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第二話 チョコレート騒ぎ

 大変なことになってしまった。殺風景な部室から一転、いつも読んでる小説とかゲームの世界に迷い込んでしまった。


「いやぁ、それにしても良い空気だよね霊明君。」


 何でこの人は順応が早いんだ。あぁ、そうか。さっきここが研究テーマだとかなんとか言ってたが、もうすでにここに来たことがあったのか。


 正直まだ僕はドッキリなんじゃないかと思うぐらいおかしな場所に僕たちは立っているわけだ。


 窓から外を見てみれば、ゲームによくあるマーケットとやらなんじゃないかと考えている。

 それほど外から人の声が途絶えずに聞こえてきた。


「じゃあ霊明君、さっそく君の能力を見よう。」

「能力?」


 そんないかにもなことがこんな所で繰り広げられるのか?


「そんな急に言われても、その・・・能力とかまだよく分からないんだけどさ。」

「大丈夫大丈夫。私も最初にここに来た時は全然よく分からなかったんだ。でも親切な人がいて色々と教えてくれたんだよ。」


 へぇ、世の中捨てたもんじゃないんだね。まぁこの世界が僕の言う世の中というカテゴリーなのかは微妙なところだが。


「で、結局その人からは何を教えてもらったんだ。」

「う~ん、まぁ色々かな。その辺はまた今度教えるね。今はとりあえず能力の出し方だね。色んな能力があるらしいんだけど・・・。ハァ!」

 

―――――――ドォボォン!!


「うわっ!」


 部長がいきなり手をかざして気合の大声を上げたかと思えば、大きな音と共に手の上に水と火が混ざりながら球体を作り出した。


「ふっふっふ、これが能力だよ。。そしてこれがこのオカルト世界での常識だよ。」


 何だか部長、闇堕ちした人間の顔みたいになっている。


「さぁ君もやってみるんだよ。」


 何故か期待の眼差しで見つめられている。まさかその闇堕ちに僕も付いて来いという意思の表れ何だろうか。

「じゃあやってみるとしますよ。」


 ふぅ・・・、まあいいか。僕もたまにはやる気を出さないとな。


 部長は随分とオーソドックスな能力だったが僕はどんな能力だろうか。

 僕がこの前呼んだ小説では、異世界に飛んだ主人公はすごく強い能力をもらっていた。

 僕にもその可能性がある。思い描いていた高校デビューとは全然違うが、この世界で派手にデビューしてやりますかね。


「ハァ!」


―――――ドボォン・・・カランコロン・・・


「はっ?」


 なにか手の平から茶色の液体が噴出した。そしてその液体は固まり床に落ちて消えた。まさかとは思うが、うの付くあれではないだろうなあっ。


「霊明君、なんか匂いするね。もしかしてこれ。」


 これはとにかく先手で謝ればなんとかなるはず。


「部長、これはですね、なんというかすいませ―――――


「チョコレート!チョコレートの匂いだよこれ!」


「・・・え、本当に?」


 僕は犬のように自分の周りの空気をこれでもかと吸い込んだ。たまに部長の匂いと外の肉や野菜の匂いが入っているが、微かにチョコレートの匂いがする。


「霊明君、もう一度能力使ってみてよ。」


 なんと我が部長はもう一度能力を出してみよと注文してきた。だがさっきの僕とは違う。今度は自分の出す能力がチョコレートだと思い込んでやってみる。これはゲームで見た流れだ。


「ハァッ!」

 さっきよりもより強く力を手に籠めた。


 その結果・・・。


「部、部長!手からチョコが止まんないんだけど!」

「とりあえず能力を消すように意識して!」


 意識しろったってこの部屋全てに充満したチョコレートの匂いが完全に脳を侵食している感じだぞ。

 兎にも角にもと強く意識しようとする。


 ・・・だめだ。妄想と混ざり合う。ゲームの記憶が意識の端っこに現れてど真ん中に居座ってきた。これはもうだめかもしれん!


