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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
29/70

「下駄の音」

大分遅れてすいません。

スランプと引っ越しなどのゴタゴタが重なり・・・と言い訳を残し、また投稿していきます。


「下駄の音」

 

 

 

 

 

 



 

 軽やかに地を踏みしめる音が奏でられる。

 足音で人となりがわかるというが、控えめで軽く鳴る音は、謹み深い女性だろうか。

 檻の中の野性動物。古郷を求めて動き回る


 カラン、コロン。

 カラン、コロン・・・

 

 カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン・・・

 

 「うるせぇ・・・」

 

 病的なほど細い身体の少女が悪態をつく。

 息をひそめ、静かに夜が更けるのを待っているというのに。

 鮮やかや灯篭を持つ骸骨は、頻りに"抑え"を逃れようと動き回る。

 

 頭のおかしい女の御守りなんて、うんざりだ。

 

 「新三郎があの少年にね。」


 「ああ、あの小僧。

 確かに殺したはずなのに!」


 「貴様の勘違いだろう?」


 「殺すぞ。」


 「やってみろ、ボーンガール。」

 

 毎回、この女は癪に障る。

 

 「二人とも、気づかれる。」

 

 この男も、癪に障る。

 この二人が癪に障る。

 あの森が、

 街の光が、

 虫が、動物が、魔物が、人が、

 癪に障る。

 だから、壊す。

 壊して、壊して、壊して。

 全てが無くなり、日が暮れて

 闇が包むと、やっと気が済む。

 

 「昨晩で、"十分録れた"。

 後始末だけしてこい。」

 

 つかみ所のない男。

 霧の中に手を突っ込むのも面倒くさい。

 ただ、自分の慾望に忠実に。

 

 私は破壊者で復讐者で"悪道輪廻"の根源。

 

 少女は、下駄の音が"抑え"の外へ出ていくのを聞き流す。

 ゆっくり腰をあげ、夜の訪れを感じる。

 

 「日和の良い夜ですこと。」

 

 下駄の音と共に少女は、暗い森へ解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けたたましい足音と共にヨミは目を覚ます。

 隣には、先程までいじくり遊んだ少女がスースーと胸を動かし眠りについている。

 部屋の外からは、騎士たちの足音、足音。

 人が寝てるのに騒がしいやつらやなぁ。

 不機嫌にも上体を起こすと、

 窓から外を眺める青い髪の青年が見えた。

 ソワソワと音が聞こえるように、足をしきりに動かし、

 

 「おはよう、玖礼。向こうは済んだんやな。」

 

 玖礼は、目線を外に向けたまま、ああと気のない返事をする。

 

 はぶかれたか。

 玖礼は確かに邪魔やな。どんな作戦を行うにしろ。コブラがからむ以上、刀なんて振り回したところで何ともならない。

 コブラの作戦のピースには当てはまらん。

 よくて、呪殺死体

 普通に原型留めない粉々死体といったところか。

 

 「みーんな不機嫌さんやなぁ。

 ぴりぴり、帯電しすぎやろ。」

 

 軽口を飛ばすも、啼かず飛ばず。

 艶やかな黒い髪をいじりながら、はてどんな飴で鞭打とうか、考えている。

 魔力も随分戻ってきた。

 開幕には間に合わないかも知れぬが、ウチ級の怪奇・吉美と歴戦のソルジャー・コブラが対峙するなら、よくも悪くも素直に決着がついてくれるとも思えない。

 

 「ちと、こっち来いやぁ。」

 

 面に笑顔を貼り玖礼に呼び掛ける。

 知識のない幼い男、豪放に見えて優しい男。

 でもバカじゃない男。

 頭ではだいたいわかっているんやろ?

 

 なぜ、ヨミはここまで玖礼に肩入れするのか、自身でもよくわからない。

 腕がたち見てくれもまあまあ。つつくと程よく崩れる危なさも良い。

 そんな理屈を自分の中でかき集めヨミは、玖礼を選び続ける。

 

 玖礼は外を眺めるのは変えず、足だけこちらにソロソロ動かし少しづつ寄ってくる。

 子供かいな。眉をヒクヒクさせ声に出すのを抑え、蟹歩きを観察している。1歩、1歩、1歩・・・

 歩き出した我が子をみるようだ。

 

 玖礼が観念し窓から離れ、ベッド脇に座り込む。

 

 「なんじゃ?」

 

 笑みを絶さぬヨミの顔をみて、いじらしく思うのであろう。

 

