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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
26/70

「新三郎」

「新三郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何してる?」


 「見りゃわかるだろ、ションベン。」

 

 

 大の大人の"大なる部分"を見るアレンと玖礼は、黙ってそれに並ぶ。

 

 

 「プリエルカ様は平気なのか?」


 「坊主がいるだろ。」

 

 

 短いやり取りの後、居たたまれない沈黙が辺りを包む。

 そんな、沈黙どこ吹く風の玖礼は、

 ズボンをあげるとコブラに手を差し出す。

 

 

 「よう! 玖礼じゃ! よろしゅう!」

 

 その手と顔を交互に見るコブラ。

 

 「手が離せねえよ。玖礼。

 お前が、ヨミの新しい旦那さんか?」


 「ん? ヨミは結婚しとるんか?」


 「いや、そういう意味じゃ・・・何でもねぇ。

 コブラだ、よろしく。」

 

 ズボンをあげて、玖礼の手をつかむ。

 ニッカリ笑う玖礼に、いつもの癖を出し損ねるコブラ。

 

 「用は済んだ、戻るぞ。」


 「ん、そじゃのう。」


 「ちょいまち、青年方。

 どうせ、バラクも居るんだし平気だろう。ちょっとくらいあぶら売ってもさ。」

 

 片目を閉じて、ニヒルに笑みを見せるコブラ。

 タバコを二人に差し出す。

 

 アレンは、一本受けとり、

 

 「ワシは吸わんぞ、平気じゃ。」


 「ほれ、坊主。」

 

 マッチをほうり投げる。

 アレンは、それを受けとり不馴れた手付きで火を灯す。

 煙に蒸せて、咳をする。

 

 「おいおい、初めてかい?」


 「ゴホゴホ! やっぱり合わないな。」

 

 

 涙目のまま、マッチを返す。

 コブラの慣れた手付きで吸うのを見て真似をするアレン。

 

 

 「大人の味だろう?」


 「苦い。だが、落ち着く気がしなくもない。」


 「おう、そーだろ。」

 

 

 アレンは、タバコをマジマジ眺める。

 この男の物腰、気にくわないが悔しいことに、勝てる気がしない。

 見透かされてるようで、情けなくもある。

 

 コブラがニヤニヤと顔を覗く。

 

 顔を背け、空をあおぐので精一杯抵抗する。

 

 

 「ふふっ・・・いい感じにグチャグチャじゃねえか?」


 「ああ、そうかよ。」


 「若いうちは、いろいろあるんじゃよ。」

 

 二人して何だよ・・・

 いつもは、馬鹿みたいに騒ぐ玖礼が、妙に大人っぽく見えるのは気のせいではない。

 

 今の僕はそれだけ整理つかないんだ。

 煙を肺にいれ、

 蒸せるのを押さえて。深く呼吸すると、煙が真っ直ぐ空へと向かう。

 

 「世界は広いな。」


 「そりゃな、だから飽きねえだろ? 生きるのに。」

 

 並び立つ男は、たぶん僕よりも遠い空を見上げてるに違いない。

 真っ直ぐと、

 

 

 領主もそうだ。

 それに従う琥太郎も。

 

 

 真っ直ぐ空を見る。

 限りなく広い世界を真っ直ぐ見詰める。

 それがどれだけ難しいのか、

 

 小さな反骨心。

 小さなプライド。

 

 小さな街の小さな騎士は、広い空を恐れる。

 

 

 「あんたは、負けたことあんのか?」

 

 小さなプライドが邪魔をする。

 

 「あるよ。そりゃな。

 まず、母ちゃんに勝てねぇ。」


 「そりゃ、そうじゃな。」

 

 茶化すように笑う二人が憎らしく思える。

 

 「ああ、それに、18のころ。敵の狙撃主に負けた。」

 

 左目の横に出来た裂傷を指差す。

 

 「俺のスコープを綺麗に撃ち抜きやがった。

 ギリギリ逸れて失明しなかったが、

 銃はお釈迦。血はダラダラ。

 生きた心地がしなかったね。

 向こうはこっちをまだ狙ってる。

 血は止まらねえし、味方に合流したかったが、少しでも身体を見せれば、ズドン・・・1歩も身体が動かせねぇ。」


 「どうしたんじゃ?」

 コブラ「味方が助けてくれたよ。

 むこうさんの部隊が敗走しだしてな。

 顔も知らないが、まんまと勝ち逃げされちまったのさ。」


 「煮えきらんのぅ。」


 「そうだな。ま、向こうも傭兵だ。もしかしたら、どっかで死んでるかも知れねえし、一緒の部隊で戦った奴かもしれない。

 世の中、カオスだからな。

 特に戦場は。」


 「あっち!」

 

