「求め人見つかりて」
「求め人見つかりて」
入り口の騎士に軽く挨拶をすると、そのまま、仮眠室へと向かっていた。
アスビーの従者として何度か訪ねているので、ほぼ顔パス状態である。
いちおう、この世界での警察署みたいな場所なのに、こんなんで良いのだろうか?
時折、すれ違う騎士に挨拶をしながら、そんなことを考えて歩いていると仮眠室の前に見知った男が立っていた。
額に短い角を生やし、爽やかな印象の黒髪の男、アレン。
アレンは、仮眠室の扉に寄りかかっていた。
「アレン、何してる?」
「護衛だ。」
「護衛? 誰か要人でも寝てるのか?」
「将来のフィアンセが、不貞の輩に襲われないようにね。」
アレンは、琥太郎にニヤリと笑む。
「俺だって人のものに手を出す悪い男ではない。ただ、お前の言うフィアンセとやらは、フリーのはずだが?」
「だからこうして、事実を作ろうと待っているのではないか、エルフ族は耳がいいからな、浅い眠りでは、すぐに覚めてしまう。」
なんだ、目的は一緒じゃないか。
口ではさんざん、カッコつける癖に、いざって時に勇気のない友人を見る琥太郎。
「ならば、問題ない。むしろ、好都合だ、アレン。
代わりばんこといこう。
まず、俺が中に入る。
お前はそこで見張っていてくれ。」
「何を言う、琥太郎。
順番は守れ、お前が見張り、僕が中に入る。」
「なるほど、意見が割れたな。本来なら中に居る人物に、どちらが初めてならいいか? 伺いたてるのが正しいのだが、それも叶わぬ。」
ア「そうだな、琥太郎。ということで、見張りは頼んだ。」
アレンは、仮眠室の扉に手をかける。
その腕を押さえる琥太郎。
「まぁ、待つんだアレン。俺は、いまハーパーから貰ったとても良い薬を持っている、何ならお前に分けてやってもいいんだぞ。」
「薬などに頼らなくても僕は平気だ、手を離してくれないか琥太郎?」
アレンは、力をこめ、手を振りほどこうとする。
負けじと力をこめるが、力で敵う筈のない琥太郎は最終手段に出る。
「キャトル! 起きろ! アレンが鼻息荒く、お前に襲いかかろうとしているぞ!」
仮眠室の扉をドンドンと叩く琥太郎。
「卑怯者!」
「何が卑怯か! 俺はお前にチャンスをやったというのに! それを素直に受け取らないのが悪いんだろう!」
アレンと琥太郎は、仮眠室の前で人目も憚らずに掴みあう。
「チャンス? 面白いことを言うものだな、琥太郎。
僕こそ、同じ屋根の下に住みながら、永遠に手の届かぬ寂しい男に、素晴らしい声を聞かせてやろうとしてあげたのに!」
「声などいらない! 俺は身体が欲しいんだ!」
仮眠室の前でギャーギャー喧嘩をする不埒な男たち。
そうこうしていると、仮眠室の扉がゆっくり開くも、二人はそんなことに気づきもせず掴みあっている。
「うるさい・・・ウィンドブレス!」
そして仲良く風に吹き飛ばされた。
仮眠室の中から、不機嫌丸出しのキャトルが、ノロノロと出てくるのをみて、吹き飛ばされた二人の男は目線をかわす。
「おはよう、キャトル。迎えにきたぞ。」
「はぁ?」
最悪の目覚めのキャトルが低い声で、琥太郎を向き、琥太郎の、額を汗が一筋伝う。
アレンは、その様子から琥太郎には無理だと感じフォローいれる。
「おはようございます。キャトルさん、起こしてしまい申し訳ありません。」
キャトルは、目を擦りアレンを向く。
「おはよう・・・アレンくん。何かあったの?」
「実は、あの男がまた、逃げ出しまして、キャトルさんの手を煩わせたくはなかったのですが、騎士たちが目下捜索中なんですが・・・」
