第九話 研究部、冒険者に出会う
まさかの事態に陥ってしまった。
虚子がいない!?
そんなはずはない。
確かに僕は虚子を抱えてポータルに入り、光で目を潰されるまではずっと抱えたままのはずだ。
もし部長の言う通りスーテムの宿屋に虚子がいるのなら戻って合流しなくてはならない。
「部長、すぐにスーテムに戻ろう。」
「そうだね、早速準備しよう。
スーテムまでは最低でも1日以上掛かっちゃうかもしれない。
神雨さんには出来るだけ動かないでもらいたい所だけど。」
僕が初めてこのオカルト世界に来た時は宿屋にポータルが置かれていた。
そういえば僕達がセカナイールにいるのはスーテムの宿屋にポータルがなかったからだ。
もし虚子がスーテムにいるなら何故そこにポータルがある?
「準備出来た?霊明くん。早く出発しよう。神雨さんが寂しがっているかもしれないよ。」
虚子に限ってそんなことは無いだろうが、確かに考え事をしている場合じゃない。
こんなことは後で考えればいい話だ。
「セカナイールで道具を少し調達しないといけないな。」
「それも込みで今から出発するんだよ。」
「僕の準備は大丈夫だ。行こう。」
宿屋を大急ぎで出てセカナイールの店に寄っていく。
ファイアボールやウォーターボールを買い込み、携帯食料もそれなりに買って万全の態勢でスーテムに向かう。
またこの町に帰ってくることになるだろうから挨拶は不要だろう。
地図を広げて拠点のある場所を探す。
今回は森の中をわざわざ通る必要はないので、道に沿って最短距離で駆け抜けていく。
だが道に近い拠点などはなく多少森の中に入らざるを得ない。
そこを妥協して拠点の外で一泊すれば間違いなくスーテムどころか夜明けすら見れなくなる。
「道に一番近い拠点はちょうどセカナイールとスーテムの中間地点だね。ここで一旦休んでまた進もう。」
段取りは決まった。
後はただスーテムへ向かうのみだ。
「そういえばこの道って冒険者専用ってわけじゃないよな。
他の職の人間はどうやって移動するんだ?」
「町と町を跨ぐには非力だと感じている人がいるなら護衛を雇う人もいるらしいね。
私もあんまり詳しいわけじゃないけど、モンスターに対抗できるのは別に冒険者だけってわけじゃないんだよ。
まぁそれも小さいモンスターとかだけどね。だから護衛を雇うんだよ。」
「なるほど。」
この道が冒険者専用だったら、むしろ誰も使わないのではと思ったがそういう理由があるのか。
門を開いて道を進んでいく。
一度来た道、それも冒険者のためではなく誰でも通れるように作られた道なら歩く速さも自ずと早くなっていく。
歩くペースは速い方がいい。
だが走るのは駄目だ。体力の浪費していく速さも加速していくからだ。
急がば回れだ。
「神雨さん、じっと待っているかな。」
「それは分からないけど、僕の知っている神雨虚子なら好奇心で色々と動き回るかもしれない。」
「それはまずいかもね。まだモンスターのことも話していないし。」
虚子ならモンスターなんて軽く捻り潰してしまいそうな感じだが、確かにそれは危険だ。
こんなことなら一昨日の夜に軽くでも説明するべきだったか。
そんなことはたぶん部長も考えていることだ。
今はそういう後悔を考える時間ではない。
後でいくらでも出来るのだから。今はただこの平坦な道を進んでいく。
ガサッ・・・・・
森の草陰から何か出てきた。
「!?守れチョコレート!」
ガキィイン
僕のチョコを出す能力も中々様になってきた。
いや今はそんな場合ではない。モンスターの攻撃だ。
「こんな時にぃ!」
見たことのあるモンスターだ。
だが前に見た時ほどの脅威は感じられない。
虚子の元へ行くという意識がアドレナリンとして出てきているのだろうか。
「霊明君!サクッとやっつけよう。」
「あぁ!」
いちいちテレポートなどはしない。
相手の攻撃に対して出来るだけギリギリの場所に盾を作り、そして近づいたときに腕を伸ばしチョコの槍で貫く。
一番手っ取り早い脳筋戦法だ。
「うおおおおおお!」
ガキィイン ガキィイイン ガキィイイイン
改めて思う。
この世界のチョコはかなり硬度があるようだ。食えたもんじゃないな。
「行けぇ、霊明君。」
「貫けっ、チョコレートォ。」
ザグンッ
左手から飛び出した槍の先がモンスターの体へめり込んでいきそのまま貫いた。
そしてモンスターの体にひびが入っていき崩れていった。
