前世//発表
突然ですが、私ヒリナの前世。
普通の世界では私はOLでした。しかしながら、勤めた会社はとてもブラック。29歳の時に事件は起こります。
「おーい、こっちの資料もお願いなー」
「あっ……、わかりました……」
パサッと私のデスクに置かれた資料。いつも通り先輩の仕事も押し付けられ、残業の毎日。辞めなかった私もいけなかったのですが、本当に限界を感じていました。
(疲れた……)
毎日朝から晩まで働いて、7年間勤めても下っ端扱い。趣味も息抜きもする余裕がなく、彼氏もできない、そんな毎日の帰り道。
クラッとして倒れたと思ったら、もう意識が薄れていく。
(あぁ、やっと、寝れる……)
✳︎✳︎✳︎
「……だから私は寝てたいのー!」
と、叫びながら起きた。
こっちの世界の一週間も七日で助かった。昨日までの罰則は流石に大変で今日、OL時代の夢を見てしまったようだ。おそらく私の意識がこの世界にきてしまったことを考えると、働き詰めの私は死んでしまったようだ。
いわゆる転生。ありがちな異世界に。
ドラマ、映画、アニメ、漫画、ゲーム、小説その他諸々だけの話だと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。
「やっぱり神様はいないんだなー」
やっと寝れたと思ったらこの世界に生まれ直し、先週は罰則と言う名の労働。私はつくづく働かされる天命らしい。
着替えてを済ませて、外に出る。井戸まで向かうと、そこには綺麗な銀髪の女性が先にいた。シュティーナだ。
「おはようございます。シュティーナ先輩」
「おはようございます、ヒリナさ……ん⁉︎」
手に持っていたタオルを地面に落とし、シュティーナが驚愕の顔になった。
「貴女、どうしたの?こんなに早くから……」
「なんか失礼ですね。やな夢見ちゃったんですよねー今日」
夢の内容を話してみると、シュティーナは少しだけ考える素ぶりをした。
こんな夢の話に食いついてくるとは思わなかったので、少し意外だった。
「この話、誰かに話したことはあったかしら?」
「ないと思いますけど?」
「そう。ちょっと気になったから」
そう言ってシュティーナは修道院に戻っていった。早起きをすると不思議なことも起こるものだ。
気をとりなおして井戸水を汲む。顔を洗うのに髪を束ねるが、自分の黒髪を見て思った。
(せっかく生まれ変わったんだから私も金髪とか銀髪が良かったなー)
この世界には髪を染める技術があるのか。あれば試してみたいものだ。
何故なら前世は、働き過ぎで髪も染められなかったからーーー
✳︎✳︎✳︎
不思議なこと。それはやっぱり珍しく早起きしたからだろうか。
お祈りを終えた後、シスター達は集めらた。そしてマザーと共にいつもは宮殿にいるコフラー神父が来た。
コフラーは宮廷魔導師として普段は王に仕えて いる。呼ばれているだけあって魔法技術は王国一だった。
「お久しぶりですね皆さん。本日は国王直々の依頼と我らが神、パレアの啓示をもってきましたよ」
なんとも胡散臭い。私は目に見えるものしか信じていない。だから例えこの世界に魔法があってもまだ見ぬ神は信じてなかった。
そんな感じで疑ったような態度をとっていたら見事コフラーに指摘された。
「シスター・ヒリナでしたか?相変わらず信仰がなってませんね。成長が感じられませんよ」
「申し訳ございませんコフラー神父。私の指導が甘いようです……」
マザーは謝り、続ける。
「なのでヒリナさん、これから話されることをしっかり聞いてください」
「……はい?」
まさかの私指定。まるで私のためだけに多忙な神父が帰ってきたかのように感じられる。そんなことってあるのだろうか?
「まず国王より王国最東端にあるトスク村の教会に、王国直属であるこの教会から人員を少し回してほしいと言われましてね」
トスク村と聞いて、全員にどよめきが広がる。
トスク村とはデイナー王国が最後に手に入れた領土であり、すぐ側には魔物が生息する森が広がっている。それに対抗する派遣冒険者は仕事をまともにしないと噂され、杜撰な管理体制でそこに送られた修道士、修道女は悲惨な目にあって帰ってきているのが現実だった。
「今までは周辺領土の教会の者が派遣されていたのですが、あまりに不祥事が多いので不満を持たれて反乱を起こされる可能性を危惧した国王が是非優秀な人材を、と言われた次第です。ルーヴさんお願いします」
コフラーは話の続きをマザーに促すが、さっきのマザーの前振りから誰が行くかはもう決まっている感じた。周りのみんなも気づいているのか、チラチラとその人を見ている。
あぁ、視線が痛いわ。
「では、私からトスク村に行く者を発表させていただきますーーー」
ありがとうございます。頑張ってみます。