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第三話 何とかとチョコは使いよう

 目を覚ましたら見覚えのないチョコ臭い場所だった。

 見覚えは無いが嗅いだことのある匂い、すぐに自分の状況を頭の中で分析する。


「うん、道場だわここ。」


 寝かされたと思っていたら気絶させられていた。

 最近こういう物理的なことで気絶することがデフォルトのようになっている気がする。

 これは脳にいけないのだろうが不可抗力な場合しかない。未然に防ぐことは不可能だろう。


 それともチョコで何とかなるのだろうか。


「起きたか、新人。」

 師範が目の前にいた。今は槍を持っていないので戦闘になることは無いだろう。

・・・・・・たぶん。


「起きたのならさっさと立て。」

「は、はい。」


 割と低血圧な僕の怠くなっている体を無理やり持ち上げて立つ。低血圧だけが怠い理由ではなさそうだが、それをいうことは許されないだろう。


「お前にはこれからみっちり能力の使い方を学び、そして鍛えてもらう。まずはお前の名前を聞こう。」


 名前・・・、そういえばまだ自己紹介すらしていない状態で修行が始まっていた。色々と順序がおかしい。


「霊明禍々士です。」

「私はシュリットだ。能力は何もない空間から瞬時に鎧と槍を装備する。お前の能力はなんだ?」


 外国の人かな。そういやまだ部長にこの世界のこと全然話してもらってない。

 僕たちの部室にあった謎転移物質はあの場所にしか無いのだろうか。

 もしも他の場所にもあるなら僕たちと同じようにこのオカルト世界へ転移してくるのだろうか。


「おい、聞いているのか禍々士。」


 そもそもこの世界は僕たちが来る前からあったのだろうか。

 もしそうならもっと有名に、それこそまさしくオカルト的な要素として学校に伝えられているのではないか。

 部長は実はひっそりとこのオカルト世界のことを先輩たちに教えられて、そして研究を引き継いでいるのかもしれない。


「返事をしろ。」


 それならそれで少しこの世界にも興味がわいてきた。

 そういえば部長この世界に来てからオカルト的に、という変な語尾を付けていなかった。


 やっぱり部長は何も知らない可能性があるな。部室ではオカルト的になんて言ってたが、本当のオカルトに出会ったことで完全にキャラを忘れていたんだろう。

 

 たぶん!


そういえばこのシュリットさん。名前の後に何か言っていたな。確か能力が瞬時に槍と鎧を装備する・・・ってなんか拳が向かって―――――

 

――――――――ゴォン


「痛ってぇ・・・。」

「ちゃんと話を聞け。」

「すいません・・・。」


 殴られてしまった。少し考え事が多すぎたのだろう。

 それもこれも説明不足の部長のせいだ。今度会ったら口の中に無理矢理チョコレートをぶち込んでやる。


「お前の能力は何だ禍々士。」


 あ、名前で呼んでくれた、なんかうれしい。

 

 っと能力だな、ちゃんと言わないとまた愛のムチが飛んでくる。


「チョコレートを出す能力です。」

 自分で言ってて意味が分からないなこれ。


「それはわかっている。それで?そこから何かを作り出すとかないのか?」

「何かを作り出す?」


 その発想は無かった。もうチョコレートとして完成されたものだと確信していたが、まさかここからさらにカッコいい物になっていくのか?


