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冒険者と視線

 長かった馬車移動にもとうとう終わりが見えてきた。荷台から顔を覗かせれば前方に松明であろうか、光が見えてくる。近づくにつれて、それは一定の間隔で円を描いているが、一部欠けている。まるで虫に食われたリンゴのように。


「変な形の村ね」


「多分魔物でも出て後退したんじゃねーか?」


 コフラーが言っていた啓示のこともあり、目前にしてさらに不安になる。

 村の入り口には兵士が立って警戒をしていた。


「遠いとこ、ご苦労さんです。今回はどんな要件で?」


「伝令来てると思うけど、教会のシスターを連れてきた」


「そう言えば新しいのが来るとか言ってましたな。じゃ、入ってください」


 そう言って兵士が入れてくれたが、なんだかムッとする。言い方は特に変ではないのだが、意味合いが違う風に聞こえたのだ。

 ただでさえ低い村の好感度をいきなり下げてくるとは、なかなかである。

 そのまま馬車は進んで行き、やがてある場所で止まった。修道院である。


「ほんじゃ、シスターさん。ここでお別れだな」


「いやいやー、嬉しくないんだけど、ありがとうございました」


「なんか、なんだかな」


 凝り固まった体を伸ばしながら、私は当分の我が家を見た。

 ボロい。これはひどい。もはや幽霊屋敷と言われた方が納得できる。


「……。

 おじさんはこれから帰るの?」


「いやいや。暗いからね、今日は泊まれるとこを探すよ。

 多分ここよりはマシなところがあると思う……」


「そっか……」


 そう言って、お別れをした。できれば私もそっちの宿に泊まりたい。

 そんな気持ちを振り払って、夜遅くの修道院の扉を開けた。暗く静まり返った院内は外観よりは綺麗に見えた。


「こんばんはー……。誰かいますかー……?」


 しかし、私の発言に対して返事は返ってこなかった。

 まさかもう寝ているのだろうか。時計がないから確認できないけど、体感的には20時くらいだろうか。

 実にいいことだ。睡眠時間は確保できた。

 でも、今日初めての場所でいきなり院内を徘徊するわけにもいかない。せめて自分の部屋だけでも確認しなくては。

 そう思ってもう一度誰かを呼ぼうとした時に、左手の階段から足音が聞こえてきた。


「すいません気づくのが遅れました……。どちら様でしょうか?」


 暗い中そう言ってきた少女は私より年下な見た目だった。そしてはっきりとは見えないけど寝起きなのだろう、髪はボサボサで、衣服は乱れている。よほど寝相が悪い子とみた。

 私の目が気になったのか、身だしなみを直しはじめた。可愛い。


「えっと、今日王国から派遣された者なのですが……。ここ、私の来るとこであってますよね?」


「あぁ……、デイナーの方ですか。お話は聞いています。今日は遅いのでとりあえず部屋に行きましょう」


 こちらですと言いながら階段を上っていく。私の部屋は二階らしい。できれば一階の方が上り下りがないのでよかったが、新参者は色々言わない方がいいだろう。

 私ってこんなにめんどくさがり屋だったっけ?


「こちらになります。荷物は少ないようなので備え付けの物で足りると思いますが、何かなかったら言ってください」


「ありがとうございます。……えっと、何さんですかね?」


「すみません、自己紹介がまだでしたね。

 ワタシはシアと言います。よろしくお願いします」


「私はヒリナ。よろしいね、シアさん」


 とりあえず簡単な挨拶を済ませて、細かいことは明日に話すことになった。

 今も眠いのかシアの表情は暗いものだった。

 部屋はそんなに広くない。ベット、机、椅子と服掛けが置いてあるのみ。シンプルだった。

 うん、どうしよう。

 窓から入る月明かりで見るに取り立てて汚れてはなさそうだし、薄暗くてよく見えないからできることもない。

 昼間からの乗り心地の悪い馬車の所為で体も痛いので、ベットに横になった。

 静かな部屋で、私一人。これは諦めて寝ましょう。

 あんな荷台ではグッスリとは眠れないのだ!

