表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
怪奇蒐集の巻 その2
67/70

「ベッドタイムストーリー」

「ベッドタイムストーリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはよう、アスビー! 無事だった!?」

 

 「すいません! すいません!」

 

 「私を緊急だと呼びに来たと、陽が頂点に登る時刻だというのに、起こされて仕方なく駆けつけてやったというのに。

 どこぞの寝坊助を起こす為だったとはな・・・起きることすら他者に頼ると、どこぞのご老人かな人間の貴族よ。情けないなぁライクニック伯。」

 

 「おはよう、アスビー・・・・・・いい夢見れたか。」

 

 「・・・・・・ふむ。諸々・・・取り合えずは琥太郎・・・」

 

 「なんでしょう主、貴女の忠実なる枕に何のごようで・・・」


 「ライトニングッ!!」

 

 その雷は今まで"頂戴した"中でも気持ちの乗った、飛びっきり強力なモノであった。

 今朝の顛末はこうして終結した______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷の熱と痺れにさらされて俺の意識はそのまま眠りについていた。

 身体が鉛になったように、タールの池に沈んでるように重力に逆らうこともなく意識も沈んでいく。

 俺の邪気とやらにあてられた淑女の眼は、寝起きというのもあるが血走っていたようにも見えた。どれだけひどい目に合わせてしまったのか。いや、俺は悪くない。取り合えずは釈明させてほしいものだが・・・

 

 『・・・・・・~~~! ~~~! ~~~~!』

 

 どうやら今朝、俺が見た夢の続きが始まったようだ。サキュバスに入られてない、俺の夢。邪気の溢れない、安楽島琥太郎うらしまこたろうの夢。

 

 見渡すばかりの赤色、群青色の空がどんよりとグラデーションされた景色の正体は燃え盛る灼熱と赤炎である。

 焔に囲まれて大地に立つ視点がおそらく自分であろう。あまりの熱に陽炎で視界が霞んでいるようだ。

 

 今朝と変わらぬ夢の景色。ただ1つ変わることがあるとすれは視点が妙に揺れ動いていることだ。大地の水脈をも乾かさんと盛る炎に包まれているのに、どうやら俺の瞳は濡れているようだ。

 透明な純の雫に霞み、おそらく張り裂けんばかりに叫んでいるのだろう声の振動で動き、激しく。腕に抱き止めている"何か"を掻き抱いて全身で感情を露にしている俺がいる。

 

 青・・・赤・・・黒?

 天を仰ぎ見、視点を下ろせばその三色が目に入った。

 くすんだ青と揺れる赤と。

 そして、胸に抱く"黒"。黒、黒・・・黒?

 

 この黒い何かはなんだ。お前が大事に抱えている黒い何かは?

 なんなんだ・・・。

 

 俺は必死にその黒い何かを認識したいと集中するも動かない。

 代わりに何かを支えていた俺の左腕が動き出す。

 視線はその左腕を追い、左腕は壊れ物を扱うように震えながら何かを這い上がっていき。

 

 赤、赤・・・赤。

 

 黒の中に色があった。

 細く連なっている繊維の様な束。中には縮れ曲がったモノもある。

 それは、髪の毛であると直ぐに認識できた。

 

 そう、黒いモノの上部に幾ばくか残る赤い髪の毛。

 真っ黒になったモノに。はえた。所々焦げた赤い髪の毛を俺は震える手で掬いあげていたのだった______  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーーーーッーーーッ!!」

 

 音にならない悲鳴が喉にくぐもり、俺は目を覚ました。

 ほんのり月明りの射す天井が広がり、大きく息を吐き出した。

 安堵の息である。あの景色が現実ではなかったと実感できたことへと。"黒い何か"を完璧に認識しなかったことに対して。

 そう、あれは只の夢。夢の中に出てきた赤と黒のモノ。それ以上の意味はないのだと説得できる。させられる。

 上半身をベッドから起こすと背中は自分の汗でグッショリと濡れシャツが肌にくっついていた。

 まだそんなに遅くはないであろうか。窓を開け身を乗り出すと、俺の部屋から数メートル向こうの部屋の明かりが外に漏れている。

 まだ、彼女は起きているようだ。釈明もしたいし今すぐに顔をみたい。

 そう気を急かしながらも、やはりエチケットは大切であると思い、寝汗を洗い流すために浴場へと向かうことにした______

 

