表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
31/70

「呪詛」

遅ればせながら投稿失礼します。

「呪詛」

 

 

 

 

 


 言霊って信じますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京へ売られて5年。

 奇特な陰陽師に拾われ3年。

 アタシは特別だった。

 

 人として、ただイタズラに年をとり、疲れ果て死ぬ。

 女子の一生なぞ、そんなものであるのだが、

 アタシは特別だった。

 

 十年に一人の逸材。

 男子であれば国一番となれた。

 

 アタシは特別だった。

 


 才ある女は、名家の男と良い子を産み、その子を育て優秀な陰陽師にする。

 

 アタシは特別じゃなかった。

 

 

 苦しい。狭苦しい。

 アタシはもう"物"じゃない!

 売られて、買われて、飼われて、使われて、遣われて、痩せ細った身体に心が並ぶ・・・

 

 

 

 狭い。箱庭の世界。

 

 痛い。

 珠のように艶やかだと、アタシの髪を誉めてくれたあの人はもういない。

 

 熱い。

 心が、瞳が、

 全身が。

 

 熱い・・・

 溶けていく。崩れる。

 

 

 

 四肢の無き女子を、太蛇が頭から丸飲みした。

 村人たちは頼まれたのだ。

 蛇を退治してやるから、女子を贄にしろと。

 

 女子を売った母親は、何も言わず。

 娘を喰った蛇に祈った。

 

 娘が来世、男子に産まれますように!

 

 

 

 

 二日後。

 

 娘の願いは叶った。

 腹を裂き産声をあげた娘は、特別となった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「上々の立ちあがりってとこだな。」


 「上手くいったね。」

 

 コブラが自分の"出来"をわざわざ確認しに行き、上機嫌で戻ってくると。

 肩を下げキャトルは、それに応えた。

 先程の狙撃ポイントから次のポイントへ。

 姦姦蛇螺の吉美。

 何度致命打を与えても直ぐに治る驚異的な治癒力。

 変化すれば、銃弾や中級魔法ならば、跳ね返してしまう身体。

 そして、凄まじい速度で近寄り、生物を死に追いやる呪いをかける。

 

 コブラの前情報と、昨夜自分が直面した事実。

 それらを加味して考えた戦略。

 

 近寄らず、離れた位置を転々として長距離狙撃。

 相手に直ぐに身動きを取らせないために地雷のオンパレードを添えて。


 少し卑怯かとも思うが、こうでもしなきゃ戦いにならない。

 ライフルに弾を込め、コブラは鼻唄を歌いながらスコープを覗く。

 

 「お、もうそろそろ。」


 「この、暗闇でよく見えるね。」

 

 夜もすっかり深くなり、森には一面の闇が帳をおろす。

 エルフ族のキャトルは、夜目が利き昼間とほぼ変わらず見えるが、

 人間のコブラには難しいだろうが。

 

 

 「暗視スコープだからな。」


 「暗視? スコープ?」


 「暗い中でもよく見える、文明の利器ってやつだ。」

 

 アタシは促されるままにスコープを覗き、おおっと声を上げる。

 そう言うわけか。

 これなら、吉美の姿も丸わかりだ。

 スコープから見える吉美はフラフラと立ちあがり辺りを見渡している。

 

 一瞬、ガラス越しに目が合い、気づかれたかと思い肩をビクッとあげてしまう。

 

 「ん? どうした?」


 「いや。一瞬目があっちゃった。こっちに気づいてないよね?」


 「ふーん。」

 

 キャトルの気のせいだろうが、念のためコブラが替わり、スコープを覗く。

 どうやら、気づかれてはいないようで、吉美は門を目指して歩いている。

 

 「んー・・・」


 「どう?」


 「気づいちゃいねえが、変化する気もなさそうだな。」


 「射とうか?」

 

 キャトルは、慣れた手付きで矢筒から、爆薬を仕込んだ矢を1本抜く。

 

 どうしたもんかな・・・

 もしかしたら、向こうはこっちの位置を特定しようとしてるかもしれない。

 一向に門の中に入ろうとしない吉美。

 先程の地雷を恐れてかもしれないが、それであればこっちの思惑通り。

 殺せればベストだが、時間を稼げれば充分。

 通常なら、そうする。


 だが、コブラに欲がでる。

 怪奇教の七怪奇。

 それも、悪名だかい姦姦蛇螺の吉美。

 ここ、グラセニア国内だけではなく、イディオン全土で度々被害の報告を聞く。

 いわば、やつは斥候。

 というよりかは、切り込み隊長か。

 3年前単身で軍国ラストニアの要塞ゴライオスを壊滅させた。

 コブラもその時、ラストニアに雇われゴライオスに傭兵兼指導者として派遣されるはずだったが、

 