 コブラの話に集中して、タバコで火傷しかけるアレン。

 

 「ははっ! おっさんの敗戦話がそんなに面白かったかい?」


 「ああ、為になったよ。」


 「素直でよろしい。

 お前も、あの坊主も精々頑張んな。

 敵で会おうと味方で会おうと、今度は合格点をくれてみせろよ?」


 「当たり前だ。」

 

 焦っても仕方がない。

 誰にでも負けるときはある。

 それに言い訳しなければいいだけだ。

 吸殻を棄てて

 小さなプライドは持ち続けて

 空を見上げると

 

 

 来た道から雷鳴が轟く。

 刹那。

 

 一目散に駆け出すコブラ。

 その後に続き、草木を分け駆け出す。

 来た!

 あれは、アスビー様の雷。

 戦闘になったか!

 剣を抜き、魔力を込め

 

 魔方陣の描かれた場所。

 

 

 コブラは、ライフルを構え飛び出る。

 

 

 「・・・やられた。」

 

 目の前に、地に倒れ白目を剥き悶える騎士たち。

 金色の髪と尾をたなびかせ、ヨミが一人一人に呪文を唱えて回っている。

 

 「これは・・・」


 「ヨミ!」


 「追え!」

 

 ヨミは、目も向けず叫ぶ。

 

 「早く、小僧たちのところに! コブラ!」


 「行くぞ。」


 「ああ・・・!」

 

 コブラと、アレンは止めた足をまた、動かす。

 玖礼は、ヨミの元に駆け寄り、剣を抜き、辺りを警戒する。


 「何があったんじゃ?」


 「呪術や。中々エグい術使いよる。」


 「アスビーたちは?」

 

 アスビー、キャトル、バラクの姿が見えない。

 

 「祠に向かった。間に合えばエエんやけど・・・」


 「灯篭持って呪術を振り撒くんか、厄介な奴じゃな。」 


 「ちゃう、たぶんお露は、真っ直ぐ祠に行った。」


 「じゃあ・・・」

 

 ヨミは、金色に輝く髪をかきあげ、玖礼を見詰める。

 

 「別の怪奇や、それも飛びっきり強いな。」


 「なんじゃて!」

 

 玖礼が、祠へ駆け出そうとするのをヨミが抱きつき制止する。

 

 変化しているが、その力はいつもより弱い。

 

 「お前はうちを護ってくれぃ。

 今、襲われたらひとたまりもあらへん。」


 「・・・わかった。」

 

 玖礼が、唇を噛みヨミの震える手を掴む。

 汗を垂らし、無理矢理笑うヨミ。

 

 「しんどいわぁ・・・どんだけ怨み込めたらこんな呪法かけれるんか、わからんわ。」


 ヨミが、騎士にかざす手を支えながら、

 

 「何が来よったんじゃ?」


 「蛇や。」


 「蛇?」


 「蛇の化け物や。騎士たちに手当たり次第に呪術かけよって、

 うちがキツいのぶちこんだると、変化して這いずってたわ。」

 

 ヨミの流れる汗を拭いてやり、術式の中央を見ると、

 

 先程まで置いてあった灯篭が消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分前。

 

 

 

 

 祠の前に腰かける琥太郎と、プリエルカ。

 コブラがトイレに行くと言って、すぐ。

 

 二人の耳に、聞き慣れない音が届く。

 カランコロン、カランコロン、カランコロン・・・

 

 

 「こ・・・」


 「しぃ・・・」

 

 唇に指を当て、音に気を付け、辺りを窺う。

 

 カランコロン・・・

 

 下駄の音だ。

 登ってきてる・・・ここを目指して・・・

 

 「プリエルカ・・・」


 「はい・・・」

 

 

 囁きあい、身を寄せる。

 

 「扉を開けるんだ。」


 「はい。」 

 

 

 プリエルカの手が祠の扉を押し開ける。

 

 

 キィィィ・・・ 

 

 

 その音に下駄の音が加速する。

 

 琥太郎は、咄嗟に開いた扉の中にプリエルカを押し込む。

 

 「お兄さん!」


 「隠れてろ!」

 

 扉を閉め、それを背に銃を構える。

 

 真っ正面、整備された道を異常な速さで登る音。

 

 

 カランコロンカランコロンカランコロンカランコロンカランコロンカランコロン・・・!

