「玖礼とムラサメ」
「玖礼とムラサメ」
屋敷の修復作業が終わった。
ノーチラスが庭を闊歩する以上、清掃を頼むことも出来ず、
俺と、キャトル
そして、何故かノーチラスになつかれている玖礼が手伝ってくれて、
血と雨に濡れた屋敷の玄関を掃除し、壊れた壁などを直し
ほぼ元通り修繕してみせた。
主はそんな俺たちの労を労い
珍しく、街の酒場へと連れてきてくれた。
酒場に、いる客。全員に酒を奢ると言うアスビーの声に誘われ、
酒場は街の人々、騎士たちとでごった返していた。
酒場の片隅でワインを傾けるアスビーと、俺と、何処から話を聞きつけたのかやって来たヨミ。
キャトルと玖礼は、騒ぐ騎士たちの輪に加わり
飲めや歌えやと騒いでいる。
順応性の高いヤツだ。
玖礼は、俺の飲み仲間である、アレンや、ハーパー、ジーノたちと肩を組み歌っている。
キャトルは、それを笑いながら見て、ジョッキを豪快にあおり。
その娘の飲みっぷりに溜め息をつく、バラク。
他の騎士に肩を叩かれて、慰められている団長さんの背中は、哀愁に包まれている。
そんな、光景を遠目で見る、俺は、タバコに火をつけた。
「たまには、こういうのもええなぁ。」
「うむ。」
ヨミと、アスビーは、優雅にワイングラスを傾ける。
「混ざらなくていいのか? 琥太郎。」
「今日は、シッポリしたい気分なんだ。」
「カッコつけよって、ただ、輪に加われないボッチの言い訳やん。」
俺は、狐の小言を流し、アスビーを向く。
アスビーは、タバコを加えて
俺の視線に気づく。
俺は、加えたタバコを上下に振りアピールする。
アスビーは、それを無視して、マッチを摺り火をつける。
「今回、お前はほとんど役立たずだったではないか。」
「屋敷の壁を直したり・・・」
「誰かさんが窓開けて、呼び込んだ妖刀が壊した壁なぁ。」
「・・・封印までの時間を稼いだり。」
「うちが、玖礼を押さえとったから楽やったろ?」
くそ!
この、狐!
「元はお前が、屋敷まで招いた怪奇だろヨミ。」
アスビーは、タバコを蒸かし、ヨミを見る。
「あちゃー、一本取られたなぁ。
だから、うち珍しく頑張ったやろ?
妖刀はんは、字の通り、跡形もなく消えてしまったやん。」
「だが・・・」
アスビーが何か、言い続けようとする。
「封印出来てないんやろ?」
アスビーが、顔を下げる。
「どういうことだ?」
まさか、まだ屋敷に漂ってるとか、
なにそれ夜中トイレに行けないじゃん。
「それはないない。確かに、妖刀の力は押さえられたで。」
俺の、考えを詠んで
そう答える、ヨミ。
「では、何故手応えがなかったんだ?」
アスビーが、頭を悩ませる。
ヨミは、グラスを傾けにこやかに、言葉を続ける。
「器を変えたんや。」
アスビーが、ヨミを見る。
「まさか・・・」
「そ、妖刀はんは、玖礼の中に居るで。」
俺と、アスビーは、玖礼を見る。
玖礼は、今度はバラクに酒を注いで、飲み交わしている。
「おいおい、それって。」
「それで、お前が玖礼を預かると言ったのか?」
「そゆことや。」
ヨミは、ボトルからワインを注ぐ。
あのあと、玖礼が目覚めると
ヨミは、有無を言わせず自分の館で住まわせるわーっと言った。
玖礼は、まだ別の妖刀が有るかもしれないと言っていたが、ヨミは、そんな、玖礼を色々と宥めて、小間使いとして、占い館で住みこみで雇った。
玖礼は、何に納得したのか教えてくれなかった。
「大丈夫なのか?」
「んー・・・うちが、いちお、妖刀の悪ーい物を吸ったしなぁ。
それに、玖礼にどうも馴染んでるんや。」
「妖刀に馴染むって大丈夫と言えるのか?」
「それは、今は何とも言えん。
ただ、何かあってもうちが側にいるからなぁ。
変にまた、放り出すよりは安全やろ?」
「玖礼は知ってるのか?」
「知っとるよ、うちからも説明したし、何より本人が1番感じ取ってるやろ。」
「そのわりには・・・」
玖礼は、アレンとイッキ飲み対決をしている。
イッキ飲みは、危ないので止めましょう。
ヨミは、いとおしそうに玖礼を見る。
「妖刀を自分が、取り込んだ。
玖礼にとっては、エエことなんやないかな?」
「それで解消したのか?」
「妖刀かて、元は力のある霊体みたいなもんや。
使い手によって、その本質が悪に染まっただけ。
その悪い部分は、うちが美味しく戴いたからなぁ。」
さすが、大妖怪。
何か無理矢理納得させられてる気もするが・・・
ずっと話を聞いていたアスビーが、口を開く。
「現状、お前に任せるのが、最善か。」
「そそ、玖礼という器に封印したってことで。
妖刀を納めし人間。
何とも頼もしいやないかい?」
アスビーは、しばし黙りこむ。
しかし、玖礼をその肉体ごと封印するわけにはいかないので、
この話はこれまでと、ヨミは、立ちあがる。
「ほな、うちの子が、悪させんように見張ってなね。」
玖礼は、アレンを潰し、今度はまた、肉屋の旦那と勝負している。
「ヨミ。」
「なんや、小僧。
アスビーとの一時を譲ってやったことに感謝するんか?」
それは、素直にありがとうと言いたいが・・・
俺は、アスビーが妖刀を封印された後、すぐに
ヨミが玖礼にやっていたことを見ていた。
俺が、それを問おうと、口を開く前に
ヨミは、自分の口に手を当てて
シーっとする。
聞くのも野暮ってものか。
俺が閉黙するのを見て、ヨミは怪しく微笑み、玖礼たちの輪に加わりに行った。
肉屋の旦那を破った玖礼に、ヨミは
今度はうちが相手やー
と言っている。
ヨミは確か、酒にメチャメチャ強い。
狐様だしな。
「アスビー。」
俺は、そんな光景もどこ吹く風で、悩んでいる主に声をかけ。
ワインを注ぐ。
アスビーは、俺と杯を合わせ、
俺の拙い気遣いを、優しく受け取ったのか、頬笑むと
グラスを傾けた。
ライクニックの夜は、騒がしく更けていく。
2話目終わりです。
次へと続きます・・・