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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
ミスト
38/70

「咆哮」

「咆哮」

 

 

 

 

 

 

 

 歩幅を合わせて、草原を歩く二人の男女。

 

 

 

 「我ながらあれだけ、カッコよく言った手前、すいません魔法の使えない魔法使いだ今は。フクロウの一匹狩るのが精々だ。と訂正するのは、私としては情けないな。」

 

 「いいや、3匹は狩れるように俺がフォローしよう。俺が獣が心底煙たがるのを撒き散らして、引き寄せたのちな。」

 

 「殊勝な心がけだが、それを3回繰り返したところで、というものだろう。

 お前の悠長を信頼しないわけではないが、一刻を争っているであろうこの状況下では、私はお前の虚を信頼し、期待する。

 琥太郎、そこらへんが不器用な、騎士キャトルに明かした方が結果望ましいのはわかっているが、

 あいつの実力と、お前の虚構力を天秤に載せて測った結果。

 私的には、お前に軍配があがったんだ。」

 

 「嘘の力ね、いや嘘ではない。ただ、時期が悪かっただけか。」

 

 「そういうことだ。私はサイに嘘をついてはいない。

 お前の語ったような化け物があの霧から表れたとしても雑作なく撃滅する力は持ち合わせている。今は無いだけでな。」

 

  悠長にタバコを燻らせてるわけではない。

 不安を不容易に広げないための立ち回りについて、確認をとっているのだ。

 行くよりも3倍ほど、ゆったりと時間を使いながら

 琥太郎とアスビーはキャトルたちのもとへと戻る。

 

 スモーカーの帰還に顔を渋らせるキャトルと、そんな、キャトルを見て苦笑い、私は気にしないですと宥めるサイ。

 

 煙にまいた。

 二人がいなくなって、不自然さを感じられる程に時間は経っていた。

 何をそんなに話し込んでいたのか、尋ねられるのをきらい。

 できる限りその手の話を避けつつ、

 ヨミの作ってくれたサンドウィッチを空の弁当箱に変える。

 

 「んー・・・」

 

 「なんだ、キャトル。俺の頬にパンくずがついてるのが気になるなら、舌で舐め取ればいいじゃないか。」

 

 「気持ち悪い。」

 

 アスビーは、何も悟られぬ様に無言でコーヒーを啜っているので、

 琥太郎に狙いを絞り、二人っきりでのことを訊ねたいのだろうか。

 キャトルは、琥太郎の顔をげんなりと見詰める。

 聞かれたら、答えないのこそ不自然。

 自己完結しておくれと琥太郎は祈る。

 

 「なーんか、最近仲いいね二人とも。」

 

 拍子抜けした。

 

 「一夜を共にしたからな。」

 

 「まぁ・・・!」

 

 この歳頃の少女の関心を惹く話なのだろう、サイがいち早く反応する。

 

 「語弊があるな。」

 

 「まぁ、話を合わせとけよ。」

 

 「お前の話の結末で、私が恥者にされるだろう。」

 

 「俺との既成事実は恥か?」

 

 「恥だ。」

 

 「即答かよ・・・」

 

 こそこそと二人で話すのでキャトルは、更に眉を潜めて

 

 「そう! それ! コソコソ話!」

 

 「おいおい、キャトル野暮だろう。男女の密談に口挟むのは。」

 

 「はぁ・・・!」

 

 「はぁ・・・。」

 

 面倒と、かしまし。

 アスビーがキャトルに双眼鏡を放り投げる。

 

 「見てこい。」

 

 アスビーは、何も難しく考えず目の前の事態に頭を悩ませていると、騙った。

 嘘ではない、実際、草原を覆い尽くす霧も悩みのタネ。

 

 「真っ白だね・・・」

 

 「私も見ていいですか?」

 

 俺たちの不自然を自然に解釈したキャトル。

 

 「あんなに広がっているんですね・・・」

 

 「中に住む人にはわからないだろう。」

 

 「そういうことだ。」

 

 中から抜けてきたサイがわからないのも無理はない。

 故郷を覆う災を前に、少女は絶望の色を濃くする。

 

 「キャトル、抜けれそうか?」

 

 長い耳をひくつかせ、思考するも、キャトルのポーズはいつも通りのカラ、

 

 「頑張りましょう!」

 

 頭を止めても身体を止めないのがキャトルの良いところだ。

 

 「悪いが、交代は出来ないな。」

 

 「うん、アタシじゃなきゃ無理だね。」

 

 「成功の暁には、俺が何かご褒美しよう。」

 

 手をワキワキさせ、"あげる"ではなく"する"と言った俺に、キャトルは満面の笑顔で、

 

 「一月ひとつきあたしに、触らないで。」

 

 「・・・善処しよう。」

 

 そんなに嫌なのか、減るものじゃないだろう。

 と口を開きかけるが、アスビーとサイの好感度を減らすだけなので、くちをつぐむ。

 

 「キャトル、頼んだぞ。お前の目と感覚が頼りだ。

 あの濃霧では、私もあまり手を貸せない。」

 

