王の政策
ちょっとだけと、二度寝をすると予想以上に寝てしまうことがあると思う。そんな感覚で目を開けると、眼前には沢山の小鬼が倒れている。空は未だに暗く、そんなに時間は経っていないようだ。
そんな小鬼に囲まれて、私は座り込んでいる。状況は極めて謎。意識は朦朧として、とても気持ち悪い。まるで二日酔いみたいだ。そしてなんと、あれだけ痛く、止まることのなかった出血部分が綺麗さっぱりと無くなっていた。
夢?とも思ったが、服は刺されたまま破れているし、何より周辺に倒れている小鬼たちが何よりの証拠だった。
とりあえずこの場から離れようとしたが、体に力が入らない。動けないのだ。
見たくもない小鬼に囲まれて、さらに体調最悪で困り果てているところに声が聞こえてきた。
「ヒリナさん!大丈夫ですか⁈」
シアとエゴロが駆けつけてくれた。
これで一安心と、息を吐く。
そんな私に治癒魔法を使いながらシアが話し出した。
「ヒリナさん、無茶し過ぎです!真っ青ですよ!
いくら攻撃魔法が使えるからって、この数相手じゃ魔力欠乏にもなります!
ただでさえ立て続けだったんですから」
「そう言うなシア。ヒリナさんの頑張りでほぼ全員が生き残れたんだから」
二人は嬉しそうな顔をしている。と、いうことは危機を脱したらしい。
よく考えれば二人が外に出ている時点で安全な状態に戻ったということだった。
エゴロにおんぶされて修道院に運んでもらう。疲労感は魔法でなんとかなったが、倦怠感は魔力が戻ってこないとどうにもならないらしい。
一日でこんなに魔法を使ったことなんてなかったから、殆どのの魔力を使ってしまったのだろう。
こんなことになるならもっとうまく使えるように勉強しておくんだったと反省する。
院入り口ではすっかり放置されていた冒険者を囲むように人集りができている。
私が視界に入ると、冒険者が騒ぎだした。
「お前ら!コイツは化け物だぞ!笑いながらゴブリンを殺して回ってたんだ!
悪魔だ、悪魔!」
「お前さんら、ワシらは揃って彼女に助けてもらったのだぞ?それをなんだ!」
「違うんだ!俺らが最初から戦ってればもっと被害は少なく……!」
「やかましいわ!」
村人たちは寄って集って冒険者を言及する。これまでやってきたことがどうとか、実際大して仕事をしていないだの。
王国でみんながトスク村と言われた時の反応は正しかったようだ。
「とりあえず、夜が明けるまであんまり出来ることがないから休んでくれ。
と言っても、部屋もボロボロだけどね」
見れば穴の空いた修道院。
やったのは私だけど、仕方なかったことだし許してくれるだろう。
自室に連れて行ってもらい横になる。
「じゃあ後は頼んだよ」
「任せて。
朝になったらワタシも降りるから」
エゴロは外でこれからのことを村長たちと話し合うようだ。
いくらなんでも若いエゴロやシアまで方針に大きく関わるのはどうなのかと思ったけど、この世界はそれが当たり前なのかもしれない。
「気分はどうですか?」
「うん、さっきよりは楽かな」
シアが面倒を見てくれて、しばらくしたら横で寝ていた。色々あって疲れていたのだろう。というか、色々ありすぎです。
私も目を閉じて夜明けを待った。
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朝になると生活音が聞こえてきた。
村は壊滅的になってしまったのだが、教会と院が中心になって行動するらしい。
なんでそんなこたがわかるかと言うと、早くから外で準備やらなりやら声が聞こえたからだ。
そもそも何故そんな早くから起きてるからって?それはこっちが聞きたい。
「おかしい……!」
「ん……。
あ、おはようございます」
呟きで起きてしまったシアが、横になったまま目を見開いている私の顔を見てビクリとする。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか寝れなかった……!」
そう、寝れなかった。
眠気がまるで来なかった。この私にこんな日が来るとは思わなかった。
目はギンギンである。
仕方なく起き上がって体をチェックする。寝れなかったが時間が経つにつれて体調はよくなっていった。魔力が戻ってきた証拠だろう。
「早いけど、外出てみよっか?」
