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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
五尺様
3/70

「その瞳で見つめないで」

「その瞳で見つめないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 琥太郎たちと別れたアスビーは、街外れの占い舘へと足を運んでいた。

 万策尽きて、占いに頼るためではない。

 舘の主に、用があってだ。

 

 ライクニックの街の中では、アスビーの屋敷、教会に次いで大きい占い舘。

 どれだけ、ここの主が高名で、優秀な者なのかがわかる。

 わざわざ、他国から、この舘の主に会いに来るものもいるくらいだ。

 最も、ここの主はアスビーもよく知っている。

 舘の主はアスビーの父親が召喚した、異世界の者。

 今の様な放浪生活に身を墜とす前は、アスビー父に仕えて冒険をしていたとか、

 幼い頃のアスビーには母親代わりともなるような存在だ。

 

 

 最も私の母親は、人間だがな。

 

 

 父親の過ちを疑ったこともあった、アスビーが、思いに耽っていると

 舘の扉が開く。

 

 

 「ヨミ。詠み通り訪ねてきてやったぞ。」

 

 

 ヨミと呼ばれた女性は、微笑みを浮かべる。

 黒いストレートの髪を腰の辺りまで伸ばし、

 日本の女子高生が着るセーラー服に身を包む狐眼の女性。

 見た目は10代半ばといったところであろう。

 

 

 「御待ちしておりましたえ。アスビー。そのご様子だと、また、新しい怪奇の話かえ?」

 

 

 はんなりと話すヨミに、

 

 うむ。と頷くアスビー。

 

 

 「立ち話もなんやし、どうぞ中へ。

 美味しいコーヒーと、菓子もあるよし。」

 

 

 どこか胡散臭い京言葉を話す、ヨミに招かれてアスビーは舘へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、琥太郎と、キャトル。

 キャトルは、子供の頃から慣れ親しんだ、山道をサクサクと登っていく。

 それに続く琥太郎、辺りを警戒しながら進んでいるように見せかけて、

 その実、山登りがしんどいのだ。

 

 くそ! どうした、元体育会系!

 俺の、右足、左足!

 

 

 辛さをひた隠す、琥太郎の様子をそのまま、受け取っているキャトルは、

 スイスイと山を登る。

 

 

 それに遅れぬように、必死に着いていく琥太郎。

 

 くそ!

 絶対に、この世界にロープウェイを導入してやる。

 そうやって、不毛な事を考えつつ無心で登っていく琥太郎。

 

 

 「琥太郎。どう? 何か、感じる?」

 

 

 鎧を着込んでいるのに、楽々と登っていくキャトルの声が降ってくる。

 

 

 「ああ、少しでも気を抜けば、やられてしまいそうだ。」


 「まぁ、ここらには割りと凶暴な魔物もいるけど、アタシがいるから平気だよー。」

 

 

 この女、わざと気づかぬフリをしているのではないか!

 

 いや、超鈍感系エルフ娘キャトルには過ぎ足る考えか、

 身体は敏感な癖に、

 心は糠に釘。

 

 くそ!

 靴擦れした!

 

 そんな、失礼な考えに更けていると、キャトルと琥太郎は、

 少し拓けた場所に出た。

 

 キャトルは、歩みを止め、辺りを窺う。

 それに釣られて歩みを止めれた琥太郎。やっと、休憩できると、肩から息をつく。

 それでも謎の強がりで、

 

 

 「なんだ、キャトル。休憩か。俺たちに休んでる暇、等ないぞ。」

 「いや・・・ココ。目的地なんだけど・・・」

 

 

 しまったと思い、気を抜いて尻餅をついた琥太郎。

 ニヤニヤとその様子で見るキャトル。

 

 やはり、気づかれてたか!

 

 帰ったら覚えておけよ、キャトル!

 

 耳よりも敏感な所を責め立ててやる!