 当然のように万全を装うアスビーに、

 

 「任せなさい! 適材適所ってやつでしょ! 化け物が出たらよろしくね!」

 

 「ああ。」

 

 歯切れの悪さを隠せないアスビー。

 

 「任せておけ、怪奇キラーの俺にな。」

 

 「調子乗ってるね琥太郎。また痛い目に遭うよ。」

 

 「2度とはごめん被りたいがな。」

 

 「じゃあ、調子に乗らないでよ。」

 

 「それを抜いたら俺に何が残る!」

 

 「言い切ったよ・・・」

 

 「長い付き合いだろ、キャトル。そろそろわかれよ。」

 

 「はいはい。」

 

 正直なところ、琥太郎はまだ目の前の事態に対して楽観している。

 

 だって、霧だぞ。

 鎧武者に変化して斬りかかってもこないし、ヘラヘラ笑って身体中の骨を折りもしない。

 見えぬ驚異を恐れるなど愚者の心根。

 俺は愚者か?

 ああ、ほんとは怖い、愚者です。

 でも、虎の威を借りれる愚者だ。

 今回に限っては、頼りの美しき虎は万全の態勢ではないが、

 先程、虎から甘美な言葉を貰った。

 言葉を呑み、力に換えれる俺は愚者と呼べようか?

 

 いや、呼ばない!

  

 「ふむ、各々意を固めるのも済んだか。」

 

 琥太郎の自己完結脳内対話の終わりを見てか、アスビーが馬車へと歩みを進める。

 その後ろ姿に、琥太郎は一呼吸。

 先日、貰った実銃。ヨミに貰った鉛玉を込めた銃。ヨミが何故持っているのかと説いてみれば、仕事柄だそうだ。詳しく聞くのはまた今度にしてだ。とりあえず目の前の霧。

決意を深め馬車へと乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拍子抜けのるほど、馬車は何事もなく進んでいく。

 たまに右へ左へとよれる事はあるが、ディセントへの道のりは概ね違えず、キャトルの引く馬車は順調に目的地へ走らせていた。

 

 「何か感じる!?」

 

 「いいや、大丈夫だキャトル。そのまま進め。」

 

 キャトルは、少しでも違和感を感じる度にアスビーにそう投げ掛ける。

 

 「いま、どの辺りだ?」

 

 「霧がなければ、水平線に街の姿を捉えられるほど。位だろうな、サイ。」

 

 「は、はい! そうですね。」

 

 アスビーは、愛用の槍を右手に席に腰掛ける。

 琥太郎も、安全装置を外した銃を両手に交戦態勢。

 

 されど、一更に順調な道のり故に二人ともあまり気負わず、

 心身を疲弊されることなくいた。

 霧は濃く、陽の届かぬ中だが、辺りはより一層、暗くなり、

 夜になっている事はわかっていた。

 ならば、このまま何も起こらず街へ辿り着ければ、その足で、狂った信奉者たちを鎮圧することも可能であろうか。

 

 「1つ目の山は越えれそうかな?」

 

 「凄いですね、キャトルさん。私が必死に1日漕いだ道を、こんなに早く進むなんて。」

 

 「ふむ、重畳だな。」

 

 「このまま、何も起こらなければいいですね。」

 

 「そんな、フラグみたいなこと言わない方がいいぞ、サイ。」

 

 「フラグ?」

 

 「ああ、前兆みたいなものかな。俺、この戦争が終わったら結婚するんだ、とか口走る奴ってだいたい死ぬだろう?」

 

 「そうなんですか!?」

 

 「おい、琥太郎。不吉なことを言うな。」

 

 「でも、よく物語であるだろう。そういう予兆になる台詞って。」

 

 「ふむ、確かにそうだな。」

 

 「ああ・・・私、何てことを・・・」

 

 頭を抱えて震えるサイを、可愛らしくも滑稽に思えてしまう琥太郎。

 

 その頭を優しく撫でて慰めてやると、涙目で琥太郎を見る。

 

 「大丈夫ですよね?」

 

 「大丈夫、いや俺も悪かった。俺の国では言霊ってものがあってな。何気ない言葉が意味を持ち、それが悪いものを連れてくると言われてるんだ。だから、殊更にそういうのを気にしてしまうんだ。」

 

 「そうなんですね。軽卒でした・・・」

 

 「大丈夫、悪を撃ち破る、アスビーがいるからな。」

 

 「そこで、自分と言えないのは何とも歯痒いな琥太郎。」

 

 「身の程はわきまえてるんでな。」

 

 「おーい! そろそろ見えるんじゃないかなぁー!」

 

 軽い談笑を交えて馬車は濃霧越しにでもディセントを見える距離へと入った。

 

 本当にこのまま何事もなく着きそうだ。

 

 ・・・ぅおおおぅ・・・

 

 ・・・ぐぅ・・・おおぉ・・・

 

 何か聞こえる?