「まさか自分の能力を何もわかっていないのか?はぁ仕方ない、説明してやろう。」


 これも本当は部長の役目だったんじゃなかろうか。もしかして説明を後回しにしていたのは、ここに僕をぶち込む気だったからなんじゃないか。


「聞いているのか。」

「はっ、き、聞いていませんでした。」

「はぁ、ちゃんと聞いておかないとこの先冒険者として立派になれんぞ。」

「すいません。」


 そういえば僕は冒険者になろうとしてたんだった。正直研究したいんだったら研究者にでもなるほうが早いんじゃないかと思う。


 まぁ、今考えていても仕方ない、シュリットさんの話を聞こう。


「お前の能力はまだ完全な力を発揮できていない状態だ。。

 お前のような能力は、私のように槍を槍のまま出すことは出来ない。

 故にそういった武器を出すときに、お前はそのチョコレートを出す力、そしてそれを武器へと変え、固定化する力を必要とする。

 つまりただ武器を出すよりも体力の消費は激しいわけだ。ここまでは分かったな?」

「はい!」


 もしかして外れ能力の可能性が出てきたのでは。


「いい返事だ。んん、まぁ代償が大きいということはもちろん損もあるわけだが、それなりに恩恵も得られる。私の槍はもう槍以外になることは無い。鎧も同様だ。だがお前の能力なら自分の意思でどんな形にも変えられる。可能性は無限にあるということだ。」


 チョコレートにそんな無限大な力が隠されているとは驚きだ。要するに僕の考えた最強のチョコをイメージすればいいんだろ?


・・・・・無理じゃね。


「あ、あのシュリットさん。その無限大の力を発揮するにはどうすれば。」

「私に考えがある。それは。」

「それは・・・。」


 ・・・・・何だか嫌な予感しかしない。


「実戦あるのみだ。」


 ですよね。意外とこの人脳筋タイプなんじゃないか。見事に能力もかみ合っている。素晴らしい人ですね。


「偉大な力は常に瀕死の自分から得られる。つまり真剣勝負だ。さぁ構えろ禍々士。今度は槍だけでなく鎧も装備する。死ぬ気で能力をイメージしろ。じゃないと・・・


墓を作る数を増やさなければならん。」


「なっ・・・。」

 つまり死ぬってことじゃないか。

 それに数を増やす!?もう何人かやっちまったのか!?


―――――――チャキッ・・・


 鎧と槍がいい金属音を響かせる。

 

 って素直に感心してる場合じゃない。シュリットさんは見た所、鉄・・・っぽい何か。

 一方こっちはチョコレート、まず勝ち目がない。

 さっきと同じ手を二度食うような人でもないだろうし、これは本気でイメージするしかない。


・・・・・イメージすると言っても急じゃ何も思い浮かばない。


「はああああっ!」


 相変わらずシュリットさんは猪突猛進だ。それはありがたいが冒険者としてそれでいいのだろうか。


「あっ。」

 良いことを思いついた。いっそのことシュリットさんの能力をイメージしよう。今は頭で考えているよりも目に見えるものの方がイメージしやすい。


 ―――――強くイメージしろ。


 ―――――あの鎧、そしてあの槍。


 ―――――そしてチョコレートの苦み。

 

 今ならいける。


 僕はより強く体全体に浸み込むようにイメージする。そして手を翳し強く念じる。行くぞっ!


「あっ、昨日のゲームが脳みその端っこから出てきやがった!」


――――——――――ドボォン・・・・・


「なにっ?」

「おお・・・・。」


 手から巨大な鉾が出てきた。

 いや生み出したというべきだろうか。見た目と匂いはものすごくチョコレートだが、形自体は立派な武器になった。


「やるではないか。ならば遠慮はしない!私の攻撃を受け切ってみろ!」


 シュリットさんは構わず突っ込んでくる。

 やりたいことが出来るようになったんだからここで終了にはならないのだろうか。


 ていうかこれ、すごく。


「重い・・・・、はぁ・・・・・。」


 自分の武器のくせにやたら重く感じる。僕は耐えきれなくなって腕を下げた。


―――――――――ゴゥン・・・・・


 たまたま振り下ろした鉾が突っ込んでくるシュリットさんの頭を捉えた。捉えてしまった。

 直撃時の鈍い金属音と共にシュリットさんは倒れた。


「これはやばい。」


 何故か動かない。

 今回はイメージが甘かったのだろうか、チョコレートは直撃と共に砕け散った。

 

