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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
27/70

「死期」

「死期」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえる。

 

 

 「一人で済んでよかったな。」

 「お兄さん! お兄さん! お兄さん!」


 

 ああ、胸が痛い。

 気がする。

 

 太蛇の、熱い包容のせいで、肉体を構成する骨も、筋も神経がズタズタだろう。

 

 

 それでも、この心臓を叩く痛みは何だろう?

 

 細い指だ。

 その指を合わせて、力強く

 胸を押す。

 動くのを止めて、数分は、経つだろうか。

 

 止まる前の鼓動を、取り戻そうと

 指が、拳が、腕が。

 

 

 「もう遅い。」


 「・・・・・・クソ。」


 指が離れる、

 心地のいい熱、

 鈴の音の声。

 

 ああ、主すまない。

 








 

 

 「お露・・・」 

 

 聞いたことない青年の声が耳に届く。

 

 目の前に見知らぬ手。

 

 声の主、

 男は両手を合わせ金色の如来像に祈る。

 

 「そなたに、もう会えない。

 会えない、会えないんだ。許してくれお露。

 許してくれ。」


 「新三郎様・・・」


 外から、か細い女の声。

 新三郎は、なお一層目をつむり、如来に念仏を唱える。

 

 いつしか、夜が明け、新三郎はやっと眠りにつく。

 

 そんな日を繰り返しを俺は見ている。

 

 

 「旦那様、湯でも浴びに行ってくだされ。そんななりではどちらが亡霊かもわかりません。」

 

 

 伴蔵に促され、湯を浴びに、

 

 

 「待て! 新三郎ダメだ・・・」

 

 

 この先の結末はわかっている。

 あの美しい骸骨に、

 死の包容をうけることになる。

 

 手を伸ばそうにも、

 今の琥太郎には腕がない。

 

 ただ、視界だけが浮いている。

 

 このお話の傍観者として、

 

 新三郎には声が届かない。

 それは、そうだ。

 俺はこの話の登場人物じゃない。

 

 ただ、見てるだけ。

 誰が見せてるのか・・・

 

 

 いつの間にか映像が途切れ、

 目の前に青白い炎を纏う骸骨が浮かんでいる。

 琥太郎の身体が"生前のまま"具現化する。

 指がある。

 

 足もついてる。

 

 でも、ここは・・・


 目の前の骸骨は、ただこちらを

 瞳のないポッカリ開いた穴が見つめる。

 

  

 「新三郎か?」

 

 

 何となく、そう思う。

 骸骨は、口許をカタカタならし俺に応えるかの、ようだ。

 

 

 「何故? 俺に見せる・・・俺は・・・」


 

 死んだ。

 死人に口無し。

 聞いていた、死後の世界とはずいぶん違うんだな。

 

 何もない。

 一面の闇。

 もしこのまま、この空間に留まり続けると考えるとゾッとする。

 いっそのこと、天使でも小鬼でもいいから

 俺を三途の川に案内してほしい。

 

 

 「新三郎、お前はわかっていたのか?」

 

 伴蔵の企みを。

 話せぬ人間、もとい骸骨に話しかけ

 時間を潰すのも悪くない。

 一人じゃないだけ、いくぶん心が楽になる。

 

 

 「わかってた上で、お露を招き入れたのか?」

 

 

 骸骨は、物言わぬ。

 

 

 「沈黙は、肯定と。」

 

 

 愛する者に会うため

 お露も新三郎も

 命を燃やして、会瀬を行う。

 

 俺の灯火は、

 アスビーに会いに行けるかな?

    

 

 突然、新三郎が、カタカタ揺れる。青い炎が燃え上がり、俺の胸に飛び込んでくる。

 

 俺の身体が青い炎で燃えあがる。

 しかし暑さも、衝突の痛みも感じない。

 

 

 「お露に会いたい。」

 

 

 頭の中で声が響き、

 

 俺の身体は炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、見慣れた天井。

 

 ベッド、

 俺のベッドだ。

 

 身体を起こそうとすると、節々が痛む。

 

 寝てたのか・・・生きてたのか?


 

 右手を胸に当てる。

 

 指が綺麗に5本揃っている。 

 足も!

