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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
Calling
17/70

「イディオン回線、異常あり」

「イディオン回線、異常あり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマートフォンの電池が切れた。

 

 アスビーは、再び"充電"しようとしたが、琥太郎は、丁重に断りをいれる。何度も繰り返したら本当に壊れてしまいそうだ。

 

 電池の切れたスマートフォンをテーブルに置き、

 アスビーと、琥太郎はタバコを吸いながら、先程起きた不可解な出来事について話していた。

 

 「何かの偶然か?」


 「それを確かめるべく、こうしている。」

 

 電池切れのスマートフォン。

  もし、これが偶然何らかの形でイディオンで産まれ、送られた電波を拾っただけなのか?

 それとも、怪奇なのか・・・

 

 「おれの世界の怪奇譚では、電池が切れようが、壊れようが、捨てようが携帯は、手元に戻り、謎の電話がかかってくる。」


 「ふむ、手元に携帯し、電気を利用し話す。携帯デンワか。」


 「携帯を一人一台持ち、四六時中手放せない俺の世界の人間たち。常に誰かと繋がれる安心を与えるこれにより、恐怖のどん底に落とされる。良くできた話だろ?」


 「ふむ、私も、このタバコが突然、怪奇となり襲ってきたら流石に、驚くな。」

 

 さっき、さんざん携帯の機能に驚いていたアスビーが、そんな面白いことを言っている。

どんな怪奇だよ。

 

 いじると怒るから、言わないが。

 

 「ということで、こうして放置してみるんだ。」


「ふむ・・・私には、何も異常を感じないがな。」


 「アスビーって、見える人?」


 「見える人とは、どういう意味だ?」


 「いや、霊がさ。」


 「見えるに決まっておろう。お前だって見ただろう。」


 「・・・"サクヤ"や、"ムラサメ"のことか?」


 「そうだ、そもそも、見えない人間など存在するのか?」


 「いや、俺も本来見えなかったんだけどな。ちょっと、寒気がしたり、嫌な視線を感じるくらいはしたがな。」


 「ほう、琥太郎の世界では、霊を見えない者もいるのか。」


 「大半はそうだ。まぁ、世界が違う以上、霊という存在がそもそも違うだろうが。

 俺の世界では、死んだものの魂が、何らかの訳で、あの世へ行かず、現世に留まる。

 その留まった魂が、霊というものだ。」


 「考え方としては、イディオンも同じだな。

 普通、死んだ人間は魂が抜けて、死後の世界へと旅立つ。

 その者の意志、あるいは、周りの環境により魂が残り、現世に定着してしまう。

 それは、妖刀のように物であったり、サクヤのように場所であったりするがな。」


 「なるほどな。その魂が見えるのが一般的なだけで、対して変わらないんだな。」


 「そうだ、お前もいつか、目の前で人が死ぬことを目の当たりにするだろう、そうしたら、見えるさ。」

 

 アスビーは、淡々と告げてコーヒーを啜る。

 

 「あまり、見たくはないがな。」

 

 

 アスビーが、チラリと俺の顔を窺い、カップを置いた。

 

 「・・・琥太郎、お前は私に、この世界に召喚されたこと。

 後悔しているか?」


 「え?」


 「元の世界に、残した人間を懐かしんだり、恋しくなったり、しないものか?」


 「ないな、俺は、今が楽しい。」

 

 

 確かに、考えはする。

 もし、元の世界に戻れたら。

 

 アスビーは、きっと何も言わずにそうしてくれるだろう。

 俺がこの世界に残りたいと言ったとき、目を丸くしていたしな。

普通なら戻りたいんだろ。今までもそうしてきたのだろう。


 だが、俺は、この世界が好きだ。

 違うな、この世界でやっと、生きてるのを実感できた。

 

 誰に言われたわけでもなく、

 自分の足で、心で

 この主たちと、一緒にイディオンで暮らしたいと思った。


親には申し訳なく思うが・・・俺は死ぬまでこっちに居たいと思うんだよ。


 確かに、怪奇なんてものを身近にする以上、いつ、死人を見るかもわからない。

 それが、親しいものだったり、自分自身であるかもしれない。

 

 それでも、

 

 俺は、それを受け止めてみせる。

 そう、誓っている 

 自分の意志で、やっと、歩けたこの世界を。


君と一緒に。

 

 

 「呼んだのはアスビー、君でも。

 選んだのは俺だ。それを辛い目にあうからって、君のせいには絶対しない。」

 

 俺は、強い目でアスビーを見る。

 

 「変わり者だな、お前は。」


 「そうだよ、それでもいいかな?」


 「ふむ・・・すまんな。

 お前の先程、携帯デンワにはしゃぐ姿を見るとな、

 考えてしまったのだ。」


 「俺は、こいつから、離れて満足してるぞ。目の前にそれ以上に、一緒にいたい現実がいるからな。」

 

 

 何とも歯の浮く台詞だ。

 ヨミがいたら、バカにされただろうな。

 アスビーは、その言葉に満足したのか、タバコを吸い、コーヒーを啜る。

 

 

 この時間がなによりも尊い。

 ずっとこうしていられたら・・・

 

 そんな、ホラー映画で一番最初に死ぬやつのテンプレの様なことを考えてる俺に。

 

 

 

 ピロン!

