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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
Calling
19/70

「小さな背中、大きな背中」

「小さな背中、大きな背中」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中で、タバコがチリチリと燃える、朱だけが灯っていた。

 

 

 我ながら、名案だと思った。

 背後を取られる怪奇なら、"背中を見せなければいい"

 

 この部屋に入ってからどれくらい時間がたっただろうか。

 

 私は、琥太郎の背中に体重を預ける。

 

 面白い男だ。

 

 武道の嗜みがあると言っていたが、

 確かにガッチリとした、いい背中だ。

 女の私とは違う。

 

 その背中が先程からモゾモゾと揺れている。

 

 私の言葉に動揺を隠せないのか、

 恋に焦がれる人間は、瞳が生き、力を感じる。

 

 その力を使い損じぬよう、私が見守ったやろう。

 

 

 ウィルターや、琥太郎には、悪いが

 私は、女姓であることを利用させてもらう。

 

 王子の許嫁であり、国一番の召喚師の娘。

 隣国との国境の街を、治める領主。

 

 実力も後ろ楯も、備われば見えることも、やれることも多くなる。

 

 私は、父よりも先に死者転生の術を、見つけてみせる。

 

 母を甦らせるなんて不可能だ。

 

 父は確かに優秀な術者だが、

 

 恋は盲目とはよく言った言葉だ。

 

 母にとらわれ、父はその力を間違った方法に使っている。

 

 

 だが、ひとりの家族として

 

 そんな、父に未来を見て貰いたい。

 

 

 琥太郎、お前は安心できる相手だ。

 

 盲目になる相手を間違えなかったな。

 

 私は、決して過去になど囚われない。

 私は、止まらず

 先へと、進み続ける。

 

 琥太郎、お前はそんな私に届こうと、必死だな。

 

 私と同様に、頭を通す男だ。

 

 無駄に語らず、

 口よりも、頭が動く。

 

 別にキャトルを卑下する訳ではないが、

 

 そういうやつが私の好みだ。

 

 

 お前がこの世界で何をしたいのか?

 

 

 私を物にしたいのか。

 

 私は、そうそう手に余るぞ。

 

 お前が1歩進めば、私は、10歩進もう。

 追っても、追っても追い付かない女をどう落とすか、

 

 楽しみだ琥太郎。

 

 

 

 

 私がタバコを加えると、

 後ろから、マッチが差し出された。

 

 私は、そのマッチから火を灯す。

 気づけば、私の持ってるマッチ箱は空になっている。

 

 

 「よく気づく男だ。」


 「どういたしまして。」

 

 

 琥太郎は、それだけ言うと、自分のタバコに火をつける。

 

 チリチリと、火の燃える音だけが部屋に響く。

 

 

 私もだが、寡黙な人間は、損をしやすいな。

 

 『アスビー何考えてるの? 眉間に皺寄ってるよ。』

 

 キャトルには、よく言われたものだ。

 

 琥太郎も、よく言われてるな。

 

 私もキャトルのように、明るく振る舞えば・・・

 

 似合わないな。

 それに疲れる。

 

 相手の心を知ろうなんて、傲慢だろ?

 それに、怠惰だ。

 

 頭を使って感じとれ。

 

 『喋ってくれたら、良いだけじゃん、めんどくさいよー。』

 

 

 まったく・・・

 

 まぁ、私は、めんどくさいから話さないだけなんだがな。

 

 知れる者だけが、並んでくればいい。

 

 知ろうと努力する者だけが、着いてくればいい。

 

 

 

 ああ、我ながら分析すると

 所謂、私は悪い女なのかも知れないな。

 

 キャトルは、確かに魅力的な女子だろう。

 

 私がもし、キャトルのようだったら、

 

 

 「違うタイプだったなら・・・いや、そんな思考こそ徒労だ。」


 「ん? 何の話だ。」

 

 

 声に出ていたようだ。

 

 

 ア「もし、私がキャトルみたいな、明るい女子だったら。」


 「似合わないな。」


 「おい、私もそう思うが、言われると腹が立つな。」


 「悪いな、ただ、今のアスビーで、ほぼ完璧じゃないか。

 何を可愛さ成分を求める。」


 「ほぼ、と言うのは些か気がかりだが。

 そうか、キャトルは男の目線から見ると、そういうタイプなのか。」


 「俺は、アスビーみたいな、クールビューティがタイプだがな。」


 「ふむ。

 人には向き不向きがある。

 不向きな物を無理に求めるのは、あまり賢明ではないだろう。」


 「そうだな・・・ただ・・・」

 

 

 琥太郎が歯切れ悪く言う。

 

 少し、背中を強ばらせて

 

 

 「スカート、似合ってるけどな。」

 

 私は、思わず目を丸くして、自分の足元を見る。

 

 そういえばそうだったな。

 


 『アスビー、折角綺麗な足なんやから、見せてかな勿体ないでぇ。』

 

 そう言ってヨミがくれた、シックな朱色のスカート。

 肌をこんなに露出するのは何だが落ち着かない。

 今後は、絶対履かないと決めていたが、


 

 珍しく、感情を表に洩らし、素直に褒めた従者の期待にも、

 たまには応えてやろう。

 

 

 「残念だが、これ1着しか持っていないぞ。」


 「ああ、それは残念だ。」

 

