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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
牡丹灯篭
24/70

「遣わされた怪奇」

「遣わされた怪奇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライクニック郊外の山。

 多くの獰猛な魔物が住み着き、地元のエルフたちでも決して夜には入らないこの山の頂きに、

 

 闇が覆う中、似つかわしくない影が二つ。

 

 豊満な肉体を局所だけ隠す刺激的な薄手の女。

 珠のように滑らかな褐色の肌は、月明かりに照らされ、純白の長く、艶のある髪が風になびく。

 赤い瞳が、煌々と光り、ライクニックの街並みを見下ろす。

 街を歩けば男女問わず振り向き、ため息をつき、美の女神が嫉妬する美貌をもつ女。

 女の身体中に煌めく赤い鮮血。

 純白の髪も赤く染まっている。

 女の血ではない。

 魔物の血を戦化粧にする女の美しさが、夜の山に混沌をもたらした。

 周囲には、虫1匹たりと生命が輝きを見せない。

 ただ、死臭が立ち込める。

 

 その山の頂上で、目を輝かせる。

 


 もう一人、その近くの大きな切り株に腰かける、着流しの男。

 漆黒の黒髪。

 鋭い銀色の瞳、整った顔。

 左ほほに裂傷が痛ましく刻まれている。

 腰に、日本刀を差し、女を見つめる。

 

 

 「観測できるか?」

 

 呼ばれた女は男へ振り返り、煌めく瞳を更に輝かせる。

 

 「向こうの山までバッチリ見える。」

 

 男は、ゆったりと腰をあげ、女に並ぶ。

 女の腰を抱き、街を見下ろす。

 

 

 「灯篭は、街に?」


 「強めな傭兵が持っている。

 殺すのに10分はかかる。」

 

 女の赤い瞳が、男をみつめる。

 

 「関り合いも持つつもりはない、"吉美"がしくじらなければ。」

 

 女が男に身体を寄せる。

 

 「ざんねん。あのキモいガリガリ女ごと、デッドプールをつくってやりたいのに。」

 

 血をしたためる女の髪を鋤き、左手を掲げる男。

 梵字の術を唱える。

 唱えると、男の手に朽ち果てた骸骨が握られる。

  

 「お露が探してる、会いに行け新三郎。」

 

 骸骨を宙に放ると、骸骨は青白い炎焔を纏い飛んでいく。

 

 それを見送る二人。

 

 

 「アイン博士の娘、怪奇憑かれの男、シャールの娘、妖剣を宿す男。

 そして、我が愛した狐の主。

 死んではならんぞ、愉悦に踊れ。」


 「つまらん児戯だ。

 あたしは寝る。

 早く来い。」

 

 女は、近くの洞窟へと歩みを進める。

 男は、ゆったりとその後を追う。

 

 「ここは、再会の舞台に相応しくない。そうだろう、ヨミ。」

 

 男の呟きは、木々の揺れる音に流され、消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、アスビーの屋敷・執務室。

 

 アスビーは、正面の執務椅子に腰掛け、琥太郎と、ヨミはテーブルを挟み座る。

 

 「ほうら、領主さん。これが、灯篭だ。」

 

 コブラが、テーブルに差し出した小さな灯篭。

 美しい紅色の刺繍が入った牡丹の灯篭。

 コブラは、案内されるやいなや、ドアを開け、灯篭をテーブルに放り投げた。

 コーヒーに舌つづみをうつヨミが眉をひそめ、

 

 「相変わらずぶっきらぼうなやつやなぁ。」


 「知り合いか?」


 「お得意様や。」

 

 コブラは、部屋を一瞥する。

 琥太郎は、コブラの姿に言い知れぬ畏敬の念を感じる。

 この世界にきて、あまり長くは無いが、どう見ても、魔法と剣と、弓が使われる中世レベルの文化圏の人間じゃない。

 

 顔には古い裂傷、身を包むのは琥太郎が映画で観た外国の特殊部隊が着るような装備の数々。

 

 「おい、坊主そんなに、俺が珍しいかい?」


 「いや・・・」


 「その腰の銃なんで、弾入れてねえんだ?」


 「あんたみたいに、実銃は、使ったことがなくてね。」


 「ほらっ。」

 

 コブラが、銃を琥太郎に放り投げる。

 膝の上に放られた銃を両手で受けとめた、

 いつも使ってる煙を詰める空の物とは違い、

 鉛の詰まった重さをずっしりと感じる。

 それだけじゃない。

 この弾1発で普通の人間を殺せる。

 