「えぇー・・・もう・・・」
キャトルの耳が、最大限に垂れ下がる。
「いま、暖かいコーヒーを持ってきます。」
アレンは、琥太郎にウィンクすると、そそくさと、去っていく。
「はぁ・・・何で、お父さんは、アタシを担当にしちゃうのかな・・・」
キャトルはここ数日、昼夜問わず、気づけばどっかへ消える男の世話に四苦八苦。
男がキャトルに、恩があるとかで
キャトルとは、話を交わすことがわかったバラクは、厄介者をキャトルに押し付けたのだとか。
「ああ、もう最悪だよ・・・身内なのを良いことにコキ使いすぎだよ。」
「よいことではないか、キャトル。全く見向きされないほうが悲しいだろう。」
「それ、琥太郎が言うと、何か虚しいね・・・」
可哀想な目で俺を見つめるキャトル。
失礼なやつだな。
キャトルは、仮眠室に戻り、装備を整える間に、アレンは、盆にコーヒーを3つ、淹れて持ってくる。
「何か、大変なようだな。」
「琥太郎は、会ってないからわからんだろうが。
奇天烈な男が、先日からこの街に来ていてな、不思議な言葉遣いで面妖な出で立ち。許可書も持っていないので、密入国として騎士が身柄を捕らえてるんだが・・・」
キャトルが鎧を着て戻ってくると、コーヒーをキャトルに渡すアレン、気の効く男のアピールか? 鬼族の亜人だというのにみみっちいことするなぁ。
「ありがとう、アレンくん。それで、"玖礼"はどこ行ったの?」
「キャトルさんが眠りについて、直ぐに『ヨミドノに会いに行くんじゃ』と言って飛び出して行きました。しかも、保管庫から、剣を持ち出したようで。」
「ちょっと! 大変じゃない早くその、"ヨミドノ"さんを見つけないと!」
アレン「僕もそう思い住人表を調べていたのですが・・・"ヨミドノ"が見つからなく・・・」
アレンと、キャトルは頭を悩ませている。
その会話を聞いていた琥太郎は、内心、こいつら馬鹿かと思っていた。ヨミドノって、ヨミ殿だろ。殿という敬称を知らないのか?
耳をツンツンとする琥太郎に、
キャトルは、ジトッとした目で睨みかえす。
「いま、遊びに付き合ってあげる気がしないんだけど・・・」
「琥太郎、これは一刻を争うんだ、茶化すのはやめてくれ。」
マジ顔で何言ってんだコイツら。笑いをこらえるのが大変だぞ。
「おい、ポンコツエルフ。」
「なによ、ポンコツスケベ。」
「"ヨミドノ"じゃなくて、"ヨミ・殿"だろ。」
「は?」
「合点いかないか、この世界では使わん敬称なのか殿は。」
「"ヨミドノ"ではなく、"ヨミ殿"か・・・殿とは、なんだ?」
「俺の世界で昔使われてた敬称だよ。こっちじゃ使わないのか?」
「そういえば、東方の部族が使ってると聞いたことがあるな、なるほど。これは、失念だったな。」
「じゃあ、ヨミを探してたってことなんだ、玖礼は。」
「そうだろう、その玖礼と言うやつ、もしかしたら俺やヨミ同様、向こうから召喚された者かも知れないな。」
3人はコーヒーを飲みながら、呑気にそんなことを喋っている。
「どうする? いちお、アタシたちが館にいこうか?」
「そうですね、キャトルさんお願いします。僕は、騎士たちに撤収するように伝令します。」
「じゃあ、俺は帰るかな。召喚されたヤツなら、アスビーに伝えたほうがいいだろう。」
「琥太郎もついてきなさい。」
「・・・なぜだ?」
「琥太郎と同じ世界の人間なら、話しやすいでしょうよ。」
琥太郎は、顔をしかめる。
何でわざわざアイツのとこに行かなきゃならん!
