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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
28/70

「1度死んでみると」

急用で里帰りをしていました。


今日からまた、隔日であげていきます。

「1度死んでみると」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽射しが斜めから差しこみ、

 光は赤みに染まりだし、

 山あいに沈む。

 

 「まぁ、こんなもんだろ。」

 

 大きなスコップを置き、泥だらけの手袋を脱いで、屋敷の扉に背を預けタバコに火を灯す。

 

 「コブラ、中も設置完了だ。」


 「ごくろーさん。」

 

 俺と玖礼も、同じく"下準備"が終了したことを、報告しに外へ出てきた。

 

 「アスビーは?」

 

 コブラは、外門を指差す。

 一仕事終えた俺たちを、腕を組み仏教面にも華がある主が、

 欠伸をかき、地べたに腰かけるキャトルを、伴いこちらの、様子を窺う。


 「迎えに行ってくる。」

 

 俺が、1歩庭へと足を踏み出そうとすると、

 

 「そこアウト、こっちだ。」

 

 コブラが、タバコを加えて俺に手招きする。

 

 どれだけ仕掛けたのか。

 

 コブラの後をジグザグに歩く。

 素人目では、何の代わりもない庭の地面。

 

 普段の3倍以上の距離を経て門へとたどり着く。

 

 「お待たせしました、領主さん。

 俺から離れるなよ。」


 「ふむ、御苦労。」


 「何か怖いね・・・」

 

 

 門を開き、コブラが歩く道へと足を伸ばすアスビーにたいして、

 キャトルは、その1歩にどぎまぎする。

 コブラは、引き返しキャトルに手を差し出す。

 

 「嬢ちゃん、エスコートするぜ。」


 「あ、どうも。」

 

 

 コブラに手を引かれおそるおそる足が地面を捉える。

 それを、見て俺は先程歩いた道のりを思い出しながらアスビーを連れ足を運ぶ。

 

 「ふむ、しかし全く見分けがつかんな。」

 

 俺の後ろをサクサクと、歩くアスビー。

 

 「よーく見ると、変な出っ張りが出でるだろう? あれを踏んだら最後、

 足をあげたと同時にドカンってわけさ。」

 

 慣れればわかると、アスビーに振り向き余裕たっぷりに、エスコートしますと、手を差し出す。

 アスビーが、その手を掴もうとしたとき。

 

 「坊主、それはフェイクだ。」

 

 俺が足を止める。

 アスビーは、俺を見る。

 その瞳はとても冷たく、氷の刃のように、俺の心を切り裂き、

 出しかけた手を引っ込める。

 

 「本物のプロは、そんなわかりやすい目印残すわけないだろう。」

 

 ケラケラと笑うコブラの指示に従い、足を進めるアスビー。

 

 「減点だな、琥太郎。」


 「くっ!」

 

 口を押さえて笑いをこらえるキャトルと、ウィンクするコブラに

 くっ! 殺せ!

 と、叫び出したい気持ちを押さえて。

 無事に屋敷の中に入った。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この部屋は安全なんだな? 」


 「はい、間違えなく。」


 「本当か?」


 「・・・はい。サー。」

 

 先程から、疑心暗鬼な眼で俺をなじるアスビーに、力なく答える。

 

 「この部屋だけは安全だ。」


 「ふむ、ならばよいがな。」

 

 コブラは、キャトルと玖礼を引き連れて外で待機。

 術式が施された部屋にて、アスビーと俺の、二人で"お露"を待ち受けるのだが・・・

 

 吸殻の数だけが増えていく。

 主とのささやかな二人の時間。

 俺はこの時間が何より心地よく。

 主もそうであるはずである。


ただ過ごす時間ならば。

爆薬が仕掛け尽くされた屋敷の一室で、怪奇を待ち受けるという今の状況でなければ。

 

 互いに吐き出す煙は部屋に篭り、

 交わることなく宙に浮く。

 

 「新三郎が羨ましい。」

 

緊張と静寂を嫌い、

 ボソッと呟いた言葉にアスビーが眉根を上げて興味を示す。

 タバコをふかして煙を目で追う。

 

 「どういう意味だ?」


 「・・・死ぬまで愛に焦がれた男。

 カッコいいだろ?」


 「そうか?」

 

 胸に熱がこもる。

 木枯らしに、吹かれれば消えそうな灯火。

 奥に小さく、儚く燃えるのをしっかりと、感じる。

 胸を押さえて。その、灯火を感じる。

 

 「大丈夫か?」

 

 胸を押さえた俺を、

 金色の瞳が、のぞきこむ。

 