 早速着替えて布団に潜り込んだ。幸せ。あ、お風呂忘れた。場所わからないし明日だな。

 と自分を甘やかした。



 ✳︎✳︎✳︎



 ドンドンと、2回ノックがした。

 またマザーが起こしにきたのかーと、思って言い訳を考えて、ハッとする。

 ヤバい、ここはトスク村だった!と。

 慌てて起きると、失礼しますと言ってシアが入ってきた。


「おはようございます。朝ごはんができたので見に来ましたけど、大丈夫ですか?」


 初日からやってしまった。

 そう思っていたが、様子は怒っている感じはしない。


「ごめんなさい、昨夜なんだか寝付けなくて……。なんかギシギシ音聞こえるし……」


「……」


「すいません言い訳はしません寝坊しました」


 やっぱりどこの修道院も厳しいのか。

 私の考えは、寧ろ緩いとこあんのかよ!とツッコミが入りそうだ。

 シアは微笑して、下で待ってますねと言って出ていった。

 手早く支度を済ませて階段を降りる。朝の光で昨日は見えなかった院内の様子は、やはり外側より綺麗だった。

 下で待っていてくれたのはシアともう一人、男の修道士がいた。


「おまたせしましたー……?」


 二人が話している時の顔は暗く、深刻な内容なのが伺える。

 修道士が、おはようございます。とだけ言って、先に行ってしまった。


「大事な話しの途中だったかな?」


「大丈夫です、大したことではありません……。

 それよりも、朝ご飯ですね。特に全員で食べなくてはいけないような決まりはなく、緩いのですが、今日は自己紹介とかもあると思うのでみんな集めているのですが、食べられそうですか?」


 おそらく年下の彼女はしっかりし過ぎていて、自分が情けなくなってくる。私も前はこんな感じだった気がする。自己採点だけど。

 そしてこの村での教会は、周辺領地からの寄せ集め集団なので、みんな規則は守っていないのだろう。無神論者の私としては寧ろ緩い方がいいのだけど、こっちの人たちの信仰心も、低い人は低そうだ。

 食堂に集まった修道士、修道女は私を入れて17名。女性が10名と半分を占めていた。その中でも下から数えた方が早いだろうシアが司会を務めて、無事顔合わせは終わった。


 食事とお風呂を済ませ、来てしまったからには少しは働かなくては。と思いシアの後をついていく。


「ここではどんなことすればいいの?なんか不祥事が多いって言われて連れてこられたんだけど」


「……不祥事ですか。確かにそうかも知れませんね」


 悲しそうな声で、彼女は言った。

 そしてここでの仕事はあまりないとも言われた。


「すぐ隣に森がありますが、そこに入っていった冒険者の傷をたまに治すくらいですね。

 後は……たまに他所から来た者を癒すくらいですが……、ヒリナさんには荷が重いですよ」


 なんて言われてしまった。

 まさか、年下に舐められてるのでは?とも思えてくるが、ここでは彼女の方が先輩なのである。可愛い顔して言うことはキツいようだ。

 でも流石にどうなの?と思って年を聞いてみた。


「11です。ヒリナさんの方が多分先輩ですよね?」


「そうだね、年上だね。……頼りなくてごめんなさい」


「なんで謝るんですか?大丈夫です、ここでは上下関係ユルユルですから。

 ちなみに一番の年長さんは20歳のエゴロくんですよ」


 よかった最年長ではない。なんとなく嬉しい。

 機嫌よく、買い出しについて行く。買い出しと言っても、小さな村なのでほとんど寄付のような感じだった。そのかわりと言ってはいけないが、出掛け先で怪我や困ったことには魔法を使って解決しているらしい。


「おや、シアちゃん。そっちのコは新人かい?」


 シアはビクッとして振り返って、声の主と会話をしだした。

 その男は中年の冒険者だろうか、装備品を付けていた。

 そしてその眼は、なんだか気持ち悪い。これが冒険者独特の獲物を見る眼というヤツなのだろうが、酷く不愉快になった。

 よく意識してみると、村のあちこちからそんな視線を感じる。

 話し終わったシアはあの暗い表情になっていた。

そろそろファンタジー感でます。やっと。

感謝。

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