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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
25/70

「ちゅうちゅうたこかいな」

「ちゅうちゅうたこかいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「透明人間の殺し方知ってるか?

 奴ら、服も着れないし、武器も使えない。見えちまうからな。

 そこで、これを使う。」

 

 整備されたとはいえ、馬車が1台通るのが、ギリギリな森の小道。

 プリエルカと琥太郎、そして、鉄製の筒を手で遊ぶコブラ。

 三人の乗る馬車は、狭い山道を登っている。

 

 「それは、何ですか?」

 

 大層な謳い文句と共に出された筒。

 先端にピンがついていて、琥太郎は、何となく察しがつく。

 

 それが何なのかわからない、プリエルカは、コブラから受け取った筒をマジマジと眺め、ピンに触れる。

 

 

 「それは、止めた方がいいぞ、プリエルカ。」


 「え、どうしてですか?」


 「・・・爆弾か?」

 

 プリエルカは、ビックリして筒を落としそうになるが、コブラが慎重にそれを掴みとる。

 

 「そう、正確には毒ガスだ。

 透明人間は、装備も武器もつけれない。

 だから、マスクして、こいつを放り投げりゃ、

 100人の透明人間も一網打尽ってわけさ。

 姫さんにあげよう、美女に手を出す、不逞の輩に、死の風を・・・」


 「結構です。

 そんな輩が現れた時は、コブラ。

 貴方が守ってくださいね。」

 

 少女の笑みが、コブラの瞳に映る。

 

 目線をそらし、ポケットからタバコを取り出す。

 窓を開けて、タバコを吸い出す。

 

 「姫さんには敵わねえな。

 大金積むよりも、可愛い娘のスマイルには及ばないだろ?」


 「そうだな、プライスレスだ。」


 「上手いこというな、琥太郎。」


 「日本のマクドナルドのメニューに笑顔0円ってあるんだよ。」


 「マクドナルドなんて、久しく食ってねえな。

 こっちの飯は、ジャンク感がねえんだよな。」


 「確かに、ハンバーガーや、牛丼が恋しくなるな。」


 「ああ、日本の牛丼は確かに上手いな、行ったら真っ先に食いに行ってたもんだ。」


 「アスビーに頼んで、料理人とか召喚出来ないかな・・・」


 「そりゃ良い考えだ、俺からも頼もう。」 


 「あの、お二人は何の話をされてるんですか?」

 

 おいてけぼりの、姫が小首をかしげる。

 

 「俺らの世界の食い物が、恋しいなってな。」


 「え? お兄さんも異界の方なんですか?」


 「そうだ、コブラとおんなじな。」


 「同郷の友と言うわけだ。」


 「それで、お二人とも仲良しなんですね。」


 「仲良しねー・・・いい機会だ。姫さんに地球のあれこれ教えてあげよう。」

 

 

 地球トークで盛り上がる俺たちの話に、薄紫の瞳は楽しげに躍る。

 揺れる三人を運ぶ馬車は祠を目指して、ひた走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丘から少し下ったところにアスビーたちは、封印を仕掛ける。

 

 バラクをはじめ、騎士たちは、辺りの魔物を追払い森の中へ入っていく。

 

 アスビーは、描いた魔方陣の片隅で、タバコに火を灯す。

 

 

 「ほんとに、ワシいらんのじゃないか?」

 

 黙って、アスビーと、ヨミが術式を施すのを、見ていた玖礼が伸びをして、ぼやく。

 騎士たちが忙しなく動くなか、袋から取り出したティーセットと椅子で、いつも通り寛ぐヨミ。

 

 「まぁ、落ち着きいな。あんたの出番は、これからや。」

 

 ヨミに、促され木の根本に腰かける玖礼。

 アスビーは、それを横目に周囲の確認をする。

 

 「よぅ、アスビー。こんなもんでいいかな?」


 「うむ、出来るだけみな目の届くところに配備してくれ。」


 「あいよ。」

 

 バラクは、葉巻を取り出しマッチで火を灯す。

 

 「相変わらず、俺の仕事は管理職だな。」


 「もう、いい年だろう、バラク。」


 「まぁ、そうだけどよう。

 コブラみたいなのも、面白そうだと思ってな。」


 「良いのではないか?

 キャトルのことは、任せろ。」


 「本気で考えちゃいねえよ。」

 

 葉巻を加え、腰を叩く。

 

 「アレンが興奮していたぞ、団長、普段は頼りないけど、実は凄い人なのだってな。」

 

 悪戯にかける言葉にバラクは、煙を吹き出す。

 

 「はっ! 100年早えよ。」


 「そんなお前がいるから、私も街を預けれるのだ。」


 「はいはい。ありがとうよ。

 アレンをもうちょいしごいてから、考えてみるさ。久しぶりに王都辺りに行くのもな。」


 「シャールさんと一緒に住めるな。」


 「ほとんど、帰ってこねえがな。」

 

 信頼する騎士に他愛なく話すアスビー。

 今回は非常に上手くまわっている。

 

