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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
怪奇蒐集の巻その1
59/70

「ジャッキー・チェーン」

「ジャッキー・チェーン」

 

 

 

 

 

 

 吸血鬼は何故、吸血"鬼"なのか。

 人の形をしているのに、どうして"鬼"と表するのか。

 

 文面や伝聞でしか、わかり得なかった俺の世界での吸血鬼に関する智識の裏付けが実体験でとれた。

 吸血鬼は"鬼"だ。

 赤く輝く瞳を漆黒の闇に爛々と輝かせ、月の光に照らされた白牙。獲物の血を口許から垂らすその姿は、決して吸血"人"と呼べるものではなかった。

 

 「どうしました? 琥太郎さん。」

 

 「・・・うん、一概には言えないか。」

 

 「?」

 

 個人差ならぬ個体差はある。

 目の前にいる色白の元日本人、荒城月徒あらしろつきとは吸血"人"と呼んだ方が近いだろうか、まだ。

 

 まだ。

 まだ月徒は人間でいたときの時間の方が長いから。ミレーナさんや、セラフと名乗った吸血"鬼"と違って元々は人間だったから。

 

 「なあ、月徒。1つ聞いていいかな?」

 

 主人に頼まれた酒の肴として、チーズを切りながらたずねる。

 1番気になること、

 人間の血を吸うのに抵抗を感じないのか?

 

 「何ですか?」

 

 「・・・いや。ミレーナさんと月徒は、これから何処へ行くつもりなんだ?」

 

 聞けない。

 俺にとって月徒は、どうみても同じ人間だ。

 昼間に俺たち人間と亜人・アレンを命懸けならぬ、命捨てながらにセラフから、その不死身の身体を盾にしてくれた人間性。

 痛くないのか? 身を裂かれて、抉られて。どうして立ち上がれる?

 

 人間の頃ならば虫すら殺せなかったであろう月徒の温和な雰囲気。

 辛くないのか? 人間を襲うことが。食糧とすることが。


 聞きたいことも山ほどあるが、興味本意で聞くのには少し重たすぎる。

 時間があれば、月徒と仲良くなれるほどの時間があればいいのに。

 

 俺たちの主人が決めた答えは、別れである・・・

 

 「わかりません。僕は付いていくだけですから。どこまでも。」

 

 どこまでもか。

 自分を助けたミレーナさんへの忠誠心なのか、愛情なのか。

 それとも身の置きようのない自分の居場所は、ミレーナさんの所しかないという利己的なものなのか、わからない。

 月徒の赤い瞳からは、言い知れぬ闇。心に抱えている暗闇を垣間見ることが出来る気がする。その瞳に恐怖なのか哀れみなのか、俺は疑心の目を向けざるおえない。

 

 「痛まないのか?」

 

 「え?」


 「身体がさ。」

 

 何とも回りくどい聞き方をするものだ自分は。

 メタメタにヤられた月徒の身体には今はキズ1つないというのに。

 

 「痛いですよ、やっばり。」

 

 「そりゃそうだよな。」

 

 「・・・でも仕方がないんですよ。」

 

 「キズつくことが?」

 

 「そうです、僕が護らなきゃならないんです。僕が。

 生き続けなければならないんです、御主人様のために。

 自分のために。」

 

 もう誰も失わいたくない。そう訴えるように月徒は拳を固める。

 お前の責任じゃないのに、月徒。妹が喰われたのはお前の責任じゃないのにな。

 復讐の業を背負うい、お前は立ち上がるのか。

 チーズを切る包丁を置き、ポケットからタバコを取りだす。

 

 「吸ってみるか?」

 

 「・・・いいんですか?」

 

 腰を据えようじゃないか、月徒。

 少しくらい話してても構わないだろう。

 俺は、月徒に1本タバコを渡し、慣れない手つきでタバコを持つ月徒に火をつける。

 

 「吸わなきゃつかないぞ。」

 