 「1つだけ頼んでええか?」

 

 笑顔の仮面を外し、切れ長の目で玖礼を見つめる。

 しなやかな手運びで、玖礼の顎を撫でる。

 流れで顎に手を添えこちらに促すと、玖礼はつられて顔を寄せる。

 

 「吸わせろ。」


 耳元で囁いた言葉に目を白黒させる玖礼の顔を両手で包み変化する。

 金色の髪に隠れヨミの顔が見えない。

 何をするつもりか。聞くのも無粋というものだろ・・・

 吐息を感じる。血色の良い唇に目がいく。

 吸い込まれるような感覚。身体の力が抜けていく・・・

 ん?

 支えをなくしたかのように膝から崩れ落ちる玖礼。

 変化を解き、口許を拭い、舌をチロリと出すヨミ。

 

 「ごちそさん。」


 「・・・なんじゃと」


 「充電完了や。」


 「・・・。」

 

 

 心なしか先程よりも艶のある髪をいじりながら、そう言葉を落とされる。 

 玖礼は合点がいった。

 気だるい、視界に靄がかかってるようで、

 魔力が吸われたんだ。

 どう反応を返せばいいのか、口と目をパクパクパチパチ動かす玖礼。

 朗らかにいつもの袋からティーセットを取り出すヨミ。

 

 「これで、クソヘビに1発かませるわぁ。あんがとなぁ。」

 

 お前もいるか?

 と、差し出されたカップ。

 わずか75㎝ほども、手が上がらない。

 流石大妖怪。生命維持ギリギリのラインを綺麗に吸い付くしてきた。

 ごめんなぁ。

 赤子をあやすように頭を撫でられ、恨みがましく必死に意識を向ける。

 

 「・・・ワシはどないすんのじゃ?」


 「根性で這ってきい。男の子やろ?」


 「そういうと・・・思ったわ・・・」

 

 何を言っても、すでに無駄なこと。

 役目を終えたオス蜘蛛のような、心持ちで受けとめる。

 しかし、とって喰わいはしないメス蜘蛛。

 ならば、ここからどうやって屋敷まで這っていくか考えねば。

 玖礼がもう少し器用な者であれば、そこらを駆け回る騎士の誰かから魔力を分けてもらうことも可能であるが、這ってこいと言われた以上。意固地に這ってったるわとしか、考えられない素直な玖礼。

 しおらしさの欠片もないヨミを尻目にズリズリと床を這う。

 

 「ほれほれ、がんばりやぁ。うちは一服したら行くさかい。」


 「・・・ジャイアントタートルとラピードラピッドの噺知っとるか?」


 「のろまな亀さんを見下したウサギがかけっこに負けるっちゅうやつやろ・・・ほなら。」


 「・・・? ・・・ぐぇ!」


 「うさぎは亀さんに、乗ればええんやないか?」

 

 のろまな玖礼さんの、背中にのしっと乗るヨミ。

 腕どころか、全身を震わせ理不尽な女に歯向かおうとするが・・・

 到底無理なので、黙って這い進む。

 

 「・・・あとで・・・覚えとれ!」


 「ほら、ダッシュダッシュ。」

 

 遠くで大きな音、遅れて振動が騎士詰所を揺らす。

 騎士たちは方面の空を見て騒ぎ出すが、

 ヨミは優雅にカップを傾けながら横目で、始まりの狼煙を見る。

  

 「ほら、汚い花火が始まったで。粋の欠片もないやんなぁ。」


 「うごぅ・・・うぬぬぬぬぬ!」

 

 ヨミを乗せた"玖礼号"は、奇特な目で見る騎士たちを何処吹く風に廊下を、猛スピードで這いずりだす。

 

 「ほれほれ、もっと早くせぃ。」


 「ぐおぅぅ!」

 

 叱咤を飛ばす騎手に呼応して、意地と根性を燃料に駆け出す玖礼。


 

 玖礼号よ急げ 闇に間に合い走れ。

 玖礼号よ急げ 空をかけて走れ。

 

 「へばるな。」


 「ぎゃおん!」

 

 何処から取り出したかの、馬用の鞭で玖礼号の尻を叩き、恍惚な笑みを浮かべるヨミと、苦悶の四足歩行列車(仮)・玖礼を街の人々の生暖かい目、時おり凍りつく乙女たちの悲鳴を他所に、

 屋敷へと全速力で発進した。








色々と浮気性の春ウララは、劇作も書き出しました。

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