表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
怪奇蒐集の巻その1
54/70

「模様」

「模様」

 

 

 

 

 

 

 -----貴方にはどう見える? 月の、人の・・・-----

 

 

 

 

 

 

 黒海に浮かんだ満月が、その役目を太陽に譲り渡した頃。

 "2匹"の者が洋館へと降り立った。

 

 「ひゃー・・・暑いねぇ。」

 

 巨漢。身長はゆうに二メートルは越えるほどで引き締まった厚みのある筋肉、女性の首ほどの太さはある右腕で扇ぎながら、照りつける日差しの暑さに苦言を漏らす。

 

 「・・・くさい。」

 

 「うそ!?」

 

 隣に立つ黒い髪の女が、顔をしかめて鼻をつまむ。

 この男の横に立つと大抵の者は、小柄に見えてしまうが、それを引いても線の細い小柄な少女。

 共通項の見えない二人組が、この森深く一夜で聳えた洋館に何の用があって、"わざわざ"昼間に来たのか?

 二人の瞳は真っ赤な赤色だからだ。

 

 「あんたよりもだよ、ジャッキー。」

 

 「・・・たしかに酷いな。でもお前は好きだろう? セラフ。」


 蒸発しないほどに洋館の周りの草原に広がる血の海。

 セラフとジャッキー。2匹の同胞たちによるもの。

 しかめっ面のまま、セラフは腰を屈めて血痕をなぞるジャッキーを蹴りつける。

 

 「・・・なんだよ。」

 

 「帰るぞ、もういいだろう。ここにアイツはいない。」

 

 「残り香はあるぜ、セラフ。ははっ・・・まるで犬だな。」

 

 アイツの匂いは、街の方へと続いている。ジャッキーは立ちあがり街の方を。そして・・・

 

 「良い街じゃないか、好みの匂いがそこら中プンプン匂いやがる。」

 

 「興味ないね、ジャッキー。他のはお前にやるよ。

 私はアイツだけでいい。」

 

 アイツの、あの者の。あの高慢で高貴で、狡猾な吸血鬼の血だけでいい。それだけで私の心は満ち足りる。

 

 「愛か?」

 

 「・・・殺すぞ、ジャッキー。」

 

 セラフの赤い瞳孔に、森がざわめきたてる。鳥が虫が逃げたしていく。

 セラフと組んで"仕事"をし始めてから長いが、ジャッキーは今でもセラフの気に、心臓を鷲づかみにされた感覚を覚える。

 

 「そろそろ覚えろよ、セラフ。俺の悪い癖なんだよ。」

 

 まったく、ナイフみたいな女だな。

 触れれば指が切り落とされそうなほど、よく磨かれた一品だ。

 飛びっきりに良い女なのに、残念だ。俺が触れようとすれば、命を全部絶たれちまいそうだ。

 上着から葉巻をとり出し、強烈な殺気を沈めるようにセラフの頭を撫でる。

 

 「やめろ、煙たい。血が不味くなるだろうが。」

 

 鬱陶しくその手から逃れるセラフ。

 

 「なんで、俺の血の味を気にするんだ、セラフ? 念のため聴いていいかな?」

 

 「・・・いくぞ非常食。日が沈んでからだ。会いにいくのは。」


 言い切りやがったな、この女。

 まったく最悪に良い女と組んできたものだよ、俺は。

 

 ジャッキーは煙を太陽に向けて吹き掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「遅いぞ、諸君。朝食を私に作る前に風呂に入ってこい。酷い様じゃないか?」

 

 やめてくれ、これ以上。

 この二人を苛つかせないでくれよ、ミレーナさん。

 美しい姿態を辛うじて隠すほどに乱れた白いバスローブに身を包むミレーナさんが、白日のもと、俺たちをヨミの屋敷の門前で出迎えてくれた。

 朝方にベットの横で、美女のこんな姿を拝めたら、俺でなくても"元気"になってしまいそいだが。

 生憎、幸いに。俺は、俺たちは眠っていない。

 

 「・・・アスビー。」

 

 乾いた血と汗で泥々になったキャトルさんは、手にもつ弓に力を込めている。

 やめろ、そう言うだろう。寝不足じゃないアスビーだったなら。

 