前のようにモンスターの崩壊とチョコの崩壊が同時に起こるわけではないならモンスターのも耐久性にも個体差があるのかもしれない。
「私、今回何もしてないね。」
「部長にはまだまだやってもらうことがある。
拠点に着いたら僕は体力が消えているかもしれない。
そんな時は部長の出番だ。何も戦闘要員だけが冒険者ってわけじゃないんだろ?」
「そんなに気にしていないけどね、ありがと。しっかり補助は任せてね。」
適材適所だ。
こんなのはパーティを組むなら当然のこと。
僕は逆に戦闘要員でしか活躍できないのだから。
時は夕焼け。
もうそろそろ拠点のために森へ入ることになる。
足場の不安定な森だ。
完全に日が落ちる前に行かないといけないが、今回は余裕で到着できそうだ。
もう見えてきてもいい頃なのだが。
「少し大きめな拠点らしいんだね。あっ。」
「ん?冒険者さんかな?初めまして。」
「初めまして。」
拠点へと向かっている途中、僕たちとは別の冒険者パーティに出会った。
「あの拠点へ向かっているんだね。私たちもなんだ。」
「なるほどな。えーっと。」
「あ、自己紹介がまだだったね。私はリネイラ。こっちはナイメよ。」
「どうも。」
「無愛想でごめんね。」
シュリットさん以外とはまともにこのオカルト世界の人間と話していないせいか、少し話しづらい。
人見知りがここで発動してしまうとは。
「私は七魅だよ。それでこっちが。」
部長がアイコンタクトでこっちを見る。
なるほど自己紹介のタイミングを作ってくれたのか。
「僕は禍々士だ。」
「よろしくね。
っとそれで拠点だったわね。もうすぐ見つけられると思うんだけど・・・あった!あれがその拠点よ。」
拠点の近くは森が少し拓けてあるので何かしらあるとは思っていたが、予想していたよりも大きい拠点がそこにあった。
「私たちもここの拠点を使うことにするわ。」
拠点は基本的に共同なので当然別パーティと夜を過ごすことになる時もある。
ここはそれなりの人数でも行ける場所なのか、四人でもなかなか広い。
寝る場所はしっかりと確保できそうだ。
「とりあえず火を付けようか。腹も減ってきたし。」
「そうだね。リネイラさん達はもう食べ終わった?」
「私たちも今からよ。」
相変わらず人見知りなままだが、一緒にご飯を食べることになった。
虚子のことを忘れているわけではないが焦っていても危険なだけだ。
今はしっかりと休息を取らないと。・・・・・後で虚子が聞いたら怒られそうだな。
焚火用のファイアーボールをカバンから取り出し火をつける。
相変わらずの火力で便利なことこの上ない。
本当に持っていけるなら持っていきたいぐらいだ。
「私たちは野草と魚があるんだ。これを焼き魚にしよう。」
リネイラさんは色々と採取している。
僕たちは携帯食しかない。ちょっと気まずく感じる。
「私たちは魚米があるよ。」
部長の口から魚米の言葉が出てくるとは。
「いつの間に。」
「一応買っておいたんだ。神雨さんにも食べさせてあげようかなって。
まぁでも後で一緒にセカナイールに行くから問題ないし、今食べてもいいよね。」
なかなか用意周到だな。
他の冒険者の可能性を全く考えなかった僕も悪いのだが、ここまで準備しているとは。
そもそも今まで他の冒険者と拠点で共同生活してなかったのが不思議だ。
僕ら以外本当に居るのかと思っていた。
「魚焼けてきたよ~。」
そうこう話している内に料理が出来ていた。良い匂いが鼻に入ってくる。
自ずと腹の音がなってしまう。
テーブルに料理が並べられた。
「サラダまである。」
「素材が余ってたからさ。ドレッシングもあるよ。」
冒険者は用意周到が基本的なスキルなのか。僕も早く習得しないとな。
「いただきます。」
焼き魚から食べる。
上手く身から骨を取り出して食べやすくしてそのまま口に頬張る。
なかなか上手い。この魚もセカナイール原産だろうか。
サラダも食べよう。
皿の上に小分けされている。
「お皿も必要ないかなと思ってたけど、案外役に立つもんねぇ。」
家具の発想は無かった。この冒険者たちから色々と学ばせてくれそうだ。
「・・・・・・・・・・・。」
それにしてもこのナイメという人、全然喋らないな。
僕も喋らないが会話に入ろうという雰囲気自体は作っていたが、この人は会話に入ろうとすら思ってなさそうだ。
何を考えているのだろうか。
ガタッ・・・・・
「!?」
突然ナイメさんが立ち上がった。
「モンスターだ・・・。」
モンスター?そんな姿はどこにも・・・。
シュン・・・・・ガンッ!
