢気でよかったがそんな場合ではない。
モンスターの出現だ、対処しなければ。
「前に見た奴と違うモンスターなんだが、部長は何か情報は?」
「ノーだね、完全に初見だよ。ぶっつけ本番でやるしかない。
準備は出来ているかな霊明君。」
随分と好戦的な部長だ。
しかし冒険者としてはそれが正しいのかもしれない。
とにもかくにもこれがパーティ初戦闘だ。きっちりやり遂げる!
「部長、作戦は?」
「とりあえずこのファイアーボールを転移させて攻撃したい。
でも今のままじゃ届きそうにないね。」
部長の能力は万能だがまだそこまで飛距離があるわけではないらしい。
ならば当然僕が率先して動いて行かねば。
「遠距離攻撃メインてことになるのか。なら僕のチョコで・・・。」
僕はすかさずチョコの槍を作る。槍の先を捩じらせ螺旋状に突き刺さる。
「食らえ!」
直線ではなく螺旋状に回転させながらモンスターに向かって放つ。
――――スッ・・・・
・・・簡単に避けられた。
少し横に移動されただけなのにいともたやすく対処されてしまった。
「部長、あのモンスター結構やるかもしれない。・・・・・部長?」
部長からの返事がない。辺りを探すと木の上を転移しながら渡っていた。
「なるほど、囮作戦か。だが引き受けた。」
僕は部長が不意打ちの一撃を決めやすくするために幾つもの槍を作り出す。
それにしてもモンスターの攻撃がなかなかないが気にしていても仕方ない、僕はこの攻撃をするだけだ。
「ふっ。」
強く短く息を吐いて槍をモンスターに放つ。
―――――――――パリンッ
「なっ?」
チョコが途中で崩壊した。僕のイメージが弱かったのか?
「喰らえ。」
もう一度槍を放ってみる。
――――――パキッ
今度はもっと手前で崩壊した。
「何故だ?イメージは割と強く出来ているはずなのに。」
部長の方を見るとまだそれほどモンスターに近づけてはいない。
迂闊に近づきすぎると危険だ。慎重かつ大胆な行動が必要になる。
「何だ?」
部長の方から少し目をそらすと少し白く光る物が見えた。
それは僕の方へ近づいてきて、僕の顔を逸れて行った。
「これは、まさか。」
モンスターの上を見ると無数の白い光が見えた。
「モンスターの攻撃かっ!」
急いでチョコの防御壁を作る。
ザクッ! ザクッ! ザクッ!
次々にチョコに何かが刺さってくる音がする。
僕を覆いかぶせるほどのチョコを出しなんとか防ぐことが出来たが、急に疲れてきた。
視界を埋めるほどのチョコを出し、そして固定したため体力を大分消費してしまったようだ。
打開しようがないと分かっているが力が思うように出し切れない。
このままでは負けてしまう。
「いや、よく頑張ったよ霊明君。」
――――――――ボオゥ―――――――――ザシュッ―――――――――
体力が尽きてチョコの壁が崩れていく。
視界が回復していきモンスターの方を見ると部長が立っていた。
「止めは私が引き受けちゃったよ。」
僕の体力は限界だ、部長の止めが無ければ危なかった。なんせ僕は囮だからな。
・・・・・何だか世界が暗くなっていくようだ。瞼が落ちてきているのだろうか。
前にもあったような感覚だなぁ・・・。
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