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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
妖刀
13/70

「クレイmore」

「クレイmore」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪い女やねぇ。日が昇ると、朝日に縁取られた蝶の如し。

 地を這いつくばる虫を嘲笑い。

 サナギを壊して飛び回る。

 陽が暮れると、山へ帰り、

 迷う人を餌にする。」

 

 

 ヨミは、鮮やかな刺繍の着物に身を包み、煙管を燻らせる。

 

 人里離れた山奥に、居を構えた美しき狐の妖。

 求める者の前に姿を魅せ、虜にする。

 そうやって、何百年と生きてきた。

 

 

 

 ヨミは、人間が大嫌いだ。

 狂おしいほど抱きしめて、全てを差し出すと口では言い、

 こちらが振り向くと、熱い情念がどこへやら消え失せる。

 どうせ、たかだか100年の生き世。

 

 何を死に急ぐのか・・・

 

 現れなければ、よかったのになぁ。

 

 ヨミは、目の前に無数に転がる人の屍を視る。

 

 

 その屍の上に、男が立っているのに気づく。

 

 何とも豪胆な。

 

 地を埋める屍を踏み、こちらへ近づいてくる。

 

 

 男の顔が見える。

 額に大きな1本角を生やす大きな鬼。

 

 

 

 「ここは、うちの縄張や。

 消えんかい雑魚。」

 

 

 ヨミが、煙を吹きかけると

 鬼の姿が消える。

 

 興が削がれる。

 小さき魍魎よ。

 

 

 消えた筈の大きな鬼は、ヨミの後ろに現れた。

 

 ヨミが、ゆったりと振り返ると、

 

 鬼は、ヨミの身体を優しく、力強く抱きしめる。

 

 

 「お前を貰いにきた。」

 

 

 ヨミは、煙管を落とす。

 瞳から、何百年来、渇ききっていた瞳から、一滴の泪が零れ落ちた。

 

 

 

 ヨミ・・・

 

 

 ヨミ、ヨミ・・・

 

 

 ヨミ!

 

 

 ヨミの意識が覚醒すると、目の前にアスビーの顔。

 

 息を切らして、切迫した顔つきにヨミは頬笑む。

 

 自分が、どうしていたか思い出す。

 

 

 

 

 キャトルと、玖礼と

 話をしていた。

 

 ヨミが聴いた古今東西の怪奇譚に、新鮮な反応を示す玖礼。

 口では、そんなの、ありえないよーなどと。言うが、手にもつコップがカタカタ揺れるキャトル。

 

 そんな、二人に楽しげに話していると

 

 "霧"が屋敷に入り込むのを感じ取った。

 

 随分早いなぁ・・・

 

 小僧と、アスビーが意図せず、呼んでしもたのかも知れんなぁ。

 

 二人に悟られないように、

 

 

 ちょい、お花摘んでくるわー。

 と、玄関へ出てみると。

 

 

 居った。

 

 

 霧に包まれた、鎧武者。

 

 手には、水の滴る刀を持ち、身を包む鎧は濡れていた。

 

 

 まだ、気づいてないのを利用してヨミは、武者をじっとりと観察する。

 

 武者は、屋敷を見渡し、足を引きずり何かを探し求めている。

 

 憑かれた者の、身体も限界のようだ、

 武者からは、うっすらと湿った腐乱臭が鼻をつく。

 

 

 こんなら、楽勝やん・・・

 

 

 と、ヨミが不意打ちを放とうとすると、

 

 その魔力に気づいたのか

 

 武者の視線がヨミを向く。

 

 武者は、ガシャガシャ音をたて、ヨミ目掛けて刀を振るわんと、走り寄るが、

 遅い。

 

 

 

 「紅桜。」

 

 ヨミが、唱えると。

 血の様に紅い桜が武者の周りに咲きあがる。

 

 武者の鎧ごと切り裂かんと、桜の花弁が舞い荒れ、

 武者の身体からは、多量の血液が流れ出て、ホールを浸す。

 

 されど、武者は、膝つく程度で再び立ち上がるとヨミに斬りかかってくる。

 

 

 刀が離れない限り、不死身か・・・

 

 

 武者の太刀筋を、かわしながらヨミは、どうしようかと、思考していると、

 

 向こうから、風が一迅。

 

 

 「ウィンドランス!」

 

 

 キャトルから放たれた風は、槍を型どり鎧武者の胴を貫く。

 

 武者は、吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

 