 

 

 「んっ・・・」

 

 

 左手を誰かが握ってる。

 

 

 見慣れた銀色の髪の少女。

 

 気持ち良さそうに俺の身体にもたれ、

 キャトルは俺の左手を握ったまま眠っているようだ。

 

 握られた手を優しく、起こさないようにほどき、

 立ち上がる。


 

 

 きちんと、両足で立ち上がる。

 

 服は誰かが着替えさせてくれたらしい。

 白いシャツとハーフパンツ。

 

 

 左手には冷めぬ熱がこもっている。

 

 ずっと握っててくれたのだろうか。

 

 

 「ありがとう・・・キャトル。」

 

 

 キャトルの髪を優しく撫でてやると、身じろぎして寝返りをうつ。

 

 

 そっと足音を殺して、部屋を出る。

 

 静かだ、

 頭にまだ血が回っていないのかクラクラする。

 壁を伝って俺は執務室へと歩みを進める。

 廊下の角を曲がると、

 目的の人は、壁にもたれ掛かりタバコを加えている。

 

 

 「アスビー。」

 

 

 渇いた口で名前を呼ぶと、

 アスビーは、タバコとマッチを俺に向け投げる。

 

 俺はそれを拾い、タバコを吸う。

 

 ふらふらする頭を抱えて、隣に腰かける。

 

 

 「プリエルカに感謝を。彼女がいなかったら、一生こうして、タバコを吸えなかったぞ。」


 「俺は・・・」


 「蘇生された。」


 「まさか・・・」

 

 

 煙を燻らせ、言葉を続ける。

 

 

 「秘術"リザレクション"

 死んだ者の傷と魂を戻し、蘇生する。究極の治癒術。

 数百年前に一人の魔法使いが、使い、以後素質ある血の者にだけ伝承される。秘術とされている。」

 

 切り落とされた足も手も、傷ひとつなく、元通り。

 にわかに信じ難い話だが、俺の身体はここにある。

 

 「プリエルカは?」


 「眠っている。

 覚えることも容易ではないが、使いこなすのも、また容易ではない。

 今のプリエルカでは、日に1度が限度。

 持てる魔力を使い果たし、眠りにつく。」


 「そうか・・・俺は。」

 

 

 今さらになって、身体が震える。

 死んだ。

 あの、太蛇の女に弄ばれ、締め上げられ殺された。

 

 そんな、俺の震えを治めるように、アスビーの優しい声。

 

 「琥太郎・・・今は休め。

 お前のおかげで、他に死者は出なかった。

 灯篭も怪奇も遠くへ行ってしまったよ・・・」

 

 嘘だ。

 わかる、お露がまだ近くにいるのが、

 新三郎が、会いたいと

 俺の中から言っている。

 

 そして、あの女も、お露と一緒に・・・

 

 「あの女、何だ?」

 

 異常な存在。

 素早く、獰猛で、攻撃的で、

 半獣の様な肉体。

 

 「"怪奇教・七怪奇 姦姦蛇螺かんかんだら吉美きび"と名乗っていた。」


 「七怪奇・・・以前、聞いたな。」


 「ああ、それも厄介な"怪奇教"の刺客のようだ。」

 

 アスビーが、こめかみを押さえる。

 よく見てみると、アスビーの目元には濃い隈が、出来ている。

 白く美しい肌もいつもより、白く。

 

 「アスビー・・・何を考えてる?」

 

 長いつきあいだ、もう半年以上になるだろうか。

 それに俺は常に主の顔色と姿ばかり見つめてる。

 疲れきった様子も、

 それだけ、何かに気を回しているのもわかる。

 アスビーは、俺の眼を見て、黙りこくる。

 その目は、動揺と慈愛を持つ。

 

 「お前は、休んでいろ。

 後は私たちに任せろ。」


 「アスビー。」

 

 アスビーの肩を力なく掴む。

 掴まれた手に重ねるように、手を合わせ、

 アスビーは、首をふる。

 

 「今は無茶をするな、大丈夫だ琥太郎。」


 「だからだよ、だから聞いてるんだ。」

 

 アスビーの言う通り、俺の心は、

 まだついてきてないのかも知れない。

 プリエルカのおかげで、蘇生した。

 1度死んで、生き返った。

 

 わかるわけがない。

 今は、

 

 ただ、俺や他の奴等を危険に晒してしまい、

 どうにか、敵討をとろうとする、アスビー。

 

 その助けになりたい。

 ただ、それだけが

 俺の恐怖や、死の実感に蓋をしているのかもしれない。

 アスビーを真っ直ぐ見つめる俺の瞳に、

 アスビーは、困惑する。

 

 どうすれば、

 俺は、ずいぶん酷いことをしているのかもしれない。

 死なせてしまった従者が、

 もう一度、死ぬかもしれない危険に晒してしまう。

 それでも、おれは!