 派遣の3日前にその報を受け取った。

 次の日部隊と共に駆けつければ、要塞は跡形もなかった。

 丁寧に兵士たちの、山を築きその頂上に怪奇教の旗印をあげて。

 かろうじて生き残った兵もいたが、強力な呪をかけられて、2日後に苦しみ悶え息を引き取った。

 姦姦蛇螺の圧倒的な暴力と脅威を遺言にして。

  

 特段親しい奴でもなかった。

 ラストニアに義理立てする気もないが、

 叶うならば、この手で奴を仕止める。

 コブラは人間が好きだ。

 特に国のため、家族のためと我武者羅に武器を持ち、自らの身を盾にする騎士たち。

 こちらに来て、そんな真っ直ぐに戦場へと歩みだす彼等を尊敬していた。金のためではなく、家族と土地と、国のため。名誉のためにと真剣に武器を持つ彼等が。

  

 吉美の首には莫大な懸賞金もかかっていると聞く。

 その金で、亡くなった奴等の家族に分け与えるのもいいだろう。

 

 テメエは、やり過ぎた姦姦蛇螺。

 誇りを胸に戦う騎士を侮辱し、巨像が蟻を踏み潰す如く蹂躙した。

 

 「コブラさん?」

 

 黙ったまま、ライフルを構えるコブラにキャトルが声をかける。

 

 キャトルは優秀だ。

 流石バラクとシャールの娘なだけある。

 あと10年もすれば国を背負う立派な騎士となるだろう。

 

 此方に分がある。そう踏んでもいいだろうか?


 「キャトル。」

 

 覚悟を決める。

 キャトルもそれを感じ取ったのか、弓を引く。

 

 「アイツはここで終いにしなきゃならねえ。」


 「うん。」


 「行くぜ。」


 「うん。」

 

 1つの怪奇に終焉を。

 柄にもなく覚悟を決めてしまった。

 

 ライフルの引鉄を引く。

 同時に聞こえる鉄の放たれる音。

それに続いて、矢が放たれる。

 自らの欲と亡くなった誇りを取り戻すために。

 放たれた弾は的確に吉美のこめかみを捉える。

 先程と同じ。

 無慈悲な射手たちは、隙を作らず。

 遅れて届く矢が吉美の肩口を捉え・・・

 

 ガシッ。

 

 捉えない。

 頭に弾を受けた吉美は本能だろうか、同じ方向からの弓矢をガッチリと掴む。

 

 問題ない。

 それは、さっきお前に喰らわせたのと同じ。

 二段仕込みの特別製だ。

 確かに軽率な攻撃だったかもしれない。

 被弾したとはいえど、同じ射線を描けば防がれることもあるだろう。

 

 さぁ、炸裂しな。

 そうしたら、移動してまた、別の場所から・・・

 

 み・つ・け・た?

 

 スコープ越しの吉美の口がそう動いた用に見えた。

 胸のうちから警鐘が鳴る。

 矢と共に爆発した吉美。

 動け、動け!

 

 ライフルを手に走り出す。

 キャトルも放った矢が掴まれたと確認した瞬間駆け出していた。何よりも気づかれるのを、直接応戦することの恐怖を感じていたキャトルのその判断は正しい。

走れ! 逃げるぞ!


 ミスった。

 らしくなく、鉛玉に色々と込めすぎた。

 

 走れ走れ走れ!

 

 キャトルの背中を追う。

 

 「屋敷の裏手だ!」


 「わかった!」

 

 声を上げ、足を走らせ

 地雷を大量に設置したポイントに移動。

 吉美は確実にこちらへ向かってくる。

 

 「木に登れ! マークのついた木は大丈夫だ!」


 「了解っ!」

 

 キャトルの目がいくら良かろうが、俺の仕掛けた罠をすべて潜り抜けるのは無茶だ。

 仕掛けた本人ですら、死にかねないのに。

 

 足を止めず地雷源に突入する。

 思い出せ、目を凝らせ。

 

 そこの木の葉の下。

 盛られた土。

 木の間に張られたピアノ線。

 

 瞬時にトラップの位置を特定していく。

 踏むな、触れるな、震動を与えるな!

 

 キャトルは上手いこと木を伝いポイントまで一歩先に辿り着く。

 

 安心するのは、五体満足でこれを掻い潜った後だ。

 

 頭と目と肉体をフル回転させる。

 あと、50メートル・・・

 

 後方で爆発音。

 掛かった!

