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修道女と騎士

 気力もそれなりに回復して調子も良い感じになった私は、炊き出しを手伝っていた。

 ゴブリンの死体は村から少し離れた場所で火をつけて、村人のものは手順を踏んで弔っている。

 改めて見ると、散々なことが起きたのだと思う。



「ヒリナさん、これはヒリナさんのですか?」



 そう言ってシアがロザリオを見せてきた。

 十字の真ん中に黒い石のはめ込んであるもの。

 いつもは首に下げているのがないのを考えるとおそらく私の物だろう。



「多分私のだ。ありがとう、どこに落ちてた?」


「ヒリナさんが座り込んでいたところに落ちてました。紐が切れているところをみると、ゴブリンとの戦闘中に落としたんだと思いますけど」



 受け取ったロザリオは確かに切れていた。

 特段大切なものと言う訳でもないけど、コレは意識、記憶がハッキリしない赤ちゃんの時、教会で拾われた私が持っていた物らしい。

 なんの思い入れもないが、こちらでの親がもしかしたら持たせてくれたのだと思って今まで持っている。

 綺麗な石ですねー。とシアは言うが、神にどうのこうのというもので黒はどうなの?と勝手に思う。



「それはそうと、シアちゃん。これどーぞ」



 炊き出しを渡して一息つく。

 お腹を満たし、復興の目処も少しずつ立ってきた。

 そして次の波乱も少しずつ近づいていた。



 ✳︎✳︎✳︎



 ガシャガシャと武装の音を響かせて、一つの団体が行進していく。



「一時休憩にする。三十分だ、しっかり休んでおけ」



 そう言って歩兵の者は地面に倒れ込むように座る。

 かく言うロドリゴ卿は馬から降り、手頃な岩に座った。

 俺も馬から降りる。



「もっと少人数だと思っていましたが、ほぼ全員ですか?」


「ふん、新兵の訓練も兼ねてな。

 そちらは少ないようだが、鍛えなくてもいいのかね?」


「私が頂いた部隊は年齢の高い方が多いので、野営は厳しいかと思いまして。

 そもそも馬を走らせれば夜には着いたのでは?」



 俺の発言は気にくわないらしく、しかめ面になった。



「俺は未来を見据えて新兵強化に勤めているのだ!

 全く、部隊を任されているのだからそれくらいは考えてもらいたいものだ」


「申し訳ございません、勉強不足でした」



 彼が部隊を任された、つまり模擬試験で上位を取れるようになったのは10年前らしく、俺が二十歳と若くして上位に入ったことが気に入らないのか、何かと突っかかってくる節がある。それは他の二十代部隊長にもそうだ。

 それはしょうがないと分け切るが、自分が勉強不足なのも否めない。

 今回選抜した団員は、年齢が高い第三部隊の中で若い兵四名。この四人と俺で二十代は全員で、その他は六十代以上の老兵だった。何故こんなに偏った部隊編成なのかと言うと、目の前の男が原因だ。



『新人の部隊には、とりあえず警備兵らでも入れて慣れてもらうというものではないですか?』



 その一言で警備兵をしている老兵と同期だった二人、違う部隊から二人が団員になった。

 他の若い同期や実力派の兵士は皆ロドリゴ部隊に行ってしまったが、俺はそれでもいいと思っている。

 実力派なので、力が全て。なので今回歩いてきている者は若い兵士が多い。対して俺の部隊は全員馬。時折睨んでくるが、自分で選んだ道なのだから頑張ってもらいたい。



「やたらに言わないでお前の部隊で良かったよ、マジで」


「たしかに、あんな脳筋隊長のとこは嫌よね」



 少し離れた所で休んでいる仲間たちがそんな事を言っている。



「あんまり大きな声で言うなよ。

 面倒ごとは嫌なんだ」


「隊長様は大変そうっすね」


「からかってやるなグレイ」



 最初に話していたのは騎士養成所の同期アンドレイとフルネ、後に話していたのは元第一部隊、リュドミール団長の元からきたイヴァンとグレイだ。



「つか、なんで修道女一人連れ帰るのにこの人数なの?」


「新兵強化だそうだ」


「最大戦力を維持するのも大変そうですな〜」



 グレイが軽く言う。

 彼とイヴァンの実力は俺以上のはずなので、部隊に入ってくれたことはありがたかった。実質エースたちである。



「でもその修道女、一人で魔物を全滅させたんだよね?それって相当ヤバいよね」


「村から連れてこられた冒険者はそう言っていたから、鵜呑みにするならそうゆうことになるな」



 騎士としては珍しい女性のフルネは、今回対象人物である修道女の対応として大きく貢献できるだろう。

 正直むさ苦しい男どもの中に、女性一人では対象者もウンザリだろう。

 逆に今の状況は彼女にとってそうなのだろうが。



「休憩終了!進行を再開する」



 ぞろぞろと立ち上がり再び歩き出す第二部隊。

 俺たちは馬に跨り、その步を進めた。



 ✳︎✳︎✳︎



 壊された村を回りながら改めて思う。



「アイツらどんだけ壊して回ったのよ!」



 文句を言う。

 OLの時のように溜め込まないで、すぐ様吐き出す。だって見た目は子供ですから!

 それに教会と修道院以外はほぼ壊されていて、みんな頑張って修復しているのだがこれを全て人力だけで直すなど、もはや新しく村作ろう!レベルだと思う。

 そう考えると最初に村を作る時は大変なんだな。



「やっぱり家とか小屋は男性に任せて、院内とかの掃除にしますか」



 シアと共に一時避難所で使われた教会内を掃除する。バリケードとして使われた長椅子が乱暴に放置されている。



「こっちもこっちで力仕事ですね」


「でも終わり見えてるからやる気出るよね」



 与えられた量はこなします。

 これがマニュアル社会の申し子の私のスタンスなのだ。

 でも、流石に重そうな長椅子を女子二人では動かせない。そんな時こそ魔法です。

 強化魔法で長椅子もラクラク移動できる。



「やっぱり便利ですね、戦闘系の魔法。普通戦う時とか訓練以外使わないと思いますけど」


「え、こう言う時便利じゃん」


「そう言われるとそうなんですが……」


「今度教えてあげるよ!シアちゃんならすぐ使えると思う!」



 私はまず言葉を理解するのに戸惑ったものだ。

 そんな雑談も織り交ぜながら作業して、お昼頃にはほとんど元どおりになっていた。

 少し座って休んでいると外で騒ついている感じがした。

 これはもう、また厄介なことが起きているんだろうな。

 二人で見に行くと、そこには鎧を着た人たちがいた。

 ほら、面倒事ですよ。



「あれは王国騎士の部隊ですね。今更何しにし来たんでしょうか」



 その発言とタイミングよく、馬から降りた男が堂々と喋り出した。



「トスク村の諸君、俺は王国騎士第二部隊隊長のロドリゴと言う。今回こんな辺鄙な村に来たのは、先日ここに来た修道女を連行しにきた訳だが、修道女はどこにいる?」



 エッ、と一瞬シアと共に固まる。

 予想通りだけど、またも私指定の事らしい。

 転生してからもしかして、人気者なのかもしれない。主に厄介ごとに。

 村長が対応しているが、私達を見つけるとすぐにロドリゴという騎士もこちらを見た。

 そしてそのまま一直線に向かってくる。



「貴様がコフラー神父のところからきた修道女だな?」


「えっと、そうですが……」


「そうか、処刑命令が出ているのでここで執行させてもらう」


「……は?」



 今度こそ完全に固まった。

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