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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
32/70

「七怪奇」

最近、寒暖差激しいですね。


 「七怪奇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間であった吉美の瞳が最期に映した色は、赤色と黒色。

 太蛇の腹の内壁の赤と溶け落ちていく自らの髪の黒。

 彼女はその時切に願い続けた。

 どうか、これ以上私の身体を崩さないで。

 願いと共に口を紡いだのは、古の、大和やまとの術師より伝わりし禁術。

 永遠の若さと、生命を得る禁術。

 使うと今世に混沌と厄を起こし、

 古く不老不死を求めた権力者が唱え、文明を滅ぼしたと口伝されていた。

 

 知ったことか。

 

 自分が死ねば世界も死ぬ。

 禁書庫に忍び込みこっそり垣間見た梵字の羅列。

 不思議とその文字を一字一句覚えていた。

 

 姦姦蛇螺の吉美を造り出したのは、身勝手な憎悪。

 だが、彼女を蔑むことも出来ない。

 

 私も彼女と同じ顛末を辿るなら、同じ手段をとるかも知れないのだから。

 

 

 

 

 

 吉美の歓びは、破壊と殺戮。

 1つの完成された創造物を原型の留めないほどに地に返すこと。

 そして、抗いきれない呪によって、苦しみ悶え死ぬ人間を観察すること。

 

 なのだが。

 

 

 「くっあー・・・何じゃわからんが喰らってもうたんじゃが。」


 「・・・そのようやなぁ。」

 

 こいつは何だ?

 

 「玖礼! ・・・平気なの?」

 

 恐る恐る、自分の身代わりとなった青年に声かける少女。

 

 「うぬ、特に何ともないんじゃが・・・」


 「3日後にポックリ死ぬとかじゃねえのか?」


 「怖いこと言うんじゃないけぇ。」


 「おい、吉美とやら。何の術をかけたんやぁ?」

 

 黒髪の女が声をかけてくる。

 いやいや、待てよ。

 そいつに喰らわせたのは、飛びっきりのやつ。

 喰らうと同時に穴という穴から血が吹き出し、見るも無惨な作品が出来上がるやつなんだぜ。

 

 理解が出来ないのは、喰らった本人だけではない。

 吉美もまた目と口を開き、呆然としていた。

 

 「失敗したってわけやないなぁ・・・取り込んだ刀に耐性があったんか、そもそも取り込めるほどの肉体やったら・・・それはそれで、更におもしろ能力の追加やんなぁ。」

 

 一人、考察をしているヨミ。

 空から降り立ったこの女は恐らく人間ではない。

 

 昨夜、騎士たちにかけた呪の効果が成さなかったのもこいつのせいか。

 

 それならば、分が悪い。

 自分と同等、下手すればそれよりも高位な妖怪奇。

 

 あの男のことは今はいい。

 先程の姑息な二人を狩るのとは土台話が違う。

 

 吉美の身体キシリをあげ身を変えていく。

 瞬時に作り替えた下半身を振りかぶり、ヨミの身体を横凪ぎにしようとする。

 

 「紅梅・こうばい ほのか。」

 

 凪ぎ払われた、木々が辺りを舞う。

 手応えがない!

 

 吉美の一打は、大地を裂いたのみで、肝心のヨミには当たらなかった。

 

 ヨミの居た周囲には、季節外れの紅色の梅の木が咲きほこる。

 

 「クソッタレ!」


 「言葉が汚いよぅ。」

 

 声に対し後ろを振り向く吉美。

 

 何となしにフワフワと宙に浮く金色の髪のヨミ。

 

 「紅雲。」

 

 前につきだした腕から放たれる紅い雲が吉美の周囲を漂う。

 

 「こざかしい。」

 

 高熱を発する雲をモノともせず、吉美は、胴体を振り回しかきけす。

 

 「やっぱり、効かんかぁ。

 面倒な蛇やなぁ。」


 「ペラペラ良く喋る狐だな。その口縫って剥製にしてやるよ。」


 「やってみぃや。」

 

 真っ向からぶつかる二人。

 その体躯からは想像も出来ぬ速さで、半身を振るう吉美と、それを紙一重でかわすヨミ。

 空を切った吉美の半身が木々をなぎ倒し、ヨミの放つ術がそれらを焼き尽くしていく。

 

 「怪獣大決戦ってか。」

 

 二人に巻き込まれないように、退避したコブラたち。

 

 「どうしよっか?」


 「こうなっちまったら、こっちから手のだしようもねえなぁ・・・っと!」

 

 コブラは言葉に反し背中に背負うランチャーを放つ。

 的確に狙った弾は、吉美の背中を捉え炸裂する。

 

 「ちょ・・・!」


 「こりゃ、楽勝だな。的がでかいから子供でも当ててらぁ。」


 「わっはっはっ! やっぱそうじゃなきゃのう! グレイヴ!」

 

 

 今度は玖礼の唱える術が吉美の足元を貫く。

 鋭利に盛りだした、岩石が吉美を襲う。

 

 「っくくそがぁぁぁ!」

 

 チクチクと遠距離から与えられる攻撃に苛つき、そちらへと這い出ようとするも、

 

 「どこ見てんねん、阿呆。」

 

 ヨミが回り込み金色の尻尾を振るい吉美の横っ面を強打。

 モロに喰らった吉美は動きを止め、手をつく。

 

 「エエぞエエぞ。もっとやったれぇ。」


 「あいよ、姐さん!」

 

 

 先程から無様に地べたを駆けずり回らされた仕返しをするかのごとくコブラは、銃弾を浴びせていく。

 変化した吉美には大して痛打とはならないが、それでも弾は吉美の身を裂き血が吹き出る。

 

 血が出るなら、化物でも神様でも殺せる。

 それを信条とするコブラは行き着く暇も与えない。

 それに呼応するようにキャトルと玖礼も遠巻きから、攻撃を浴びせていく。

 

 たまったものじゃない。

 先程のように強引に詰め寄り一薙ぎ出来れば奴らなど、肉片に変えれるのに・・・

 

 ・・・・・・この・・・クソ狐!