「ヒリナさんはまだ横になっていてください。ワタシたちでやりますから」
「いや、でも寝れないし動いてた方が気が紛れるから」
二人で外に出る。太陽の光に目が痛くなる。
既に始まっていた事後処理。
小鬼、もといゴブリンの死体を運ぶ傍ら、炊き出しもやっているんだから驚いた。
図太いな、トスク村の人は。
ちなみに、地下に立て籠もっていた冒険者たちは、終わったであろうと朝方出てきたところをエゴロを始め村人総出で取り押さえた。計12名の冒険者は、馬が逃げていなのが幸いして翌日の朝に二台の馬車で王国に運ばれていった。
逃げないように兵を4名も付けて行ってしまったが、そう続けて魔物も襲ってこないだろう。
こうしてトスク村は最悪の夜に無事、幕を降ろした。
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デイナー王国城内
鎧の音を響かせて二人の騎士が歩く。
目的は前日の夜にトスク村からきた者たちの対応の為だった。
「なんでわざわざ俺が出なくてはならないのだ。
貴様一人でもこと足りるだろうに」
「残念ながら、私は未熟故、ロドリゴ卿にご指導していただきたいと」
「ふん、やはり第三部隊を任されているといっても、若輩は若輩だったか」
前を歩きながら豪語するロドリゴ卿。
実際は俺一人でも対処できる案件なのだが、騎士団長リュドミールから彼も連れて行けと言われたからであった。
デイナーの騎士団はただただ実力で順位が決められている。
勿論実力もあって、頭が働く騎士も沢山いるのだが、残念ながらロドリゴ卿は実力はあるのだがその他は少しよろしくない。
そのため部隊に入っている者は実力派の者が多く、正直言って野暮ったい部隊だった。
それに比べて俺はと言うと、つい二ヶ月前の模擬試験にて運良く勝ち上がれた新人と言うわけだ。
「それはそれとしてセノスフよ、今回の件は俺が指揮をしてもいいのか?」
「団長からは、ロドリゴ卿も連れて行けとしか」
「奴もなかなか分からん奴よ」
騎士団長リュドミールは長いこと騎士団をまとめているらしいが、長になってからは一度も負けたことがないとのこと。
ロドリゴ卿もなかなか勝てないことにイライラしているらしく、目の敵にしている。
俺も模擬戦で手合わせしたが、一太刀も当てることができなかった。
「まぁ、今回は俺が指揮を取らせてもらう。報告の方もこちらでやろうではないか」
なんだかんだ言って自分の手柄が欲しいのか、やる気になっているがどうせロクなことにならない。
これはロドリゴが担当したんだから当然だ。と言う結果が既に出ているのだから。
連れて来られた冒険者たちを入れていた牢で早速事態は起きた。
「成る程、つまり貴様らは突然やってきた我が国の修道女一人に取っ捕まえられた上に、その女が一人でゴブリンを殺して行くのをただ見てたと」
「違うんです!村のヤツらが縄を解いてさえいればオレらだって……ゴガッ!」
そこでロドリゴ卿の蹴りが入った。
これが彼のやり方、実力行使。
騎士団一の戦力を任されているが故に下の者は反論することはない。
「結果に出ているんだよ、全く。
だが、その女は王が決めた政策に反対したことになるな」
「待ってください。確かに反対した行動ではありますが、彼女が動いたのは人間としては当たり前の行動かと……」
「若いなセノスフよ。王がトスクでそのような行為を許しているだ、他の者が色々言うものではない」
「王が……認めているのですか⁉︎」
そんなことはどうでもいい。と話しを強制的に終わらせられる。
俺は戸惑いを隠せなかった。
もし王の政策が本当だったのなら、王都以外の街の人々が反乱を企ててると言う噂もあながち間違っていない。
聞いた話ではそれを防ぐために今回王都の修道女が出向いたとのことだが、本来望む結果にならなかったと言うことだろう。しかもたったの二日で。
「よし、では今からトスクに行くとしよう。野営をすることになるが、明日の朝には着くだろう。たかが一人を連れてくるだけだ。そんなに人員はいらんからすぐ準備できるだろう?」
そう言って、ロドリゴ卿は冒険者の頭から足を退けた。
目の前の冒険者は泣きながら蹲っている。思考中にロドリゴ卿に踏まれ蹴られていたのだが、まぁ自業自得ということで止めなかった。
彼に続いて牢から出る。そして一時間後、トスク村に出発した。