問題児たち
倉庫から箒を持ち出し、屋根裏へ向かう途中に私は見てしまった。
「やめときなよー!絶対落っこちてケガするってー!」
「だいじょーぶだよ!木登りなんて簡単だし、この木あんまり高くないしな!」
「アイツ絶対落ちるよ」
そんな会話をしながら子供達が遊んでいた。その子たちは教会が保護している子供達でここにいる理由は様々だけど、中でも木登りをしている男の子、バルデスは教会きっての問題児だ。
「見てろよニーナ!すぐにてっぺんに登ってやるん……!」
その時、案の定、予想通りに枝が折れてバルデスは木から落っこちた。
バサッ、ビリッ、ゴツッと三音立てて地面に落ちたバルデスに駆け寄り生存確認。
「大丈夫かー、バルデスくん」
「ヒリナねーちゃん……!見てたのかよ……!」
「大変だよヒリナちゃん!今!バルデスくんが!」
「大丈夫だよニーナちゃん。見てたから」
「助けてはくれないのな」
慌てるニーナとは対照的に、事態に対して冷めているアルマン。いつものこと過ぎて呆れているのかもしれない。
「アルマンはもっと友達の心配をしなさいよ……」
「いつものことだから」
「いいから……、早く…治癒魔法ください……!」
バルデスがカクカクしながら頼んでくる。ちょっと焦らすようにニヤニヤしてから、前の世界にはなかった『魔法』を行使する。
手をかざすと魔法陣が出て薄青く光るとバルデスの傷が塞がっていく。頭部から出ていた出血もなくなりバルデスの苦痛の表情も和らぐとムクリと起き上がる。
「あー、死ぬかと思ったー!」
と何事もなかったかのように歩き出す。本当にそのまま歩き出してどこかに行こうとするバルデスに対して、ニーナはまともなことを言う。
「バルデスくん!ヒリナちゃんにお礼を言わないとー!」
「そうだよバルデスくん。おねーさんに言うことは?」
「そんなことよりねーちゃん、どうしてこんなとこに?またなんかやらかしたのかー?朝のお祈りもいなかったけどー?」
全くこっちの話は聞かず、受けた恩も忘れたのか、バルデスが煽ってくる。全く、恩知らずなヤツめ。
「そう言うこと言う子にはコレをあげよう」
そう言ってまた手をかざす。今度は薄黄色の魔法陣が出て、今にも魔法が発動しようとしていた。それを見たバルデスはまたカクカクと震え出し、後ろにいるニーナはアワアワして、アルマンはやっぱり冷めていた。
「ちくしょう!ちょっと先に魔法の勉強してるからって脅迫に使いやがって!」
「何ー?聞こえなーい」
「早く誤った方がいいよバルデスくん!ヒリナちゃんはほんとーに打っちゃうよ!」
ニーナの言ったことにちょっとトゲがあったけど、それを聞いたバルデスはすぐ謝ってきた。最初から素直にお礼を言えばいいものを。
「次の誕生日で9歳になるんだから、少しは礼儀と人に迷惑をかけない行動をとってくださいね、バルデスくん」
手を握り魔法陣を消すと、私は年上の穏やかな口調で言ってその場を離れようとした、その時。
「ヒリナさん、マザーから話は聞きましたけど、こんな所で何をサボっているのですか?」
「うっ、シュティーナ……」
声を掛けてきた先輩シスターのシュティーナ。彼女はこの教会の中で、一番功績が良く、マザーの信頼も厚い人物だ。その彼女を見て、冷や汗が流れる。シュティーナは正直マザーより怖い。
「呼び捨てですか。礼儀がなってないですね」
そう言ってシュティーナは私の前まで歩いてきて、首に下げているロザリオを手に取った。
黒い魔法陣が小さく光ると、
「ぐぇっ!シュティーナ……さん!これは……⁉︎」
「罰ですよ。全く、罰則をサボって先輩には敬意がないなんて」
「違う……!サボってない!バルデスが……!」
シュティーナがロザリオを中心にかけた重化魔法で身体が重い。いつもの一.五倍くらいある。
「今日の夜、私の部屋に来なさい。解除してあげるから」
「夜まで……このまま⁉︎」
私の発言を無視して去ろうとするシュティーナ。苦悶の表情をしていると、
「次の誕生日で16になるんだから、少しは規則と罰則くらい守れるように行動してくださ〜い!」
と、バルデスの小僧が言ってきた。
後で覚えてろよと思っていたら、バルデスの頭上にスイカ玉大の氷塊が落ちてきて砕け散った。ウンともスンとも言わず倒れたバルデス。せっかく治してあげたのにまた頭部から血が出ていた。
「貴方もですよ。木登りはこの前注意した筈です。学習してください」
シュティーナはそれだけ言って去っていった。やっぱ一番怖いのは彼女だろう。教会と言う奇跡と癒しの体現場に勤めていながら、容赦なく子供にケガを負わせるのだから。
私はそう思いながら、そそくさと自分の仕事に向かった。
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その夜。
「ゼェ……ゼェ……!シュティーナ……さん!終わりましたよ……!」
一日の勤めてを終えてシュティーナの部屋へ行った。入るとそこでは可愛く寝息を立てている。
私はワナワナ震えながら、ポロリと声が出た。
「ちくしょう……!寝るの早いしっ!どうすんのよこれ〜!」
その後私はシュティーナが起きるまで、部屋の隅ですすり泣いていたのだった。
ありがとうございます。頑張ります。