 日本で育った琥太郎だが、サバイバルゲームなどで、作りの似たガス銃を扱ったことはある。

 しかし、本物の銃は、勿論ない。

 

 「良い子だ。」

 

 コブラは、そう言いきると同時に、ホルスターに手を伸ばす。

 しっかり握られた一丁のピストル。

 握られた銃は、まっすぐアスビーへと向けられ、

 

 琥太郎がテーブルを蹴る。

 テーブルの上のカップと灯篭が地面に落ちる。

 コブラの足を狙ったも、コブラは足裏でキッチリ止める。

 

 それで十分。

 琥太郎は、執務机を乗り越えアスビーの身体を抱きかかえ、飛び退く。

 書類やペンは、撒き散らされ、

 

 その間から、

 琥太郎はさっき受け取った銃のセフティーを外し、コブラに構える。

 セフティーが掛かったままだぞ。

 なんていうお決まりは、やらない。

 

 コブラと琥太郎の銃口は、ヨミを挟み交錯する。

 

 何度も映画スターを観て予習していた動きが、まさか、こんなに上手く行くとは・・・

 胸のうちに治まる熱を守り抜くため、何度も色々な状況をシミュレートしていた。

 

 「それやと、うちがお陀仏やん。」

 

 微動だにせず、呑気にカップを傾けるヨミ。

 

 「もちろん、計算のうちだ。お前なら銃弾くらいで、はたき落とせるだろ?」


 「そこまで化け物やないで。小僧、まぁ悪くない動きやがなぁ。」


 「コブラ!」

 

 

 ドアを開け、プリエルカが飛び込んでくる。

 続いて、キャトルとアレンが惨状を目の当たりにする。

 

 コブラは、肩をすくわせ、銃を下ろす。

 

 「合格だ、坊主。名前は?」

 

 アスビーをかばいながら、銃口は、コブラに向けたまま。

 

 「安楽島琥太郎だ。」


 「日本人か? 元自衛隊にしちゃ若いな。」


 「素人だよ。ちょっと歪んだ趣味のあるな。」


 「暑い、さっさと離せ。」

 

 鈴の音の声が、琥太郎を押し退ける。

 アスビーは、膝をはたき立ち上がる。

 

 「キャトル、アレン。」


 「はい?」


 「はっ!」


 「片付けろ。」


 「「え?」」

 

 アスビーは、荒れた執務机を横目にヨミの隣に腰かける。

 

 「領主の危機をぼんやり眺めてた騎士に仕事を与えてやるんだ、文句ないな。」

 

 ヨミが、何でも袋から取り出したコーヒーを飲みながら淡々とアスビーが命じる。

 

 判断としては間違っていなかったようだ。

 

 ばつの悪い二人はイソイソと片付けを始め、

 キャトルは、コブラを睨みつける。

 

 コブラは、プリエルカと共にソファに腰を下ろしながら、

 

 「悪いなシャールの娘。

 癖でな。後でパンケーキ奢ってやるから。」


 「え、ありがとうご・・・お母さんの知り合いなの?」

 

 パンケーキと聞いて、一瞬顔を輝かせたキャトルだが、尻拭いしてることには変わりなく、ジト目で尋ねる。

 

 「ああ、後で聞かせてやるよ、お前の母さんとの、あーんな話や、こーんな話をな。」


 「え、え、え! それどういうこと! ていうか、あんたも手伝いなさいよ!」


 「・・・」

 

 穴が開くほど睨むプリエルカの目線から逃れ、

 

 「挨拶が遅れたな。コブラだ。こっちでも最強の傭兵やってる、スーパーマンだ。」


 「噂は聞いてるよ、お前の訓練を受けた騎士の8割が逃げ出すとか、単身で竜を狩ったなどな。」


 「そうだ、正確には竜2頭だがな、子供もいた。」


 「性格あれやし、すぐ問題起こすけど、腕が良いから貴族御用達の商売しとるわけや。」


 「ふむ、その噂もかねがね。」


 散らばった書類束を片す俺たちを一瞥する。

 

 「久しぶりだなヨミ。旦那さん元気か?」


 「旦那やないわ、ボケ。」


 「ヨミの旦那?」


 「あんたのパパと一緒に旅してるとき何度か会ったんや。」


 「そうそう、しかし、あいつの娘だから、どんな根暗女なのかと、想像していたが・・・うれしい誤算だね、良い女じゃないか。」

 