 「ふぁい・・・ゲホッ! ゴホッ!」  

 

 初めて吸う煙にむせかえる月徒に、冷蔵庫から冷えた麦酒を渡す。

 キャトル用のモノだが、少しくらいならいいだろう。

 

 「乾杯。」

 

 「乾杯・・・大人になった気がしますね。」

 

 「そうだろ。まぁ俺もまだ19だけどな。こっちじゃ合法だ。月徒は? 」

 

 「17になります。」

 

 ビンを合わせ、ビールを片手にタバコを吸う未成年の男が二人。

 悪いことをしている感覚を共有する俺たちは、アルコールの力で気分が高揚するのを感じている。

 

 「いいなぁ、ミレーナさん。非のうちようのない美人じゃないか。昨夜はなにしてたんだ? 二人っきりで?」

 

 「・・・ノーコメントで。琥太郎さんこそ、アスビー様と仲よしじゃないですか。」

 

 「仲よしね、俺の猛烈な片想いだから口説くのに骨が折れるぜ・・・折角いい雰囲気だったのに邪魔しやがって。」

 

 「いや、あれは御主人様が・・・」

 

 「わざとか? 俺たちのこと見てたのかよ。面白い性格じゃないか、クソッ・・・弱味を知りたい、何か教えろよ。」

 

 「嫌ですよ! 噛み千切られます。」

 

 「こわっ!」

 

 くだらない話。お互いの想い人のこと、日本でのこと。

 こちらの世界のことも、差障りない範囲、月徒の負に触れないように話した。

 俺たちは時間も忘れて語り合う、笑いながら、声をあげて。

 麦酒で喉を潤しながら。

 

 「クールビューティって感じですよね。」

 

 「性格悪いぞー、俺が好きなこと知ってて、茶々いれてくるんだぜアスビーは。でもそれも良いんだがな。」

 

 「Mですか? 琥太郎さん。」

 

 「それは断じて否定しよう。ミレーナさんになら虐められてもいいけどなぁ。」

 

 「ぶっ飛ばしますよ?」

 

 蝋燭の仄かな明かりの醸し出す雰囲気が、まるで修学旅行の夜のようだ。お酒がなかったとしても若さでハイになれる。

 

 「これ、キャトルのなんだけど。もう1本くらい貰っちゃおうぜ。」

 

 「キャトルさん、ビール飲むんですか? え? だってエルフですよね。」

 

 「俺も最初はそう思って、突っ込んだよ。エルフってもっとおしとやかで、聡明なイメージだ。牛のステーキをツマミにビールを飲むなんて台無しだってね。

 そしたら、フォークを投げつけてきて『アタシの勝手だろ、馬鹿!』って顔を真っ赤にしちゃってさ。」

 

 「結構に豪快な人なんですね。明るくて素敵な人だなぁと思ってましたけど。」

 

 「やめとけやめとけ、ミレーナさんにそんなこと聞かれたら嫉妬で噛み千切られるぞ。」

 

 もう1本ずつ冷蔵庫からビールを取り出し、またビンをかわす。

 砕けた会話を肴に話を弾める。蝋燭の明かりが風で消えていることに気づくのに時間がかかるほどに。互いに和を深めるように。

 

 「お、消えちったな。まったく、不便だよなぁ・・・携帯も使えないし、電気も通ってない。もっと融通効かせた異世界があってもいいんじゃないのかよってな。なぁ、月徒?」

 

 マッチで蝋燭をつけ直そうとする俺は、突然静かになった月徒の表情を伺うことが出来なかった。

 ただ、月徒は暗闇の中、調理場のドアを一点に見つめているようだった。

 

 「どうした?」

 

 蝋燭をつけて、顔を映せば先程まで笑い、上気していた表情を一変させ、鋭い瞳でドアを睨み付けている月徒。赤い瞳を輝かせて・・・

 ・・・いやな予感がしてきた。

 

 「もしかして、だけど・・・」

 

