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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
妖刀
12/70

「殺戮の剣」


 

 「殺戮の剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライクニック国境の関所。

 

 その日、朝から深々と雨が降っており、

 少し離れた森林には霧が立ち込め、太陽は厚い雲に遮られる。

 

 陰鬱な昼下がり。

 

 バラクとアレンは、合羽を羽織り、今日、7人目の通行者となる商人のチェックをしていた。

 

 馬車の荷はリンゴなどの果実、

 バラクたちのよく知る商人は、3つ離れた街に畑を持つ。

 

 「この、天気の中ご苦労様です。」

 

 通行許可書を商人に返すアレン。

 革のフードを羽織る商人は、苦笑いしながら許可書を受けとる。

 

 「品が品だからな、天候を言い訳には出来んさ。」


 「よお、一服でもしてったらどうだ? 不味いコーヒーくらいしかねえけどな。」

 

 バラクは、湿気った葉巻を加えながら、屋根の下から声かけた。

 商人は、荷の積んだ馬車を路に停めて、その言葉に甘えることにする。

 

 時おり、遠くで雷鳴が轟く。

 雨は、勢いを増し地を濡らす。

 

 商人と、アレンは雨を払い屋根へはいる。

 

 「助かるよ、バラクさん。」

 

 商人は、暖かいコーヒーをバラクから受けとる。

 

 

 「この、天気じゃ俺たちも暇なんだよ。」


 「通行止めにしても、支障ないくらいです。」


 「それも、そうだね。こんな日に、外に出る好き者もいないでしょうよ。

 私も荷を渡せば、酒場にでもしけこむさ。」


 「代わりになってくれてもいいんだぜ。銀5枚くらいでどうだ?」


 「それは、良い考えですね。」

 

 冷たい雨にうたれて、二人は心底うんざりし、冗談ばかしにぼやく。

 商人は、肩をすくめ、

 

「勘弁してくださいよ。この時期は収穫時なんだよ。」


 「そのくせ、酒は飲みにいくんじゃねえか。」


 「飲まなきゃやってられませんよ。この天気のなか、帰るなんて自殺行為だ。

 昨日までは、日柄も良かったのに、どうしちまったんですかね。」

 

 

 この、時期のライクニック近郊は太陽が日中、晴れ晴れと顔をだし、街は行商人に溢れ、活気を見せる。

 降ってもにわか雨程度。

 

 今日のようにバケツをひっくり返した様に降り続くのは、珍しいことである。 

 

 商人の悪態に、同意するバラク。

 

 向こうから走ってくる馬車を見たアレンは、タメ息まじりに外へでる。

 

 雨に降られて、急いでる風な馬車をボンヤリと見ているバラク。

 

 しかし馬車は、勢いのままこちらへ向かってくる。

 アレンは、大声で、停まるように声を飛ばすが、

 

 

 馬車の操者がいない。

 無人の馬車を、引くのは目を血走せる馬。

 アレンは、事態に気づくと、

 瞬時に判断し、全速力で近づく馬車に飛び乗る。

 

 アレンが手綱を握りどうにか治めようとするが、抑えが聞かない。興奮した暴れ馬は、吠え、関所へと突撃しようとする。

 

 

  バラクは、葉巻を消すと剣を掴みスピードの落ちぬ馬車の前へ駆けだし、

 

 「ウィンドウォール!」

 

 バラクの手から風の障壁がうまれ、

 馬は、壁に勢いのまま、鼻から突っ込む、

 

 顔を強打した馬は、

 悶え暴れ、馬車を切り離しどこかへと走り去っていき、

 支えを無くした、荷台は、前のめり地面に突っ伏す。

 

 アレンは、咄嗟に馬車から飛び降り地面へ肩から落ちる。

 

 「アレン!」


 「僕は平気です。」

 

 肩を地面に叩きつけたが、頑丈な鬼族の彼は、直ぐに立ちあがることができた。

 

 

 「無茶しやがるな。」


 「すいません、身体が咄嗟に動いちゃって。」

 

 バラクと、アレンは無人の馬車を見る。

 荷物は、手をつけられていない。

 野盗の仕業ではなさそうだ。

 

 車輪は、曲がり泥にまみれている。

 

 

 「運転手は、どこに?」

 

 バラクが、馬車の走っていた道を見る。

 森から立ち込める霧で先が見えない。

 

 遅れて商人が、駆けつける。

 

 

 「森の中は霧がとても濃い・・・道を誤って落下したんでしょうか?」


 「アレン、街から何人か呼んでこい、森へ入るぞ。」

 

 もし、森で落馬したなら、すぐ捜索しなければ。

 

 怪我で動けなくなっていれば魔物の格好のえじきだ。

 

 アレンは、頷き街へ走り去る。

 

 「たくっ、こん日に。最悪だ。」

 

 

 バラクは悪態づき。

 関所へ戻る。

 

 霧は濃さを増し、少しずつ関所をも包もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスビーの屋敷。

 

 山の、中腹に位置する屋敷は、森から立ち込める霧に包まれていた。

 

 