「ぬおおおおおおお。」


 自然と生命力が薄れている様な気がする。段々意識が遠くなっていくように瞼が下がっていく。


「霊明君!・・・い明君!・・・・・・・君!」

 部長の声が聞こえなくなると同時に目の前も暗くなっていった。


「んっ・・・・。」


 目を覚ますと見覚えのない天井が見えた。

 少し起き上がり周りを見渡すと膝のあたりに部長が顔をうずめて眠っていた。


 部長から目を離し自分の状況を観察する。さっきまでいた部屋のベッドに僕は寝かされていたようだ。 


 おそらく部長が寝かせてくれたのだろう。もしくはこの宿屋みたいな場所の管理人のような人にでも手伝ってもらったのかな。

 いくら部長の能力が汎用性に長けているものでも、まだそこまで器用に扱うことは出来ないからな。


 そう、能力。これが原因で僕は倒れたわけだが、いったい何故こんなよく分からない能力を授かってしまったのか。


 個性的だが過ぎるのではないか?

 もしこの世界に神がいて、皆に平等に能力を与えているのなら、小一時間問いただしたい。


「あっ、起きたんだね。」


 神に文句を言っている間に部長が起きてきた。正直寝起きの女の子は少し魅力的に見える。


「部長、いやぁ色々とすいません。」

「ううん、こっちもちょっと説明不足過ぎたね。まさか能力の使い過ぎでこんなことになるなんて。」

「とりあえず起き上がりましょう。」


 そう、僕たちはまだ最初の宿屋の段階にしか至っておらず、ゲームで言うなら序盤の序盤、最序盤の段階だ。まだオープニングにすら達していないだろう。


「部長、ここで一体何をする気で・・・・・って研究か。」

「そう!研究研究。もとい冒険だね。」

「はい?」


 冒険・・・、なんだそれは。研究をするのではないのか。


「あ、ちょっとそれは違うんじゃないかって顔してるね。ここオカルト世界で研究するんだから、もちろんこの世界の常識に則って研究しないとっ。」


 そりゃこんな世界だし色々と元の世界の常識は通用しないかもしれないけどさ、別に冒険じゃなくても。


「別に冒険じゃなくてもって思ってる?甘いなぁ霊明君。君の能力並みに甘いよ。」

「いや、僕のチョコちょっと苦かったよ。」

「そういうことじゃないよ!とにかく冒険することが一番研究しやすいんだよ!もう決定事項だよ。」


 絶対それと関係ないんだろうけど、これ以上言っても埒が明かないだろうな。どうせ押し切られるのは目に見えているしここは素直に従おう。


「冒険は分かったけど僕の能力チョコレートなんだが?あんまり役に立ちそうにないような・・・。」

「それは問題ない。付いてきて。」


 そう言いながら部長が外へ出ていく。ついにストーリーが動き出すわけか。


・・・・・まだプロローグレベルなんだが。


 スルスルと人の流れを通り越していく部長に釣られながら一つの建物にたどり着いた。


「部長、ここって。」

「おっ、察しがいいねえ霊明君。」


 僕自身、褒められると伸びるタイプと確信しているので褒められると二倍嬉しいが、今回ばかりはちっとも嬉しくない。


「いかにも暑苦しい感じだから誰でも分かりそうなものなんだけど。」

「まあでも一応紹介させてね。コホン、ここは能力道場です!」


 やっぱりね。


「ここに霊明君をぶち込んで冒険者になるための修業をしてもらいます。」

「・・・・・・・。」


 そう来ると思ったというか、そう来るしかないんだろうなぁと思っていた。だが僕は自称ノーと言える男。もちろんノーを突き付けてやるつもりだ。


 それに断る理由なんていくらでもある。

「部長、こんな修行に時間を費やしてしまったら高校生活終わってしまいますよ。」


 これは決まったかな。


「それは問題ない。私がオカルト世界から現実の世界に戻ってきた時、時間はほとんど経っていなかったからね。」


・・・・・・理由はいくらでもあると言ったがあれは嘘だ。


「じゃ、じゃあ冒険なんてやめてチョコレート職人なんてどうかな?」

「う~ん。」


 よし、部長は考え込んでいる。女子は甘いものが好きだからこの話に食いついてくるはずだ。