ああ、その玖礼が最強の何か凄い奴で、ヨミを倒したりしてないかな・・・
無理か、ヨミだし。
3人は男の狙いがヨミだとわかると、至って落ち着いていた。
だって、ヨミだし。
たとえ、凄腕の暗殺者であっても、
伝説の魔獣だとしても、
ヨミだし。
この街の人間の大半は、ヨミの正体を知っている。
力を出すたんびに、変化するヨミを見ているからだ。
ヨミもそれを利用して、
うちは、偉い狐神様なんやで
とか言って、貢ぎ物を受け取っていたりする始末だ。
コーヒーを飲み終わった3人は、各々、行動に移る。
逃げ出そうとする琥太郎の首根っこを掴まえてキャトルは、ヨミの館へ。
アレンは、騎士たちに男が見つかったことを知らせに街へ、くり出して行った。
アスビーの屋敷。
広大な庭で今日も、ノーチラスが生きた魔物を昼御飯にしていた。
天気も良いので、アスビーはノーチラスを見ながら
優雅にティータイムをしていた。
街からの報告書等に目を通しながら、庭の木陰で、カップを傾ける赤髪の美女は、実に絵になる。
「八尺様」怪奇のあとは、大きな事件も起こらず、平和なライクニック。
そんな中、正体不明で、密入国の男が生き倒れし、騎士に捕まっているとの報告があったが、
国境の街ならよくあることと、報告書に目を通していくアスビー。
屋敷の門が開いた。
琥太郎か、キャトルが帰ってきたか?
それとも、ヨミか?
そう考え、門の方をちらりと見ると後者であった。
ヨミがニコニコと、知らぬ男を連れてこちらに歩いてくる。
ふむ。
と、先ほどの報告書を見返す。
青い髪をテッペンで束ねた、茶筅髷の男、珍しい服装で腰に2本の剣を帯刀する。
報告書に乗っている男だな。
しかし、何でヨミに連れられてるのか?
男はノーチラスを見て、
何じゃこりゃ!
と叫んでいる。
腰の剣に手を伸ばす男を嗜めてるヨミ。
何やら、面白い噺になりそうだ。
と、アスビーはカップを傾ける。
「アスビー、遊びに来たでー。」
「よいのか! ほんとにこんな面妖な生き物がペットなのか!?」
「面妖とは、失礼だぞ、私の使い魔であるぞ。」
「そうなんか? それは、すまなかったのう、お主が領主さまか?」
声がでかい。
騒がしい男だ。
「ヨミ。こいつは、誰だ? 人の屋敷に何を持ち込んでいるんだ。」
「ほらほら、ちゃんと挨拶せなあかんよ。」
「うぬ、失礼したのう。わしは、玖礼と言う。」
「そうか、玖礼。私はアスビー、この街の領主だ。」
変わったら口調と出で立ちだが危ない者ではなさそうだ、アスビーの、腕をとり挨拶する玖礼。
「ふむ。これはまた、活きの良い犬を捕まえて来たものだなヨミ。」
「せやろー。まだまだ躾の途中なんやけどなぁ。」
「なにいっとるんじゃ? わしは、犬じゃなかろう!」
「その様だな、格好は不思議だが、召喚された者ではないな。」
「やっぱ、そうなんやな。ほな、何でそない格好しとんねん。」
「む? これは、サムライじゃけい。」
「それは、わかっている。いくぶん、勘違いが入っているようだがな。」
アスビーは以前、日の本の世界の"サムライ"と言うものたちも召喚して、怪奇を聞いたこともある。
その者たちの格好に良く似ているが、何処か勘違いしている玖礼のようだ。
「それで、ヨミ。こいつを連れて何のようだ?」
「せやせや、それ話しとかななぁ。」
ヨミは、椅子を袋から椅子を2つ、とり出し玖礼と腰掛ける。
玖礼は、ノーチラスが珍しいのか、目を輝かせずっと見ている。
コーヒーを淹れて差し出すと、
「いただきます。」
出されたコーヒーに口をつけ顔をしかめる玖礼。
「苦いのう。この味には、何度飲んでも、慣れんのじゃ。」
「まだまだ、子供だな玖礼よ。年はいくつだ?」
「今年で25になるのう。」
私より、上か。
そうは全然に見えないが・・・
「出身は?」
「うぬ・・・」
「ん? 答え辛いのか?」
「玖礼はなぁ、アスビー。"妖刀"に魅せられとるんやで。」
アスビーは、コーヒーと格闘する玖礼を見据える。
"妖刀"
怪奇を嗜む身として、話は聞いたことがある。
ここ、"イディオン"に存在する話で、
凄まじい呪力を持つ刀。
様々な力があるが、どれも人が易々と扱ってはならない代物。
それに魅せられた者は、
刀の声を聞き、それを求めて彷徨い。
いつしか、刀、以外の事を考えられなくなると聞く。
それで、私のところに連れてきたのか・・・
確かに、以前から"妖刀"の話を聞いたことがあるが、実物はいまだ見たことがなく、ぜひ見てみたいと思っていた。
しかし、興味はあるが、それを求め出すと自分の身が危ない。
"妖刀"の力は強く。
口に出しそれを求める者たちの末路は、悲惨なものだ。
"妖刀"に取りつかれ自らの身を差し出すもの。
声に導かれ、命を落とすものが後を経たないので、
いま、この"イディオン"では、世界的にタブーとされている。
ヨミはこの男を餌に、妖刀を呼ぼうとでも、考えているのか・・・
ヨミの考えを察するアスビーは、ヨミを睨む。
その瞳に、当たりや。とでも言うように頬笑むヨミ。
「すまんが、何故か思い出せんのじゃ。
昔のこと、わしの出生も。
ただ、わしは日の本の世界のサムライとして、"妖刀"を探さねばならないという使命があるんじゃ!」
「使命か。」
「そうじゃ、勿論危険な事はわかっておるつもりじゃ。
じゃが、それを野放しにしてはならん!