 

 琥太郎のちっぽけな欲望なぞ、どこ吹く風のキャトル。

 

 

 二人の前には、

 拓けた丘の真ん中に、最近立てられたであろう小さなお墓があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「八尺様と・・・」

 

 

 ヨミの舘へと招かれたアスビーは、ヨミブレンドのコーヒーと菓子に舌つづみをうっていた。

 

 使用人を雇うと、自らが怠けてしまうと考えるアスビーは、

 炊事、洗濯などの家事は、自ら行っていた。

 最も魔法を使ってだが。

 

 しかし、魔法でもどうにもならないのが、このコーヒーという飲み物だ。

 

 素材ひとつ、淹れ方ひとつで、味がガラリと変わってしまうこの、飲み物は。

 中々、難しい。

 いまの自分の舌に合う味を求めて、やっと最近は、妥協ラインの味を淹れることが出来るようになったが、

 

 

 昔から私の味覚を知るものには到底及ばぬか。

 

 ヨミのコーヒーはアスビー好みの絶品である。

 菓子もヨミの手作りで、どこか懐かしい味がする。

 

 

 ふむ。

 今後はもっと、ヨミを屋敷に招くとしよう。

 

 そんな、考えをして、菓子をすすめるアスビー。

 舘の主は、アスビーのそんな気持ちを察している。

 

 

 「美味しそうでなによりやわぁ。作るモノを、美味しく頂く者があり。それを見ると作り手も実に嬉しいことやなぁ。アスビーが、うちをティータイムに御呼びしてくれたら、何時でも喜んで伺うのになぁ。」


 「うむ。では、明日にでも来るがいい。」

 

 

 食欲には、忠実なアスビーに、眼を丸くするヨミ。

 

 嬉しそうに笑うと、

 ほな、そうさせてもらうわぁ。

 とコーヒーを啜る。

 

 

 む? 別に私はティータイムを味わいに来たわけではないぞ。

 自らの気の緩みを引き締めるアスビー。

 

 

 「ヨミ。」


 「残念やけど、聞いたことなぃなぁ。」


 「そうか・・・」

 

 

 ヨミは、高名な占師である。

 彼女には様々な国からの客も多く、全財産をはたいてでも、彼女に占って貰おうとするものまでいる。

 

 

 そんな、彼女の趣味も、アスビー同様に。

 異世界からの怪奇譚である。

 

 

 先述の様な、一世一代の想いを引っ提げて来た客には、

 お代の代わりに怪奇を1つ。

 

 と、話を求めるのもしばしばなのだ。

 そんな、彼女の元には、諸国の様々な怪奇譚が揃う。

 

 アスビーにしても、召喚した者から得た噺をヨミと語らうのが、ライフワークの1つである。

 

 

 しかし、ヨミも知らぬとなると、困ったものだ・・・

 

 いっそ、もう一度家族に話を聞いてみようか?

 

 それは、あまりにも酷な事だと。わかってはいるが

 仕方がない。

 

 

 アスビーは、そうか。と一言、言うと立ち上がる。

 

 

 「馳走になったな。」

 

 

 ゆっくりもしてられない、

 領民もこの怪事件に怯えている。

 

 そんな、アスビーの様子を観ていたヨミは口を開く。

 

 

 「似たような噺なら聞いたことあるえ。」


 「なに?」


 「最も、あまり気味の良い噺やないけどなぁ。」


 「本当か。ヨミ、それでも良い。話してくれ。」


 「まぁまぁ、焦らんと。座り。怪奇は逃げてかへんで。

 求めるものには、向こうから

 深い深い漆黒の口を、あんぐり開けて。贄を求めてやってくるんやからな。」

 

 ヨミの言葉を聞き、

 腰を下ろすアスビー。

 


 「ほな、はじめよか。『五尺様』の噺を。」


 「む? 五尺? 尺とは、異世界の長さの寸法であったな。」


 「そうやぇ。尺貫法いうて、うちの居た世界で使われてた寸法や。一寸を約三センチ。十寸で一尺とするんや。アスビーの身長やと、だいたい六尺やね。」

 

 

 アスビーの身長は、172センチ。

 六尺だと、約180センチである。

 

 

 「八尺の女か・・・私もだいぶ大柄だが。」

 

 

 たしかに、その大きさは異質である。

 巨人族と人間のハーフであるのか?

 いや、ヨミや、琥太郎の世界にも巨人族など居ないと聞く・・・

 

 「しかし・・・八尺も、五尺も似たようなものではないか。

 なぜ黙っていた。」

 

 

 少しムスッとするアスビー。

 そんな様子を笑いながらヨミは

 

 

 「囃は、焦って聞くもんやない。噺には、特別な言葉が、よー使われとるんやで。

 そんな言葉を鵜呑みに聞いっとたら危ないで。」

 

 

 ヨミが怪しく眼を光らせる、

 アスビーの背に緊張が走る。

 

 ぐぅの音も出ぬとは、このことか、

 

 自分もまだまだ聞き手として未熟だ。

 

 心を戒め、身をいれて。

 

 

 アスビーの聞く姿勢が変わったのを感じ取ったヨミは噺をすすめる。

 

