魔法少女転生 ~オープニング~
そこかしこはガレキの山で、元々あった要塞の姿はもうあとかたもありませんでした。
でも、それで私が何かやることを変えなければいけない訳じゃないですから、私は周りの風景には特に意識を向けずに、魔法少女ステッキを構えなおします。
目の前の人へと――滅ぼすべき悪の集団のトップへと、殺意を向けます。
「えっと……、月並みなヤツですけど……。“最期になにか言いたい事があるなら、どうぞ”」
「…………――、」
何度か咳きこんでちょっと大きめの血の塊をはいたその人は、口を開きます。
「別に、何もないわよ……。夢も……叶わなかったし、さ……」
「夢、ですか?」
「……、ん? なによあんた、気になる?」
その人は意外そうな顔をして、私の方を見ます。
私は頷きます。
「そう……。じゃあ、教えてあげる……」
「……どうも」
私の言葉がなにか変だったのか、その人はまたおかしな顔をして、呆れたように気を吐きます。
そして、話し始めます。
「それこそ、月並みなもんだけどさ……妹の、延命のためだよ……。一日五つは人間の魂を捧げないと……、あの子は死んじゃうんだよ。……だから私は、人身売買に手を付けて……それでも集まらない人間は誘拐して、何とかして生かしたかった……」
なんだか感慨深そうにその人は目を細めてしまうので、私は一応確認をしておこうと、話しかけてみます。
「妹さんは、今は?」
「……おたくらが延命装置も何もかも、まとめて壊したからね。もう死んだよ」
「そうですか。それは、悲しいですね」
「……! ……、」
私の言葉にその人は何かを言おうとしましたが、結局黙ってしまいました。
「えっと……、話は終わりですか?」
「んん? あー、うん。何億人殺してでも生かしたかった妹はもう死んだし、もう……“終わり”だ」
「そうですか。では、」
私はまた魔法少女ステッキを構えなおして、一応、前口上を言っておく。
「……あなたの気持ちは分かったけど、でもそれは“わるい”事だから、殺します」
「…………」
その人は何も答えずに、目を伏せます。
それを見て、私が殺意を振りおろそうとした、その瞬間でした。
「待って」
その人が、そう言います。
もう“終わり”だったんじゃないのでしょうか。……まあ、細かい事をとやかく言うつもりはないのですけど。
「あんたを見てたら、言いたい事が出来たわ……」
「……? えっと……、それは文句てきな?」
殺される前にそう言った事を言う人もいるので、一応確認しておきます。
その人は首を振ります。
「いや……人生の先輩のアドバイス、みたいな感じよ。……まあ、言いたいだけなんだけどね」
「はあ、まあ、それならお好きにどうぞ。ただ、時間は押しているのでそれはちょっと理解してもらえると……」
「ああ……分かってる。えっとじゃあ……あんた、なに考えて、魔法少女をやってるんだい? 仲間の事は、どう思ってる?」
その人は聞いてきます。
まっすぐした目で、こちらを見ていました。
「私は、人を助けたいから、魔法少女をやっているんです。……だから、殺します。仲間の事は、大事に思ってます」
「……そ」
短く言って、その人は鼻息荒く、私を蔑むように睨みます。
そして、口を開きます。
「あんたのそれは、ただの偽物だよ」
「……偽物?」
「ああ、そうだ。ただ、思っているつもりなだけだよ」
どういう事を言っているのか、全然分かりませんでした。
全然、全くもって分からなかったけど、とりあえずこれ以上聞きたくないなって思いました。
だから言葉を続けようとするその人を、私は止めます。
「ごめんなさい。もう、時間です」
そう、言って。
「そうかい。……じゃあ、これだけは言わせてくれ。あんたが人を助けたいんなら殺す以外にだっていくらでも方法は
私は殺意を振り下ろしました。
動かなくなったそれから目を離して、仲間に連絡を取ります。
「リパァルシィヴラブ、敵影は?」
『はあい? えっとぉ、おりませんわよぉ』
「そっか、ありがとう」
『いえいえぇ、ワタクシの愛をもってすればこの程度の事なんて大変でも何でも……』
「じゃあ、私も帰還するね」
『はぁい。了解ですわぁ』
通話を切って、私は帰還しようと魔法少女ステッキを構えなおして、そして飛ぼうとしました。
『殺す以外にも幾らでも方法は』
飛び立とうとしたその時でした。
頭の中で、声が響いたんです。
「殺す以外の人の助け方……かぁ」
私はそれに答える必要は、きっとなかったと思うけど、飛び立つ前に少しだけ、その言葉に返しておく事にしました。
それであの動かなくなった人も、満足するかもしれませんし。
「……そんなの分かんないし、分かりたくもないよ」
レグノロ王国は、魔王の襲撃にて窮地に陥っていた。その窮地を脱するため、王家はついに異世界勇者召喚の儀を決行する。
そして召喚されてきたのは、『聖なる魔力』と『強靭な精神』、そして『人間』である事を兼ね備える人間……すなわち、魔法少女であった。
因みに魔法少女とは、悪人を殺してその首を叩きつけることで政府から金を巻き上げる連中のことである。
違法組織、殺人犯、テロリスト、過激派信者、増え続ける魔法生命体、魔人による無数の小規模組織、
それらを殺して殺して殺して殺して、金を稼ぐ。
端的に言うなら、正義の味方である。
↑みたいな話を書きたいな、って思ったけど時間がないのでオープニングだけ書きました。もしも反響があったら続きを考えます。




