「生き倒れ侍」
二話目です。
「生き倒れ侍」
国境の街"ライクニック"
"グラセニア"の端っこに位置するこの街は、隣国"エンビリカ"から、行商人や、旅人が足を運ぶ。
様々な人種が、行き来する街。
その、関所は簡易的なもので、街の入り口に立つ騎士に証明書を見せ、人々が往来している。
ライクニックの騎士を束ねるバラクは、そんな、人々を今日も椅子に座り眺めていた。
銀色の短髪に、不精髭。
筋骨粒々の体格の中年男の騎士は
種族特有の長い耳をヒクヒクさせながら、国境の関所に備え付けられている小さな建物の中、座り慣れた椅子に腰掛けていた。
手のかかる一人娘が、領主に仕えてからというもの、この街ではいくつかの怪事件が起きたが、
どれも、領主の手腕により直ぐ様、鎮圧。
家に帰っても騒がしい娘も、諸国を旅する妻も居らず
最近では、家に帰るのが億劫で、詰所で寝泊まりをしている。
ああ、俺も老け込んだなぁ。
今年で170歳になる、妙齢のエルフは、
頭をかきながら、葉巻を取りだし火をつける。
そうやって更けこむ、バラクに部下が一人駆け寄ってくる。
額に小さな角を生やし、爽やかな印象の黒髪の部下。
「どうしたぁ? アレン。何か面白い奴でも見かけたか?」
アレンと、呼ばれた若者はそんな、団長のいつもの調子に慣れっこである。
「何言ってるんですか、バラク団長。
交代ですよ。」
「ん? 飯の時間か? 今日もよく、働いたなぁ・・・」
欠伸をかきながら、そんな調子のバラク。
「良いんですか? 団長、今日、キャトルさんが団長の交代でしょう。そんなんだとまた、怒られますよ。」
「良いんだよ、娘には、騎士が暇なら、世界は平和だと教えてあるからな。」
「そうですか、なら僕は、そんな、平和を満喫させていただくために、キャトルさんとご飯に行きますね。」
バラクが、ガバッと立ちあがる。
キャトルの父にして、ライクニックの騎士団長。
若い頃は、グラセニア騎士団の最前線で活躍し、知る人ぞ知る歴戦の猛者らしいが、
田舎の国境の街で昼間から葉巻を加えて頬杖をつく姿しか見ない部下たちには、親しみやすいものなのだ。
「おい、アレン。何度も言うが、お前のような毛も生え揃ってない、"おに"ちゃまに、娘はやらんぞ。」
「僕もう、20なんですけどね。」
「20なんて、俺はもう、100回経験してるわ。」
「ギャグも古いですよ、団長。
今は、自由意思の時代なんです。
親の意思ではなく本人の意志が大事なんですよ。」
葉巻を勢い良く消し潰す。
「ふん。本人の意思だぁ? お前なんかに、キャトルが惚れるか!」
椅子に腰掛けふんぞり返るバラクがアレンに強がってみせる。
「つまり、惚れれば良いと? 言質いただきましたよ。
それでは、団長は、お昼に行ってきてください。そのまま、詰所に戻って、ハーパー辺りを捕まえて飲んでいてくださいね。
僕は、娘さんと一緒に働いて、美味しいディナーにでも洒落こみますので。
大丈夫です。
朝方には返すので。」
椅子を蹴り倒し、立ちあがるバラク。
「若造が調子づきやがって! 表に出ろ、アレン!
その性根叩き直してやる!」
そう言い、腰の剣を抜く。
「いいですよ。
久々に運動しましょうか、団長。
老眼鏡しないで、僕が追えますかね?」
アレンも、腰の剣を抜く。
回りの騎士達は、そんな様子に慣れっこなのか
またやってるよ・・・と、無関心。
今日もライクニックの国境線は平和なのであった・・・
そいつは、フラフラと覚束無い歩みで現れた。
日本で言う袴を羽織る、いでたちだが、長旅のせいなのか、ボロボロである。
髪色は青色。
頭のテッペンで束ねた、茶筅髷。
瞳の色は、黒色で、どこか虚ろげである。
髪型と服装から異質な男だが、顔を見ると
精悍で、20そこそこに見える。
腰には
2本の剣。
1本は短い日本刀、小太刀というものだろう。
1本は、中国刀のようだ。刀身は先端に向かって幅広になっており、柄は短い。
この、世界では中々目にかからない剣を腰に2つ差す男は、関所を目指して覚束無い足取りを進めていた。
丁度いいのか、悪いのか。
キャトルが、父親の代わりに関所を訪れるところ。
目の前を歩く異質な男に注目していた。
「・・・」
「ゼー・・・ゼー・・・」
汗をかきながらフラフラ歩く男。
「あ、あのー。そこの方?」
男は、ゆっくりとキャトルへ振り返り、口をモゴモゴ動かしている。
「あの、大丈夫ですか? えっと、旅人さん?」
男は、口だけ笑い、俺は大丈夫だと言う風にキャトルに顔を向けると、
そのまま、後ろに倒れこんだ。
「え! ちょ、ちょっと!
大丈夫ですか! あなた! 誰かー!」
運良く関所の近くであった。
バラクたちにも、娘の声が届いた。
娘の声に即座に反応したバラクは、剣を納めて
すぐさま、走り出す。
それに続くアレンや、他の騎士たち。
「キャトルー!」
「あ、お父さん!」
「どうした、怪我はないか? 虫に刺されたか? 襲われたか? こいつは何だ!?」
「お父さん、早い早い! 落ち着いて、アタシは、平気だから!」
バラクは、娘を揺すりながら、早口で捲し立てる。
アレンは、そんなバラクを尻目に倒れてる男を、調べる。
息はあるが、衰弱してるようだ・・・
「団長、とにかく落ち着いてください。誰か、担架を! それと、治癒術が使えるものを呼んできてくれ。」
若者ながらもアレンは、昔からリーダー気質の男である。
ここにいる、騎士たちもほとんどがそんな、アレンとは、昔馴染み。
アレンの指示に、従い騎士が動き、
アレンは、男に声をかけ続ける。
「しっかりしてください。もうすぐ、術師が来ます。気を確かに。」
「息は?」
やっと、冷静になった、バラクはアレンに声かける。
この親バカが・・・と呆れた顔でバラクを見るアレン。
そんな、バラクの後ろから、心配顔のキャトルが覗く。
「キャトルさん、何があったのですか?」
「え? うん、アタシが、ここに向かってたら、前をフラフラ歩いててね。
大丈夫かなと思って声かけたら、バタンっと・・・」
「そうですか、ありがとうございます。
大丈夫ですよ、衰弱はしてるが、息はしっかりしている。
おそらく、栄養失調か・・・」
男の腹から、 グーっと豪快に腹が鳴った。
バラクと、キャトルは、倒れてる男を見る。
アレンは、ひとつ、咳払いをする。
「みなさん、お昼にしますか。」
男は、駆けつけた担架に乗せられ、運ばれていった。
青髪の信長。
アレンは、琥太郎の飲み仲間です。