 ヨミもいる、バラクたちもいる。

 何時もは、巻き込むのも申し訳ないので、琥太郎や、キャトルだけで怪奇と対峙するのが多いが、

 

 今回はそうもいかない。

 プリエルカの存在もあるが、

 "牡丹灯篭"

 何とも出来すぎたシチュエーションだ。

 王国の怪奇管理調査の中心"怪奇省"の役員たちが草根を掻き分けて探しても見つけれなかった、大物怪奇。

 こうも、易々と私の手元に転がり込んでくるなんて・・・

 

 考えすぎかもしれないが、

 考えるに越したことはない。

 

 八尺怪奇の時もそうだ。

 私個人としては、あまり周りに反感や怨みをかった覚えはない。

 ただ、なにぶん私の周りには手札が揃いすぎている。

 

 王位継承者の許嫁であり、偉大な魔法使いの娘の若き領主。

 

 戦争の最前線で、戦った古参の騎士団長。

 それに続く優秀な若者たち。

 

 異界の知識と、妙に運と怪奇に好かれる従者。

 高名な占師で、顔も広い最強クラス妖怪の育ての母。

 妖刀を取り込む謎の力を持つ青年。

 

 何より、貿易と多くの亜人を囲むこのライクニック。

 

 こうも、揃っているとそれを妬む者、狙う者は当然現れるだろう。

 何が狙いか?

 ただの偶然か・・・

 

 

 心当たりがあるとしては、"怪奇教"の連中か。

 

 怪奇を集め、信奉し、それを使い数々の事件を引き起こす、謎の宗教団体。

 

 怪奇を嗜む貴族たちを狙い、

 集めた怪奇を奪い尽くすという。

 その手段は選ばず、

 様々な国で被害の報告を聞く。

 

 直接的な被害はないが、

 

 可能性として、あり得なくはないか・・・

 

 

 「団長、周辺の安全確保しました。」


 「ご苦労、アレン。

 茶でも飲んでのんびりしてろ。」


 「はぁ・・・」


 「お父さん・・・」


 

 辺りの巡回を終えた騎士たちが、戻ってくる。

 思考を中断し、彼らを労うアスビー。

 

 「お父さんじゃない、団長だ、騎士キャトル。」


 「じゃあ、それらしく振る舞ってください、団長。」


 「おい! 全員、こちらの婦人から暖かい茶でも貰ってリラックスしてろ! 夜は長いぞー。

 はい、仕事終わりと。」


 「はぁ・・・アスビー。」


 「団長の命令だろ、キャトル。

 ヨミ。」


 「はいはーい、お疲れさんやでー。」

 

 ヨミが何処からか取り出したカップを騎士たちに振る舞う。

 ため息混じりにそれを受け取るアレンとキャトル。

 

 「ごくろーさん。」

 

 アレンに肩を回す。

 

 「まったく、団長は・・・」


 「獅子は寝て兎を待つもんじゃ。なぁ。」


 「寝過ごして、兎を逃がさないようにな・・・」

 

 組まれた肩をすり抜けて、アレンは森の中へと、

 

 「おいアレン、団長命令聞いてたかー?」

 

 「ちょっと、華を摘んできます。皆さん失礼。」


 そう言い、アレンは拝礼して森の中へ姿をけす。

 

 「玖礼ー。」


 「連れションじゃな。おーい、アレン! ちょい待ちぃ、ワシも行く!」

 

 後を追って暗闇の中へ、消えていく。

 

 「変な気合入れやがって、若造が。」


 「ケアをしてやるのも、年長者の仕事だろ?」


 「せやでー、こんなときに一人で森の中で、よー足しに行くなんて、フラグとしか思えんやん。」


 「フラグってなに?」


 「お決まりやな。こういうとき一人になるやつは、決まって最初に死ぬんやで。」


 「縁起でもないよ。」


 「ふむ、理にかなっているな。」


 「アスビーまでー。」

 

 少女たちの話に肩をすくわせ、距離をとるバラク。

 綺麗な月の見える夜空。

 煙を吹きかけるても、月は隠れない。


 「そーいやぁ、こんな夜だったな。コブラ・・・」

 

 ラストニア帝国との戦争。

 10年くらい前の話だ。

 

 あいつと出会ったのは。

 

 衝撃的だった。

 莫大な戦力差、

 和平が結ばれるまでの時間稼ぎだった。

 ボロボロの砦に、生き残った兵士は、僅か200余人。

 敵は1000を越える大軍。

 まともな救援も送られて来ず、ただ耐えるだけの日々。

 

 いつ終わるかわからない攻撃に、疲弊した仲間たちは、

 死を覚悟していた。

 

 そこに、アイツが現れた。

 

 

 「よぅ! グラセニア軍の諸君! スーパーマンが現れたぜ。」

 

 身体中に重火器を装備する男。

 本国から送られてきた、50余人の増援の中にコブラは、いた。

 

 「取り合えず、あんたらは寝てな。

 大将首取ってきてやるよ。」

 

 そんな、言葉と共に砦を出ようとするコブラをバラクは追った。

 

 「死にに行く気か! 傭兵!