 それは良いが、シュリットさんは倒れたまま動かない。


 まさか死んでしまったとか・・・。


 この年で前科アリはやばい。そもそもこの世界の方はよく分からない。

 殺したので君ももちろん死ぬしかない、なんて言われてもおかしくない。


 とにかくシュリットさんを起こそう。

「シュ、シュリットさん、大丈夫ですかぁー?」


 多少体を揺さぶっても反応しない。本格的にまずい気がしてきた。

 とりあえずチョコを食べて落ち着こう。うん、苦い。


 ・・・・・今なら黙って帰ってもバレないんじゃないか。

 そしてこの世界に戻ってこないなら問題ない。よしそうしよう。


 そうときまったらここから素早く立ち去ろう。


「う・・・――――ん・・・・・。」

 今微かに声が聞こえたような・・・・。


―――――――――チャキッ・・・・・


 金属の音!やっぱりシュリットさんは生きているんだ。

「はぁ~良かったぁ。」


 とりあえず僕も寝転ぶ。

 冷静に考えれば、もし死んでいたら生命力が枯れている、つまり能力は自然と解除されているはずだ。 

 シュリットさんの能力にそれが当てはまるか微妙だが。

 でもとりあえず罰せられることは無いだろう。


「おい禍々士。起きろ。」


 いつの間にか眠っていたようだ。


「シュリットさん、大丈夫でしたか?」


 一応聞いてみる。後で慰謝料とか払えとか言われたら困るし。


「何がだ。」


 ん?どういうことだ。覚えていない?まさか脳をやっちまったのか!?


「い、いやですね。さっきの真剣勝負で僕のチョコ喰らって倒れたじゃないですか。」

「何のことだ。私は倒れていない。」


 あ、とりあえず真剣勝負のことは覚えているみたいだ。まだ保証しかねるが。


「じゃあ何ともなかったんですね。それはそれで何か空しいですけど。」


 あの重たいだけのチョコ、何にも役に立ってなかったのか。いやそもそも倒れていないというのはおかしくないか?誰がどう見ても倒れていた。


「あれはお前の剣で倒れたのではない。チョコの甘い香りが鎧の中で広がって眠くなっただけだ。」

「あ、はい。」


 これは所謂強がりってやつだな。下手に突っ込んでも意味がないだろう。


「お前の能力は催眠効果もあるのか?」


 この人は自分から続けてくるのか。普通は素早く話題を切り替えるだろうに。正直答える方も気を遣う。


「まあいい。それにしてもあれだけ大きな武器を作れたんだ。もしかしたらもっと作れるかもしれん。」


 確かに。あの時はシュリットさんが倒れて焦って考えていなかったが、大きな鉾が僕の手に握られていた。それは紛れもなく真実だ。誇ってもいいだろう。


「もしかして、また真剣勝負ですか?」


 この流れでもう一試合、なんて言われたら体力も空想力も持たない。


「いやもう土台は出来たんだ。真剣勝負をする必要はないだろう。後はイメージでなんとかしろ。」


 まさかの人任せだ。確かに自分のことだから自分で何とかするしかないのだろうが、もう少し知りたいことがある。


「そういえばお前、武器を振り下ろす前に重いと言っていたな。」


 ちょうど聞きたいと思っていたことだ。ありがたい。


「やっぱり大きいものを作ったので、その見た目通りの重さなんですかね。それにあの大きさだと体力の消費も激しいかも。」


 チョコを出すのと固めるのとで二回分の力を消費する。


 大きければ大きいほど消費するのは当たり前の話だ。別にこの世界限定の話ではない。現実の世界でも大きいものは重い。例外は山ほどあるが。


「確かにそれも一理ある。だがお前の能力ならそれもイメージで塗り替えて行ける。自分には重いものと思い込んでいるから重くなる。まぁあの見た目ならそれなりに軽くできても重いかもしれんが、そもそもだ。」

「?」


 まだ何かあるのだろうか。


「お前の能力なら手に持たずともよいのではないか。」


 ・・・・・・え、持たなくてもいいの?