 

 

 

 

 芳しい木と石鹸の香りを漂わせながら、俺は明かりの漏れる部屋のドアをノックした。すると中から入れと。短い返事が返ってくる。

 

 「失礼しま___」

 

 言葉がつまった。何時ものように主が一人酒杯を傾け紫煙を燻らせている光景を望みながらに開けたドアの向こうには二人居たからだ。酒杯を2つ、チーズとクラッカーの様な乾物の置かれたテーブルを挟み片方には、少しゆとりある朱色の服を着る我が主様。そして対し座る・・・羊。桃色の髪を揺らす少女が慎ましく座っていたからだ。

 

 「・・・こんばんは。」

 

 「こんばんは、琥太郎さん。御風呂に入っていらしたんですか? 私も先程頂きました、凄かったですね!」

 

 「ああ、うん。そうだなエレノア。」

 

 「あ、どうぞ! こちらの席へ! 今、琥太郎さんのグラスも持ってきますので!」

 

 「ああ、うん。ありがとうエレノア。」

 

 「アスビー様、新しいボトルもお持ちしますか?」

 

 「頼んだ。」

 

 はい。行ってきます。

 そう言い俺の横を通り抜け、桃色の少女は廊下をペタペタと駆けていった。

 

 「走ると、危ないぞー。」

 

 はーい。

 俺の言葉に何故か後押しされる様に速度を上げたエレノアは厨房へと走っていった。

 

 「おはよう、琥太郎。」

 

 「・・・おはようございまする。」

 

 「何を突っ立っている座るがいい。」

 

 「あの・・・。」

 

 「エレノアが何故、私と杯を交えているのかざ気になるか? それとも別の事か? お前の邪な気持ちは"充分、嫌と言うほど"に身を持って味わったがな。」

 

 「・・・ちなみにどんな風に身に味わったんだ、詳しく教えてくれないだろうか?」


 「ライトニ・・・」

 

 「すいませんでした。」

 

 先に謝ることにしよう。そもそもの原因は俺にある。いや、原因はあっても発展したのはエレノアのせいであると思うのだが。それでも我が敬愛する主の眠りを妨害したのは俺である。どの様に妨害したのかはわからないが。非常に聞きたい気持ちはあるのだが、おそらくアスビーは墓まで秘密にすることであろう。今後一切その話しには触れさせぬと髪を静電気で逆立てているではないか。

 

 「それで、何故エレノア・・・彼女は___」 

 

 「琥太郎、ここは何処だ?」

 

 「え? いや、アスビーの執務室だろう。」

 

 「その前は?」

 

 赤い液体をグラス内で揺らしながらアスビーは謎かけをしてきた。

 

 「ヨミの・・・。」

 

 「そう、ヨミの占い部屋だ。聞けばエレノアは怪奇でありながら人世に棲まう妖狐を訪ねてきたそうではないか。お前は知らぬと思うが、そういう者は割りと多いのだぞ。」

 

 アスビーがいうには。

 内々にだけ伝えて海にバカンスに出かけた高名な占い師様を訪ねて来る者が度々居るらしい。その都度関所にいる騎士に当分不在だと伝えさせているのだが。遠路はるばる来た者たちをそのまま帰すのも忍びないと思っていたそうだ。

 

 「先程、少し夢を見て貰ったのだが、中々筋がいいぞ。占星術は専門にしていないが。それでもエレノアはしっかり学び、努力をし、親身に見る良い占い師の素質があるとわかった。

 本人は乗り気だし、私もあやつならヨミの代役として少しの間なら任せても良いかと思ったのだ。」

 

 ということらしい。

 占い師ヨミを訪れた客人を無償でエレノアが占いをしてあげるそうだ。

 エレノアの修行にもなるし、ライクニックを遥々訪れたモノだとたちにも得となる。

 一石二鳥の懸案だとアスビーは、ゆったりとタバコをふかした。

 

 妖狐の居ぬ間に夢魔を置いてか。

 まーた。賑やかになりそうだ______

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