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初・魔物戦

 食堂にある地下の扉の前まで来て、私はまた深呼吸をする。

 とんでもないことになってしまった。

 この世界では15から冒険者になれるそうだ。中卒で働くと考えれば同じだけど、冒険者は魔物と戦うこともある。死亡率は雲泥の差だろう。

 そう思うとゾッとする。平和な世界で生きてきた私には耐えられない。だから教会でのんびり、時には怒られながら生きていたのだ。それなのに、急に、しかも人間相手にこんなことになってしまった。

 もしかしたら、どの世界でも一番怖いのは人間なのかもしれない。

 重い気持ちで重い扉に手をかける。出来るだけゆっくり、音が立たないように押し開ける。少し開いただけで、か細い叫び声が聞こえた。

 どんなことがされているかは想像しない。目の前の階段を降りて、魔法を使ってから、それから考えよう。

 じゃないと怖くて動けなくなる気がした。

 元々は緊急用の隠し部屋で、食料や水が入れてあったそうなのだが、今はただの拷問室と化しているらしい。

 一歩入ると頼りないランプの明かりが階段を照らしていた。

 降りていく度によりはっきりと聴こえる悲鳴。地下の反響と厚めの扉でのおかげで外での音はここまで届かなかったのか見張り係はいないようだ。

 スムーズに下りきると、少し開けた空間に出る。ドアのない部屋が四つ。内三つは明かりは付いていないし、あの痛々しい声が聞こえるのは唯一明るい部屋だった。

 響く声が不安を募らせてくるので、すぐに行動する。大丈夫。プラン通りに進めば一瞬で終わる。

 部屋に飛び込み、『閃光』の魔法を使う。



「なんだお前は!うわっ!」


「目がっっ!」



 突然入ってきた女がいきなり閃光を放ったのだ。注目してない人物はおらず、見事全員の目を潰すことに成功した。

 そのまま立て続けに睡眠魔法を使う。

 目を抑えて動けない人たちの中から冒険者だけを狙うのはは簡単な作業だった。



「これで全員かな……。

 みんな大丈夫ですか⁈」


「たいひょうぶじゃないけど……、たずがったよ」



 返事をしたのは縄で動けなくなっているエゴロだった。

 抵抗できないまま殴られ続けたのだろう、顔が腫れ上がっている。

 他のみんなも各々だが、ナイフで切りつけられている者もいた。

 すぐに治癒魔法で治療する。

 そして少しずつ治ってきたエゴロが話しかけてきた。



「えっと……、ヒリナさんだっけ?助かったよ、本当に」



 お礼を言われて照れくさくなるが、こんな悲惨な状況じゃなかったらもっと素直に喜べたと思う。



「そんなことより自分の心配してください。

 ケガは治せても、心は痛いでしょうから」


「なんか大人みたいなセリフだな。とても同年代とは思えないよ」



 クッ!墓穴を掘った!

 余計に恥ずかしかった。実際は年上(精神的に)なのだからちょっとドラマっぽく言ってみただけなのに。

 やっぱり役者さんじゃないとこういうことは言っちゃいけないな、と学んだ。

 もう一人、最後の修道女さんと一緒に男性陣の手当てをして、さっきまで縛られていた縄で冒険者たちを縛る。

 事情を説明して、彼らをどうにか運びながら地上に向かった。



「……キミはかなりの力持ちだな」


「えっ?あっ!

 違うの!今は強化魔法使ってるからっ!」



 冒険者は五人いた。こちらは男は七名、女性は二名。みんなは二人一組で一人を移動しているが、私は左右で二人の襟を掴んで引きずって移動している状況だった。前を歩いている治癒係の女性と、最年少の男の子には冒険者から取り上げた武器を運んでもらっている。

 こんな時ではあるが、怪力女のイメージだけは嫌だった。

 顔が熱くなって、前だけを見て階段を登りきる。地上に出た。



「なんとかなった〜!」


「こんなにいい気分で帰ってこれたのは初めてだよ」



 そんなことを言いながらエゴロたちは運んできた男たちを床に放り投げた。

 魔法で寝てるとはいえ、うぐっ!とか呻き声が出ていたがエゴロたちが受けたことはこんなものじゃないだろう。

 彼らをどうするかも、村の人のところに逃げているであろうシアたちと合流してから決める。

 エゴロもそれでいいと言っていたし、その予定で動こうとした時、予定は崩された。



 ✳︎✳︎✳︎



 カンカンカンッと鳴らされる鐘。

 日本でもなにかあった時はこんな音が鳴っている時代劇があった。火事とか、侵入者がいた時とか。

 立て続けにトラブルが起こるとか、どんな漫画だよっ!と思いながらみんなで修道院の外に出る。入り口では動けないように締め上げられた冒険者たちと、村人、修道女たちがいた。



「また、出てきたみたいですね」


「クソっ!この前きたばかりだぞ!」



 村人とエゴロが声を上げた。

 来る時に馬車のおじさんと話していた通り、何日か前にも来ていたらしい。

 まだ一度も魔物は見たことがないけど、どんな感じなのだろう。絶対に漫画のような感じではないんだろうな。

 そんなことを思っていると、シアと村人たちがこちらに走ってきた。



「ヒリナさん!エゴロくんも!