 確かにイメージする過程で武器は持つものと勝手に決めつけていたが。持たなくていいなら話は変わる。


 それにしてもイメージとは凄いものである。ほとんど自分の思い通りということだ。

 これは僕の能力の特徴なのだろう。メリットは良ければ良いほどデメリットとして体力の消費は多くなる。よく出来たシステムだ。


「そもそもだ。お前は咄嗟に武器をイメージし、そして作り上げた。

 そこまではいいが、お前がチョコを脆いものと考えているなら考えを変えなくてはならない。そうしなければいつまでも脆いままだぞ。」


 そう言われても所詮チョコだ。程々に硬く、程々に脆くなければ食べ物としてなり立たない。

 そういう所からイメージを変えていけば、僕のチョコの力も変わっていくのだろうか。


「努力します。」

「うむ。」


 ここから僕の修業が始まるのか。でも正直この能力を初めて行使した時に感じたガッカリ感はそれなりに払拭出来たんじゃないかと思う。チョコであることには変わりないのだが。


「禍々士、ここからはお前が旅の中で新たな力を学んで行け。」

「・・・・・・・・・はい?」


 その言い方だともうここで終了みたいな言い方に聞こえる。


「お前は能力の出し方や特徴をここで学んだ。後はお前自身が見つけるだけだ。」


 もしかして本当に終わり?まだ一日も経っていない。


 それよりも修行らしい修行を一度もしていないではないか。

 やったのは柔らかい感触を感じることと、猪突猛進してくるシュリットさんから命がけで自分を守っただけだ。


「不満があるようだが聞かないぞ。ここは無料で開いている代わりに一人一人にじっくり教えることはしていない。あくまで基礎を教えるだけだ。

 だからここからお前が強くなりたいなら冒険に出ろ。そして学べ。それが冒険者の心得だ。」


 た、確かに、お金を要求されたわけではないから、部長が先に払っていたのかと思っていたけど、どうやら違うのか。

 まぁ無料なら仕方ないな。でも一つ疑問に思うことがある。それだけ聞いて部室に帰ろう。

「短い間でしたがありがとうございました。最後に質問良いですか。」

「なんだ?」

「無料ならどうやって賄っているんですか?」


 正直言ってつまらない質問だと思う。けど気になってしまう。課金システムでもあるんだろうか。


「まあお前も意図を知ったところで得があるか分からんが。

 この町からお金をもらってやっている。私の教えた技術が回りまわってこの町に利益をもたらすということだな。

 細かい詳細を言うつもりは無いが、そういうことだ。」


 お前も、という言葉に少し引っ掛かっていたがまぁ部長だろう。


 なるほど、おそらくだがこの町出身の冒険者候補が基礎も知らないまま旅に出たら死ぬということ。

 そうなれば町の人口は減り、周りにモンスターみたいなのが住み着くんだろう。

 そうなるとこの町は閉鎖的になり孤立状態で過ごしていかなければならない。そこでこの道場というわけか。


 そもそも失念していた。モンスターの存在だ。


 部長は暢気に研究だ、なんて言っていたが、こんなに能力を鍛えることを要求されるんだ。それ相応の脅威が町の外に広がっているに違いない。そう考えればシュリットさんとの死ぬ気の修業は理にかなっているかもしれない。


「ではあらためて、うんん、ありがとうございました。」

「あぁ、元気でいろよ。後これも持っていけ。冒険者としての必需品だ。」

「はい。」


 とりあえず元の世界へ帰ろう。勢いよく門を越えて行った。




「さぁてと、確かこの世界に来るときにいたあの部屋になんかあるんだったっけな。・・・・・・・ちゃんと覚えているかな。」


 今更だが不安になってきた。

 この世界の時間がどれだけ経っても向こうの現実の世界では全然時間が経っていないらしいし、迷子になっても助けに来てくれる可能性は限りなくゼロだ。


 ゆっくり記憶を呼び戻して帰ろうそうしよう。


―――――――――カチャ・・・・・


 やはり町中だが平気で武器を持ち歩いている。

 部長に連れられているときはそれほど周りを見る余裕は無かったが、よく見てみると人間型のモンスターらしき人たちも歩いている。

 所謂亜人種という者だろうか。


 そういう細かいところも部長に聞いておかないといけない。


「ん?」


 さっきの武器を持っていた人の後姿を見る。人込みで所々見えないが見覚えのあるシルエットだ。


「もしかして神雨虚子?」


 まさか僕らと同じタイミングでこっそり入って来てたのか?

