「大きな背中、小さな背中」
更新遅れました。
「大きな背中、小さな背中」
暗闇の中で、タバコがチリチリと燃える、朱だけが灯っていた。
緊張と喫煙で口内が乾く。
霊感が欲しいと日本で育った一般的な若者なら、1度は考えるものではないだろうか。
誰かと居るとき
心が満ちてるとき
家族の顔が見えるとき
ただ、実際見えてしまうとそう願った過去の自分を後悔する。
1度だけ、見たことがある?
見たと言っても、母には夢だったんしゃない、と一蹴された。
夜中、トイレに起きると、
茶の間の窓から、光が伸びてきた。
その夜、兄と遊んでいて割ってしまった窓から、
光は、立ち尽くす俺を包むように部屋中に広がってくる。
俺は、ただ呆然と光の中へ取り込まれた。
そこで意識が途絶えた。
気がつくと、俺は、布団の上にいた。
窓を割ってしまったことに対しての自責の念から見た夢かもしれない。
いま考えればそうも思う。
その時の俺は、UFOに拐われたんだ思った。
「UFOとは、何だ?」
アスビーが、背中越しに、
「未確認飛行物体だよ。あっちでは、自分達は数ある天体、星のなかのひとつに住んでいて、他の星の生命体が飛行船に乗ってやってきて、人間を拐って実験してるのではって話があってな。」
「イディオンも数ある星のひとつかも知れないな。」
「じゃあ、俺は、拐われたってことか?」
俺は、肩をすくめる。
「じゃあ、実験してやろうか? 人体は、どの程度雷に耐えうるのか?」
「やめてくれよ。」
実際、受けてる身からすると、ゾッとする冗談だ。
「しかし、お前の世界の人間は面白いことばかり考えるな。
子供を拐う大女、呪われたデンワ、人間を拐う異世界人。」
「未知の探究に、貪欲なのさ。技術の発展により、世界中が知れてしまった以上。
自分たちで作り出していくしかないんだ。」
「その分なら、こちらも変わらないさ。異世界からわざわざ、怪奇や噺、技術を招き入れるんだ。人間の欲望は際限がないな。」
折角のシチュエーションなのだから、もっと色気のある話をしたいが、
俺たちには、そぐわないらしい。
アスビーの背丈は、170ちょい。
外国のモデルみたいな体型の女の人が、背中を預けて寛いでいる。
振り返って、抱きついたらどんな反応するかな?
華奢な、背中だが
俺とは違う大きく見える背中。
小さい頃から、自分の足で歩いてきた。
人々を率いて、それが自分には当たり前のように。
「アスビーは?」
「ん?」
アスビーが、マッチでタバコに火をともす。
「アスビーの小さい頃のお話とかさ。」
彼女の口から、彼女自身について聞いたことがない。
俺の知らない彼女はいっぱいいる。
これも、未知への探究だ。
アスビーは、煙を吐いて一呼吸。
「私の父は、有名な召喚術師だった。」
彼女が言葉を奏でだした。
「世界中を渡り歩いてる中で、母と出会い。結ばれて、私が産まれた。母との記憶はない。
私が産まれて、直ぐに死んでしまったからな。」
「そうか。」
「父は、とても悲しんで、それからより一層、研究に力をいれた。
母を本当に愛していたんだ。
声だがには、言えないが死者転生の研究をしていたらしい。
父の書斎にはそれ関連の、禁書がたくさんあった。」
「それって、母親を甦らせるってことか?」
「そうだ、死者転生は、当然、グラセニアでは禁止され、罰せられる禁術だ。
それを誰よりもわかっていながら、父はその研究に没頭していた。
私は、そんな父の背中を見ながら、ヨミと一緒に遊んでいた。
ヨミは、何も教えてくれなかったが、
暇で書斎の本を見ていると、その本があったんだ。
父は、禁書を見る私を叱らずに、逆にいろいろ教えてくれたよ。
研究に没頭する父だが、
私が本を読もうとすると、私のもとに来て、抱きかかえて優しく語ってくれた。
たくさんの本を読んだ。
父が構ってくれるのが嬉しくて、私は字を読めるようになると、書斎に入り浸りになっていた。
ヨミは、そんな私たちを見ながら、ご飯を作ってくれたり、掃除をしてくれたり、
私が食事中も本を読むのを見て、よく叱られたな。」
過去が、話される。
いまの、アスビーを造る物が、紡がれていく。
「そんな日々のなか、
領主の仕事がおざなりな父の補助として、私もよく街に出るようになった。
そこで、街の人達に出会い、子供なりに視察をしていたんだ。
子供だから大したことは出来ない、
それに悔しさを覚えることもあった。
それで、私は、首都の学校に入ろうと決めた。
独学で政治を学ぶのにも限界がある。
父と同様、学ぶことに貪欲な私は、キャトルと一緒に首都学校の寮に住むことになった。
父はそんな私が離れるのを、悲しんでたらしい。
越していく時、私を見送りもせず、ずっと書斎に籠っていた。私はそれが悲しかったが、ヨミは『泣き顔見られたくないだけや。』と言ってた。
ライクニックを離れて、18まで、首都で私は学んでいた。」
「ボーイフレンドはいたのか?」
「いなかったな、許嫁がいたからな。」
軽く聞いたつもりが、思わぬカウンターパンチを喰らう。
「え?」
「ああ、将来を誓われた。」
「現在進行形で?」
「そうだ。」
「・・・誰だ?」
そいつを亡きものにすれば・・・
そんな、バカなことを考える。
アスビーは、話に食いついた俺を嘲笑うように。
「私の学友だ。首都にいくことがあれば会わせてやろう。」
「クッ・・・若かりし頃のアスビーが汚されたか・・・それはそれで燃えるが。」
「おい、変なこと考えるな。
向こうの親が勝手に決めたことだ、私からすればただの友人だ。」
「ならば、問題ないな。」
「なんの話だ?
断るに断れない相手だから、そのままにしているだけだ。
私は、ライクニックを離れて嫁ぐつもりはない。
ウィルターや、陛下には悪いがな。」
「ん? ・・・陛下? それにウィルターって・・・」
聞きたくないが、聞いてしまう。
「ウィルター・イル・グラセニア。
グラセニアの第3王子だ。」
俺の目の前が真っ暗になった。
実際、真っ暗なわけだが。
禁忌に触れてしまった。
この国、グラセニア王国の陛下の息子が許嫁・・・
だが、アスビーは、純潔らしいと確証が得れたのは儲けものだ。
あとは、その王子をどう消すかだが・・・
くそ!
俺の首が、リアルに飛ぶビジョンしか見えない!
俺のバカな思考が、読めるのか、
背中越しに笑いが聞こえる。
「王子から奪ってみるか? 琥太郎。」
「それは、ここで既成事実を作ってしまえと言うことか。」
「その場合、焦げた屍が部屋に1つ転がるが、それでもいいか?」
「死物狂いの恐ろしさ見せてやろうか、
せめて、ノーチラスの餌にだけはしないでください、お願いします。」
「焦げた死体は、好まんから、それは平気だろう。」
「死体になってる時点で、俺は、平気じゃないな。」
「ならば、バカな考えはよせ。
正々堂々奪ってみせよ、琥太郎。」
大人の余裕というやつか、
歯痒いが、今は我慢の時だ。
「その言葉、覚えとくぞ。」
「そうか。」
背中に感じるアスビーの熱を、
感じながら、俺は
そう決意を固めた。