 アスビーの身体を値踏みするコブラ。

 やっぱこいつ、撃つかと思った矢先、

 

 「おほん!」


 「わーたっよ、姫さん。

 顔合わせも済んだし、

 難しい話は、お偉方で頼む。」

 

 コブラが席をたつ。

 

 「おっと、領主さん。

 その坊主借りても良いか?」

 

 執務机の整理をしていた琥太郎が、顔をあげる。

 

 「ん? 俺か?」


「そう、それの使い方教えてやるよ。」


 「む、そうか。それは願ったり叶ったりだが・・・」

 

 コブラは、本物の軍人だろう。

 先程の洗練された、動きをみればわかる。

 独学で、学んだ戦術よりも確かなものを持っている。

 俺がアスビーに目を向けると、

 

 アスビーも手をヒラヒラとふる。

 了承を得た俺は、

 コブラに連れられ部屋を出る。

 

 「ええんか?」


 「あいつが、望むことだ。それに、必要な経験だろう。」


 「そうかいなぁ。

 うちは、玖礼を人喰いワニが泳ぐ川に、両手縛って血塗りたくって、崖から突き落とすこと、せーへんけどなぁ。」


 「そんなに!」

 

 片付けに一段落つけた、キャトルはアスビーの後ろに控える。

 アレンは、プリエルカの後ろへ。

 

 「玖礼はどうした?」


 「起きたら来るんやないかなぁ。徹夜で資料漁って片付けほっぽりだして寝たからなぁうちは。」


 ならば、仕方がない。

 手は大いに越したことない作戦だが、正直、今回は玖礼の出番はほとんどない。

 

 アスビーは、牡丹の灯篭を掴み、

 

 「我が従者立案だが、良い策がある。」


 「ほんとですか、姉さま!」


 「ああ、私が直しを加えたが、

 この街にはとても、強力な神に護られた森がある。

 そこで、灯篭に誘き寄せられた怪奇を封印する。」


 「嬢ちゃんは、小僧、コブラと一緒にその神様の元に居ればええ。」


 「それだと、義姉さま方が・・・」


 「アレン。」


 「はい。プリエルカ王女の意向に添う形で、我々ライクニック騎士団の精鋭が封印を施す領主様たちの護衛にあたります。作戦は極秘扱いなので、記録に残りません。」


 「そうですか・・・御配慮ありがとうございます。」


 「山の神は、何故か我が従者を気に入っている。

 もし、灯篭に誘き出されなかったとしても、お前に危害は加えられんよ、そうだろヨミ。」


 「ああ、色々調べたんやけど、

 この灯篭の怪奇、いうたら、愛憎で化け物になった鬼女レベルのもんや。噺は有名なようやけど、怪奇の格としては、そんなでもない。

 山の神さんであるサクヤには、到底及ばんわ。

 それに、コブラもおるんやし、問題ないやろ。」


 「相手が幽霊でも」


 「神でも、伝説の魔獣でも。

 弾が当たれば殺せる、弾が当たらなくても、当てて殺す。とか言っとったで。まぁ、実際うちも何度か見てるしなぁ。」


 「え、神様も?」


 「せや。」

 

 キャトルの頭でのコブライメージが、混沌となるが、

 話はつつがなく続く。

 前もって騎士にも伝え、プリエルカたちを除く当事者にも役割を知らせた"お露"封印作戦は、

 プリエルカへの報告と、当事者たちの確認を持って準備が整った。

 

 プリエルカは、唇を噛み目を伏せる。

 

 わかっていたこと。

 自分の役割、

 王女としての立場。

 自ら持ち込んでしまった怪奇。

 

 感謝の気持ちは勿論だが。

 

 一人、護られる立場の私。

 剣の心得もある。

 魔法も王国内でもトップクラスの治癒術師として、認められている。

 王家の秘術も、使用回数は限られるが会得した。

 

 本当は活発で、心優しい少女は、

 

 本来、助けるべき、癒してあげるべき人にまで護られる。

 

 私には、夢がある。

 お兄様にも、内緒の夢。

 

 私は軍医になりたい。

 

 戦場で私たちのために戦ってくれる兵士たちを癒してやりたい。

 その為には、自分は若く、知識も覚悟もまだ、足りないのかもしれない。

 

 今回もそうだ。

 キャサリンを助けてやりたく、受け取った灯篭。

 結局、姉さまに任せっきりで私には何も出来ない。

 