 とにかく付いていこう。ストーカーみたいだがこれは安全のためだ。

 

 やけに早く進んでいく神雨虚子。

 特に訳もなくフラフラと歩いているようには見えない。目的があるかのように人込みを抜けていく。

 このまま行くと町の外に出てしまう。急いで止めないと。


 と思った矢先に急に神雨虚子が走り出した。僕もそのまま追いかけて行った。

 気付けば町の外に出ている。なんてこった。


「まだ町からそう遠くないはずだけど、一体全体何でこんな所に神雨虚子は来たんだ?

 それに見失ったし。もしかして僕の見間違い?」


 そう思うと体中から汗が噴き出す。僕が追いかけていたのは普通の一般冒険者の可能性もある。

 勢いよく町から飛び出して冒険に出かけたのなら完全に僕のミスだ。早く帰ろう。




―――――――――ガサッ・・・・・


 後ろで物音が聞こえた。振り返ると異形のものがただこちらを見ていた。

 これが所謂モンスターなのだろう。亜人種なんて目じゃない程の異形。

 一目で友好な関係を築けないことが分かってしまう。


 走って逃げるしかないか、だが入ってきた場所は完全に塞がられている。

 回り込むにしても自分の場所をしっかり把握しているわけでもない。


 ならばやはり戦うしかないのか。


 戦う手段はある。この時のためにあの道場へ行ったのだから。


 だが勝てる見込みはあるのか?仮に負けたとして死んだら復活なんて出来るのか?


 いや負けることを初めから考えてはいけない。


 そうだ、勝ち負けを決める必要はない。うまい具合に逃げ出すことをすればいい。

 

「そうと決まれば作戦を考え――――――――


 ヒュン・・・・・


 何かが耳を掠った。耳が少し熱く感じる。


 手を耳にもっていき軽く撫でる。


 痛い。手で触れた瞬間チクッとする痛みが走った。手に何か付いている。


「血だ・・・・・。」


 見るまではそうでもなくても見てしまったら痛みを余計に感じる。だがまだ冷静を保てる状態だ。


 何故血が出ている?神雨虚子を追いかけているときに草か何かで耳を切ったか?


 違う。そんなものはただの現実逃避だ。今のは目の前にいるモンスターの攻撃だ。

 そしてその攻撃は一度だけなわけが無い!


 モンスターが構える。腕のようなものを大きく振り、その勢いのまま突起物が腕から離れて僕に向かって飛んでくる。


「くっ。」


カンッ・・・ カンッ・・・


 急な攻撃だが見えないわけではない。

 ある程度の突起物の射線上にチョコの壁を作り出し攻撃を防ぐことが出来る。


「シュリットさんの言っていた瀕死の自分から得られるってやつ。結局ギリギリの本能に任せているだけじゃないか。」


 だがそれでも助かったわけなので修行は無駄ではなかったみたいだ。


 さて、とりあえずモンスターの攻撃は何とか出来るようになったが、事態は何も変わっていない。

 相手はもう臨戦態勢に入っているわけだが無事に逃げることは出来るのだろうか。


 ・・・・・それとも戦うか?


 それも悪くない。どの道この先はこれ以上の困難が待っている可能性があるわけだ。

 こんな所で逃げ回っていても話にならない。


 僕も脳筋になるしかない!


「はぁあああ!」

 イメージするものは投槍だ。そっちが遠距離攻撃をするならこっちもそれで応戦する。それも複数でだ。


 なるほど、確かにイメージすれば空中に浮かせることが出来るし重さもそれ程感じない。これならいける!


