「ムラサメ」
今回も説明過多
「ムラサメ」
アスビーの屋敷。
その日、キャトルに連れ回された琥太郎は、疲弊していた。
嫌々行った、占い館に不在だったヨミ。
運が良いと思い屋敷に帰ってみると、ヨミと探し人がいた。
不機嫌なアスビーに何故か、探し人どもども雷を喰らい、
ヨミには、蹴飛ばされ、キャトルに命からがら助け出され。探し人を詰所に連れていくと、帰ってきていたバラクに襲われる。
そして、先ほど日が変わる前にやっと屋敷に帰ってこれたと思えば主に呼び出されている。
呼び出した帳本人、アスビーさ見るからに機嫌の悪そうに、先ほどから、窓の外をタバコを加え、腕組みしながら眺めていた。
半刻はたとうと言うのに、黙ってタバコを吸っている。
風呂上がりで艶のある赤い髪。
ゆったりとした、ローブの下には熱を持つ美しい肢体。
触れてしまいたい衝動を押え、琥太郎は、重い口を開く。
「アスビー。」
「琥太郎よ。」
アスビーは、タバコを消すと琥太郎を振り返る。
何時ものように鋭く、美しい金色の瞳が揺れている。
何とも、そそられる瞳だ。
そんな冗談も挟めなさそうな雰囲気の主は口を開く。
「"妖刀"という怪奇を、聞いたことがあるか?」
"妖刀"
小さい頃、よく学校帰りに道端の木を拾ってそう名付けたり。
修学旅行でこっそり買った木刀にそんな名前を付けたりはしたが、
こちらの世界の"妖刀"は、そんな子供が軽々と名づけて良いものではないと、キャトルに聞いたことがある。
何でも、それを口にすると呼び寄せてしまい、手に持つと魂を吸われてしまうとか。
イディオンにおける年間死亡者のうち、1割は妖刀によるものだと聞いたことがある。
さっきの玖礼という男。
外国人が、ジャパニーズサムライのコスプレをしました。という風体の男が何度か口にしていたな。
「"妖刀"か・・・俺の世界で有名なのは『ムラサメ』、『ムラマサ』、『シラヌイ』何て物があるな。」
「ふむ・・・『ムラサメ』とやらに聞き覚えがあるな。」
「まじか。こっちに召喚されてるってことか?」
「ああ、東方の騎士が、それを呼び寄せ、扱おうとしたが、多大な死者を出して、剣だけが行方をくらませたと言う言い伝えがある。」
「『ムラサメ』か・・・おれの世界に伝わる話に出てくる伝説の剣だな。
持ち主の殺意に呼応して、霧を出し、斬ったものの返り血を洗い流すとか言われてたかな。」
里見八剣伝でも似たような剣が出てたな?
まあ、創作だから類似品が出るのもやむなしか。
「なるほどな。恐らく、それで間違いなかろう。
使用者は、人を斬る事しか考えられなくなり、死ぬまで剣を振るい続けるとか。」
「凄い、厨二心を震わせる話だけど、それがどうかしたのか?」
アスビーは、椅子に腰掛け俺を見据える。
俺は、主の真剣な雰囲気に乗り、その瞳を見つめる。
「ヨミについて、お前は、どこまで知ってる?」
なぜ、ヨミの話なんだ?
至って真剣な話の続きらしい、妖刀、ヨミ。
繋りがあるということか?
「元は、俺の世界の妖怪だろう。
アスビーの父親に召喚されて一緒に旅したとか。」
「そうだ、そして、召喚以前の記憶がない。
ただ、父は召喚した際に知り得た情報で、強大な力を持つ"千年狐狸の精"だと教えられた。」
「ヨミが?」
「聞いたことがあるか?」
「あるもなにも、"千年狐狸の精"っていったら、俺の国に、伝わる三大妖怪だぞ。
時代と世界を股にかけて、人間に悪さした。狐の妖怪・・・
うわ、何か大変なことしてたな俺・・・
よく、殺されずに済んでるなあ。」
日本の三大妖怪様に、年増と言ったり、セクハラしたり。
基本、女性にセクハラしかしてないみたいに思われたら嫌だが。
ヤバイ、明日にでもお稲荷さん持って行こう。
謝るのは癪だけど、それとなく、好感度上げとこう。
「お前の、運の良さには自信をもって良いぞ。
ヨミは、本来の力を出せないからな。
記憶を取り戻して、力が戻れば、恐らくイディオンの七怪奇にも名を連ねるほどの力を持つだろう。」
「七怪奇?」
「お前が偶然にも、この前1つを話していたな。
ここイディオンには、あまりに恐ろしく人の手に負えない七つの怪奇がある・・・
「姦姦蛇螺」
「妖の王」
「人造人間」
「スレンダーマン」
「ヴィジャボード」
「吸血鬼」
「13日の金曜日」
この七つの怪奇は、一夜で国を滅ぼすとも言われている。」
「どれも、これも聞いたことある話ばかりだな、聞くのはいいが実際に関わりたくないな。」
琥太郎は、そういうオカルト話が好きで、色々ネットで調べたりしていたのでこの手の知識が多い。
まさか、そんな趣味がこの世界で役立つとは思ってもいなかったが。
「話が逸れたな、本来ならお前の知る七怪奇について、聞きたいところだが、あまり時間がなくてな・・・」
何よりも怪奇噺を好む主には珍しい、
それほど、ヨミと"妖刀"に関して何かあるに違いない。
「推測するに・・・
ヨミは、あの玖礼と一緒に、その妖刀やらを捕まえようとでもしてるのか?」