「でも霊明君のチョコ、ちょっと苦いから万人受けしないかも。でもその案自体は結構いいかもね。私たちと同じような冒険者に売って金策として活用しよう。」


 そしてそのためにはもっとうまく使えるようにならないとね、と続くんだろう。


 これはもう何を言ってもだめかもしれないな。もう完全にお手上げだ。やはり部長は強し、だ。


「はぁわかったよ、行きますよじゃあ。」


 結局折れるのは僕の方だった。押し切られると弱いのはいつも通りらしい。


「じゃあ早速道場に突っ込もう!」


 突っ込もうって言ってるけど僕しか行かないんだよね。


 うわぁ、いかにもな人が目の前に立っているよ。これは生きて帰れないかも。


「じゃあ霊明君、終わったら現実の世界に帰ってきてね。帰り方はあの部屋のベッドの下に突っ込めば何とかなるから。部室で見たものと同じものがあると思うし入りやすいよ。じゃあね、私と同じ恐怖を師範から君も味わうのだ、霊明君。」


 はっ?先に帰るのかよ。いやそれよりも同じ恐怖って、部長もしかして鍛える名目で同じ目に合わせるためだったのかよ!


「おい、早く中に入れ!」

「は、はい!」


 僕は恐る恐るその道場に入っていった。

 多分僕を遠くの方で見ているのだろう部長。いつか恨みを晴らす。

 具体的には帰ってからだ!



 なんて思っているが実は少しワクワクしている。

 能力がどう鍛えられていくのかというのもあるが、それじゃあない。


「構えろ。」


 この人だ。かなり美人な人だ、それにふくよかだ。

 もしかして部長はこういう素敵な女性を僕に引き合わせる能力もあるんじゃないかと思う。


 もしこの人が僕の前に現れなかったら、部長をぶん殴ってこの道場に僕の代わりにぶち込んででも逃げ出していた。

 はっきり言ってしまえば僕はやる気に満ち溢れている。優しいのもきついのもドンと来いだ。


「ん?」


 この人は道場の師範なのか。まあそれはいいとして、何故槍を構えている?

 いやそれよりもいつ装備した?


「ハァァア!!」


 いきなり槍の先端をこっちに向けて突っ込んできた。


「おわああああああ。」

 色々と驚きすぎて僕は情けない声を出しながら死ぬ気で避けた。

 というよりよけなきゃ死んでいた。


「ちっ、避けたか。さぁお前も構えろっ。」


 なっ、冗談とかじゃなく本気なのか!?


「行くぞ!」


 またこっちに向かってくる!仕方ない、チョコを出すか。

「えいやっ。」


―――――――――ビチャッ


 右手からチョコが出て床にまき散らされた。ただそれだけだった。


 一瞬の沈黙が流れた。


 その沈黙を消すように師範はこっちを見て突っ込んできた!


「・・・・・・・。う、うおおおおおおお!」


 こうなったらヤケだ。手当たり次第にチョコをまき散らしてやる。


「くっ、厄介な能力を。うっ!?」


―――――――――ビチャッ・・・バタンっ・・・


 色々と不幸が重なった。


 手当たり次第にチョコをまき散らした結果、床はチョコまみれになりよく滑るようになった。

 たまたま方向を変えたチョコが師範の顔に命中し一瞬目が塞がったのだろう、僕に突き刺す予定の槍はあらぬ方向へ突き刺した。

 そして不安定な足場になった床は全力疾走する人間にとっては最悪だ。


 要するに滑った。そしてそのまま僕を押し倒すように倒れこんでしまった。


 ・・・・・良い匂いがする。不幸が重なったといったが終わり良ければ総て良しだ。今はこの女性特有の柔らかさを体に感じておこう。


「ぐっ。」


 すぐに起き上がられてしまった。


 はっ!?せ、赤面している!これは良いものが見れたな、眼福眼福。


「何をニヤついているっ!」


―――――――――ドゴッ・・・・・


 目を閉じる前に見た光景は、赤面の美女が拳を強く握りながら振りかぶっていることだった。


お読みいただきありがとうございます。

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