「行くぞおお!。」



「とぉう。」


――――――――ズシャァッ


・・・・・・・・あれ?


「いやぁこんな所にモンスターが現れるとはね。割と町から近いのに怖いね。ねぇ霊明君。」


 空中のチョコジャベリンが顔の近くを漂っているせいでチョコの匂いが充満しているが今はそんなことはどうでもいい。


 何故ここにいるのか。


「部長・・・・・なんでここにいるんだ。」

「いやぁそんな怖い顔しないでよ。単純にあの後帰らずに君を遠くから見てただけだよ?」


 部長にあったら色々と言いたいことがあったが、まずやることは一つ。


「とりあえず部長・・・、喰らえ。」


 僕の近くでフヨフヨと浮いているチョコジャベリンを全部部長にぶち込んでやった。


「ぐえぇ。」

 そして見事に全段命中した。あのモンスターを倒した時の勇ましさはどこへ行ったのか。


 とりあえずこのままだとまた別のモンスターに襲われかねないので、町に引き返すことにした。

 




「まぁ無事でなによりだよ。途中で見失った時は本当にびっくりしたんだからね。」


 なぜ僕が怒られている側何だろう。


「部長、一回僕がぶん殴る前にちゃんと説明をしてほしい。この世界のこと。」

「殴るのは無しだけどそうだね、ちゃんと説明しようと思う。」


 今ちゃんとされても困るが仕方ない。殴るのが無しならチョコを送ろう。


「といってもこの世界のことなんてさっきあったことと、道場の時に聞いたことでもう大体終わっているんだけどね。正直私自身もあまり分からないからシュリットさんに行ってもらうのが一番かと思ったんだ。」


 あの人に説明させる気だったのか。どう考えてもそんなこと聞けるようなタイミングは無かったぞ。


「それにしても霊明君センスあるよね。チョコで巨大な剣出したり、壁作って守ったり、槍を作って投げたりさ。私の本当の能力を最初に見せなくてよかったよ。しょぼいしさ。」

「本当の能力?」


 部長の能力は水と炎を操る、シンプルかつ応用の利く意外と便利な能力のはず。だが本当のなんて言われると別の能力があるように聞こえる。


「あっ、いやいや何でもないよ何でもない。それにしてもあのモンスター怖かったねぇ。」

「部長隠し事は無しだよ。全部話せ、さもないとチョコをぶち込む。」


 手を翳してチョコを作り出す。まるで脅しの道具だ。見た目も中身もメルヘンなチョコレートだが。


「な、何の話かなぁ・・・。あはは――――――ぐぼぉ。」


 思いっきり口の中に突っ込んでやった。


「正直に話す、これは大事なことだ。でも二回は言わない。」

「わ、わはっはよ。話ふはら話ふはら。」


 部長を信じてチョコを取り出す。曖昧な表現をしてきたらチョコレートで墓を作ってやる。


「はぁ意外と乱暴だなぁ君はさ。コホン、ん~まず最初に見せたあれはこの町で売ってる対モンスター用の道具だよ。どこでも売ってるやつ。」

「それも気になってはいたけど、今は部長の能力。」

「はいはい、せっかちだね君も。まぁ私の能力はさぁ、その。」


 何だか歯切れが悪い。そんなにひどい能力なのか?僕のチョコよりも。


「はっきり言ってくれるとありがたいんだけど。」

「・・・・・転移能力。」

「はい?」


 僕の聞き間違いかもしれない。

何か凄い能力に聞こえたがたぶん気のせいだろう。

あの部長が僕の能力を散々隠れて見た上でで見せなかった方がいいと思った能力だ。

そんなはずはないだろう。


「だから転移能力!物とかを移動させたりするの。」

「部長・・・、やっぱり殴ってもいいよね。」

「なぜに!?」


 やっぱり聞き間違いじゃなかった。

転移能力?最強ともいえる能力じゃないか。

もしかして遠回しにバカにしてきているのか?