 「こいつが・・・」


 「せやな。妖刀と、その使用者や。」


 「臭い・・・」


 

 キャトルが顔をしかめる、

 

 流れ出た血の匂い

 武者の身体から漂う腐乱臭。

 

 

 二人の攻撃をモノともせず武者はゆらゆらと立ちあがる。

 

 

 「刀をやらんと、キリがないで。」


 「気味悪いやつ。

 ねぇ、あの使用者って・・・」


 「ああ、とっくに死んどるやろな。」

 

 

 キャトルは、嫌悪感を感じる。

 死者、アンデッドとは、何度か対峙したことがあるが、

 

 それよりも、強い邪念と未練を感じる。

 

 

 「キャトル、別に難しいことないで、アンデッドよりも楽や。

 あの様子だと、この街に来て、真っ直ぐ屋敷に来てくれたみたいやしな。

 刀さえ押さえてしまえば終いや。

 それよりも・・・」

 

 

 玖礼は、どこへ行った?

 

 とキャトルへ、聞こうとするヨミ。

 

 二人の背後から、人が飛び出る。

 

 そいつは、武者に真っ直ぐ飛びかかる。

 武者は不意を喰らい組み伏せられる。

 飛びかかったのは、玖礼である。

 武者の頭を、腰の刀の柄で殴る。

 殴る、殴る、殴る。

 武者の頭から、血が迸る。

 しかし、武者の人間の制御を越える力が、猛威を振るい、逆に玖礼を組み伏し、上にのしかかり、その首をはねんと刀を振るう。

 

 

 「玖礼くん!」

 

 キャトルは、背中に背負う弓に手を伸ばす

 

 が、その手は後ろにいた"玖礼"に止められる。

 

 

 「焦るな、エルフ娘。捕らえよったぞ。」


 「へ?」

 

 

 目の前で組み伏せられる玖礼と、背後から声かける玖礼を見て、混乱するキャトル。

 

 

 「やりおるなぁ、玖礼。」


 「テーラバインド!」

 

 

 武者に、伏せられた玖礼の身体が土と変わり、その土が武者の身体にまとわり固まる。


「あんだけ精巧なゴーレムを造るなんて、いい腕しとるなぁ。」


 「ゴーレム?」


 「地の魔法や、こんだけ本人に似せられた物は、中々みーひんなぁ。」


 「わしの、得意分野じゃ。」

 

 

 どうじゃ!

 

 と胸を張る玖礼の脛を蹴るキャトル。

 

 

 「いたっ! 何すんじゃ!?」

 

 

 玖礼は、蹴られた意味がわからず、キャトルを見る。

 キャトルの眼に、涙が溜まっているのをみて、閉口する。

 

 

 「すまんのぅ、心配かけて・・・流石のワシもいきなり飛びつくなんて馬鹿なことせんぞ。」


 「大馬鹿の玖礼くんなら、やりかねないじゃない・・・」

 

 

 キャトルの態度におどおどする、玖礼。

 ヨミは、自分の撒いた種や

 と放っておく。

 

 カランと、音がした。

 

 ヨミが、音の方を振り返ると、

 

 

 目の前に投げられた刀。

 

 

 鎧武者は、土に潰され姿を消す。

 

 

 

 刀から霧が立ちこめる。

 

 その霧が、徐々に形作られ

 先程の鎧武者の形になる。

 

 

 「あかん!」

 

 

 武者は、刀を拾い、キャトルの背に斬りかかる。

 

 ヨミは、キャトルの背を突き飛ばす。

 キャトルを振り外した、刀は

 切り返し、勢いのままに、玖礼めがけ、

 

 正面から振るわれる。

 

 

 

 玖礼と、キャトルは一瞬の出来事に目を開く。

 

 

 キャトルの顔に刀が作り出した鮮血がかかる。

 

 玖礼は、ヨミに抱きつかれて、そのまま、後ろへ倒れる。

 

 のしかかるヨミの背中が、バッサリと袈裟斬られていた。

 

 

 「ヨミ殿?」

 

 玖礼の呼びかけに応じぬヨミの身体。

 

 

 「ヨミ!?」

 

 駆け寄ろうとするキャトルの前に武者が立ちふさがる。

 キャトルは、弓を捨て、剣を抜く。

 

 武者は、キャトルに刀を振るう。

 鋭い切先の刀を防ぎ、鍔迫るも

 武者は、押し斬ろうと力をこめる。

 