アスビーが目を丸くする。
妖刀の話から、ヨミの話へ。
そして、玖礼が、妖刀を探してると言っていたし。推測は出来た。
「琥太郎、お前の洞察力には、珠に目を見張るな。」
「惚れ直したか?」
「直すも何も、惚れてなどいないが。」
アスビーの、気が少し落着きタバコを吸い出す。
俺もつられて1本。
煙が部屋に立ち込める。
いつもの、アスビーの調子に戻ってきた。
ほんと珠には、やるなぁ俺。
「精進しろ。」
「問題ない。気を引き締めて、主。」
「ふむ。それで、ヨミの話だが、どうも、あいつの無くした記憶の手がかりに"妖刀"が関わっているらしいのだ。」
「それは、初耳だ。」
「それで、ヨミは、玖礼を餌に"妖刀"を呼び寄せて、記憶を取り戻そうとしているのだ。」
「そんな行動的なヨミって、珍しいんじゃないのか?」
あの、狐様は、いつも自分を安全圏に置き
ウマイところだけを吸うタイプの質だと思っていたんだがな。
それで、アスビーが悩む訳だ。
"妖刀"の恐ろしさと、玖礼の存在。
もし、ヨミの狙い通り"妖刀"を招き入れたら、この街に少なからず犠牲者が出るだろう。
それに、いくら、望んでいるとはいえ、人の命を餌にするような、事を何よりもアスビーは、望まない。
ただ、家族のように慕うヨミの手助けもしてやりたいのも、また事実だろう。
ヨミが今回、珍しくも自らが最前線に出て、事に当たろうとしている。
ヨミの狙いもどうやら、本気である。
つまり・・・
「現れる"妖刀"を封印出来れば、万事解決ってことか。」
「そういうわけだ、今日は変に冴えているな。」
変は余計だ。
朝から、色々駆けずり回って、アドレナリンが出すぎたのかも知れない。
アスビーもそんな、俺を見て。
決心がついたらしい。
「調査か?」
「そうだ。それと、玖礼の保護だ。明日の朝一に詰所に向かうぞ、琥太郎。」
迷いが晴れたアスビー。
「了解した、主。」
アスビーは、タバコを消すと颯爽と部屋へ戻った。
騎士の詰所。
地下に備え付けられている牢屋の一室で、玖礼は、天を仰いでいた。
やっと、やっと、
"妖刀"に手が届きそうなのだ。
何時から探し回っているのかも、わからない。
ただ、漠然と自分の魂の片割れを求めるように世界を渡り歩いた。
そうして、やっと。
核心に近い人物に巡り会い
それに呼応するかのように、聞こえる"声"も大きくなった。
すぐそこまで、"来ている"
危険な事はわかっているが、
手に入れなければ、
絶対に。
"妖刀"は、俺のモノだ。
玖礼が、目を閉じると。
光景が見える、何処かの山。
そこを、ゆっくりと歩む者。
近い、
近いぞ。
歩みは早まり消えていく。
誰かが、玖礼の牢の前にやってきた。
旨そうな匂いを持って。
玖礼は目を開けて、柵越しにキャトルを見る。
キャトルは、鍵を開き牢の中へ入ってくる。
「あ、ごめん。寝てたの?」
「いいや、ちと夢を見てただけじゃ。」
キャトルは、玖礼に食事を差し出し、一緒に持ってきていたコーヒーを飲む。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
玖礼は、食事に手をつける。
キャトルは、そんな様子をチラリと見ながらコーヒーを啜る。
「よう、そんな苦いもん飲むのぅ。」
「アタシも、ストレートだと飲めないよ。ミルクと砂糖をもりもり入れなきゃね。」
「そうかそうか、そんな手もあるんじゃな。」
「そう、今度試してみたら?」
「そんなに、してまで飲みとうもんじゃないわ。」
玖礼は、笑いながら食事をすすめる。
キャトルも、そんな玖礼を見て笑う。
「・・・色々、世話かけてすまんのう・・・」
玖礼から、漏れた言葉に目を丸くするキャトル。
「何て顔するんじゃエルフ娘。」
「いや、そんな言葉知ってるなんて思わなくて。」
「失礼なやっちゃのう。わしじゃて礼は弁えとる。」
「そか、案外良い子なんだね玖礼くん。」
「年下に、くん付けされるのは、何か変じゃ。」
「照れちゃって、精神的にはアタシの方がお姉ちゃんですよーだ。」
玖礼は、食事を終えると。
「ご馳走さま。」
「はや! ちゃんと噛まないと、喉詰まるよ。」
「なぁに、慣れっこじゃ。」
楊枝を使う玖礼。
キャトルは、もう・・・っと呟き、食事を下げようと、牢を出る。
「エルフ娘。」
「なに?」
「世話をかけたな。」
「なによ、改まって。」
「きっと、わしがここに居るのも長くないからのぅ。」
「・・・」
キャトルも、玖礼の話は聞いている。
"妖刀"に魅せられた者の末路は・・・
キャトルは、牢を閉める。
「大丈夫だよ。」
玖礼は、キャトルを見ると
彼女は満面の笑みで。
「うちの、領主様も。ヨミも、すごいんだから。きっと玖礼くんの命も救ってくれるよ。
もちろん、アタシもね。」
そう言い、キャトルは牢を後にする。
玖礼は、布団に横になる。
「エルフ娘が、調子づきおって・・・」
玖礼は、ニカッと笑うと。
眠りについた。
すぐそこまで近づいている"足音"を聞きながら。