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11日目 お茶会の国のマッドハッター

 「ご主人様!さぁ、話を進めましょう!!クロッケー場へ行きましょうか!そこに女王がいるはずです!」

エイプリルがクイっと俺の服を引く。

 昼間に、ドードー鳥と会ったことは黙っておくことにした。話す必要を感じないからだ。


 「女王って、ハートの?」

ハートの女王。聞いたことがある気がした。どんなキャラクターかは知らないけれど。

「はい、よくご存知で!!気に入らない者の首を片っ端から斬っていく女王です!!」

怖い設定だった。出来るならば知りたくなかったな…。


 「ハッター。」

伏木さんが、ふと足を止める。チョイチョイ、と手招きをした。

 「ここは?」

その空間は、中庭のような場所で、大きな長机と、大量の椅子が並んでいる。そして、汚れたティーカップと皿が乱雑に置かれていた。白いはずのランチョンマットは、紅茶のシミだらけ。よく見ると、折れて不安定になった椅子も存在する。

 しばらく誰も近づいていないことを物語っていた。


 「懐かしいです。」

エイプリルが言った。その瞳は、汚れきったティーセットに向けられている。

「ここは私が先代と出会った場所なんです!もっと綺麗な場所だったんですけどね!!」

 「ここはマッド・ハッターと三月ウサギが初めて登場する場所なの。…少し、ゆっくり見てみたら?」

伏木さんがそう言ったので、じっくり見ていくことにした。伏木さんには一人になりたい、と断られたけれど、エイプリルは案内します、と進んでいった。



 「この世界で二人きりは初めてかもしれないですね!」

そう言いながら、エイプリルは特に汚れた箇所へ向かっていく。

「先代のご主人様は、優しい方でした!私の話を聞いてくれて、勇気を与えてくれました!……でも、アリサさんに殺されてしまいました。」

 「なんで?話を聞く限り、マトモそうな人なのに。」

エイプリルの眼が、いつも以上に光を反射させた。

 「狂った帽子屋…。そんな名前だからです。でも、何も変わらなかった!この世界は続き、アリサさんも居続けて、白ウサギさんは姿を現してくれない。…でも、マッド・ハッターはいなくなってしまいました…!私はもう彼と会えないんです!なんで?なんで私の大切な人は皆消えちゃうんですか?!ねぇ……ご主人様もいつか、私の前から消えるのですか?」


 俺は消えない、そんなこと言う勇気はなかった。この夢が終わったら、きっともう会えない。夢ってそういうものだ。心の中に残っても、形は跡形もなく消えるんだ。


 「ごめんな。俺は、先代とは違うから。優しくないんだ。…ごめんな。」


 ふるふる、とエイプリルは首を振った。


 「カヅキさんは、優しい人です。」



 俺は、俺のことをカヅキさん、と呼ぶ人を一人しか知らない。土佐川 悠の身近な人物で、彼女はエイプリルと同じように泣くんだ。



 初めて会った時、三月ウサギはエイプリルと名乗った。それは間違いではなかった。だって彼女の本名は。



 「ごめんな…。」


 俺はそう言うことしかできなかった。

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