 「はい・・・琥太郎さん。奴等がきています・・・。」

 

 ドアの向こうから、俺には何かがいる気配も音も聞き取れない。

 月徒は違うのだろう、明かりがなくても見えなくても、嗅覚などの感覚が人間よりも鋭いであろう彼にはドアの外にいる侵入者の存在を感じとることも出来るのだろう・・・。

 俺は常に携帯している銃を片手にもち蝋燭をドアへと向ける。

 

 「マズイな、見辛いぞ。」

 

 向こうは月徒同様に夜目が聞くであろう夜の住人たち吸血鬼。

 ミレーナさんにつられてきたのか、昨晩のように・・・

 おそらく、昼間のセラフと名乗った吸血鬼。そして、その同族たちだろうか。

 

 「アスビーたちがヤバイな・・・月徒?」

 

 俺に相づちもうたず黙ってドアを睨む月徒。

 その肩を揺すろうとした、その瞬間。

 月徒の身体が視界から消えた。

 消えたというか、単純に"飛んだ"のだ。ドアめがけて、俺の視界から消えるほどの物凄い速さで。その方向を追うように明かりを向けると、

 月徒は、ドアを勢いのままにぶち破っていた。そして、暴打の音がすぐに聞こえた。

 

 「月徒!」

 

 銃を構えながら摺り足で、その後を追う。

 クソッ! 足がすくみ、手に汗が滲む。

 こちらは限られた視界の暗闇の中、奴等は恐らく昼間と同様に見えていることだろうか。

 すぐに加勢したいと思っても、恐怖と緊張が足取りを重くする。

 1歩、1歩・・・。

 蝋燭と銃を頼りに前へ前へと足を引摺り、ようやく月徒の破ったドアのところへ辿り着くと・・・。

 

 「大丈夫ですか? 琥太郎さん!」

 

 「・・・あぁ、俺は平気だよ・・・。」

 

 真祖の吸血鬼、吸血鬼の王の娘ミレーナ。そしてその眷属である月徒。

 照らし出した月徒は、顔を返り血で紅く染め、握られた拳にもその紅が濃く残る。

 

 辺りを照らせば、暴打の音による犠牲者たちが倒れていた。

 鋭い牙が殴り折られた吸血鬼、胸を撃ち抜かれたであろうポッかりと穴の空いた身体の、極めつけには壁に頭からめり込んでピクリともしないモノもいる。

 確認できたモノで、6匹。

 何者でもなく、目の前の月徒にほんの数秒でのされた吸血鬼たちの姿に、奴等への恐怖は薄れ、月徒への恐怖が増すことになるが、

 

 「・・・フォローは任せろ月徒。」

 

 「付いてきてください、琥太郎さん!」

 

 味方になれば何とも心強いことか。

 元人間で、友好を深めつつある俺の友人。真祖の吸血鬼の眷属・月徒。

 千切っては投げ、千切っては投げと、アスビーとミレーナさんがいるバルコニーまでの廊下。闇に潜み姿も見えぬ奴等の奇襲にも一切、ブレることもなく拳1つで殴り倒していく。でたらめに振るった腕に当たり吸血鬼が飛んでいく。振り上げた足に掠めた吸血鬼の身体が縦に裂ける。ミレーナさんの義妹・セラフに無惨にやられていた月徒が、勇猛果敢に一匹、一匹。一撃、一撃で吸血鬼たちを吹き飛ばし再起不能にしていく姿に、恐怖を通り越して驚嘆の念が起きるほどだ。

 

 「呂布りょふかよ、お前!」

 

 「三國志は好きですよっ!」

 

 そのうちに、容赦なく振るわれる月徒の剛拳を畏れて吸血鬼たちはドタドタと、ナイト・ウォーカーの名崩れなど知ったことかと、俺たちに背を向けて走り逃げていく。

 

 「逃がさねえぞ! 昨晩の借りは返すぜ!」

 

 「ナイスショットです! 琥太郎さん!」

 