 俺は指揮官のバラクだ! 例え、騎士じゃなくても、その命。

 捨てることは俺が許さん!」


 「バラクさん・・・あんたらは、砦を護っててくれよ。

 俺の戦力は、籠城向きじゃねえんでな。」


 「なに?」


 「いいか、今夜は雲ひとつねぇ、いい夜だ。

 あんたらが、この砦に籠って何日たつ?」


 「ひと月はたつ。」


 「絶好の奇襲日和だ。

 相手さん油断しまくりだ。

 見ろよ。」

 

 砦に群がる敵軍。

 およそ、士気が高いとは言えず、

 こちらが出ないのをいいことに、砦の前に野営する奴等の緩んだ顔がよく見える。

 

 「そんな不安ならついてくるかい? バラク。」

 

 疾風怒涛。

 息もつく間に、見張りの兵を音もなく仕留めるコブラ。

 気がつけば、敵軍の本陣。

 管を巻いて酒を飲む司令官の首を切り落とす。

 

 そして、一切気づかれず、砦に戻る俺は高揚感を隠せずにいた。

 

 「明日の朝にゃあ、敵さん大慌てだぜ。」

 

 コブラの言う通り、敵軍は大混乱。

 砦から放たれた、矢、弾丸に蜘蛛の子散らして逃げる兵士。

 

 コブラと共に、籠城した砦は和平の結ばれるまでの3月の間、死者を出さず見事に守り抜いた。

 

 その後も幾つかの戦地で顔を合わせた俺たち。

 竜に股がる騎兵を撃ち落とし、

 厄介な邪教徒。"怪奇教"の連中も、怪奇より恐ろしい男の弾丸の前に沈黙。

 

 俺が腰を落ち着けてライクニックに帰ってきても、コブラの噂はよく聞いたものだ。

 

 葉巻を加え、月を眺め、過去の記憶を甦らせたバラク。

 

 ふと、目の前から木々を掻き分け進む人影が見えるのに気づく。

 

 遠く、小さな人影。

 バラクは、騎士たちに呼掛ける。

 

 「全員、陣形を組め・・・

 誰か来るぞ・・・」

 

 騎士たちは気を引き閉め、武器を構える。

 アスビーとヨミは、封印の中心に立ち警戒を強める。

 

 バラクは、大剣を構え騎士たちと共に、その影の歩みを待つ。

 

 ぼんやりと、徐々にその影の輪郭を捉える。

 

 

 小さな少女。

 黒いタイトなタイツを身に纏う細い身体。

 

 無造作に切られた黒い髪を揺らし、

 黒い瞳が、闇の中輝いて見える。

 

 ただ、獣道を草木掻き分け、こちらへ向かってくる少女。

 

 何故だろう・・・

 バラクは、言い様のない感覚に陥る。

 あれは、何だ?

 ただ、歩く少女が何か巨大なモノに見える気がする。

 何か・・・おかしい

 何が・・・

 

 思考が結末を迎える前に、少女は

 バラクたちの前へ。

 

 ただの少女。

 怪奇の様にもみえない。

 少女は、何が可笑しいのか

 ニヤニヤと口角をあげてバラクたちからアスビーたちまで、見渡す。

 

 「2、4、6、8、10・・・少ねぇなぁ。殺りがいのねぇこった。」

 

 少女は、腰に手を当て大きなため息をひとつ。

 

 「おい、何の用だ? 嬢ちゃん。散歩するには、随分険しい道だぜ。」


 「ん? あれぇー? 少ねぇ、少ねぇと思ったら、王女様が居ねえじゃないかー・・・ま、いいか。」


 「おい。君。何をブツブツ・・・」


 「やめぃ! 離れんかい!」

 

 

 ヨミの声が森に響き渡る。

 少女の肩に手をかけた一人の騎士がに。

 少女は何やら囁きかけると、騎士が、白目を剥き倒れる。

 

 「さようならー。」


 「ライトニング!」

 

 クスクス笑う少女目掛けて雷がはしる、騎士の間をぬって雷が放たれた。

 キャトルが倒れた騎士を抱え退く。

 バラクたちは、雷の放たれた少女を囲むように距離を詰め、

 

 直撃を受けた少女の身体、服。

 一切の傷が残っていない。

 

 アスビーが、槍を掴み、

 

 「何者だ! 貴様!?」


 「ヨミ! ヨミ! これ!」

 

 キャトルが揺する騎士は白目を剥いたままビクビクと陸に上がった魚のように震える。

 

 「呪術やな、それもヘビーな。」

 

 少女は、恭しく手を胸に当てお辞儀する。

 

 「ご機嫌麗しゅう・・・

 怪奇教・七怪奇の一人

 "姦姦蛇螺"の吉美でーす。

 皆さんを皆殺しにするよう、頼まれて来ましたー。

 名前だけ覚えて死んでね❤」

 

 吉美と名乗る少女は、口角を引き上げ、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉美キビ です。


上手くルビふれてるかな?

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