第3話『最近の若いやつ』
せっかちな人や、早く更新しろって人は回れ右!
夕方までひたすらに注文の受け方、レジ、洗い物などの基本的な動きを叩き込まれていた俺。喫茶店ってもっとのんびりしたもんかと思ってたが、どうやら勝手な妄想だったようだ。
全く客は来ないとかおもってたけど、トレーニング中に琥珀を知っている爺ちゃんやおばちゃん、ご近所で野菜を売ってるおっちゃんとか、肉屋のおばちゃんなどが襲撃してきた。
琥珀を自分の孫や子供見たいな事をずっと話していたが、俺が接客に出ると『愛ちゃんに取りつく虫がぁあ!』とかってキレられた。俺は割と短気だからキレそうになったが琥珀がフォローを入れてくれる、すると常連のおっさん達は怒りを沈めていった。
俺は店に居る常連グループに自己紹介をして、昨日から働いている事を説明した。ただし居候している事は一応黙っておいた、絶対に乱闘が起きるに違いないから。常連グループが退店した後に皿洗いをし、明日の食材を買いに行くために2人で店を出た。
「今日はお疲れさまでした」
「あぁ。まさか客が来るとは思わなかったわ」
「おじさん達は週に3日くらいに来てくれるんです、心配させちゃってるみたいで」
琥珀から簡単に話を聞いたところ、街では琥珀の祖父は顔が広く色々手助けをしていたそうだ。亡くなった時も多くの人が葬式に訪れたらしい、お店を継ぐ事になった琥珀を周りは毎日心配し店にやって来る事が、今では当たり前の様になったんだそうだ。
実際に食材を買いに出なくても、最初の頃はずっとスポンサーの様に提供してくれていたが琥珀が断った。いつまでも甘えていては成長できない、自分の力でできる所までやってみる、とおっさん達に話をし決めたようだ。
「琥珀もめんどうな人生送ってるんだな」
「そんな事ありませんよ? 今の仕事も楽しいので」
ニコニコしているが、あの話を聞いた後だとどうも簡単に返事ができない。地上げ屋のせいで確実に客は減り、雇った人間も辞めてしまってかなり辛い状況なはず。
それでも笑顔で居るのはどうしてだ、辛いなら辛いと言えば誰かしら声を掛けてくれるはずだ。実際におっさん達は琥珀を助けようとしたが断り、わざわざ辛い状況を選んで荒れた道を歩いてる。
ここまで来るとアレだな、
「お前はドMか?」
「ひぇ!? そんなことある訳ないじゃないですか!」
「どうだかなぁ」
俺はニヤッとした表情で琥珀を見る、ちょっと不機嫌そうな顔をしてるがある物を発見した瞬間、表情が一気に変わる。俺も釣られて琥珀が見ている視線の先へ顔を向けると、
「うわぁ、見てください! 凄く綺麗じゃないですかこれ」
「アクセサリーか、好きなのか?」
琥珀は『何言ってるんですか、私も女です』と声にしてないけどジトーっとした視線で訴えてくる、ちなみにアクセサリーを買いに駅前へやって来た訳じゃないが、雇い主には逆らえないからな。
俺は口を挟まないように、彼女が満足するまでウインドウショッピングを続けた。
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八百屋で野菜を、肉屋で肉を、の流れでおっさん達が経営している店をはしごして安く仕入れを終わらせた俺達、駅前まで行ってからUターンしてアーケードの中まで戻ってきた。
陽も落ちようとしていて、薄暗くなり始めた。オレンジ色の街灯がポツポツと点灯し、雰囲気のある風景へと早変わりする。
俺の両手には大きく膨らんだ買い物袋、野菜や肉だけでかなりの重量な訳だが、これを普段琥珀は1人でやっていたと思うとかなり大変だったろう。これからはちゃんと手伝うようにしないとな、一応新人だし張り切ってやらないと首切られたら人生終わるし。
もう少し歩けば琥珀の店に着く、居候の分際だが朝昼晩とご飯まで作ってくれるのだから、しっかりしないとダメだな。
公園を横切ろうと歩いていると、何やら揉めている声が耳に入ってきた。
「大和さん、あれ見てください」
「ん?」
吠える声が公園から外側まで響き渡れば琥珀だって気がつく。俺は立ち止まって中を見てみる、男3人と女1人、なんかつい最近見たようなシチュエーションだな。
こっちは男の数が1人多いようだが、そんなことはどうでもいいか。外見はただのチャラついた男3人、制服を着た女1人。ナンパでも失敗したからキレてんのか? 男に手首を掴まれてるし、一応声だけでも掛けといた方がいいか。
俺は琥珀に待ってろと指示をしてから、買い物袋を公園入口にあるベンチに置いて、その中心へ向かって歩く。
「あのー、すみません何かありました?」
「あ? なんだよお前」
まぁ、そんな感じだよね。知らんヤツに話し掛けられてるんだからそんな態度取るよね、でも俺は質問してんだよね。それに答えないってなんだろうね、心配してきたのにさ。
「何か凄い声してたんで、あとその子嫌がってるように……おっ、なんですか?」
女を突き飛ばしたあと男3人は俺を取り囲み始める、めちゃくちゃ睨みながらジワジワ寄ってくる、いよいよ胸ぐらを掴んでさらに顔はキスするんじゃないの? ってレベルまで距離が縮まる。
「コラ、お前なんや? ワイらに楯突くんか?」
「いや、純粋に女の子嫌がってたようだし? だから声掛けただけだろ」
「あ? お前ぶち殺すぞコラ、何や嫌がってなかったやろが!!」
近い近い、それにホントうるさい。周りの2人もクスクス笑ってやがるし、こりゃちょっと本気出すか? って言いたいけど『アソコ』から出てきたばかりだし、また厄介事はゴメンだしなぁ。
とか言いながら俺は相手の胸ぐらを強く掴んで、
「あんま調子乗ってたらお前らの居場所掴んで潰すぞ? どこの人間か知らんが追い詰めるのが俺らの仕事なんだよ、わかったんなら消えろや」
あんまりやりたくなかった、だがさっさとこの場を終わらせるにはこうするしかない。俺は掴まれた胸ぐらをわざとそいつから離れようと動く、するとシャツの首元が伸びて鎖骨から下に描かれた刺青が見える。
もちろんそいつにしか見えていない、それを見た男は目を見開き動揺を隠せないでいた。
「す……すみませんでした……」
「分かればいいよ、早く消えろ」
男の急変に他2人は何が何だか理解できないと言った表情をする、問い詰めても口を開かずそのまま2人を連れて目の前から消えた。
ようやく平和な時間を取り戻すと、俺は買い物袋を手に取り琥珀へ近づく。
「だ、大丈夫だったんですか?」
「話しゃ分かるやつらだったよ、それより腹減ったから帰ろうぜ」
と、さっさと帰ろうと琥珀に伝えて公園から立ち去ろうとしたが、
「ち、ちょっと!」
「あ?」
「何勝手に解決したみたいな顔してんだ!」
今度は助けたはずのヤンキー女子高生に絡まれてしまった。