 キャトルは、武者の刀を受け流し、体制の崩れた武者に一太刀浴びせようとするが、

 武者のまた身体は霧散し、キャトルの剣が空を切る。

 

 霧散した霧が、キャトルの背後で、武者の形を造りキャトルを後ろから、裸締めする。

 

 キャトルの首を凄まじい力で締めつける武者。

 その力に苦しむも、

 魔力を溜めて

 

 「ウィ・・・ンド・・・ブレス!」

 

 キャトルの身体から放たれた突風が武者の身体を吹き飛ばし

 咳き込みながらに剣を握り直し、武者を見る。

 

 武者は、体勢を崩すが、直ぐに刀を構え、キャトルに対峙する。

 

 

 距離を取らないと・・・

 

 

 キャトルは、倒れたヨミと玖礼を見る。

 玖礼は、斬られたヨミを抱えて呆然と目を見開いている。

 

 

 せめて、玖礼が・・・と思うが

 ヨミの身体を抱いたまま動かない玖礼に期待は出来ない。

 

 そんな、キャトルの様子を嘲笑うように武者は、刀をゆらゆらと漂わせる。

 

 「舐めないでもらおうか・・・」

 

 キャトルは覚悟を決め剣を構える。

 

 

 武者は、キャトルに構えると腰を落とす。

 

 キャトルの、額をヨミの血が垂れる。

 

 「アスビー・・・琥太郎・・・」

 

 後は、任せた。

 

 

 

 キャトルは、剣を手に決死に武者へと斬りかかる。

 

 

 

 「お待たせたな。」

 

 

 銃声。

 武者の顔をとらえた弾丸が破裂する。

 武者は、衝撃と、破裂した煙に体勢を崩す。

 その武者に、追い打ちかけるように銃弾が浴びせられる。

 

 武者は、膝をつき弾丸の雨に身を屈める。

 

 「遅いよ。」

 

 キャトルが、顔をあげると階上に

 2丁の銃を撃つ琥太郎。

 

 

 「タイミングピッタリだろ?」


 「調子こくな・・・。」 

 

 琥太郎は、弾を込めながら階段を走り下る。

 武者は、弾の雨が止むと、立ちあがり琥太郎へと標的を変える。

 

 「ウィンドランス!」

 

 武者へと、魔法を浴びせ琥太郎の隣に並ぶキャトル。

 

 「で? カッコよく駆けつけた琥太郎の、作戦は?」


 「これだけ、稼げれば充分だろ? アスビー。」

 

 

 煙が晴れると、武者の後ろにはアスビーが立っていた。

 

 「ふむ。トルニ・スパーク!」


 武者の頭を掴み、直接雷を喰らわせるアスビー。

 

 武者の身体を、強烈な雷が走り、

 その身は、痺れ。上手く霧散出来ない。

 武者は、膝をおり、身体を震わせている。

 

 

 アスビーは、魔力を貯めながら倒れるヨミと玖礼に近寄る。


 バッサリ斬られた背中は、傷ひとつ残らず修復していた。

 

 

 「いつまで、休んでる気だ、ヨミ。」

 

 

 ヨミは、玖礼を強く抱き締め、

 顔だけアスビーに向ける。

 

 「抑えとかな、アカンやろ?」


 「ん?」

 

 玖礼の眼は、見開かれ鎧武者の刀を見詰めている。

 ヨミの拘束を振りほどかんと、力を込め。

 

 アスビーは、玖礼の様を見て、側頭部を蹴り抜く。

 玖礼は、モノともせず刀を見続ける。

 

 「持ちそうか?」


 「いま、呼びかけとるところや。」


 「では、このまま、封印しても?」


 「出来れば、早めに頼むわー。結構しんどいねん。」

 

 アスビーは、封印の文を唱える。

 

 「琥太郎! キャトル!」

 

 鎧武者を捕らえていた雷が弱まる。

 

 武者は、立ちあがり玖礼だけを目掛けて突進する。

 琥太郎は、ライフルを構え武者の身体に撃ち込む。

 キャトルは、弓を構え

 武者の額を綺麗に射抜く。

 

 先と同様に武者の身体が霧散しようとするも、それはさせまいと琥太郎は、武者の刀をはじき落とす。

 

 武者は、足を引きずりながらに刀を拾い上げる。

 

 「ビンゴ。」

 

 琥太郎は、執拗に刀に狙いを定め撃つ、撃つ、撃つ。

 