 悔しい、情けない。

 

 小さな王女は心をひた隠し、言葉に従うしか、今は出来なかった。

 

 「今夜、行動を起こす。

 いいか、プリエルカ。」


 「はい。皆さんの無事と、怪奇に終止符がうたれることを祈ります。」

 

 張りついた笑顔の仮面を纏い、

 少女は、皆の祝福を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスビーの庭の主は、今日は首輪に繋がれていた。

 アスビーもノーチラスに枷をはめたくはないが、万が一、王女や、騎士に襲いかかられては困る。

 

 ノーチラスも主の意思を受けたのか、今日は大人しく芝に寝そべる。

 

 

 「ほー、こりゃ見事な一角獣だ。」 


 「頼むから刺激するなよ、そいつと、アスビーに2度殺される。」


 「俺は、見境なしに喧嘩うる、素人しゃないぜ。

 こいつの目は主を命がけでも守り抜く立派な忠義の眼をしてる。

 エサあげて良いか?」


 「生のフクロウが好物だよ。」

 

 

コブラと共に庭に出た琥太郎。

 ノーチラスに対して、興味を示す歴戦の傭兵に心が浮き立つ。

 ネイビー○ー○ズとか、外○部隊とか、デル○フォー○とか、FR○Fとか、 S○Sとか、

 いったいどんなトンでも部隊の人間だったんだ。

 リー・○ーメイも真っ青な鬼軍曹にしごかれ、

 所属も、経験も関係ねぇ!

 俺の前では、貴様ら全員、ケツの青いFU○K'N ウジ虫だ!

 銃でマ○かいて、ウジで種○けした弾丸で、敵を○ませろ!

  

 とか!

 

 

 「坊主は何年だ?」


 「ここに来て半年になります、サー。」


 「そんなお堅いイメージ持つなよ? 俺はフリーの戦争屋だからな。」


 「そうなのか?」


 「そういうお堅い奴等の嫌いな汚れ仕事専門だ。

 イラクだ、アフリカだ、東欧だ。」


 「おおっ!」

 

 コブラが、キラキラ目の琥太郎に顔を崩す。

 

 「お前、本当に素人なんだな。」


 「ああ、こっちに来て死ぬ思いは何度かしたがな。」


 「そうか・・・死んでねえんだな?」


 「・・・あぁ。」

 

 死ねるわけないだろう。

 そんな、当たり前の疑問符にも慣れっこだと。コブラは続ける。

 

 「目が生きてる。

 そういう目の奴は、誰も殺しちゃいない。

 別に殺しが良いことだとか、殺した人数を自分の武勇伝にしちまう、雑魚が偉いわけじゃねぇ。

 ただ・・・

 いや、まぁいいか。ちょっとそれ貸しな。」

 

 コブラに、先程受け取ったピストルを渡す。

 コブラは、慣れた手付きでピストルを扱う。

 

 「こいつは、ベレッタM92、使い方はお前の持ってる玉なしと一緒だ。

 両手で構えて、胴体を狙って呼吸して撃て。後は、使ってくうちに慣れる。」

 

 ベレッタを返し、少し離れた木を指し示す。

 俺は、言われた通り両手で構え、腰を落し、呼吸と共に引き金を引く。

 

 木の側面を弾が掠める。

 

 

 「しびれるか?」


 「ああ、少し痛い。」


 「おめでとう、はじめての精通だ。

 童貞を捨てる時は躊躇するな、

 あの木はだいたい、成人男性の胴体と直径が同じだ。

 頭は狙うな、的が小さい、

 身体を狙えばどっかに当たる。

 掠めただけでも、この世界の柔な奴等ならダメージになる。」

 

 コブラは、おもむろにピストルを抜くと、2発、3発。

 

 ターゲットとなった、木のど真ん中を綺麗に撃ち抜く。

 鮮やかな動きに思わず拍手する琥太郎。

 

 「ふふっ。純粋なのは良いことだ坊主。

 お前が領主さんを生かせたいと願うなら、

 純粋でいろ、小僧。

 きたねえ人間にはなるなよ。」

 

 俺に軽くウィンクする傭兵の、綺麗な瞳を見て俺は大きく頷いた。

 

 「さ! もう話は終わったろ、綺麗な姉さんたちとこに戻ろうぜ、琥太郎。」

 

 

 大きい、とても大きいコブラに肩を回されて、

 琥太郎は、貰った銃をしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

プリエルカはナイチンゲール

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