モンスターの攻撃が体を掠めて壁に突き刺さった。
「行くわ。ナイメ。」
リネイラさんとナイメさんが拠点から出て森へ向かっていった。
「霊明君、私たちも行こう。」
「ああ。」
僕たちもリネイラさんの後を追いかける。
それにしてもナイメさんはどうやってモンスターを察知したのか。
もしかしてこれが能力か?
「あ、禍々士君、七魅さん。来たね。」
「はい。それであれがモンスター?」
「えぇ、少し大きいモンスターだね。」
リネイラさん達に追いついた。
目の前には今まで見ていたモンスターとは少し形が違う。
大きさは確かに大きいモンスターのようだが、前に倒したモンスターよりは小さい。
ただ形が少し禍々しい。
体が戦うための形状をしている。
くそっ、ここで体力を消費しすぎるのは明日に響きそうだ。
なぜこうも困難が続くのだろうか。たまにはモンスターの出ない一日を過ごしてみたいものだ。
「ナイメ、やって。」
「あぁ。」
二人が戦闘態勢に入った。
まず観察から入らないのか。
ナイメさんが手を翳す。と同時にモンスターとリネイラさんも動き出す。
ニヤッ
ナイメさんが少し笑った気がした。
ドグッ!
「っ!モンスターが埋まってる?」
モンスターの方を見ると部長の言う通りモンスターが少し埋まっていた。
モンスターの周りには少し紫がかったものが見える。
「まさかこれがナイメさんの能力?」
モンスターを察知する能力じゃないのか。
だとしたらモンスターの気配を察知したのは熟練の技ということか。
「ふっ。」
ザシュ――――――
いつの間にかリネイラさんがモンスターの所にたどり着いていた。
それなりに距離はあったはずだが。
「!?禍々士くん、そっちにもモンスターが!」
「!?守れ!チョコレート!!」
前ばかりに気を取られてすぐ横にいたモンスターに気付けなかった。
リネイラさんが言ってくれなかったら危なかった。
「油断しないで禍々士くん、七魅さん。」
「すみません。っ!」
モンスターが再び動き出す。
その動きを読んでテレポートをした部長が武器をモンスターに振りかざす。
そのまま部長の武器がモンスターの足を切り取った。
「うあっ。」
「貫け。」
武器を振りかぶった後は無防備になりがちだ。
その隙をついてモンスターが部長に襲い掛かる。
それをまた読んでチョコで攻撃する。かなり小さいモンスターだった。
こんな小さいモンスターも楽々に倒せるようになってきた。
「よし、私たちもちょうど終わったよ。」
あの大きいモンスターを二人で倒すとは。
「さて、拠点に戻ろうか。」
「はい。」
流石に今日は一日歩き続けて、しかもモンスターとの戦闘もあったから疲れている。
明日のためにも今日は早く寝よう。
・・・・・・・・。瞼の裏から光が差し込む。
程よい熱気で目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「おはよう禍々士くん、昨日は色々とお疲れ様だね。」
「おはようございます。」
昨日はモンスターとの戦闘の後、疲れ切っていたのかすぐに寝てしまっていたようだ。
寝る前の記憶が曖昧だが気にしない。
「んん、あぁ、おはよう霊明君。」
「おはよう部長。」
部長が髪をぼさぼさにしながら起きてきた。
そういえばナイメさんはもう起きているのだろうか。
体を起こし外で軽く手足を動かしに行くとナイメさんが外で立っていた。
おそらくモンスターや獣に対して警戒していてくれていたのだろう。
もしかして昨日の夜から寝ていないのか?