 

 君の力になりたい。

 それしか、考えたくない、

 他のことを考えだしたら

 身体も、心も動かなくなりそうなんだ。

 

 俺の我が儘を押し付けて蓋をしないと。

 

 「新三郎に会ったんだ。」


 「・・・なに?」


 「俺が、眠っていた時、

 青白い炎に包まれた骸骨が話しかけてきた。

 俺に、お露との会瀬を。

 伴蔵が札を剥がすのをわかっていながら、お露に会いたい一心で、それに目をつぶったこと。

 そして。俺の胸に飛び込んで

 『お露に会いたい』

 そう言ったんだ。」

 

 俺は、真っ直ぐ

 疲れきったアスビーの瞳を見つめる。

 俺の言葉に嘘が無いことを判断すると、

 タバコを消し立ち上がろうとする。

 

 寝不足にタバコを吸ったせいか、アスビーの足が覚束ず、倒れそうになる。

 咄嗟に支えた、俺も

 頭がくらくらして、

 共に、廊下に倒れる。

 

 紅色の長い髪が頬をなぞる。

 胸のなかにおさまった華奢な身体。

 

 小刻みに震え、

 

 「ハハッ・・・失態だな。」


 「俺がいなかったら、危なかったな。」


 「調子に乗るな。」

 

 

 俺の頭を小突いて、立ち上がるアスビー。

 目をつむり、観念したように頬笑む。

 

 「私のそばを離れるな琥太郎。

 決して。決してな。」


 「ああ、支えさせてもらうよ。」

 

 俺はうまく笑えたかな?

 

 「アスビー! 琥太郎が! 琥太郎が、いないよ!」

 

 寝癖のついた、銀色の髪の少女が、

 俺を見つけると、勢いのままに胸に飛び込ん・・・体当たりする。

 

 「うぶっ!」

 

 衝撃を受け流す余裕もなく、俺は地面に頭を打ち付ける。

 

 「バカ! バカ琥太郎! 何で居なくなっちゃうの! 」

 

 倒れた俺に乗りかかり、涙ながらに俺を叩く優しい少女。

 あ、ちょっと痛い。

 苦しいです。

 

 あ、不味い、意識が・・・

 

 「キャトル、ほんとに居なくなってしまうぞ。」


 「えっ? ああ! 琥太郎大丈夫!?」

 

 アスビーが、こちらを見ながらキャトルを退かす。

 

 ぐらつく頭と意識のなか

 二人の"家族"のような存在が、俺を見守る。

 家を共にする異界の少女たち。

 

 眼から一筋の涙が流れた。

 生きてる・・・

 

 生きてる!

 

 

 俺は、にこやかに。

 力を抜き、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何や、生きとったんか?」


 「後遺症で、稲荷を作れなくなった。すまないな。」


 「生きる価値のない、ゴミは焼却せなあかんなぁ。」

 

 詰所のベッドで優雅にカップを傾けるヨミ。

 小言に無視を決め込んで、隣に、眠るプリエルカのベットの脇に立つ。


 命の恩人。

 自分の命を燃やして、救ってくれた小さな少女。

 

 

 健やかに、眠る姫様。

 胸を上下させ穏やかに。

 まだ未発達だが、そこにはしっかりと膨らみが・・・

 

 「ロリ小僧。」


 「見てないぞ、決して。」


 「誰が、見た言うたんや?」

 

 

 しまった。

 でも、仕方がないじゃないか、こういう癖は死んでも治らないものらしい。

 

 「ところで、お前は何してるんだ?」

 

 上体を起しベッドでコーヒーを啜るヨミは、どう考えても見舞い客には見えない。

 

 「久々にフル稼働したから、疲れたんや。」


 「"姦姦蛇螺"その、胴体を見たものは呪われて死ぬと言われてるらしいな。」

 

 呪われた巫女。

 村人に裏切られ

 祓うはずの、太蛇に喰われ

 憎しみと怨念で怪物と化した怪奇。

 その胴体を見たものは

 

 「いんや、一人一人丁寧に呪術かけてたで。

 そんな、おかしなこと出来るわけないやろ。」


 「着ぐるみの、中のオッサンを見たな。」

 