 こうまで賑やかに背中を向けてくれると、煙の弾丸も面白いように当たる。俺のことを気づかい俺との距離を保っている月徒から逃げるのは容易いだろう吸血鬼たちよ。

 そうして、逃げ続ける奴等の後頭部に煙を込めた弾が当たると、その衝撃に頭を抑えて前のめりに倒れる。

 倒れれば、月徒の腕がトドメを刺す。

 大混乱。必死に背を向けて走り逃げねば殴り飛ばされ、背を向けて逃げているため、俺の弾に不意を喰らう。

 二階への階段があるエントランスに出る頃には、前方に群がる吸血鬼はいなくなった。隠れるモノもいたが、月徒の眼と耳で看破され、殴られる。

 

 数十匹は居たであろう吸血鬼たちは、みな倒れ転がり、俺たちの走り抜けた廊下には奴等の躯が横たわるのみ。

 

 息を切らせながら俺が右手をあげると、月徒はおもいっきりその手に合わせてハイタッチ。

 

 「いってぇ!」

 

 「ああ、すいません!」

 

 肩が外れかけたが、圧倒的な勝利の蹂躙のために笑顔を返すことができる。

 

 「やるねぇ・・・楽しめそうじゃねえか。」

 

 エントランスで互いの健闘を称える俺たちに、階上から低い声が届く。

 入り口の開かれたドアと窓から入る月の光りで、幾分か明るいエントランス。

 俺たちが向かう二階へと繋がる階段上に、声の主は座っていた。

 

 「元気がいいなお前ら。人間と、同胞よ。

 俺はジャッキー。ジャッキー・ベントゥーゾ・マキャベラン。

 吸血鬼一の怪力って呼ばれてるんだが、知ってるかい?」

 

 ジャッキーと名乗りを上げた吸血鬼は、立ちあがりその全身を目の当たりにする。

 デカイ。

 とにかくデカイ、二メートルはあるだろう背に、俺たちの二、三倍はあるであろう鎧のような厚い筋肉。太い葉巻を加えているが、それも細めのシガーに見えるほどに、全てか巨大な大男。

 そして、極めつけに右手に握る俺の頭くらいの太さはあろう極太な鉄の鎖。振るい受ければ木端微塵に吹き飛ばされるであろう鎖を引摺り、階段を一段一段降りてくるジャッキーという吸血鬼に、俺も月徒も面を喰らう。

 

 「・・・セラフの仲間だよな?」

 

 「おう、そうだ。相棒みたいなもんだよ、ずっと二人でお前ら吸血鬼に敵対する奴等を狩ってきたんだぜ。」

 

 セラフの仲間、つまりは敵対者。

 そして、相棒のジャッキーが俺たちの前にいるということは、

 

 「セラフは何処だ?」

 

 「さあな、自由な女だから、知らねえな。

 まあ、んなことはどうでもいいじゃねえか、若い衆!

 俺はお前らを狩る、そして、お前たちはセラフを見つけるために俺を倒さなきゃならねぇ。

 単純に考えな、命のやり取り。元気に喧嘩しようぜぇ!」

 

 見た目通りに豪放磊落な男、ジャッキー。

 葉巻を地面に叩きつけ、振るった極太の鎖で床ごと抉り消す。

 

 「荒城月徒、ミレーナ様の眷属です。」

 

 そう言い、拳を構える月徒。

 それを見て豪快に嬉しそうに笑うジャッキー。

 

 「おう! 月徒! かかってきな!」

 

 「安楽島琥太郎! この地を治める領主アスビーの従者だ。」

 

 吸血鬼は礼を重んじる高貴な種族と聞いたが、ジャッキーを見るとそれも一概には言えない。

 だが、名乗られた以上、返し。喧嘩を売られた以上黙って見ているわけにもいかなくなった。

 見るからに強者。コブラや、スナイデルを思わせるほどの歴戦の吸血鬼。

 大丈夫、月徒。

 俺たちならやれるかもしれない、そう想いをこめて月徒と視線を交錯させる。

 