 「殺れ。我が騎士キャトル。」

 

 健康的が取り柄のキャトルは隈の出来た瞳を輝かせ、白い柔肌を晒すミレーナさんへと、飛びかかった・・・筈だったが。

 

 「もう、"演技"の必要もないな。」

 

 ミレーナさんへと飛び付いた筈だった。

 キャトルの身体は俺たちの前方へと一足飛びで、跳ね上がった刹那。

 俺とアスビーの間を後ろに抜けて、キャトルは反転、俺たちの後方へ、

 

 「ぐギャッ!!」

 

 いつも明るく可愛い声のキャトルから出たとは思えない潰れた悲鳴があがる。

 

 「元気がいいなエルフ、見直したよ。」

 

 白い肩がめくれて外気に去らされながら、右手を向けるミレーナさん。

 その先に、木の根元に頭を打ち付けたであろうキャトルが目を回していた。

 

 「お前もな、ミレーナ。」

 

 「おい! キャトル!」

 

 俺はすぐにグッタリと伸びるキャトルへとかけより揺り動かす。反応がなく目を閉じて。起きない。尖った耳も垂れて、身体は力なく俺に垂れかかるのみ。

 

 「キャトル! しっかりしろ!」

 

 「・・・・・・・・・・・・ぐぅ・・・。」


 ・・・デコピンを食らわしてやった。

 いい夢みやがれ、この野郎。

 

 「ベットに放り込んでくるよ・・・。」

 

 「・・・任せた。」

 

 任された。

 任されてしまった。

 いいんですね? 主。俺がキャトルをベットに運んでも。

 いいんですね? アスビーさん。そんな大役を俺が、この安楽島琥太郎19歳の男子が担ってしまっていいんですね。

 了解しました、主様。完璧にその言いつけをこなして差し上げましょう。このうら若き眠り姫に最高の眠りをマネージメントさせていただきましょう。喜んで。

 彼女は年頃の女の子だよ、吸血鬼の血と、泥と、汗と・・・全身ベタベタのズタボロのまま、彼女の使うベットに寝かせていいものか? いやよくない。シルクのベットが汚れてしまうだろう? それこそ目覚めたキャトルがカンカンになってしまう、彼女がカンカンになってしまうと、恐ろしいことは昨夜よーくわかったから、俺はそんなことをしたくありませんからね。なによりも目覚めが悪いこと甚だしい。第一に服を脱がせねばならないな。うん、それは絶対に外してはならない。いや、実際は外す行為なのだけど、そんな言葉遊びは、全てが終わった後に残しておこう。すまない、すまないなキャトル。俺も君も始めてのことだろうが優しくするよ、傷があったら手当てをしなければならないから、当然、目は閉じないよ。君の健康的な肌に傷を残すなんて、そんなこと。あってはならないだろう? 丁重に高価なフランス人形の着せ替えごっこをするように着せ替えて差し上げます所以。まてまて、安楽島琥太郎よ。それだけじゃ足りないだろう? 寝巻を着させる以前の、問題を忘れているではないか。しまったウッカリ失念していた、緊張しているんだキャトル、手汗もグッチョリなんだ。でも大丈夫。俺はスペシャリストだ。予行練習は怠っていない・・・うん? どうした? キャトル、俺の服を掴んだ? どんな夢を見てるんだまったく。夢よりも現実は素晴らしいよ、保障しよう。忘れていたよ、眠る前にだ。君の汚されてしまった身体を清めなければならないね。そうだよ、キャトル。君も好きだろう? 至極のバスタイムだよ、勿論。眠る君をひんむいて投げ入れるなんて乱暴な前戯は・・・間違えた。乱暴な真似はしないよ。安心してくれ。先ずは君を純白のウェディングドレスに身を飾った御姫様よろしく優しく運ぼう、湯の元へ、脱衣場へ。それから前述の通りに優しく1枚、1枚脱がせましょう御姫様・・・あ、鼻血出てきた。まあこれ以上血を浴びても変わらないよねどうせ洗い流すんだし。ヨミの風呂場は日本式の造りをしている大浴場だからね。マナーとして俺も君もバスタオルなんて巻くわけにはいかないよ。そう! マナーとしてね! 大事なことだからもう一度言おう、俺はマナーのために生きる! 風呂場のマナーを守ることは日本男児として一番重要なことだと、死に際にジッチャンが教えてくれたから。まだ存命ですが。1度言ってみたかっただよね・・・どうしたの? 僕の胸に収まる花嫁、そんなに力強く腕を掴んで? そうか、夢の中ではそこまで逝ってしまったのか。そんなに焦らないでくれよキャトル。メインディッシュは素晴らしい前菜の後だから際立って美味しくなるんだよ。任せておけ。たっぷりと泡立てた泡で、君の髪の毛を1本ずつ絡めていく、頭皮のマッサージも忘れずに、知ってるかい? 俺はマッサージのスペシャリストでもあるんだよ。1度たりとも、お前もアスビーもそのスペシャルを行使させてくれないけれども。無礼講だ。遠慮するなキャトル。言ったろう、至極の時間を共にしようと。毛先に馴染んだ泡を洗い流したら今度は、その身体を。勿論手で直接ね。タオルでやると肌を傷つけてしまう危険性があるんだよ、よく覚えておくんだよ身体中で。君の背中を泡で包み、肩を腕を、指先から、爪先まで俺の泡立った両手で、まるで天使の包容がごとく君を真っ白にしてあげるよ。背中を制する者は夜を制する。お父つぁんがお母つぁんと実演していた・・・なんで思い出しちゃうかなぁ・・・ここで1つ。全国プラスして全イディオンの小さな子供を持つ親達に言いたい。そういうことは子供が本当にちゃんと寝たか確認してからにしてもらいたい! いいかい! 寝つきのいい子供だって夜中に隣で物音がしたら、起きることもあるんだよ! トイレを催すこともあるんだよ! 何をしているかは当時はわからないが、何か、気不味い気持ちで激しい営みの音を布団と枕に耳を押し付けて寝たふりをする子供もいるということを! 1度、盛り上がる前に冷静になって考えてください! 部屋を変えるなりしてくれればいいだけなんです、そういうホテルは貴方達のためにあるんです!