 

 『五尺様』

 

 

 

 ある、異国の男が語った噺。

 

 

 男は、諸国を行来する商人である。

 とある、寂れた村を訪れた際に、男は、村の不可解な事に気づく。

 

 昼間だと言うのに、子供がいない。

 確かに、家の中からは子供の遊ぶ声が聞こえるが、

 良い天気だと、いうのに外に出る子が一人もいないのはおかしい。

 

 男はそれが気になり、村の者に訊ねた。

 

 『なぜ、この村には、外で遊ぶ子がいないのだ?』

 

 村の者は、目を伏せ辺りを窺い、ゆっくりと語りだした。

 

 

 

 昔、この村には、子を拐う女がいた。

 

 日中、子を遊ばせて農作業をしていると、

 子が突然姿を消した。

 

 そして、数日後に、山で死体となって見つかると。

 

 そんな事が何件も起きて、

 村では、騎士を呼び調査を頼んだそうだ。

 

 騎士は、自らに魔法をかけ、子供となり女を待った。

 程なくして、騎士の前に真っ白な服の巨大な女が、現れた。

 

 美しい女だか、オカシイ。

 その眼と、口は真っ黒に塗りつぶされていた。

 恐れた、騎士は直ぐに魔法を解き、その身体を両断した。

 女は凄絶な断末魔と共に姿を消した。

 

 

 その後。

 騎士は報酬を貰うと、帰り路に着いた。

 

 騎士が、独り歩いていると、

 後方から何やら引き摺る音が着いてくる。

 ズルッ、ズルッ、ズルッ、ペタッ。

 

 ズルッ、ズルッ、ズルッ、ペタッ。

 

 

 男が何事かと後ろを振り返ると。

 

 そこには、先程斬った女が。

 

 女は、巨大な上半身だけを腕で支え、這い寄ってくる。

 その眼は、赤く塗りつぶされ、真っ黒な口からは、騎士への憎しみと怒りが。

 

 騎士は、悲鳴を揚げ、剣を取ったが、

 巨大な女は、その剣をへし折り、男を真っ二つに引き裂いてしまった。

 

 

 翌朝、行商人の男が、真っ二つの騎士の死体を見つける。

 その側には、引き摺られた血の跡が、山の方まで続いていた。

 

 

 女の怒りを恐れた村民は、女のために山に祠をたて、供養した。

 

 女は、巨大な上半身を引きずり今も山の中を這いずっている。

 その半身は、五尺もの巨大なものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨミが、話し終わる。

 アスビーは、眉を潜めた。

 

 

 「その、女は元々、琥太郎の世界の怪奇だったのであろう。

 何者かが、その怪奇をこちらに召喚し、放った。」


 「まぁ、そんなところやろな。」

 

 

 アスビーはコーヒーを飲み干した。

 

 

 「行くんかえ?」


 「ああ。」


 「どこにぃ?」


 「山だ。確証は無いが、きっと祠か、それに似たものがある。

 この、怪奇・・・」


 「そやな、誰か持ち込んだものかもしれん。」

 

 

 アスビーは、席を立つと、チラリと、ヨミを見る。

 

 その視線を受けヨミは、妖しく笑み、腰をあげる。

 アスビーはそれを確認すると早足で部屋を出ようとする。

 

 

 「ちょい、待ちいや。」


 「なんだ? 付いてくるのだろう?」


 「せやから待ちい。ちょっと視るから。」

 

 

 そういうと、ヨミは眼を閉じ何かを唱えた。

 

 ヨミの髪が逆立ち、髪の色が金色へと変わり、金色の尻尾が生える。

 彼女が力を使う時、彼女は本来の姿へ戻る。

 

 

 「見えたえ。」

 

 

 元の黒髪へと戻り、尻尾も引っ込む。

 そして、ヨミは、コーヒーを挽きだす。

 その様子に唖然とする、アスビー。

 

 

 「おい、何が見えたのだ。着いてこぬなら、私一人で、行くぞ。」


 「まぁまぁ、そう焦らんで。たまには、ゆっくり腰を落ち着かせてもええんやで。」


 「なに?」


 ヨ「せっかく、従者が頑張ってるんやもん。それを主が無下に扱ったらアカンで。」

 

 

 アスビーには、イマイチ何の事だかわからないが、

 ヨミの占いは決してハズレない。

 

 渋々と言った風で、腰を下ろす。

 

 

 ヨミは、そんなアスビーに淹れたてのコーヒーを振る舞うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨミは、狐です。

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