 いつもの執務室に、

 アスビー達は集まっていた。

 一人掛けのソファにアスビー。

 今日は、深紅のタイトな服。下は、ミニに、黒いタイツ。

 

 向かって右手のソファには、キャトルと琥太郎。

 左手には、ヨミと、玖礼が腰かけている。

 

 

 「はい、それでは。『血塗られた魔剣』討伐作戦会議を始めます。」

 

 キャトルが議事を進めるらしい。

 

 まだ、寝起きであり、この天気に陰鬱なアスビーは、琥太郎を使いに出して、玖礼達を屋敷に連れてきたのだ。

 

 アスビーは、目を閉じ、取り合えずは、任せたというスタイルである。

 

 「いやー、ありがとなぁ。

 昨日は、色々、言ったもんの。流石に心細かったんや。」


 「ありがとのぅ、領主。」

 

 玖礼は、アスビーな頭を下げる。

 アスビーは、目を閉じたまま、頭を動かし、

 構わんよとでも、いうように頷く。

 

 3人は気にしてないみたいだけど、アスビー、寝てんじゃね?

 

 おれの国の偉い議員様方みたいだぞ。

 腕を組み、足を組み、顎を引き、険しい顔つきで目を閉じる姿、

 俺も、よく授業中にしていたな。

 

 大概、バレるのだが

 それは、先生と生徒という立場だから。

 アスビーは、ここの家主であり、領主。

 

 偉い人補正が、かかると、騙されそうになるなぁ。

 俺は、意識のない主の下半身を心配そうに見る。

 あ、もうちょいで見え・・・

 

 「アスビー、小僧が、組んでる足の間からタイツ越しにパンツ見ようとしてるでぇ。」


 「何故バレた!」

 

 アスビーは、目を閉じたまま腕を振るうと、俺の頬をテーブルに置かれていたフォークが掠める。

 

 「あ、ちゃんと起きてるんやな。」


 「琥太郎・・・」


 「俺を使って確かめるな狐様。」

 

 

 アスビーは、不機嫌に目を開ける。

 

 「ちゃんと聞いてるぞ。心外だな。」

 

 キャトルと、ヨミが

 おーっと呟く。

 

 お前らも寝てると思ってたんかい。

 

 アスビーは、半目でコーヒーを啜り、頭を覚まそうとしている。

 玖礼は、目の前のコーヒーを苦い顔で見る。

 

 「はい。」


 キャトルは、砂糖とミルクを玖礼に差し出す。

 玖礼は、おぉー!

 と声をあげ、コーヒーに砂糖とミルクをドバドバ入れて飲む。

 

 入れすぎたようだ。

  

 また、顔をしかめる。

 

 

 「入れすぎだよ、アタシのと替えてあげるよ。」

 

 

 キャトルは、玖礼のカップと自分のを入れ替える。

 玖礼は、キャトルから貰ったカップに口をつけると、満足そうに飲みすすめる。

 

 それを見ていたヨミは、面白くなさそうな顔で、

 玖礼に手造りケーキをすすめている。

 

 あれ、何か、悔しい。

 こいつら、今まで、俺にこんな優しさしてくれたか?

 いや、ない! 

 

 しかし、こちらから欲しがっては甘く見られる。

 

 俺が、敗北感と自尊心に苛まれていると、

 アスビーが、ふむ。と言い腰をあげて、俺に目配せすると、廊下に出る。

 

 特に気にしてないヨミ達を尻目に、俺は、部屋を出た。

 

 廊下の壁にもたれた、アスビーは俺に気づくと、タバコをくれとジェスチャーする。

 

 そういえば、朝の一服をしてなかったか。

 

 「隠してたタバコは?」


 「もう、無い。後で買ってきてくれ。」

 

 アスビーにタバコを1本渡し、火をつけてやる。

 俺も、加えて火をつけようとする。

 

 「アスビー、シガーキスって知ってるか?」

 

 さっきの、玖礼の甘やかされぶりを見た俺は、少し甘えてみたくなった。

 

 「知ってる、やらんぞ。」

 

 ですよね。タバコ文化があるこの世界ならば、そして、異世界文化にも精通するアスビーならば聞いたこともあるだろうか。

 と落胆しながら自分のタバコに火をつける。

 

 あの、シチュ憧れるんだけどなぁ。

 タバコを介してお互いの呼吸が混じり合う程に近づいた距離。


大人のキス。

 少しほろ苦い紫煙のキッス・・・

 

 「日々、頑張る従者に少し褒美をくれてもいいのではないか?」


 「精進してたら、考えておいてやろう。」


 「期待してるぞ。」


 「その言葉、そのまま返そう。」

 

 

 タバコを蒸かし、宙を見るアスビーの横顔を見る。

 

 「少し、歩こうか。」


 「ん? ああ」

 

 

 アスビーに、並び廊下を歩く。

 

 

 「いいのか? ほっといて。」


 「うむ。どうせ、アレが現れるまではすることがない。

 それに・・・あの雰囲気に居ると何かイラつくのだ。」


 「同感だ。」

 

 

 アスビーは、屋敷の窓から外を眺める。

 霧が濃く、ほとんど何も見えない。季節外れの霧だろうか。昨日まで晴れた日が続いていたというのに・・・

 

 「なぁ、この霧って。」


 「その考え、悪くはないぞ。」

 

 "妖刀"ムラサメ。

 

 使用者の殺気に呼応し、霧をだす刀。

 

 時期外れの雨が降り、

 ライクニックを霧が包む、

 考えすぎな気もするが・・・

 

 「なぜ、私が外に出るのが億劫なのかわかるか?」


 「雨の日は誰も外出なんてしたがらないだろう。」


 「それも、あるが。

 この霧、どうも嫌な気を感じる。

 私や、ヨミくらいしか気づかないだろうがな。」


 「近くに来ていると?