 と、安楽島琥太郎と作者からのお願いだぞ!

 さて、盛り下がりもこの辺にして。背面。半分は済んだ。俺もキャトルも泡に抱かれて、その熱を分かち合おうとするだろうか。さあ前へ行こうか、キャトル・エルクーガ。誰にも触れられたことないだろう。君の秘められた魅力へ。服の上からは不貞ながら、わたくしが何度か触れていますが、直接にはないでしょうね。そんな不埒なこと俺がやるまで誰にも許さないから! ・・・綺麗な肩甲骨を俺の泡立った手がすべりおり、2つの双丘を優しく包む。じっくりとしっとりと、肌と肌と、心臓に近いそこは入念に丹念に洗いましょう。君の紅く染まる顔を見つめながら、俺の手が優しく登り詰めさせてあげるから、こっちを向いてごらん、キャトル。名残惜しげに手を更に、下へと。引き締まった細いウエスト、助産婦さんが綺麗に切り取ってくれた小さなヘソの緒の痕までいとおしく。俺の腕は未開の地へと一直線に進むことだろう。キャトルという真っ白なキャンパスを彩る筆となった、わがままな双腕は最早、俺の理性では止めることなどできないし、君の理性は夢の中、もとい夢のような快楽園というなのエデンへ。湯気と泡で包まれた俺たちを止める者などいない、アダムとイヴがそうだったように、この閉ざされた浴場で禁断の林檎を食み合おう。神秘の泉を華拓かせて差し上げますお嬢様・・・

 ふぅ・・・。少し逆上せたねキャトル。部屋に行こうか、湯冷めしないように隅々まで拭き取った水気と、ふんわりと御日様を浴びたバスローブを二人で着ながら。君のベットには千枚の花弁を散らせておくよ。花の絨毯の真ん中に君を横たえさせる。少し冷めてしまった熱も、若い俺たちには関係ないね。首を顎を、髪をかきあげ、君の魅力的な耳に唇を落とす。君の艶やかな声をゼロ距離で聞きながら、先ずは挨拶を。白肌の顔に浮かぶ桃色の唇に。俺の下で君は、応えるように口を開き、激しく味覚の中枢器官を絡めあう。君の足を割るように位置どる俺の情熱もそそりたち、仕方なく離れた君はそれを見て、それを受け入れることを想像して、創造行為へと勤しむことに対して、顔を染め震えることだろうか。大丈夫、焦らないで。君が受け入れてくれるまで、出来るだけ痛みを感じさせたくないから、尽くすよ。時も俺たちを祝福してくれているんだから何時までも尽くすよ君のために。双丘の中心をはみ、君の全身を俺はフルコースを味わうような心地で舌を這わせる。幾層にも包み隠された神秘の泉の底に眠るスイッチまでをも。時を忘れた俺を、気づかせてくれるように神秘の泉がいつしか水に満ちる頃・・・俺たちは1つになる・・・。