一応お礼を言っておこう。
「警備ありがとうございました。」
「・・・・・・・・・・・・。」
返事は帰ってこない。
言ってから気づいたことだが、まだ昨日の夜から外を警戒していたと分かったわけではないのに聞いたのはおかしい。
色々と順を追って聞いていかなけばならない。
完全にやらかしている。
「珍しい能力を持っているな。」
突然話しかけられた。正直初めて声を聴いた気がする。
「たぶんなかなか珍しい・・・・・と思いますね。」
「・・・・・・・・・・・。」
この人、会話する気はあるんだろうか。
「ご飯が出来たよナイメ。あ、禍々士くんもここにいたんだね。ご飯出来たからこっちに来て。」
「はい。」
ご飯を作ってくれていたとは。先輩冒険者はやはり色々と慣れているようだ。
「・・・・・・。」
ナイメさんもテーブルへと向かっていった。僕も向かおう。
「昨日の残りなんだけどね。」
「美味しいから問題ないですよ。」
部長の言うとおりだ。
昨日の残りだろうが美味しいものならいつでもいくらでも食べられる。
それに今日はスーテムまで辿り着き虚子を迎えに行かなければならない。
腹を十分に満たさなければ。
もう鞄には携帯食しかないがそれで問題ない。
むしろ軽くなったことで歩きやすくなった。
「あれ、もう進むの?」
「ちょっとスーテムで待たせている人がいるんです。」
朝早くに出発すれば昼ぐらいにはスーテムに着くだろう。
部長もそう思ってかもう拠点を出る準備を始めている。僕ももう出る準備は出来ている。
「部長、行こうか。」
「うん、早くいってあげよう。」
もう少し先輩冒険者から学びたいことや知りたいことは色々あったが出ることにする。名残惜しいとは思うがまた出会えるだろう。
「君たちも事情があるんだね。いってらっしゃい。」
「はい、ではまた。」
スーテムに向け進み出す。
朝の涼しさがゆっくり歩くには少し寒いがそんな悠長に歩くつもりはないのでちょうどいい。
ナイメさんに挨拶をしていないがあの人なら色々と察していてくれるかもしれない。
ガサッ・・・・・
草が動いている。早速敵のお出ましか?
「また会おう・・・。」
「はいっ、またどこかで。」
ナイメさんが草を掻き分けて出てきた。
どうやら何かを探している様だった。
依頼か何かだろう。僕は邪魔にならないようにひっそりと手を振って別れた。
拠点を出ればまた道を歩き続けるだけだ。
道が敷いてある所をただ進んでいく。その他の行動など必要はない。
「ちょっと早歩きになっているよ。」
「それぐらいがちょうどいいと思う。」
「疲れるよ。」
後ろを振り向くと部長はずいぶん遠くにいた。
自分では気づかなかったが想像以上に早足になっていたようだ。
「ごめん部長。」
「いや、いいよ。それだけ焦るのも分かるし。私ももうちょっと早くいくよ。」
今度はそれなりに気を付けて歩くことにする。
自分ではそれ程感じていなかったが虚子のことをかなり気にしているようだ。
あれだけ邪険にしていたにも関わらずだ。
「ねえ、霊明君って神雨さんと知り合いみたいだけど。幼馴染?」
「まぁそうなるかな。」
歩きながら話す。
無言で歩く方が体力を使わないのだろうが、黙って黙々と歩くのも気持ち悪くなってしまう。
「へぇ~羨ましいなぁ。私にはそういう人いないからなぁ。」
その話題は少々首を突っ込みづらい。話をそれとなく変えていこう。
「部長はいつからオカルトにハマったんだ?」
「ん~結構昔からだね。いつからかは覚えてないけど。」
それならちょっと仕方ないかもしれない。
はっきり言って初対面で語尾に、オカルト的に!なんて付ける人がいたら怪しいにも程がある。
人は良いかもしれないがそれを分かるまでの距離に近づこうとは思わないかもしれない。
「でもこの世界って、それ程オカルトって感じではないんじゃないか?僕としてはだけど。」
「まぁそれはそうかもね。世間一般ではオカルトと言えばミイラとか幽霊とかがそうだもんね。」
オカルトのイメージはそうだがオカルト研究部のイメージはもっと気持ち悪い陰気な雰囲気を考える。
「でも私はそうじゃなくて、現実の世界から遠く掛け離れた物をオカルトって思ったんだ。
それでこの世界に来た時、正しくこれがオカルトだって思ったね。」
「なるほどな。」
部長は現実の世界の話をする時、少し寂しそうな目をしていた。
「せっかく巡り合えたオカルトなんだから、しっかりとオカルト研究部で研究して行こうね。」
「もちろんだな。」
「ふふっ。」
部長は嬉しそうに喜んでいる。
何だかこの人の笑顔はとても好きだ。
出来るなら曇らせたくはない。
結構話し込んでしまっていたが今どこまで歩いてきたんだろう。
「今僕たちどこを歩いているんだろうか。」
「もう結構近いよ。ほら。」
部長が指をさす。
「あっ。」
思わず声が出てしまった。
遠くを見るとぼんやりと見たことのあるシルエットが見えてきた。
「いつの間にか結構歩いてきてたんだね・・・、ってあれ?」
部長が何か言っている様な気がしたがその前に走り出してしまった。
なにせもう目の前に町があるのだから。
「ちょ、ちょっと霊明く~ん!走ると疲れるよー。」
「別に今疲れても大丈夫だろ~。早く行こうぜ。」
「それもそうかな。よし、私も走ろう!」
そう来なくてはな。僕も町まで一気に駆け抜けよう!