 「威勢がいいな! 琥太郎! いいぜぇ、楽しもうぜぇ!」

 

 しっかりと人間である俺の名前を聞き、呼ぶあたり、ジャッキーは人間と吸血鬼に対してこだわりはないようだ。

 ないだろうな、この大男ならぬ大吸血鬼は、只の戦い好きだろう。

 それならば、打つ手はある。

 

 月徒は、一直線にジャッキーとの距離を詰めその懐に入り込む。

 それに少し遅れをとりジャッキーは、後ろに飛びながら鎖を横凪ぎにする。

 その鎖は"姦姦蛇螺の吉美"を思わせるほどに強烈で、数メートル離れた俺も身を屈めるほどの風圧を感じる。

 しかし、遅い。見た目通り力任せの攻撃。

 月徒は難なくその鎖を交わし、飛び退いたジャッキーの腹部へと跳び蹴りを食らわせる。

 中空のジャッキーにそれを防ぐ手立てもなく、諸に月徒の蹴りを受けたジャッキーの身体はそのまま後ろへと吹き飛び、階段へと直撃する。

 

 「・・・良い蹴りじゃねえか月徒。」

 

 対して効いてないか。

 あの強靭な見た目の肉体は当然に、飾りではない。吸血鬼の不死身性、回復力。おそらく今まで月徒と俺が倒した吸血鬼よりもより強いタフネスと力を持つジャッキー。

 首をコキコキと鳴らしスクッと立ち上がるジャッキーに、月徒は怯まず直ぐに追撃を加える。

 顔、顎、腹、急所、足。

 ジャッキーの分厚い身体を力任せに、速さ任せに殴り蹴り続ける月徒。

 そして、その攻撃を受け続けるジャッキーは。笑っている。

 効いてない、単純に月徒の攻撃がジャッキーの肉の鎧の奥まで及んでいない。

 スピードは無くとも、月徒の攻撃をかわすことが出来なくても、ジャッキーには関係のないこと。

 

 「やり直しだっ!」

 

 「っぶ!」

 

 殴り蹴り続ける月徒もその実感を拳に感じ、怯んだ一瞬に。ジャッキーは鎖ではなく、空の左手を力任せに、振り上げ月徒の顔面を殴打した。

 まるで紙飛行機のように、殴られた衝撃のまま月徒の身体は飛び、館の入り口の扉へとぶつかり止まる。

 月徒はどうにか意識を繋ぎ止めれたようで、膝を震わせながらに立ち上がる。不死身性は月徒の方が上、ミレーナさんの血を受けた月徒の方がスピードもありジャッキーの鈍重な一撃を食らっても立ち上がれる。

 それでも、月徒の拳はジャッキーへは届かない。

 銀行の金庫をハンマー1本で殴り続けるようなものだ。その中には手を出すことも出来ず、御用となる。

 同じだ、吉美の時と。

 魔法も通さぬ剛体を誇った吉美と同じ。

 ならば、同じ手は通じるか?

 

 瞬時に考えを巡らせる。

 ジャッキーは月徒が立ち上がるのを待ち、余裕そうに葉巻に火を灯している。

 それほどに自信のある肉体。

 アスビーや、キャトルがいれば魔法を使って崩せるかもしれないが、俺には小さなピストルが2つと、煙を込めた弾丸。

 実弾もポケットに入っているが、月徒の攻撃よりも強力なものではないだろう。

 

 つくづく、銃が役にたたないという言葉が身に染みてくる。

 そんなバカな、異世界だろうが銃は通じ猛威と一方的な破壊を行える武器だろうと思っていたが、

 

 戦車でも倒せぬ竜を見た、爆薬を受けても這いずり回る蛇もいた。

 

 せめて、爆薬。コブラのようにRPGや手榴弾があれば、ジャッキーに効くかもしれないが・・・。

 

 待てよ・・・あるかもしれない。

 コブラが言っていた、

 ヨミの裏の顔。

 この数発の弾丸もヨミに貰ったものだ。

 

 あるかもしれない、より強力な武器が。

 

 しかしどこに?