 

 

 フラグ回収と。

 

 俺は、電池の切れたはずのスマートフォンを見る。

 

 

 非通知

 着信中。

 

 俺は、アスビーを窺うと

 アスビーは、コクりと首肯く。

 

 俺は、電話にでる。

 

 

 「もしもし。」

 

 

 電話からは、風の音が吹く。

 ザリザリと、土を踏む音。

 

 相手は、いま歩いて通話中らしい。

 

 「・・・いま、いくよ。」

 

 通話が一方的に切れる。

一人だったら飛び上がって怖がってたろうな。

 

 「いま、来るとさ。」


 「ふむ。

 琥太郎が考えるに、このあと、コイツは何をしてくる。」


 「うむ・・・この、屋敷に来て持ち主を殺しに来るだろうな。」

 

 俺は、至極落ち着いていた。

 目の前に最強の対魔師がいる。

 

 一人だったらチビっていただろう。間違えなく。

 

 「方法は?」


 「わからない。気づいたら後ろにいて。絞め殺すとかかな。」


 「曖昧だな。」


 「さっきも、言ったが。

 この手の怪奇は、数限りなくあるんだ。

 どれかに絞ることは、難しいな。

 ただ、パターンはだいたい一緒だ。

 今から、いくよ。

 いま、あなたの後ろにいるよ。

 不意に襲われる。

 これだ。」


 「そうか・・・つまり、背後を取られなければ、そして、相手の入り口を絞れれば簡単に対処出来るわけだな。」

 

 アスビーは、そういい立ち上がる。

 何か、考えがあるらしい。

 

 俺は、立ち上がったアスビーについていく。

 

 

 「ついてくるな。」


 「は?」

 

 え?

 俺一人にするの?

 それこそ、相手の思うツボだぞ。

 

 「いや、お前も用を足しておけ、長丁場になるかもしれんしな。」


 「ああ、そういうことか。」

 

 

 アスビーは、ムスッとしてお手洗いへ。

 俺も、アスビーとは別のトイレへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 召喚の間。

 

 とでも名付けようか。

 

 俺が、最初にいた場所。

 

 準備万端のアスビーと、俺はスマートフォンを持ち、そこを訪れていた。

 

 真ん中に小さな蝋燭を灯し、周りは真っ黒な壁で囲まれた部屋。

 窓もなく、出入り口は1ヶ所。

 

 

 「ここか?」


「そうだ、この部屋は私が召喚術を使う際の特別な部屋だ。」

 

 

 俺が、部屋に踏み入れると、アスビーは、扉を閉める。

 蝋燭の灯りだけを便りに俺は、アスビーについていく。

 アスビーは、部屋の真ん中に行くと、タバコに火をつける。

 

 

 「籠城作戦ってわけか。」


 「そうだ、相手がどう現れるか知らんが、この部屋に入るには絶対にあの扉を通らなければならない。

 いくら強力な力を持つとしても、霊も魔法もこの壁は通れない。そう作られた特別な部屋だ。」


 「なるほどな。ノコノコ現れた怪奇が、あの扉を入ってきたところを、ガツンと言うわけか。」

 

 俺は、念のため持ってきた銃を一丁腰にさし、蝋燭の元に座る。

 

 タバコを加えて蒸かす。

 

 

 早めに来てくれれば楽だが。

 時間かけられると面倒だな。

 

 そんな楽観的な俺の背中にあわせて、アスビーが座る。

 

 「え?」

 

 アスビーと、俺は、暗い、二人きりの部屋で互いの背中を背に座る。

 

 前言撤回、ゆっくりこい、幽霊!

 

 「背中を見せなければ、安全なんだろう。」

 

 そう、いい俺に体重をかけるアスビー。

 

 うん、確かに、幽霊は大丈夫だろう。

 

 でも、おれは大丈夫じゃない!

 

 暗い密閉空間で若い男女が背中合わせに過ごすなんて、

 こんなシチュエーション、エロすぎる。

 

 

 

 霊よりも恐ろしいのは、俺の理性だ。

 

 高鳴る胸を殺し、

 

 俺とアスビーは、来訪者を待つのであった。

 

 

 

 

 

至福の時間は早く過ぎる。

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