 刀を失った武者は、刀を拾う。

 

 今度は、キャトルの矢が刀を弾き飛ばす。

 武者は、刀を拾おうと足を進めるも、刀は、キャトルと琥太郎により、武者から離れるように地面を滑る。

 

 滑稽にも、刀を追う武者とそれを許さぬ琥太郎の弾丸、キャトルの矢。

 

 そんな、追いかけっこが続く。

 

 

 

 玖礼の手がヨミの身体に回され、締め上げる。

 ヨミは、目を閉じ玖礼の頭に頭突きする。

 鈍い音と共に、互いの額から血が滴る。

 

 ヨミは、構わず何度も、何度も、何度も頭を叩きつける。

 

 

 「離せ、狐・・・」


 「離さへんで、これはうちの物やから。」

 

 

 玖礼に入る別のモノ。ヨミを睨み付けへし折らんとばかりに腕に力をこめる。

 ヨミの身体からミシミシと音がする。

 それでも、ヨミは、

 玖礼の瞳を見つめ、頭を振りかぶり玖礼の額に叩きつける。

 ヨミの眼が煌々と光り、髪の色を金色に染める。

 

 「うちは、欲深いんや。」

 

 ヨミは、再度、頭を叩きつける。

 ヨミの口端から、血が垂れる。

 

 額をつけ、玖礼の瞳を捕らえて離さないヨミ。

 

 

 「"妖刀"風情が、調子にのんなや、ボケ。」


 「我は・・・」


 「うちの物を使うなや。」

 

 

 ヨミは頭を叩きつける。

 

 「この者の、魂の一部・・・」

 

 ヨミは、頭を打ちつける。

 ヨミの鬼気迫る姿に、押されアスビーは、魔力をこめていく。


 玖礼の頭が揺れる。

 玖礼の瞳に色が戻り、ヨミを捉える。

 

 

 「ヨ・・・ミ・・・どの・・・」

 

 

 ヨミは、血を流し玖礼に頬笑む。

 

 

 「名はなんや?」


 「ム・・・ラサ・・・メ・・・丸・・・」

 

 玖礼の瞳が色を失う。

 そして、妖刀が意識を乗っ取り、ヨミの身体を更に締め上げる。

 

 

 「ア・・・スビー!」


 「汝、"妖刀ムラサメ丸"

 我が言に従い、憎しみと、怒りを治め・・・」

 

 

 アスビーの言葉に従い、武者と刀の地面に雷の術式が造られる。 

 

 武者は、刀を掴みその術式を壊さんと刀を地面に突き立てる。

 

 「クッ・・・!」


 アスビーは、抵抗を治めようと魔力をこめる。

 

 

 「ワカ、キ・・・ジュツシャヨ・・・」

 

 武者は、アスビーに話しかける。

 

 「なん・・・だ、 ムラサメ丸・・・」

 

 アスビーは、魔力を強みる。

 武者は、術式上に正座する。

 

 

 「ワレ・・・・・・・ノ・・・・・

 イチブ・・・・・・

 アルジ・・・・・・カエラン・・・・・・」

 

 

 刀が霧散する。

 

 「トルニ・ケーラ!」

 

 アスビーの封印術が、武者を捕らえる。

 武者は、鎧が剥がれ、中身が露になる。

 朽ち果て、骨と化した者。

 

 その者は、玖礼を見ると、

 

 刀と共に霧となる。

 

 

 霧は、宙を漂い

 玖礼の口内へと流れ込む。

 

 アスビーたちは、その事に気づかない。

 

 武者と刀は、封印に負け消失したと思っている。

 

 ただ、ヨミは

 

 力なく項垂れる玖礼に入ったそれを見逃さない。

 

 「目覚めたら、覚えとらんやろなぁ。

 罪な男やなぁ、じぶん・・・・」

 

 

 玖礼の頬を優しく、支え

 ヨミは、玖礼に口づける。

 

 玖礼に入ったやつを探し、それを吸いとる。

 

 玖礼の唇から、名残惜しそうに離れるヨミ。

 

 

 「あとは、あんた次第や・・・」

 

 眠りにつく、玖礼に膝を貸し

 ヨミは、その髪を鋤いてやる。

 

 

 「不思議なやっちゃなぁ・・・」

 

 

 ヨミは、どこか懐かしい感覚に陥り、眠る玖礼を見守っていた。

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 


気づけば100ユニーク突破してました。


ありがとうございます。


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