 どこにあるのか?

 

 「おい、琥太郎! お前はかかってこないのか?」

 

 未だに手を膝につき、ダメージの回復をはかる月徒に痺れを切らしたのか、ジャッキーは俺に声を投げてきた。

 

 「そんなオモチャ、俺には通じねえがな。」

 

 「ああ、わかってるよ。ジャッキーさん。」

 

 どこにあるかもわからぬ武器よりも、今ある武器で勝つ方法を探す。

 

 「月徒! いけるか?」

 

 「・・・大丈夫です。」

 

 フラフラと立ち上がる月徒に駆け寄り、肩を貸してやる。

 

 「1つだけ試したいことがある・・・お前、コントロールはいいか?」

 

 「え?」

 

 ヒソヒソと耳もとで1つの提案を告げる。

 月徒の目に追えぬ人知を越えたスピード。

 それを利用すればどうだろうかと。

 

 「おう、来ねえならこっちから行くぜぇ。」

 

 葉巻を先程と同様に抉り消し、ジャラジャラと鎖を引摺りながらジャッキーら大股で俺たちへと近づいてくる。

 何も恐れぬ不遜な闊歩。

 銃撃も効かぬであろう、その肉体を揺らしながら・・・。

 

 チュンッ!

 

 「おっ?」

 

 ジャッキーは足を止めた。

 彼の耳元を何かが掠め、

 そして、ジャッキーの頬を切り裂いたのだ。

 

 「月徒選手、ボールだぜ。」

 

 「次は外しませんよ琥太郎さん。」

 

 切れた頬から流れるジャッキーの血液。

 それを興味深そうに拭いとるジャッキーの顔めがけて、

 ピッチャー月徒。

 弾丸を1発、投げた!

 

 「おっ!」

 

 ストライク!

 ど真ん中、額の中央へと弾丸は吸い込まれていった。

 破った、ミットをも貫くほどの弾丸投球。

 俺の渡した実弾を、月徒はジャッキーの顔めがけて振りかぶって投げつけたのだ。

 面を喰らわされたジャッキーは、額を押さえて膝をつく。

 当然に吸血鬼。銀性じゃない弾丸を受けても生きているだろう。

 

 「いっけ!」

 

 「はいっ!!」

 

 ビュン! ビュン! ビュン! ビュン!

 

 何発も、月徒の腕から弾丸は投げられる。

 空気を引き裂く音と共に、弾はジャッキーの身体を貫き、その身を痛めつけていく。

 

 「っつ! っつ! おっ! おっ!」

 

 すっとんきょうな声をあげながら弾丸の嵐を受け続けるジャッキー。

 

 さて、これからどうしようか。

 弾丸もいずれは尽きる、このまま倒れてくれれば良いのだろうが、

 

 そうはいかないだろう・・・っ!

 

 「琥太郎さん!」

 

 「遊びはここまでだぜ・・・。」

 

 な・・・に・・・が? 

 熱い、熱い。

 痛い、痛い!

 血が流れ・・・てる。

 誰の?

 

 ・・・俺のか?

 

 「フレアチェーン・・・いてぇだろ、琥太郎。」

 

 視界が霞む、霞の向こう、ジャッキーの手が赤く輝いている。

 

 火だ。炎だ。

 

 まるで燃え盛る太蛇のように、

 ジャッキーの手にもつ鎖が炎を纏っているのだろう。

 

 「そらっ! もう一丁!!」

 

 俺めがけて振るわれた赤い鎖、それを身を呈して掴み止める月徒・・・それじゃあダメだ。

 

 「あっつ!」

 

 「阿呆がっ!」

 

 燃える鎖を受け止めた月徒は、当然その熱に手を離し、

 自由になった鎖はまた振るわれる。

 