 大きな背中を子犬のように縮こまるのが、背中越しに伝わる。

 

 

 「お前の見立てが、良ければ着てやってもいいがな。」

 

 今日の私は、随分機嫌が良いな。

 

 「そうか、ならば今度買いに行こう。」


 「期待して待つとしよう。」


 「何言ってる、一緒に来てもらうぞ。」


 「・・・」

 

 お前が何を言っている。

 

 「実際に合わせなければわからないだろう?」


 「・・・キャトルでも、連れていけ。」

 

 琥太郎と共に、スカートを買いに行くだと。

 考えられん、何より・・・

 

 「似合わないか?」


 「・・・ふむ。」


 「それは、試して見なければわからないだろう。

 貴族は身だしなみに気を使うんだろう。」


 「公の場所で、そんな格好せぬわ。」


 「たまには街の中を、ブラブラ歩いて、市民に声をかけて、

 領主として、貴族として

 親しみを持たせるのも、政治の、良い戦略なんじゃないか?

 その、流れで服屋に入るのもいいじゃないか?

 きっと、市民も喜ぶぞ。

 それに・・・」


 「わかったわかった。行ってやろう。」

 

 

 中々、口も上手いな琥太郎。

 確かに服屋のご夫人には何れ何か買いにいくと言ったままだしな。

 

 「ついでに水着も見に行くか。」

 

 私は、琥太郎の首筋にタバコを押し付ける。

 短い悲鳴を上げて琥太郎がのたうち回る。

 

 

 「調子に乗るな。」


 「わりと、痛いぞ。」

 

 スクっと顔をあげ、平然とほざく。

 

 「今日は随分調子がいいかなぁ、琥太郎。」


 「俺は、いつでもベストコンディションだ。」


 「この密閉空間で私がスパークを使うとどうなるだろう?

 調子が良いなら試してもよいか?」


 「申し訳ない、許してくれ。」

 

 まったく、この男は。

 少し隙を見せればこれだ。

 

 私は、頼りにしていいのか、逆にコイツが一番危険何じゃないのか?

 

 こちらを窺う琥太郎を見下す。

 

 

 

 

 ピロン!

 

 

 部屋に電子音が響く。

 

 琥太郎は、アスビーに目線を送り、スマートフォンを手に取る。

 アスビーは、琥太郎の背後に位置取り、扉へと警戒を向け、魔力を込める。

 

 

 スマートフォンの画面には非通知、着信中。

 琥太郎は、画面をタッチし、通話に出る。

 

 

 「いつでも、いいぞ。」


 「もしもし・・・」


 「いま、部屋の前にいるの。」

 

 言葉が途切れると、扉は、ゆっくりと開かれて・・・

 

 「ライトニング!」

 

 扉から、何かが見えたと同時にアスビーの雷が、直撃する。

 

 電話からは、小さな悲鳴が聞こえ通話が切れる。

 

 アスビーは、大股に扉に近づき、

 喰らわせた相手を確かめる。

 

 そこには、黒焦げになった、スマートフォンが落ちていた。

 それを、拾い上げるアスビーに近寄る琥太郎。

 

 「これ・・・」


 「ふむ。直接呼ばれた怪奇か、呼ばれた人間の魂が移ったのか、わからないがな。」

 

 手に壊れたスマートフォンを持ち、アスビーがそう推理する。

 

 「特に、何も感じないな。

 怪奇というよりは、偶然、魂が乗り移っただけの物か。

 封印するまでも無く消滅したようだ。」


 「俺みたいな人間の魂がってことか?」


 「ふむ、そのようだな。

 見知らぬ土地で、弔われずに不遇の死を迎えたのか・・・拠りどころを無くし、これに憑いたのかもな。」

 

 

 後味の悪い話だ。

 俺も、こうなっていた可能性があったってことか。

 どこぞの誰かにポンッと呼ばれて、ポイッ。

 

 考えてみればゾッとする。

 

 このスマホの持ち主は、最期まで拠り所がなかった。

 誰かに繋がれ、繋がれ、繋がれ繋がれ繋がれ繋がれ・・・

 握りしめたスマホに救いを求めて死んでいった。

 

 「アスビー。」

 

 アスビーは、閉口していた俺を真っ直ぐ見る。

 儚げで美しく、芯のある瞳は、何を訴えるのか?

 

 相手の心を知ろうなんて、傲慢か。

 

 ならば、勝手に知ろう。

 

 

 お前には、私がいる。

 お前には、拠り所がある。

 仲間がいる。

 

 アスビーは、目線を外し、俺にスマートフォンを渡し、そのまま屋敷の廊下を歩いていく。

 

 自分の事は自分で処理しなきゃな。

 

 「アスビー!」

 

 アスビーは、足を止め振り返る。

 

 「何だ、琥太郎?」

 

 

 これからも、よろしく・・・

 ありがとう・・・

 

 

 何か、気恥ずかしい言葉しか思いつかないが・・・

 

 

 俺は、どうにか顔に笑みを造り、

 

 「トイレ間に合ったか?」


 「ライトニング!」

 

 


 

 

 

 今日、2本目の雷が屋敷に落ちる。

 

 

 

 またしても、奇跡的に充電された琥太郎のスマートフォンがもう一度鳴ることは、なかった・・・

 

 

 

 

 

 

毎日は、しんどいので隔日くらいでがんばります。

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