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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
33/70

「骸骨の恋」

「骸骨の恋」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わかっていたさ。」

 

 「そうですか。」

 

 「お前のことなら何でもわかる。」

 

 「・・・うれしゅうございます。」

 

 「気づけば遠くまで来たものだな。」

 

 「それでも、ここは清水の・・・・を思い出させてくれます。」

 

 「そうだな・・・されど・・・」

 

 「ええ、もう戻ることも出来ませぬ。」

 

 「われらが住みし時より、もう幾百年も経っている。さて、どうしたものか。」

 

 「では、共に。」

 

 「ああ、共に。極楽浄土に逝くには、長生きし過ぎたのかも知れぬが。」

 

 「ええ、あなた様となら。」

 

 「ああ、お前となら。

 共に参ろう。お露。」

 

 「はい、新三郎様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 絡み合った青炎がいつしか、赤く燃え上がるのを俺たちは見ていた。

 

 幕を閉じてもいいのか?

 

 ・・・ああ、頼む。

 

 ・・・お前たちは幸せになれたのか?

 

 ・・・・・・。

 

 隣から鈴の音の声が、呪文を唱える。

 

 世話になった。

 

 ・・・こちらこそ、お陰で此処に戻ってこれた。

 

 ・・・感謝する。安楽島琥太郎。

 

 ・・・新三郎。

 

 

 二人は幸せになれたのか。

 何故、他人の幸せをそんなに確かめたがる。

 無粋にもほどかある。

 

 それでも、

 

 「新三郎、お露。

 余多に広まった怪奇と、恐怖。

 お前たちの恋は、業の深いものとなってしまった。

 けれど、この最期に。

 私、アスビー・フォン・ライクニックは二人の幸を心から願おう・・・」

 

 俺も、この人と共に。

 1度死に、還ってこれた彼女の場所に。

 

 俺のこの気持ちは、遂げられるのか。

 俺は彼女と歩けるだろうか。

 俺は彼女の為に生きれるだろうか。

 俺は・・・

 俺は・・・

 

 俺は・・・

 

 光が燃え上がる炎を優しく包み込む。

 

 こうなることを願ったのは、俺だ。

 

 それでも、その答えに不安と焦りを覚えるのは何故だろうか。

 

 何故だろうか。

 

 

 

 琥太郎。

 

 ・・・最期にすまない、安らかに。

 

 

 すまない、そう言い聞かせる。

 

 

 ・・・お露。

 

 はい。

 

 まだ、未練が残ったと言えば、お前は哀しむだろうか?

 

 ・・・いいえ。わかっているのでしょう。私の気持ちも。

 

 「トルニ・リモレス。」

 

 琥太郎。お前に沿ってみようか。

 

 光が、炎を包み込み。

 雷鳴と共に、欠き消える。

 

 最期に新三郎とお露の瞳のない眼が、俺を見つめ。

 それを直視出来なかった俺は、やはり、覚悟とかそういう次元に心を置けていないのではないだろうか。

 

 

 覚悟、決断。

 

 そういう事柄から逃げてきた19歳。

 

 残ったのは、過去と後悔。

 

 わかっている。

 

 そう思うのは、やはり過去のこと。

 

 今のことはわからない。

 何も・・・

 

 

 「む・・・」

 

 

 怪訝な声とともにアスビーの眉があがる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「いや・・・気のせいだろうか・・・」

 

 

 うむ。と手を顎に当て何やら考えこむ主。

 

 その悩みを聞き出そうと口を開く。

 

 その刹那。

 屋敷の中から強烈な炸裂音。

 

 近い、外じゃない。

 先程から、聞こえていた音とは比べ物にならない、近く。

 

 壁を数枚隔てた所。

 

 「アスビー!」

 

 「わかっている。」

 

 密閉された空間だった部屋に即席で掘った脱出口。

 

 俺は、懐から屋敷の中に仕掛けた爆薬。それらをまとめて炸裂させる起爆スイッチを取り出す。

 

 アスビーは、即席の壁を蹴り破り、迷わずそこに飛び込む。

 

 俺もそれに続き・・・

 

 「見いつけたぁ。」

 

 身体中の細胞が縮こまる。

 その声は、肉体を膠着させ、脳を冷え冷えと麻痺させる。

 

 まてまてまてまて!

 

 恐怖心は、深く深く根ざし、忘れよう忘れようと取り繕うと、きっかけ1つで、一瞬に全身へと伝播する。

 

 飛び込め!

 振り向くな、見るな!

 飛び込め!

 続け!

 

 動け!

 動け!

 

 動け!!