 俺を抱えあげ、今度は回避する月徒。

 

 くっそ・・・腹が痛い・・・運がいいのか悪いのか、焼けた鎖のお陰で、傷はあまり広がらずが血が大量に流れ続けることもないが、

 たぶん、骨が何本も折れたか・・・。息をすると痛烈な痛みが走る。

 不味い、不味い。

 このままでは、また・・・。

 

 「琥太郎さん! しっかり!」

 

 「・・・あぁ、平気だよ。」

 

 平気なものか、今にも意識が断たれそうだ。

 ジャッキーの振るう鎖からからがらに俺を抱えて逃げる月徒には、反撃のしようもない・・・。

 

 打つ手無し。

 このまま、俺は死に。月徒も殺される・・・。

 

 アスビーも、ミレーナさんも。

 あの恐ろしく強いセラフに合わせて、この屈強なジャッキーまで行ってしまえば・・・。

 

 嫌だ、嫌だ。

 子供のようにごねた所で、どうにもならない。

 万事休すか・・・。

 

 上手いことかわし続けられるのも・・・

 

 あれ? 何でかわせるんだ?

 

 「なあ・・・月徒・・・お前・・・速くなってないか?」

 

 「え? 何を言ってるんですか!?」

 

 速くなってる。さっきよりも。

 俺を抱えているのに、さっきよりも、より速く。

 ジャッキーの鎖から身をそらし続けている月徒。

 

 何でだ・・・血まみれで骨が折れ、死の間際の俺を抱えているのに・・・。

 

 ああ・・・血まみれだ。

 

 そうだよ、俺の流れるトクトクと流れる血で、月徒も血まみれだよ。

 

 「月徒・・・お前・・・最後に血を飲んだのは・・・。」

 

 「だから、何を言ってるんですか!? 琥太郎さん! しっかりしてください!」

 

 「・・・飲め。」

 

 指先から地面へと流れ落ちる俺の血液。

 

 逃げのびたと言ったいたか・・・ミレーナさん。

 最後にたっぷりと食事をしたのはいつだ?

 

 「・・・琥太郎さん?」

 

 「・・・飲め・・・噛むなよ・・・俺はまだ人として生きたいんだ・・・。」

 

 「・・・琥太郎さん・・・」

 

 むさい男の血で悪いが、それでもお前たちには力の源だろう?

 

 なぁ・・・月徒・・・。

 

 「どうした? 月徒。琥太郎は、死んだか?」

 

 「・・・いいえ・・・まだ心臓は動いてますよ・・・。」

 

 「悪いな、きたねえことしちまって。

 もうお前にしか鎖をやらねぇ。

 さぁ! 来な! 月・・・」

 

 「だから、終わらせます・・・ジャッキーさん。」

 

 琥太郎さん・・・ありがとう・・・。

 確かに身体が、貴方の血をすすったお陰で身体が軽くなりました・・・。

 

 「お、お前・・・。」

 

 「さようなら、ジャッキーさん。」

 

 グジャッ・・・。

 "掴みとった"ジャッキーさんの頭を握りつぶす。

 

 ああ、そうだ。

 僕は吸血鬼になったんだ。

 

 力がみなぎってくる・・・もっと、もっと・・・。

 

 ・・・もっと吸いたい・・・。

 

 「琥太郎!」

 

 「・・・キャトルさん?」

 

 「ジーノくん! 琥太郎を!」

 

 「わかりましたっ!」

 

 騎士の人達だ。

 キャトルさんと・・・そのお父さんと・・・それにええっと・・・アレンさんだったかな?

 

 「おい、小僧・・・牙をしまえ。」

 

 「お父さん!」

 

 バラクさんだ・・・そうだ大きなエルフの人・・・。

 

 あれ・・・斜めに見える・・・バラクさんが・・・キャトルさんが・・・。

 あれ?

 僕のからだが見える・・・?

 

 

 

 

 

 

 

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