 

 

 琥太郎は、静かに煙を銃にこめる。

 

 人型なら、こっちの方が撃ちやすい・・・

 

 

 「あー・・・扉閉めやがって・・・めんどくせえなぁ。」

 

 空から突然降る声。

 

 首をあげ、その声の主を捉える。

 

 祠の上に腰かける黒い少女。

 

 琥太郎は、迷いなく少女を撃つ。

 

 サクヤ姉ちゃん、頼んだ・・・

 

 扉を離れ、少女から距離をとる。

 

 「新三郎さまぁ・・・?」

 

 しまった!


 恐る恐る振り返る、


恐らく美しかった、儚げで可憐な女性だったろう。

 

 美しい、儚い、

 それでいて・・・

 

 骸骨だ。

 

 カタカタと、骨を振るわせ、こちらへ小首をかしげる骸骨だ。

 

 

 「ひっ・・・!」


 「おい、忘れ物だ。」


 弾丸を受けた少女が降り立ち、骸骨に、何かを投げる。

 

 牡丹柄の灯篭。

 

 「きさま!」

 

 女の顔に銃口を向ける。

 

 

 「あん? あ、それ? さっき拾ったんだよー。

 蟻が数匹湧いてたから踏み潰したけどなー! なー!」

 

 一瞬で俺の目の前に身を詰める女。

俺の反応よりも早く

 銃を掴み、あろうことか握りつぶす。

 造りは本物と変わらない鉄の銃を、少女の手がアメ細工の様にグニャリ。

 

 その手が、俺の首にかかる。

 

 

 「ぐっ!」


 「あーあーあーあ・・・残念でしたー。」


 「お・・・まえ・・・」


 「死ぬか? 死ぬかぁ? まだだよなぁ? まだまだまだまだ!」

 

 少女の手に弄ばれるように、振るった手に逆らえず、地面に叩きつけられる。

 背中を強くうつ。

 呼吸が一瞬止まり、ひゅっと空気が漏れる。

  

 涙を溜めた瞳で、数メートルも人の身体をぶん投げた少女を見る。

 

 「おいおい、もっと飛べよ! 距離も高さも、ぜんぜーんダメぇ・・・」


 「新三郎さま?」

 

 骸骨は、灯篭を拾い上げる。

 あの、灯篭を護っていたアスビーたちは?

 ・・・いや、今は兎に角"アレ"から離れないと!

 

 

 「うっせぇなあ! ほら、あれあれあれあれ?」

 

 少女が、骸骨に顔を向けた隙に、森へと飛び込む。


もしかしたら、アスビーたちは・・・

いや、そんなことよりもどうにか奴等を倒す方法を・・・

 

 

 「あぁ・・・めんどくせぇなぁ。」


 「今行きます・・・今、お露は参ります。」


 「ほらほら、さっさと行けよ。」

 

 

 骸骨のお露は、カランコロンカランコロンと、下駄を鳴らし琥太郎の後を追っていく。

 

 吉美は、先程一騒動あった場所を振り返る。

 数人の駆ける足音が耳に届く。

 

 

 「・・・ちぃ、めんどくせぇなぁ。さっさと、殺殺しますかぁ。」

 

 少女の身が変化する。

 

 ツギハギされたような、腕が2対、生える。

昆虫の用にカシャカシャ振る上半身。

 下半身は黒い太蛇のように、長く、長く、それでいて、人の胴体よりも太い、

黒い太蛇へと変わっていき・・・


 「いっきまぁす・・・!」

 

 

 琥太郎の後を太蛇の半身が、這いずっていく。


琥太郎は、息を殺し鉛の込められた銃を、構える。



1発の銃声が森に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 アスビーたちが、祠に辿り着いた時、

 泣き叫ぶプリエルカと、その膝の上に力なく、

 横たわる"琥太郎だったモノ"がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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