「着信あり」
新話です。
「着信あり」
この、イディオンに携帯電話が存在するかもしれない?
今日は、珍しくスカート姿のアスビーから、思いもよらぬことを聞いた。
昨晩、いつもの執務室で、アスビーに怪奇を話していた。
噺は、俺の世界では在り来たりな、携帯電話から謎の着信が・・・
で始まるやつ。
そもそも、この世界に携帯電話なんて存在しないと思って話していた俺は、
案の定、アスビーにいまいち理解してもらえず、不完全燃焼で終わったのだが、
今朝、昼過ぎに起きてきたアスビーか、そんなことを言ってきた。
「ほんとか?」
「ふむ、グラセニアの、北方に位置するプライズという国で、
人の言葉を遠くへ飛ばし、やり取りが出来る小さな箱状のモノがあると聞いたことがあってな。」
「手紙でやり取りしてる世界でか?」
「プライズでは、異世界からの、技術を転用して様々な便利な品を開発していると聞く。
その話のなかに、昨夜お前が話したケイタイとやらに似た物があったと思い出したのだ。」
いつも通り、足を組みコーヒーを飲むアスビー。
今日はスカートだよアスビー。
膝上までしか、着用者の肌を隠せていないよ。
俺は、足フェチだよ。
当然、アスビーの生足に目がいく。
「スカートか。」
「・・・ヨミがくれたのだが・・・何か、落ち着かんな。」
足をモジモジと組み直すアスビー。
ナイス、ヨミ!
「琥太郎、お前は、そのケイタイというものを持っているのか?」
「ああ、昨晩は、アスビーに上手く説明出来なかったからな。
実際に見せたほうが良いと思い、持ってきた。」
テーブルに、俺の召喚の際に身につけてきた、スマートフォンを置く。おそらく異世界に行った者百人にアンケートを取ると『いらないモノ』第一位になるであろう、スマホ、iPhone。
アスビーは、そんな不要物を手に取りマジマジと見る。
「ふむ・・・よくわからんが、どう使うのだ?」
「すまないが、それ、動力が切れてるんだ。」
充電器があってもコンセントがない。
そもそも、電気がこの国には普及していない。
俺のスマートフォンは、こっちに来て3日ほどで電池切れした。
「動力元は何だ?」
「電気だ。」
「ふむ、ライトニング。」
アスビーは、手にもつスマートフォンに電を流す。
驚き、すかさずスマートフォンを奪う。
「なにしてる!?」
「電気を流したのだ。」
「それは、わかるが! ・・・いや、俺の説明も悪かったな。
これは、専用の装置がないと上手く電気を溜めてくれないんだよ。」
絶対、日本にいてもアスビーは機械音痴だろう・・・
電気が元だと言ったのは俺だが、
だからといって、雷を使うか?
おれは、スマートフォンが壊れてないか、確かめる。
元々、電源がつかないので確かめようもないのだが。
ダメもとで、電源を押す。
本人もやっと、何か不味いことをしたのかと、心配そうにスマートフォンを覗く。
「壊してしまったか?」
「わからないな。動いてくれれば確かめられたのだが。
しかし、この世界の何処かで、これと同じものが普及しているのであれば、希望も持てたのだが・・・」
まぁ、フォルダに溜め込んだ"ネタ"に頼らずとも良いからな。それだけが、心残りだが、
目の前の、美しき主や、キャトルにはよくお世話になっている。
俺は、閉黙しアスビーや、キャトルに心の中で感謝の念を贈る。
男の子なんだから仕方ないだろう。
ちなみに、アスビー6割、キャトル3割、二人一緒に1割だ。
こんなこと、誰も知りたくないだろうが一応言っておく。
あの、悪魔狐では、断じてしない!