 「文字どおり、胸騒ぎがする。」


 「・・・愚か者だよ。」


 「え?」

 

 アスビーは、俺の胸に手をあて、対するように、座り込む。

 

 「あの・・・」


 「静かに・・・」


 艶やかな紅色の髪が近づく。

 瞳を閉じ、切れ長の眉、鼻、そして、赤い唇。

 

 思わず目を閉じてしまう。

 

 その赤が顔に向かうのではなく、俺の胸に落ちる。

 

 細い指がくすぐったい、ウェーブかかった紅い髪からとても、いい香りがし、鼻をすすりたくなるが、止める。

 耳を、胸にあて目を閉じ、そのうちから聞こえる鼓動に意識を傾けている。

 

 生殺しだよ、主・・・

 手は、引っこみつかず、宙をつかむ。

 俺の心臓が高鳴る。

 聞こえませんように祈るが、無理だろう。

 それに気づいたのか、アスビーは

 薄く笑い、香りが離れる。

 

 

 「微かにだが、感じるな。」


 「そういう気分になったのか、奇遇だな、俺もだ。」


 「新三郎の気配だよ、誰かの心臓がうるさかったから感じずらかったけどな。」

 

 からかうように、笑い立ち上がる。

 

 「質が悪いぞ、主。」


 「何のことだ?」

 

 確信犯め。

 双眸を猫のように細め、鼻を鳴らす。

 

 「力強くて、いい音だった、それに案外鍛えているのだな。」


 「もっと、聞いてもいいんだぜ。幸い時間はたっぷりある。」

 

 

 シャツをはだけさせる。

 

 アスビーの髪に逆立ち、パリパリと静電気の音が聞こえ、

 両手を上げて降伏し、服を正す。

 

 「情念に焦がれるのが、カッコいいか・・・」

 

 情けなく、降伏する俺を見下ろしながら、

  

 「こんな姿も可愛いと、思ってくれる優しさがあればな。」


 「愉快で、惨めだな。」


 「掠りもしないか。」

 

 新しいタバコを取りだし、寝転がる。

 

 「安心したか?」


 「ん?」


 「戻ってこれて。」


 「ああ・・・」

 

 気づけば、胸の灯火も落ち着き、

 心地よく天井を見上げ煙を燻らせる俺。

 腕を組み、タバコを吸う主。

 

 新三郎、

 協力してほしい。

 

 お前も、お露も

 アスビーたちも。

 みんな、上手くいく。

 もうだれも死なないように・・・

 

 胸の熱は応えるかのように温度をあげた気がする。

 愛する者に出会うため。

 もう一度チャンスを掴んだ俺たちが。

 

 この物語をハッピーエンドにしてやろうじゃないか。

 

 

 「ありがとう。」


 「・・・ふむ。」


 「コーヒー淹れてくるよ。」


 「私も行こう、今度はしっかり頼むぞ、ナイト。」


 「問題ない、こちらへ御嬢様。」

 

 夜は長い。

 気高き御姫様シンデレラの手を引いて、

 鐘が鳴るのを待つ・・・

 飛びっきり花火と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し肌寒い。

 

 「ほら、嬢ちゃん。」

 

 庭を見渡せる小高い森の中。

 アタシと、コブラが拠点を構える。

 いつの間にか起こした焚き火で熱せられた温かいコーヒーをくれる。

 

 「甘い。」


 「そっちのが好みだろ?」

 

 タップリとミルクと砂糖の入ったコーヒーを啜り、

 もしかして、お母さんと一緒なのか?と思う。

 前に、お母さんとの含みあるエピソードがあると言っていたな・・・

 

 「変に勘繰るなよ、嬢ちゃん。シャールとは何もしてないよ。ほんとだよ。」


 「お母さんの事とは言ってないけど。」


 「おっと、失敬。」

 

 相変わらずケラケラする男は、憎き煙製造器を加えて、

 狙撃用?の銃を準備している。

 何かよくわからない機械で、

 距離や風などを測っているらしい。

 

 「何でアタシだけ、残したのさ。」


 「あのなんちゃってサムライじゃ、庭に突っ込んで、仕掛けをハチャメチャ。敵さん諸とも木端微塵だろ。

 最強の殺し屋種族"エルフ"の娘さんの方が俺好み何でな。」

 

 ウィンクするコブラを無視して、コーヒーを啜る。

 

 理に叶ってて安全だ。

 敵は爆発に驚き慌て、空から降る弾丸と矢で仕留める。

 

 相手が相手だ。

 強力な呪法を持つ化物だ。

 

 こんな影うち見たいな、やり方嫌いだけど。

 