「はぁ・・・はぁ・・・門までもう少しだ。」
昨日の疲れが少々効いてきているが関係ない。
ただ走り続ける。
部長もちゃんと付いてきているようだ。
もう少し、もう少しだ。
足に乳酸が溜まってきた。ちょっと休ませたいがそれは後でいくらでも出来る。
門の文字が段々見えるほどまで近づいてきた。
「部長、生きてる?」
「割と足は死んでるかも・・・。」
受け答えするのもちょっと疲れてきた。それでもただ走り続けた。
そしてついにたどり着いた。
「やった・・・・・門だ。」
着いたことに喜びたいが疲れすぎて上手く喜べない。
「はぁ・・・はぁ・・・、つ、疲れすぎて・・・・・息が出来ない。」
部長も少し遅れて辿り着いた。だが休んでる暇はない。
「部長、まだ終わりじゃないよ。宿まで急ごう。」
「う・・・・・・・ん・・・・・・。」
若干死にそうな顔をしているが耐えてくれ部長。
門から宿屋まではそれほど遠くない。
疲れ切った足を引きずるように足を前に出して宿屋に向かう。
「部長、どの部屋だったっけ。」
「・・・・・ポータルの場所が完全に分かったわけじゃないけど前と同じならこの部屋だよ。」
部長の指し示す部屋に向かう。そういえばこんな部屋だったな。
さて、虚子はちゃんといてくれているだろうか。
ガチャッ・・・
ドアを開ける。
「・・・・・・・・・虚子?」
ドアを開けたが何の反応もない。もしかして部屋を間違えたか?
ちょうど宿の職員を見つけたので聞いてみる。
「すいません、ここに泊まっていた黒髪で長髪の女の子みませんでしたか?」
「あぁその方でしたら今朝一人で出ていきましたよ。」
「そうですか。」
やはり虚子はじっとするような人間じゃなかった。
それは当たり前か。好奇心の塊みたい人間だからな。
「じゃあ神雨さんどこ行ったんだろう。」
「とりあえず外に出ようか。少し休みながら考えよう。」
「そうだね。外でばったり会うかもしれないしね。とりあえず行こう。」
部長の行くままに僕も付いていくことにする。
町は活気づいているが、僕たちはそれほどいいテンションではなかった。
当然の話だ。ここまで走ってきたが意味が無かったのだから。
「ん?」
人込みに紛れて一際オーラを放つ人間を見たような気がした。
「どうしたの霊明君。早く行こ?」
気のせいだろう、疲れで幻覚を見ているのかもしれない。早く休もう。
禍々士くん・・・・・
?幻聴のように何か聞こえたような気がした。
ふとその聞こえた方へ顔を向ける。
人が溢れかえっている通りに見たことのあるシルエットを見た。
「まさか・・・・・虚子か?」
とりあえず勘違いでもいいから後をついていこう。
「どうしたの霊明君。」
「勘違いかもしれないけど虚子を見つけた。」
「えっ。」
とにかく今はその影を追いかけていく。
「森に入っていったぞ。」
何故だ。
それにこの展開、前にもあった気がする。
森の草を掻き分けて入っていくと誰かが倒れている。
「虚・・・子・・・・・、虚子!」
僕は倒れている人間を虚子だと決めつけて起こしに行った。
長い髪が雑草の絨毯に綺麗に広がっている。
抱きかかえて顔を見てみるとやはり虚子だった。
見つかってよかったが何故ここにいるんだろうか。
虚子の顔は安らかに眠っているような顔だった。
小さく呼吸もしている。大事にはならなかったようだ。
「霊明君、神雨さん見つかった?霊明君!!!」
「あ、部長。虚子ここにいましたよ。ったく何でこんなとこにいるんだか。」
「違うよ!後ろみて!」
「ん?ぐぁっ!!!」
部長の言うとおり後ろ向いた瞬間人間の足のようなものが顔に飛んで来て吹き飛ばされてしまった。
「これはモンスターなの?」
おそらくモンスターに吹き飛ばされたらしい。虚子も一緒に飛ばされたが怪我はなさそうだ。
一体どんなモンスターなんだ?
・・・・・・・。
「あれは虚子?」
目の前いたのは暗く、そして赤い石を宿した虚子の形をしていたモンスターだった。
お読みいただきありがとうございます。