 少年誌では白モヤとともにフェードアウトするその行いを、俺たちは獣のように求めあう、一晩も二晩も、祝福の鐘が鳴るまでね。疲れはて腕の中で頬笑む君に俺は囁きとおやすみの・・・・・・。

 

 よし、シミュレーション終了。少し足りない部分もあったが、そこはアトリブで乗り越えよう!

 さあ! 行こう、ネバーランドへ!

 

 がっ! しっかりと今度は俺の肉に爪が食い込むほどの力を感じながら。

  

 「何する気なんだい、琥太郎くん?」

 

 「起きたんだね、良かったキャトルさん。」

 

 パッチリと両目を開いた抱き上げたキャトルさんと目が合う。

 あちゃーデコピンが余計だったかなぁ・・・。

 

 「そのまま眠っていていいよキャトル、俺がお風呂から最期までエスコートするから。」

 

 「お前から殺してやる!!」

 

 頭を強く打ち付けたとは思えない、俺の腕から力づくで逃れ、逃れしなに鉄製の弓で殴りかかってきやがった!

 ふざけるな。俺はお前のためを思っているんだよ!

 ギャイギャイと状況などを忘れて激しく暴力的に掴み合う俺たちに、主人は冷淡な声で、

 

 「さっさと行け、二人とも。縛り上げて湯に投げ入れるぞ。」

 

 「「はい! 行ってきます!」」

 

 掴み合いで暴れる従者と、騎士に痺れを切らした主の命に、生命の危機を感じ、俺たちは揃って屋敷へと駆け出した。

 

 平気なのか?

 ミレーナさんとアスビーを二人だけを残して。

 無事にすんだが、囮として俺を洋館に残したミレーナさんを嫌に思うところもあるが、

 でも、なんだろうか。

 このまま終わるには何か足りないような気がするんだよ。アスビー。

 この人が語る、イディオンの世界のことも。この人の眷属となった俺の同胞である少年のことも。

 

 「・・・アスビー。」

 

 「大丈夫だ、琥太郎。ちょっと話をするだけだ。」

 

 鋭い眼光でミレーナさんを睨み付けたまま、アスビーは俺たちを見送る。大丈夫か。俺の心配はいらぬお節介というものだろうか?

 

 残された二人の話に聞耳をたてることもせず、俺はにこやかなミレーナさんの横を通り抜け、屋敷へと入った。

 勿論、現実にはキャトルに閉め出され風呂にありつくのは後になるので、朝食の準備でもしておくよ。

 琥太郎たちがいなくなり、アスビーは目を閉じる。

 一度閉じれば、開けたくなるのも億劫なほどに強烈な睡魔がやってくるが、それを押し殺し。 

 

 「月徒はまだ、寝ているのか?」

 

 「ああ、昨日は遅くまで付き合わせたからなアスビー伯。元は人間の下僕はまだ夢の中。それが何か問題あるか?」

 

 問題ないか。

 ミレーナ。お前の抱える問題に付き合わされるのは、必然となってしまった以上仕方がないが。

 全て話してもらうぞミレーナ・スレイモア・アルカード。

 

 「・・・いや、何も。そのような姿で話す話でもない。入るぞミレーナ。」

 

 「・・・そうしようかアスビー伯。」

 

 月徒はいずとも、自身に危機はないということか。

 

 ・・・くそ、眠いが仕方ない。

 

 ミレーナの話を、何を話す。何を弁に乗せ、何を突きつけてくる。

 

 アスビーは自分の頬を叩き、頭を奮起させミレーナとともに屋敷へと入った。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