 まさか、俺が話したまんまのヤツが、来るなんてご都合主義すぎやしないか?」


 「"妖刀"とは、そういうものだ。

 怪奇は、求め呼べば向こうからやって来る。

 "妖刀"は、特にそうだ。

 そうやって、何十年と人々を恐怖させてきたんだ。」

 

 タバコを消し、俺とアスビーは、霧に包まれたライクニックの街並みを眺める。

 

 近くで雷鳴が轟く。

 

 キャッとかわいい悲鳴が、聞こえる。

 当然、雷使いのアスビーが発信源ではない。

 きっと、キャトルだろう。

 

 今日、2本目のタバコに火をつけた俺とアスビーは、ボンヤリと外を眺めていた。

 

 

 今度は、すぐ近くに雷が落ちる。

 光と音が、ほぼ同時に、俺に届いた。

 

 庭に落ちたかも

 と思い、窓に手をかける。

 

 アスビーも、気になったのか、二人で窓から身を乗り出す。

 

 風は、あまり強くないが、窓から雨が少し入ってくる。

 身をのりだしても、霧が濃く、全く見えない。

 

 アスビーが、霧から嫌なものを感じると言っていたのを思いだし、入り込む前に、窓を閉める。

 

 

 「・・・」


 「・・・」

 

 

 アスビーが俺を無言でみる。

 

 

 「・・・見てこようか?」


 「うむ。いや、私も行こう、お前一人ではノーチラスに襲われるかもしれないしな。」


 

 なんか、いつもと様子がおかしい気がする。

 いつもの主なら、

 窓から俺を蹴り落とし、めんどくさいから、見てこいとでも言うはずだ。

 

 廊下を歩きたいと言ったり、今日は何かアクティブだな。

 

 心なしかアスビーの顔が紅潮している。

 

 「・・・アスビー。何か、調子良さそうだな?」

 

 アスビーは、ふむ、と頷き。

 黙って何やら、考えている。

 

 俺の方をチラチラ見ながら、

 恥ずかしそうに、口を開く。

 

 

 「ふむ・・・私の魔法属性上というか・・・何というか・・・雷が鳴ると心が高揚するのだ・・・」

 

 

 おいなんだ、この主、可愛いな。

 

 雷が鳴るとテンション上がるって、台風が来てワクワクしてる小学生みたいじゃないか!

 

 アスビーの意外な1面を知れて、雷小僧な、主と同様にテンションがあがる、おれ。

 

 顔に出さないように、必死に笑みを殺す。

 

 

 紅潮した顔を見せまいと、玄関めがけて早足で歩きだすアスビーの後に付いていく。

 

 

 「何を黙っておる。」


 「いや、日に日に主の魅力が増すのに、身震いしていたのだ。」


 「・・・」

 

 

 アスビーは、無言で歩く。

 その後ろに付いていく琥太郎。

 

 どうにか、顔を覗きたいが

 止まってくれない。

 

 歩幅にして5歩、6歩。

 

 俺は、いつか君のとなりに並ぶことが出来るのだろうか?

 

 そんなことを不意に考えてしまった。

 

 

 

 この世界に、召喚された。

 

 日本にいた頃、何にも情熱を燃やせず、何を続けても続かなかった。

 

 きっと、あのまま何年も、あの喫茶店の窓から変わらぬ風景を眺めていたのかもしれない。

 

 気づいたら、君が目の前にいたんだ。

 

 あの世界で出会ったのなら、

 きっと話すこともなかっただろう。

 

 偶然、君が呼んで、

 

 偶然、あの世界の、

 

 偶然、あの時代の、

 

 偶然、あの場所の、

 

 偶然、俺が呼ばれた。

 

 

 

 そんな、偶然が起こした奇跡なのに、

 これ以上を、求める自分のエネルギーはいったい何処から出てくるのだろう?

 

 

 アスビーが、玄関ボールの階段の前で足を止める。

 俺は、ずっと彼女の背中を追っていた、そして、追い付いた。

 

 

 

 彼女は、息をのみ階下を見つめる。

 

 

 俺も、つられてそちらを見る。

 

 屋敷の扉は開かれ、雨風が音をたてはいりこみ、霧が風に流されてその後に続く、

 

 

 手に刀を持つ、鎧の武者。

 

 肩から息をつき、剣を構えるキャトル。

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 床に広がる血の上で玖礼と、ヨミが倒れていた。

 

 

 

 

 

VRっていいですね。

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