怠惰の修道女
フワフワした空間にいる。それはまるで、雲の上。綿菓子でもいいな。そんな所で横になっていると、声が聞こえた。
ここではどんなことをしていても怒られない空間なんだが
君はここに来るにはまだ早いようだね
もう少し頑張ってからまた来たまえ
その時は歓迎しよう
その声を聞き終わった後、私の周りの雲が消える。身体はそのまま落ちていった―――
✳︎✳︎✳︎
今日は久しぶりの休息日。毎日毎日のお祈りや魔術の勉強、ちびっ子達の世話で私はクタクタなのです。そんな日は自室で惰眠を貪るものと決めている私の部屋に、ドンドンドンと扉を叩く音が聞こえる。まだ寝てられる時間だよと思いながら無視して二度寝。
「シスター・ヒリナ!いつまで寝ているのですか!」
と、聞こえてきた。この声はマザー・ルーヴの声だ。休日まで起こしに来てくれるのは有難いが、さっきも言ったが休息日。起きる気なんてさらさらなかった。
「マザー、今日は休息日です。出来ればもっと寝ていたいのですが……!」
「何を言っているのかよくわかりませんね、シスター・ヒリナ。休息日は昨日の話なのですが」
こっちこそ何を言われているのかわからない。しかし、『こっち』の世界では日にちをすぐに理解するためのスマホが存在しない。
確認するには広間にある魔法時計をわざわざ見に行かなくてはいけないのだが、
「マザー、もし仮に今日が休息日だったら私は明日も休みをいただきますよ!」
「いいでしょう。では、もし違ったらシスター・ヒリナ、あなたには次の休息日まで屋根裏の掃除と買い出しを命じます」
若干こっちが不利な条件な気もしたけど、私は自分の感覚を信じて布団から出た。部屋着のまま鍵を開け、隙間から顔を出してマザーを視界に収めた。怒ってはいるのだろうが、その表情はいつもと同じ無表情だった。経験上、こう言う人が一番怖いのである。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
「おはようございます。寝足りませんよ、マザーの所為で」
そう言って二人で魔法時計を見に行った……ら。
(嘘だ……!)
そんなハズはないと、寝ぼけ眼をこすってもう一度、魔法時計を見る。
「……マザー、この時計はとても高価なものです。イタズラで魔法をかけちゃいけないヤツですよ……?」
「シスター・ヒリナ、今すぐに身支度を整えて聖堂に行きなさい。祈りを捧げたら私の部屋へ。わかりましたね?」
「……わかりました」
どうしてこうなったのだろう。後ろからちょっと危ない気配して、私は急いで部屋に戻った。何度目かわからない寝坊だったが、日にちを跨いでの寝坊は初めてだったのでちょっと焦る。手早く着替えて、外に行き顔を洗う。もちろん水道なんてないから井戸水。とても冷たくて眠気も飛ぶと言うものでした。
一息つく間もなく聖堂へ。祈りを捧げました。心の中では特に何も考えず、ただポーズだけ。何故って?私は神を信じてないから。いるならもっと寝かせてくれるハズだし。
そこまでしてようやく一息。この後のことを考えると憂鬱になった。
「来ましたね。ちゃんと終わらせてきましたか?」
マザーの部屋に着くなり正座させられて、お説教がはじまった。それはもう長いこと。足が痺れてきたので少し動くとそれにも口を出すマザー。
「日頃の行いが悪いから痺れてくるのですよ」
「いえマザー、それは関係ないですよ。正座をすると足の血行が悪くなってきてですね……」
「言い訳はいらないのですよシスター・ヒリナ。貴女ちゃんとお祈りをしてきたのですか?服装もちゃんとしていませんし。せめてその長い髪を纏めるくらいはしてほしいところですよ?」
「いやだって、アレ被るとなんか気持ち悪いし、窮屈なんですよねー」
「言い訳は?」
「いりませんね、……はい」
あぁ、神よ、この長いお説教をすぐにでも終わらせていただきたい。
あ、私神信じてなかったんだ。