 オカルトだからな。

 現実は現実だ。

 

 「あんたは呪殺やなくて、絞殺やな。

 うちかて、古代中国で、王様を操って、宝具を持った連中にボコボコにされたとか、そんな奇天烈なことやっとらんわ。」


 「子供の夢を壊すなよ。」


 「知らんわ、勝手にあんたらが、作ったもんやろ。」

 

 切り上げ時か。

 眠るプリエルカに、感謝する。

 このお狐様との他愛ない掛け合いも君のお陰だ。

 

 「ありがとう、プリエルカ。」


 「ここは病人しかいらん。元気な死人は、さっさと働け。」


 「ははっ。」 


 コイツに安心感を覚えるなんて、疲れてるのかな。

 働くさ、

 主のために

 自分の命を救った人のために

 

 自分のために。

 

 「小僧。」

 

 詠むまでもなく、ヨミは

 俺の心を見透かすように口角をあげる。

 

 「新三郎と、仲良くせえよ。」


 「ああ、邪魔が入らないように頼んだよヨミ。」

 

 琥太郎が、景気の良い文句と共に去ると、

 プリエルカは、起き上がる。

 

 「寝たフリなんて、悪い女の子やなぁ。」


 「私の役目は・・・」


 「可愛い女の子は、お洒落なことでも考えてたらエエんやで。」


 「でも・・・」


 

 ヨミがプリエルカのベッド脇に腰かけ、その手を握り目を閉じる。

 

 プリエルカの心を"詠む"

 

 ヨミの占いは決して未来そのものを詠めるものではない。

 ただ、その者の心、過去、可能性を詠みとる。

 

 

 「軍医になりたい、王女プリエルカ。その才を遺憾なく発揮し、

 戦場の天使として国中で称賛されるであろう。」


 「ヨミさん・・・?」


 「その未来は・・・死。」


 「えっ・・・」


 「人の死。生物の生死をねじ曲げる禁ずべき術・・・」

 

 

 ぼんやりと見える予想図。

 少女の目の前には、数多の屍。

 大事な人の死。

 限界を超えた秘術は、少女の生命を使い果たし。

 

 「優しい心、生命を癒す術。

 持ち得る才と力は、やがて人の器では抱えきれなく・・・

 嬢ちゃん、」


 「私の未来・・・ですか。」

 

 ヨミが手を離し、

 少女は自分の手を見つめる。

 

 「うちの力やと、これが限度や。

 あかん、また頭がクラクラしてきたわぁ。」


 「大丈夫ですか、ヒール!」

 

 

 癒しの光がヨミの額へかざされる。

 暖かい、生命の流れ。

 プリエルカの手を、掴み

 

 「ありがとう、もう平気やで。」


 「はい・・・」


 「ああ、気にせんで・・・とは言えんな。

 優しい優しい、プリエルカ。

 自分の命より大事なモノなんてあらへんよ。

 あんたの命を護って散った人たちは、あんたが苦しむことを望まないよ。

 心にだけ留めておきぃ。」


 「・・・ありがとう・・・ございます。」

 

 

 複雑な表情のプリエルカの髪をワシャワシャと仔犬を撫でるように手を動かす。

 

 「シワ寄ってばかりやと、年取ったらしわくちゃ、おばちゃんになってまうで。」


 「わ! 止めてください!」


 「よーしよしよーし。」

 

 

 顔を真っ赤にして、可愛い抵抗をする少女。

 

 可愛い娘には笑顔と安らぎを。

 むさい男が、その為に命をはる。

 

 あの小僧がもっと、頑張ればうちの可愛い娘もなぁ・・・

 

 おっと、何を期待してるんやろ。

 

 

 「まぁ、ゆるりとうちと茶でも飲んでようやぁ。

 背伸びするのは、子供の特権やけど。

 ずっとやってたら疲れてまうやろ? ほれ! ワシャワシャ!」


 「わかりました!わかりましたから!」

 

  抵抗むなしく、ヨミに撫で回されるプリエルカの顔は年相応の可愛らしい少女の顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よ、不死身の坊主。死んだ感想は?」


 「コブラさん・・・」

 

 

 へらへらするコブラをキャトルが、諌める。

 

 「お前が持ち場を離れなければ、結果は違っていたしれんかもな、コブラ。」


 「領主さん、すまんね。

 ただ、そこんところ突っ込まれると俺は何も言えねえな。」


 「可能性の話だ、別にお前の責任を問う気はない。」

 