 

 ドロリとした液体が頭にかかる。

 

 真っ赤な液体。

 それも尋常じゃない量の。

 

 「デッドマンウォーキング君。

 ぷちっと。

 その最後の時をぷちっと。

 ほんの一捻り。」

 

 右肩に熱い手がかかる。

 

 

 「や、や、や。」

 

 「ああ、ああ、ああ。わかってる、わかってる、わかってる。お前もそう願ってるんだろう。

 圧倒的、強者にくみしかれるのを。

 あのムカつく女の尻に敷かれて、その尻を追い回し、追い回し、追い疲れて、いずれ孤独に死ぬことを。

 大丈夫。もう頑張らなくて良い。

 アタシが終わらせてあげる。」

 

 あたかもそれは、聖女の囁きか。

 

 その考えも、右肩にかけられた手が、俺の肩の骨をミシミシと鳴らす力に欠き消される。

 

 「ぐぁ・・・」

 

 「愉しい、愉しい。こんな愉しいのは、久しぶりだぁ。

 鴨狩もつまらないものなんだ。

 狩るなら獅子。

 狡猾で、獰猛で、メスの群れに囲われたオス獅子。

 その囲いを取っ払ってやったあと。

 獅子は気づくんだよ。

 自分がいかに脆弱だったかをさ!」

 

 心が作った膠着が、いつしか、巻き付く、太蛇の黒々した胴体に変わり、

 足の、腰の、腕、胸、そして、頭蓋の骨を砕・・・

 

 「ライトニング!」

 

 かれない。

 

 あらゆる魔法に抗体を持つ胴体が効をそうす。

 

 致死の雷は、その胴まで響かず。

 力だけが抜け、俺の身体は地上に落ちる。

 

 「痛っつ!」

 

 受け身も取れぬほど、固まった身体はそのまま重力落下の衝撃を受ける。

 

 その痛みから覚める間もなく。

 今度は頭に、強い衝撃。

  

 「へぶ!」

 

 危うく舌を噛みかける。

 

 「目覚めたか、寝坊助。」


 頭を抑え、痛みから流れる涙を蓄えた目をあげる。

 

 何で・・・

 

 「つくづく、世話をかける従者だ。」

 

 「・・・アスビー?」

 

 手にもつ巨大な槍。

 

 今度はその切っ先を真っ直ぐうちこんでくる。

  

 「あぶっ!」

 

 寸前で頭を下げ、頭上を突き抜ける切っ先。

 

 「アスビー? 何がアスビーだ。

 貴様の愚鈍さには目を見張るな。」

 

 「・・・。」

 

 ようやく、顔をあげ声と先程の強打を食らわせた主をみやる。

 

 アスビー。

 そう、彼女は何処までも厳しい。

 自分にも他人にも。

 

 俺の弱さを認めてやらない。

 

 「・・・すまない。逃げ損ねた。」

 

 「構わん。どっちみちコイツとは、相対すと思ってた。」

 

 不意の雷を喰らった吉美は、身体を捻り、その激痛にもがく。

 

 そのもがきが頑丈なはずの部屋の壁を根こそぎ破壊していく。

 

 俺はもう一度、アスビーの目を真っ直ぐ見る。

 

 その目には後悔も、迷いもない。

 

 ただ、目の前にいる巨大な怪物にどう挑み、勝つか。

 

 それの未来を見つめている。

 

 「やっと立ったな。」

 

 「え?」

 

 気づけば俺は、その目に吸い寄せられるように立ち上がっていた。

 

 「お前は立ち上がった。私がいなければとは言わん。

 お前は今、立ち上がったぞ琥太郎。

 自分の意思でな。」

 

 「俺の意思・・・。」

 

 戦場を駆ける戦乙女さながら、手にもつ槍を構えるアスビー。

 

 俺もその横に。

 

 琥太郎は、その横に立ち。

 

 コブラから貰った銃を構える。

 

 「クソッタレ! ああ、クソッタレ!」

 

 奥歯が恐怖でカチカチ音をたてるのを虚勢を振り撒いて納める。

 

 「ありがとう! アスビー! この借りはまたいずれ!」

 

 「馬鹿め! お前の借りなぞ、既に幾千もある! 黙って私に使えろ!」

 

 アスビーも呼応するかのように声を張り上げる。

 

 そうしなければ、二人とも。

 

 目の前に立ちはだかる恐怖に立ち向かえない。

 

 構えた槍と銃口を向けられた、吉美はいつしか、落ち着き果敢にも立ち上がる二人を見る。

 

 「姦姦蛇螺の吉美! 貴様の暴虐も今日ここまでだ! ライクニック領主にして、グラセニア一の召喚師アスビー・フォン・ライクニック!」

 

 「その従者、安楽島琥太郎!」

 

 「お前に引導を渡す。」

 

 「・・・やってみろよくそども・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い、二夜が空ける。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

長い話はスタミナが持たないですね。


次か、次で、この噺も終わります。



その次からは、短くいきたい所存です。

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