心詠まれた時が怖いしな。
アスビーが、俺の肩を叩く。
「おい、琥太郎。
これは、動いてるのではないか?」
俺が目を明け、スマートフォンを見ると
電池残量17%
7/15
14:20
パターン入力
9つの点
ロック解除画面が展開していた。
「バカな・・・」
俺が画面を操作し、ロックを解除すると、スマートフォンはホーム画面へ移った。
俺の反応を見た、アスビーは腕を組み、高々に頬笑む。
「ふむ、私のおかげだな。」
「まさか、そんな・・・」
未だに信じられない。
やはり、この主只者ではない!
俺は、スマートフォンを操作する。
アスビーは、後ろに回りその画面を興味深そうに見る。
「ほー。凄いなこれは。
この小さな箱から、微かに電気を感じるぞ。」
「凄いのは貴方だ、主。今まで、雷に撃たれて復活した携帯など聞いたこともないぞ。」
「ふむ、そうであるか。それで、どうやったらやり取り出来るのだ?」
「それは、できないな。電波がない。」
右上には、圏外の2文字。
「電波とは?」
「電気の波といったところかな。俺も詳しく原理はわからんが、その、波に声を乗せることで、同じく波を送り、受けとることができる携帯を持った、遠くの相手と会話出来るのだ。」
「ふむ、よくわからんな。」
「ああ、俺もだ。だが、原理をよく知りもしない者でも、これを使えばそれが可能なんだ。」
俺は、色々とスマートフォンをいじる。
その光景を、俺の背中に手をかけて身を乗り出して、覗き見るアスビー。
「使ってみるか?」
「壊れないか?」
「大丈夫、落としたり、電気を流したりしなければな。」
俺は、子供の様な反応する可愛い主にスマートフォンを渡す。
アスビーは、スマートフォンの画面に触れて、
おーっと。声を出す。
そんなアスビーを微笑ましく見る俺。
こんな、アスビーの姿。
心のフォルダに焼き付けなければ・・・
あっ!
「アスビー、ちょっと貸してくれるか?」
「ああ・・・」
名残惜しそうに俺にスマートフォンを渡す。
微笑ましく受けとり、慣れた手つきでカメラを起動する、インカメラにしてと・・・
「アスビー、ちょっとこれを覗いてくれ。」
「ふむ・・・なんだ! 私と琥太郎がいるぞ! 鏡か?」
驚く、アスビーと俺をカメラがとらえる。
カシャッ。
シャッターをきり、画像が保存された。
それを見せると驚嘆の顔をする。
「なんだこれは? なぜ、私がいる?」
理解できず混乱するアスビー。
「これは、"カメラ"というものだ。
・・・時を切り取るとでも言えばいいのかな。」
「時を! 平気なのか?」
「平気だよ、こうやって、その時の光景を保存するんだ。」
俺は、慣れた手つきでスマートフォンを動かし、
テーブルに置かれたコーヒーを撮り、それをアスビーに見せてやる。
更に驚きながらスマートフォンを受け取り、感嘆の声をあげるアスビー。
ああ、充電器がこの世界に存在していれば。
女の子とツーショットなど写したことがない。
これで、アスビーの姿を撮り続けれればなぁ。
俺の真似をして、カメラを撮り続けるアスビー。
俺は、タバコを加え、
そんな主の姿を心のカメラで撮り続けた。
ピロン!
突然、スマートフォンから音が鳴る。
アスビーは驚きスマートフォンを落としそうになる。
何か押したのか?
「琥太郎・・・」
アスビーは、オロオロと助けを求めてくる。愛くるしさを感じる姿だが、本当に困っているようなので早々に助け舟をだすとしよう。
「ちょっと、貸してくれ。」
アスビーから、スマートフォンを受けとると
その表示された画面に釘付けになる。
アスビーは、何事かと琥太郎の後ろから画面を覗く。
「着信あり?」
スマートフォンは、確かに圏外である。
だが、今。
琥太郎のスマートフォンには、確かに1件の着信があったのだ。
おそるおそる、通知を確認すると。
非通知
7/15
14:36
琥太郎は、その文字に言葉を失った。