 種族柄得意分野である。

 

 森に迷える者が最も恐れるものは、魔獣でも、道がわからないこと、でもない。

 その、森に住み処するエルフが"良心的かどうか?"だ。

 

 今なお、亜人と人間が争う地域は山ほどある。

 どちらかと言えば"エルフを娶った"グラセニア国王や、

 アスビーのような"亜人好き"は珍しい。

 

 人間は自分達よりも優れた力を持つ"私たち"に恐怖し、牙をむく。

 

 お国柄はあるが。

 そういう人間はこの国にも少なくない。

 特に、

 美しく、永く衰えない美貌を持つエルフ族には・・・

 

 騎士を目指す途上、そういう人間たちに出会い、悔しい想いをした。

 

 「納得頂けたかな嬢ちゃん。」

 

 ボンヤリしていたあたしの顔をのぞきこむ男。

 

 「煙たい。」


 「日暮れまで、まだ時間はある。

 少し休もうか?」

 

 あたしの、肩を優しく掴む男。

 口許は笑みを抱えたまま、

 情欲に染まる男の眼は、実に醜い。

 

 「結構です、そんな理由でアタシと組んだのなら見当違いね。」

 

 あたしが睨むと、コブラは

 その、反応がわかっていたかのように、手をどかす。

 

 「言い慣れてるな。訓練騎士時代は随分苦労しただろ?

 俺の隊では、そんな命知らずいなかったけどな。

 問答無用で切り落としてやったからな。」


 「あっそ。」


 「本気じゃないさ。警戒しないでくれよ。相棒。」


 「それも、それでムカつくよ。」

 

 機嫌を損ねた女性をどう宥めようか。

 コブラは肩をすくめ、アタシの隣に腰かける。

 

 「オッサンも必死なんだよ、美しい令嬢がいると声かけるのも癖みたいなもんさ。」


 「・・・」


 「・・・バラクにも頼まれてな。大切な娘を護ってくれって。」


 「・・・お父さん?」


 「勿論断ったさ。」


 「なんで?」


 「護る必要ないだろ。ここじゃあ、キャトル。

 お前の方が俺より1枚やり手だ。」


 「・・・」


 「 まあ、それも、最初の5秒くらいかな。」

 

 へらへらする男からは並々たる自信と、それを嘘とは思わせない力がある。

 負けたくない。

 

 けど、事実そうなるだろう。

 

 「フクロウに食べられればいいのに。」

 

 怨み言にも、笑いを絶えず

 ほんとにムカつく男。

 コーヒーが空になり、無言で突き出したカップ。

 

 

 「淹れてくるよ。」


 「コブラさん。」

 

 

 風がでてきた。

 開きかけた口を塞ぐように、風が

 キャトルに吹く。

 

 アスビー。

 琥太郎。

 

 お父さんたち。

 

 琥太郎は確かに1度死んだ。

 プリエルカ様を護るため命がけで。

 吉美と名乗るあの化物に殺された。

 騎士たちもヨミがいなければ死んでいたのかもしれない。

 今度はたったの4人で・・・

 あれと対峙しなければならない。

 

 

 ・・・

 あ、あ、ああ。

 そうか、あたし。

 

 怖いんだ。

 

 身体の熱が一気に引くのがわかる。

 日が暮れて、風が吹いて

 寒さによるものだと、身体の震えを押さえていたが、

 

 違う。怖い。

 怖いんだよ。

 

 自覚してしまった。

 恐怖を。

 畏れを。

 死の感覚を・・・

 

 

 寒い、寒い、寒い。

 目の前が暗くなって、

 

 「ほれ。」


 「ひゃん!」

 

  突然、両耳を正面から鷲掴まれ、声が漏れる。

 

 「おー、坊主のいう通りだ。

 耳が弱いんだな。」


 「あ、あ、へ、へ・・・」

 

 形をなぞるように、指を動かし

 ホーホーと結果を視る不埒者の顔を睨み付け、

 

 「変態!!! ウィンドブレス!」

 

 怒りの突風は、コブラを吹き飛ばす。

 風にのって宙に浮きながら、体勢を取りなしコブラは綺麗に着地する。

 

 きっとこの男は、ビクつくあたしをリラックスさせるためとか、何とか言い訳するだろうが、

 

 とりあえずその方法を教えた琥太郎は

 今日、死ななければ、

アタシが明日殺す。

 

 弓を構えると、コブラは両手を上げて、ニコニコ顔でキャトルを見る。

 

 手も震えず、しっかりと急所を狙う弓が下ろされるまで、しばらくかかった。

 

 

 

 

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