 

  

 何度も何度も、身を詰めようと試みる。

 奴等に追えない速度で。

 

 だが、ヨミは先回りして、ものの見事にそれを許さない。

 

 一騎打ちならばまだ、吉美にも勝算がある。

 スピードも耐久力も尋常じゃない二人。

 3日も闘い通せば、異常なタフネスの吉美に軍配が上がるかもしれない。

 

 

 

 それはヨミもわかっている。

 コブラたちには見せないが、硬化した吉美の肉体を削るのも中々に骨が折れる。

 もっとも地上最強最美人のうちなら、3日も闘い通せば、華麗で美しい数百打で、吉美を灰にすることも容易だが。

 

 この蛇が単純で助かるわぁ。

 対して効かへんなら無視してウチに集中したらええのに。

 

 慢心、いや馴れの問題やな。

 

 ヨミも人の世に入り、何度も同じような目にあってきた。

 悲しいなぁ、虚しいなぁ。力を持つウチらは。そんな気なくても、貧弱な人間を壊してまう。

 

 強引に崩されていく吉美の身体。

 回復が追い付かぬほど熾烈な鉄と土の雨に晒され、徐々に動きを弱めていく。

 

 あんたがもうちょい素直で良い子やったら、人の世での巧い生き方。

 教えてやってもよかったのに。

 

 「ぐぅぅぅ・・・」

 

 コブラの放った弾から、酸が吹き出し吉美の身体を焼く。 

 頃合いと見てヨミが、片手を上げ攻撃を止めるよう促す。

 

 

 「・・・吉美。」


 「はっはっ・・・クソ狐・・・」


 「強情な娘やなぁ。」


 「・・・黙れ。」


 「ちょっとやり過ぎたなぁ吉美。

 殺しすぎたなぁ。

 ウチもアンタも。所詮、人世の理から外れた生き物や。生き長らえたければ、牙を抜け。」


 「・・・。」

 

 崩れる吉美に話しかけるヨミ。

 彼女の味わった過去。憎しみや、苦しみはわからん。

 でも、これからの生き方は教えられる。

 

 何とも甘い考えを持つようになったものだ。

 近寄るものを有無を問わず殺してきたあの頃のウチが見たら笑うやろうなぁ。

 

 「クックックックッグッ・・・」


 こんな風に。

 

 「甘え、甘えよ。ショコラのように甘え。」


 「ずいぶん洒落た食い物知っとるんやな。」


 「・・・狐・・・狐よ。名前は・・・」 


 「ヨミや。」


 「ヨミ・・・ヨミだって?」

 

 ヨミという名前を聞いて、口を歪める吉美。

 はて?

 何が引っ掛かるのやら・・・

 

 気を抜いてた訳ではない。

 たとえイタチの最後っ屁で、コブラたちだけでも仕留めようとしても、通る前に焼き殺す準備はしていた。

 後ろには、絶対に通さない。

 後ろには。

 

 ヨミが背にするのはコブラ、玖礼、キャトル。

 吉美が背にするのは崖。

 アスビー、琥太郎のいる屋敷に面する。

 

 あ、しもた。

 

 残った手で跳ね上がり跳躍。

 軽くなっていた吉美の身体は屋敷の裏庭目指して飛び立っていた。

 

 「あかん・・・!」


 「待て! ヨミ!」

 

 吉美の身体が裏庭の柵を越えると同時に、仕掛けられていた爆弾が一斉に爆発する。

 

 裏を取られたら作戦自体がおじゃんになると踏んだコブラが、相当量の爆薬を裏庭一帯に仕込んでいた。

 

 猛烈な爆風に身を屈める。

 爆発が連動して屋敷の回りに引火する。

 

 流石のヨミでもそのなかに飛び込むことは出来ない。

 

 「野郎・・・」


 「不味くない、これ・・・」

 

 なんとか身を起こし屋敷を見るも、吉美の姿は見えず、

 爆風に晒されて屋敷の窓がいくたにも割れるのが見える。

 

 「坊主たちは大丈夫だ。調整は出来てる。」


 「でも・・・」


 「入られた・・・」

 

 爆炎が包む、屋敷に一匹の獣を放ってしまった。

 

 脱出ほぼ不能。

 琥太郎が爆薬の仕掛けていない安全な道を辿れば・・・

 

 それでも吉美ともし遭遇したら・・・

 

 ヨミとコブラが己の失態に気づき閉口する。

 

 爆炎が屋敷を包み、それを眺めるしか出来ぬのだと、次々と火を上げる庭。

 

 後は祈るのみ。

 それしか、残されていない。

 4人は、足踏みし燃え上がる屋敷を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

  

 

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