 車輪が走る音を抜いて、耳を澄ませると街の方角から何か、

 

 聞こえる。

 

 「キャトル!」

 

 「うん! 私も聞こえた!」

 

 「え?」

 

 「ん?」

 

 微かに響いた音を聞いていない琥太郎とサイは首をかしげるも、

 アスビーは、槍を片手に身をのりだし荷台の天井によじ登る。

 

 琥太郎もそれを見て、彼女に続く。

 

 「え? え?」

 

 「中にいろ! サイ!」

 

 「は、はい!」

 

 大声でサイの困惑を吹き飛ばし、アスビーは前方へと目を凝らす。

 

 「何だ?」

 

 「わからん。街の方角からだな。」

 

 「二人とも! 飛ばすよ! 」

 

 馬に鞭を打ち、キャトルは片手で、弓と矢を引っ掴む。

 

 「どうする!? このまま行く!?」

 

 「ああ、避けては通れないだろう。」

 

 「了解!」

 

 「きゃ!」

 

 馬車は速度を増し、荷台からはサイの悲鳴。

 大きく揺れる荷台の上でアスビーと琥太郎は、手をつき振り落とされないように堪える。

 

 ぐぉおぉ・・・。

 

 ぐぉおおおぉ・・・!

 

 

 「聞こえた!」

 

 「近いぞ! キャトル!」

 

 アスビーは、上手くバランスを取り、立ちあがって槍を振りかぶる。

 

 「アスビー!」

 

 「出会い頭に投げるぞ、琥太郎。」

 

 「ああ、任せておけ。」

 

 琥太郎は、アスビー足をしっかりと掴み、彼女が振り落とされないように力を込める。

 

 車輪が悲鳴をあげるように速度を増していくなか、"そいつ"は突然に目の前に現れた。

 

 「・・・まさか。」

 

 「うそ・・・。」

 

 絶句するアスビーとキャトル。

 

 「・・・竜・・・。」

  

 琥太郎も"そいつ"の姿を端的に現す言葉を洩らす。

 

 霧を裂くように、羽ばたく巨大な翼。

 瞳は紅く光り、ワニを思わせる牙と口。

 

 美しい青色の巨大な竜。

 

 ノーチラス(一角獣)を初めて見たとき、異界の獣に衝撃を受けた琥太郎だが。

ノーチラスの数倍はあろう、高層マンションを見上げるように、首をあげ、30間(約54メートル)はあろう体躯の怪物を前に、ただただ茫然。

 

 茫然とする身体に、電気。

 足を掴む、右手から全身へと伝わってくる。

 

 「アスビー、止せ!」

 

 「ライトニング!」

 

 蒼色の竜の眉間目掛けて、放り投げられた雷の槍。

 投げたと同時にアスビーの力は抜けて倒れこみそうになるのを、琥太郎がしっかりと受け止める。

 

 「ぐぉぉぉ!!!」

 

 雷速の槍を交わすことなど出来るはずもなく、竜の顔面に突き刺さり、悲痛な咆哮を上げ体躯を、よじらせる。

 

 「キャトルー!!」

 

 「・・・! わかってる!」 

 

 我に返ったキャトルの痛烈な鞭に、馬車は加速。

 

 痛みに捩れる竜の足元を抜けて一直線に走り去ろうとする。

 

 「アスビー! アスビー!」

 

 琥太郎は、力なく腕に収まる少女へと声を投げる。

 

 3発が限界。

 先程の竜に放った一撃は、おそらくアスビーの限界点ギリギリの魔力を乗せたのであろう。

 アスビーは、呼吸はあるものの気を失い、琥太郎が抱き止めていなければ、力なく振り落とされるであろう。

 

 「ねぇ! 琥太郎! アスビーは!」

 

 「大丈夫だ! それよりも、キャトル! あと、どのくらいだ!?」

 

 「わからないよ!」

 

 「兎に角、急げ!」

 

 「わかってる!!」

 

 アスビーが倒れるいま、あの竜に対抗する術はない。

 ならば、一寸でも前に、竜が態勢を取り戻し襲ってくるその前に!

 

 「ん?」

 

 突然、琥太郎の身体が宙に浮く。

 咄嗟に片腕でアスビーを抱え、片手で荷台の天井を掴もうとするが、無意味だった。

 

 馬車も宙に浮いていたから。

 

 強い衝撃。

 

 後方から、悲痛な咆哮をあげていた竜の口から放たれた衝撃を受けた小さな馬車は、藁の家の如く、空中離散。

 乗っていた者、操縦していた者、しがみついていた者。

 

 それらを尽く吹き飛ばす。

 

 「・・・ひゅ!」

 

 背中に受けた衝撃に息を吐き、全身の力が抜ける。

 掴んでいた手を、

 抱えていた腕を・・・

 

 「・・・!! アスビーーーーーーー!!」

 

 離れた熱を掴まえようと空を切る手は虚しく。

 大事に大事に抱えた少女も、抱えた少年も夜の霧に投げ込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界怪奇「異世界怪奇譚」



人間怪奇「アブソナリティー」



現代怪奇「未定」


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