 俺の方をチラッとみるコブラ。

 詰所の一室に集まった俺たちは、

 今後の策を練るのだが、

 

 「ヨミも姫さんも、いない。騎士たちもダメ、また奴さんとやり合うとなるとなぁ。」


 「僕はまだ、やれます。」

 

 事故処理に動くバラクの代わりに同席するアレン。

 タバコを消し、コブラがやれやれと頭をあげる。

 

 「使えるのはこれで全員か?」


 「七怪奇の出現は、王都に報告しました。プリエルカ様の事は伏せて。

 3日もすれば応援が駆けつけるでしょう。」


 「3日ね・・・それまでもう来ないことを祈るか。」


 「それは、無理だろうな。

 おそらく、今夜中に現れる。」

 

 

 俺の言葉に目を見張るコブラ。

 そうだ、お露は来る。

 俺を、

 俺の中の新三郎に会いに。

 

 「報告した通りだ、何の経緯で琥太郎に新三郎が憑いたのかわからんが、お露と共にアレが現れるなら。戦闘は避けられんだろうな。」


 「坊主は、ずいぶん怪奇に好かれるんだな。」


 「ああ、幸か不幸かな。」

 

 アスビーがタバコを加え歩きだす。

 

 「私はもう一度封印の準備をする。

 お露だけ、琥太郎につられて現れれば対処のしようがある。」


 「でも、あの蛇女も一緒何でしょう?」

 

 キャトルは顔をひきつめ、心配そうに俺を見る。

 

 姦姦蛇螺の前にもう一度立ち上がる勇気は、正直俺にはない。


コブラがいる分、まだ勝算があるかもしれない。

百戦錬磨の戦争屋のコブラなら。

ただ、相手が上手く立ち回ってくれないと・・・


俺の頭のなかに1つだけ作戦と呼ぶにはあまりにも穴だらけだが、ロマンのある、それに派手に敵を引き付ける策が・・・


 「コブラ、爆薬は持っているか?」


 「この街を三回吹き飛ばすくらいはな。何でだ?」

 

 何もアレに真っ正面からかち合う必要はない。

 ヨミが万全ならそれも可能だろうが。

 

 「・・・十分だ。アレン。」


 「何だ?」


 「領主邸、近辺の住民の避難。今夜までに可能だろうか?」


 「ああ、近辺といってもどのくらいだ?」

 

 

 俺はコブラに目を送る。

 コブラは、ニヤニヤと笑み、俺の作戦がわかりだしたのか愉しげに、

 

 「10キロってとこかな。」

 

 二人の異世界人が何を考えて、笑ってるのか理解が出来ないのか、理解出きるわけがない。

俺がランボーやコマンドーが好きなミリオタで、コブラがミリタリーそのもので。

偶然にも二人の異世界人が、そういう世界を知っていたから思い立ったのだから。

 

 

 「おい、琥太郎。何を考えてる?」


 「悪巧みだよ、それには領主様の許可が必要だな。坊主。」


 「ああ、敵の驚き慌てふためく顔が浮かぶようだ。」


 「そりゃ、格別なのをお見舞い出来るぜ。」


 「二人で話してないで、私にも説明しろ。」

 

 イライラする主に飛びっきりの爆破計画を。

 

 「屋敷の改装だよ。」


 「なにそれ?」


 「待て・・・」

 

 未だに言葉が繋がらないキャトルと、

 俺たちの考える奇策に気づきだし、瞳を動かすアスビー。

 

 爆薬、近隣住人の避難、屋敷の改装・・・

 プロの工兵による爆破ショーだ。

 

 やがて、合点がいったのか、

 腕を組み、悪いかおをする二人を睨むが、

 呆れたようにため息をつくアスビー。


幸運にも、異世界人の考えに同調出来る主であった。

 

 「修繕費は、お前の給金からも引くからな。」


 「オッケーだ。建て直したら寝室は一緒にしよう、主。」


 「調子に乗るな、はぁ・・・ノーチラスは、ヨミの舘に繋いでおこう。

 コブラ!」


 「任せとけ、糞女に熱い歓迎を喰らわせてやるよ。」


 「まさか・・・」


 「え? なになに? アレン君はわかったの?」

 

 アレンから説明をうけ、呆然とするキャトルを置き去りに、

 アスビーは、コブラに屋敷の爆破を依頼するのである。

台詞形式変えました。

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