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10日目 地下の国のアリス

 意味もなく、例の病院へ続く道を歩いた。


 「やぁ。」


 目の前に、やや見覚えのある少年が立っている。

「ご機嫌いかがかな。」

 その口調と、肩にかけた一眼レフ。ドードー鳥である。


 「あまり男と二人きりになる趣味はないのだが…暇はあるかい?」

そう言って案内されたのは、公園だった。この辺りでは一番大きい、池のある公園だ。

 そこでドードー鳥は手漕ぎボートをレンタルする。

「他人に聞かれると困る話でね…。あーあ、かわいい女の子と乗りたかったなぁ。」

「珍しく同感です。」

そう言って、ボートを池の真ん中まで漕ぐ。


 「さて、他人…例えば土佐川 悠の妹なんかに聞かれたくない話なんだ。」

何か卯月に関わる話だろうか。

 「不思議の国プログラム…例の夢の中でのシステムの話さ。」

そう言って、ドードー鳥は話を始めた。



 「そのプログラムは、土佐川 悠を中心とした人物、その中でも肉体的または精神的に生死を彷徨っている人物に適用される。伏木アリサを必ず送るための設定だ。」


 よく分からない。


 「あの世界は伏木アリサのために存在する、そう言っても過言ではないね。」


 さらによく分からない。


 「そして、あの世界ではSNSでいうブロック、のような仕組みがある。秩序をある程度守るために。…分かるか?」


 「昨夜の。」


 あまり言葉にしたくない光景だ。

 正解、とドードー鳥は言った。


 「滅多に行われないことだけれどね。昨日ので2人目さ。1人目は…。」


 「マッド・ハッター、ですね。先代の。」


 「ああ。しかしバグが生じてしまった。初期段階、あの世界の住人の数を設定していたから、減った分を自動で追加するプログラムになっていたんだ。」


 「それで追加されたのが、俺ですか。」


 「話が早くて助かるよ。」


 「そして、そのバグは直しておいた。」


 それは何を意味する…?


 「すべて教えたりはしないさ。物語にワクワクは必要だろう。ネタバレはしない。まぁ、正しくは出来ないんだけどね。…不思議の国の…いや、地下の国のアリスはボートの上での即興さ。」


 考えていて気が付かなかったが、手漕ぎボートは岸に戻っていた。

「さようなら、秦 花月。」

ドードー鳥は、そう言って姿を消した。

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