こんなすごい能力だけど霊明君のチョコの何でも変化させられる能力に比べたら全然すごくない的な意味なのか?


 はぁ、考えても仕方がないか。


「それってシュリットさんと同じような能力なの?」


 よくよく考えたらその可能性も低くない。あれも一種の転移能力だ。装備登録したものを瞬時に持ってくる能力はまさしく転移だ。


「うん、最初シュリットさんに話した時同じこと言われたけど全然違うものらしいよ。装備とかそういうのじゃなくて大体目に見えるものが範囲だから。」


 やっぱり強いじゃないか。目に映っているものすべてが能力の行使が可能とか、チートにも程がある。僕とシュリットさんに謝れ。


「でもそれだけ強いなら別に恐怖でも何でもないような・・・。」


 転移能力の強さがどれ程のものなのか分からないが、少なくともあの道場内なら強いはずだ。


「いやさぁ、あんなにいきなり突っ込んできたら怖いじゃん。しかも物騒な言葉も一緒に付けてさ。」


 確かに。墓がナントカって言っていたような気がする。町から出るよりも先に町の中で殺されるなんて悲しいにも程がある。


「それじゃあ部長はどうやってあのシュリットさんの道場を出たんだ?」

「う~ん、私の能力って便利そうに見えて全然なんだよね。

モノの移動が1mぐらいしか動かせないんだ。それに範囲も私の近くじゃないと発動しない感じだし。

だからシュリットさんが私の近くまで来た瞬間に槍をシュリットさんの後ろに飛ばした。

それを何回も繰り返してた。」


 厭らしい戦い方だ。それに自分の能力はこれぐらいしか出来ないというニュアンスで話しているがどう考えても強い。


「そうやって何回も同じ事してたらお互い疲れて終わりってことになったよ。」

「シュリットさん・・・、ご愁傷さまです。」


 門下生に振り回される師範って少し情けないがこればっかりは同情するほかない。なんせ僕の能力なんかに比べたら遥かに特異な能力だからだ。


 いや待てよ。もしかしてこの世界は部長みたいな能力がデフォルトなのか?

僕たちからしたら凄い能力がこの世界では当たり前のように使われているかもしれない。


・・・・・なんだか少し自信を無くす。


「それで部長、帰り方なんだけどこのベッドの下にあるんだよね。」

「ポータルのこと?うんそうだったけどまだ帰らないよ。」


 だった?いやそんなことはどうでもいい。


「えっ、もう帰って寝たいんだけど。」


 いくら向こうの時間があまり経っていないからと言ってオカルト世界に長い時間いても疲れるだけだろう。向こうに帰ったらたぶんまだ夕方だ。変な時間に寝ることになりそうだ。


「せっかく能力も使えるようになったんだしちょっと冒険して行こうよ。ねっ。」


 もう研究じゃなくて冒険になっているし。

 どうせだったら研究しに行こうよだった方が誘いやすいと思う。一応オカルト研究部だし。


「じゃあ部長だけで行ってくれ。僕は帰るよ。・・・・・あれ?」


 ベッドの下を覗いたがそれらしいものは無い。


「部長、そのポータルってのは・・・・・。」

「うん、隣町の宿に作っといたよ。」

「はっ?」


 作った?いやそれよりも隣町?何でそんなとこに。実は隣の部屋の聞き間違いとかじゃないか。


 いやこの流れはもういい。どうせ聞き間違いでも何でもない。


「なんでそんなことを。」

「もちろん冒険に行くためだよ。だから私もここに残って君を待ってたんじゃないか。」


 色々とこの部長のことを見誤っていたようだ。なんか少し頭のおかしい人だとは思っていたがここまでとは。しかし僕自身に帰る手段がないため付いていくしかない。


「はぁもう分かったよ。ところで部長。」

「何?」

「オカルト的にっていうのはやめたの?」

「・・・・・・。」


「じゃあ霊明君、冒険に行こうかオカルト的に。」

 忘れてたなこの人。


お読みいただきありがとうございます。

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