 

 一足飛びで最後の地雷を交わし、転がりながらセーフポイントへなだれ込む。

 即座に頭をあげ、後方へマシンガンを乱射する。

 

 威嚇と、誘爆を混めて。

 

 吉美の圧を感じる。

 恐らく変化して、爆発を諸ともせず這ってきてるのだろうか。

  

 「キャトル! 合図したら次のポイントに!」


 「待って!」


 「何だ!?」


 「・・・いない。」

 

 キャトルが絞り出した言葉を聞き取り理解するまで数秒かかる。

 

 マシンガンを離し、すぐさま、ライフルを覗く。

 誘爆して、辺りを熱と煙が包むなか。

 吉美を探す。

 

 ルートを考えながら居る場所を特定してスコープを覗くが、

 いない。

 いない。

 いない。

 いな・・・

 

 

 「コブラさん!」

 

 身体が本能で動く。

 その場から飛び退き、自分が居た後方に銃を構える。

 

 「クソッタレ。」


 「顔も言葉も汚い奴だねぇ。」

 

 全身から血を垂流し、右手と左足を修復し出している吉美が此方を睨み付ける。

 心臓が掴まれる心持ちになるが、

 胸を叩き、鼓舞して銃を撃つ。

 

 「痛い、痛い、痛い、嗚呼。」

 

 芝居がかった倒れ方を魅せる吉美。

 ダメージなし。

 ならば、口を潰す。

 唱えさせない。

 

 何やら、ブツブツと言葉を紡ぎだした吉美。

 背中に背負ったランチャーを身体を捻り向ける。

 

 「大人しく寝てな嬢ちゃん。」


 「そんな柔な女子に見えるか?」

 

 口が裂けるほどの笑みを潰すように、放たれた炸裂弾。

 

 爆風が自分にも降りかかり身を屈める。

 

 「コブラさん!」


 「撃て、撃て、撃てぇ!」

 

 木上のキャトルを発破する。

 キャトルは弓を引き、木から飛び退きながら確実に吉美を捉える。


 「止まるな!」

 

 自分にも掛けた言葉通り吉美を中心に回りながら銃弾と矢を放つ。

 

 煙が晴れて、吉美の姿が見えだす。

 吉美の半身は吹き飛び、地面に口づけながら身体を震わせている。

 

 「そっかぁ・・・さっきのは手前か・・・」

 

 キャトル!

 

 ヒヤリと殺気が走るのを感じとる。

 キャトルは、近くの木を駆け上がるところだ。

 素直すぎるその動きを、しっかりと目で追いかける吉美。

 吉美が身体を振るってキャトルへと飛び付く。

 キャトルが登り、着地する枝をめがけて。

 

 まずっ。

 

 「かわせ!!」


 「・・・っ!」

 

 キャトルが顔を歪め、吉美を目視したときには、吉美は残った片手でキャトルの足を掴んでいた。

 

 「死ね。」


 「吉美ぃぃ!!」

 

 キャトルにまとわりつくように身体を構成させていく。

 撃てない、キャトルにも当たってしまう。

 ナイフを抜き、二人に駆け寄るも間に合わない!

 

 「くっ!」

 

 キャトルは、必死に吉美を振りほどこうともがくも、力で捩じ伏せられてしまう。

 痛みと恐怖からか、キャトルの瞳から知れずして、涙が溢れる。

 

 吉美の蘇生した手がキャトルの顎を掴む。

 

 「いい顔だ。喃梦叢陥・・・」


 「せやのぅ。」

 

 それは、俺すら気づかなかった。

 キャトルの身体が横から突然現れた足により、吉美の手からはじき飛ばされる。

  

 「え?」


 「・・・はぁ?」

 

 代わりに吉美の前に立つのは青空を感じさせるほどの青い髪の青年。

 

 「玖・・・礼・・・」

 

 キャトルは、受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

 絞り出した言葉は無情にも彼には届かない。

 

 「残念じゃったのう。嬢ちゃん。」


 「岑蠡死茣躯!」

 

 吉美の呪文は、標的を変え目の前の青年に降りかかる。

 

 

 玖礼は、それを正面から受け、

 そのまま、枝から地上へと力を失い落下する。

 

 

 「玖礼ー!!」

 

 

 少女の叫びと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 


ツィッター始めました。

投稿と小言を呟きたいと思うので、よければフォローどうぞです。


春ウララ@小説家になろう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