 よかった、無事に帰ってきてくれて!」


「全部彼女が頑張ってくれたおかげだよ。それで、状況は?」



 シアとエゴロは確認しながら今後の流れを整理していった。二人とも若いのにしっかりしている。

 私は周りを見ていると、村人たちはこちらにちらほらと集まりだした。

 どうやら修道院は緊急時の集合場所らしい。対応するのはシア。本当、年齢とかけ離れた仕事をよくこなしている。



「どうやら外回りの警備兵が対応しているようですけど、今回は数が多いらしいですよ」


「他に戦えるヤツは、揃いも揃って摘発されたしな」



 そう言って縛られている彼らをみる。



「おい!俺らはこういう時のためにいるんだぞ!この縄外してくれよ!」



 騒ぎ立っているが、イマイチ信用性に欠ける。

 そんなことを言っている間にも続々と集まってきている。



「今回は本当にやばいぞ!外側の家から襲われ始めている!」


「警備兵は何をやってるんだ!」


「数が多くて手が回らないらしい」


「東側はもうやられちまったらしいぞ!」



 村人たちは集まっては状況を言い合って、しかし何もまとまっていなくて、パニックになっていた。

 でもこんな時に頼りになるのは彼女である。



「みなさん、落ち着いてください。

 とりあえずここにいる方は修道院の地下へ。

 今から逃げてくる方は教会の方へ誘導します」



 この世界の若者はしっかりしている。

 いや、シアが特別なのだろう。バルデスとかめっちゃバカだったわ。

 だんだんと叫び声も近づいてきた。今日だけで、どれだけの悲鳴を聞いたことだろう。嫌になる。



「ヒリナさん、ワタシとエゴロくんで誘導しますので、こちらの事を任せてもいいですか?」


「了解です、シアちゃん!」



 敬礼しながらシアを送り出す。

 ふざけてる場合じゃありません!と頰を膨らませながら言う彼女も、何だかんだ余裕はありそうだ。でも実際、私は余裕なんてなかった。



「では、地下に行きましょう」



 村長だと言ったおじさんが確認してくる。

 はい。とは言ったものの、非常時の勝手がまるで分からない。

 マニュアル社会で生きてきた私には緊急時の対応が下手過ぎた。報連相でしょ?私はいつでもする側で、下っ端だったからされたことないよ!

 なんて。

 再び向かった地下扉前で、悲劇は加速する。

 縄。

 運び出した冒険者たちにしていた縄が落ちている。

 扉を開けよう押すが、ビクともしない。



「なんで開かないんだよ!」



 叩いたり数人で押したりしているが、開く気配はない。



「村長、もしかしてなんですけど……」



 ここであったことを簡単に話す。

 その結果、集まった人は私も含めて同じ結論が出た。

 エゴロたちが放り投げた時に起きてしまったのだろう。そして外の状況を把握して、地下に立て籠もったのだ。



「やってくれましたね、ヤツら」


「なんて頼りにならない!

 こんなヤツらのために、シア殿たちは体や心を……!」



 悔しそうに言う村長。

 その言い方は、私には気に入らなかった。



「そんなこと言って、ホントは自分じゃなくてよかったとか、子供じゃなくてよかったとか思ってるんでしょ?」


「ヒリナ殿?」


「っ!

 なんでもないです。

 私が外でなんとかならないか、やってみますね」


「本当ですか!」



 行ってきますとだけ言って、その場から逃げる。

 小声で言ったから、うまく聞こえなかったらしいが、かなり酷いとを言ってしまった。事情も知らない私が何を言ってるんだ。

 そんな考えが頭をぐるぐる巡る、とても黒いナニカ。

 以前はそんなこと考えてたっけ?

(それは体験したことがないから考えられなかっただけ)

 前世もこんなに思いやりのない人だったっけ?

(それは周りが冷たかったからいけないの)

 やけにリアリティのある自問自答をしながら外に。

 もう、目の前で戦闘が行われていた。

 血が飛び散る。

 目の前で一人、兵が殺された。



「ギィィ!」



 こちらを見る、小さく痩せ細った小鬼。

 その手には短剣を持ち、人でも食べたのか口周りは血で汚れている。

 ヒタヒタと近づいてくる小鬼に対し、震えて動けない私。

 反射的に動けたのは飛びかかってきた時だった。

 矢を放ち、一体撃退する。それが引き金だった。

 周りの小鬼たちが一斉にこちらをみる。



「ギィィィィッ!」


「キャァァァァ!」



 走り出してくるヤツらと同時に狙いも定めず矢を連発する。

 数はいるが当たったり当たらなかったり。

 魔力の無駄なことこの上ない。

 息が上がって射てなくなった瞬間に、数体が目の前で短剣を振りかぶっていた。



「っそ、がー!」



 気合いで障壁を使って弾く。



「無理無理ムリムリだからー!」



 叫んで現実を否定する。

 熱い体を抱きしめて、目を瞑る。

 熱い。なんで?興奮してるから?

 不意に右手が濡れているのに気付く。

 目を開き、確認。



「イヤァァァアアア!」



 赤。

 もっとよくみると、左腕と、胸の中心がじわじわと赤に染められていく。

 さっきの間に合わなかった?

 心中で呟き、障壁の向こう側を睨む。

 ギィギィ五月蝿いヤツらが壁に群がっている。

 成る程、小鬼が嫌われる理由はこれか。

 意味もなく誰彼構わず殺しに来るヤツら。

 止まらない血と恐怖と怒り。

 どうやっても覆らない現実。

 障壁にヒビが入る。

 このまま殺されてしまうのだろう。

 いや、漫画的にはシアたちがされていたことをされるのだろうか。

 魔力も尽き始め、意識が遠くなってくる。

 あぁ、黒。



(これは私の悪夢(ユメ)なのね)



 目を閉じた。

表現は難しいですね。

いい感じに補填しながら読んでいただけるとありがたいです。

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