わしは、この地に散らばる"妖刀"を集める。そうすれば、何か、思い出せるかもしれんのじゃ・・・」
危険だ。
ただ、この男の言うとおりそれしか、道はないのかもしれない。
「アスビー。別にええんやで、ただ、邪魔せんかったらなぁ。」
「なんだと?」
「うちは、何も協力してほしくて来たんとちゃうで。ただ、領主様に伝えに来ただけや、ちょっと危ないことしますので、堪忍なぁって。」
「ちょっと危ない? そんな、言葉で納得しろと?」
アスビーは、他人事では済まないとヨミに警告する。
「私は、領主として。この街を、民を危険に晒すことはしない。させない。それは、お前もだヨミ。
その男を使って"妖刀"を誘き出すと言うならば、私はお前を全力で、止めるぞ。」
アスビーは、魔力を溜め、
ヨミに警告する。
どうしてもと言うのなら力ずくで、止める。
ヨミは、カップを傾けて立ち上がる。
「ほなら、うちは、ちょっと旅にでも出るわ。」
「なに?」
「玖礼、行くぞ。」
ヨミは立ちあがり、玖礼に声かける。
「しかし、よいんか?」
「ええんやで、これは、お前の為であり、うちの為でもあるんやからなぁ。」
「そうか・・・すまんのう。」
「だから、ええって。」
ヨミは、玖礼を連れアスビーの元を去ろうとする。
アスビーは、拍子抜けする。
「待て、ヨミ。」
「アスビー。」
ヨミがアスビーの瞳を射る。
いつもの、のらりくらり茶化すヨミの瞳ではない。
そこには、アスビーが見たことのない真剣で、崩せぬ覚悟のあるヨミがいた。
「なぜだ?」
「・・・よーわからんなぁ。
ただ、玖礼はなぁ。
今まで見た憑かれ者とは、何か違うんや。
うちもな、何やわからんけど。」
「ヨミ、お前も・・・」
"妖刀"に魅せられたのか?
そう言おうとするアスビー。
「それはないなぁ。
アスビー甘く見んといてや。
うちみたいな、高位な妖が、"妖刀"何て、ちっぽけな力に操られるわけないやろう。」
「では、何をそこまで動かすと言うんだ。
大妖怪"千年狐狸の精"ヨミを。」
ヨミは、理解できないと言いたげなアスビーに頬笑む。
「何や、うちかて色々あるんやでぇ。
強いて言うなら・・・自分探しやね。」
見つめ合う二人。
記憶の無くした大妖怪が、
九礼の記憶を奪い去った"妖刀"に並々ならぬ興味を示す。
アスビーにとって、ヨミは家族。
小さい頃から父と一緒に過ごした
アスビーの母親のような存在。
そのヨミが無くした記憶を求め、行動しようとしている。
アスビーは、その手助けをしてやりたいが・・・
アスビーは、
ヨミ、そして、玖礼を見る。
「少し、考えさせてくれヨミ。」
「わかったよぅ、頼んでるのは、うちの方やしなぁ。それまでは、大人しく詠んでるわぁ。」
「"妖刀"に関してか?」
「せやで。うちの詠みでは、近いうちに向こうからフラッと現れる筈や。そんときは、安心せい、うちが本気で止めたるからな。玖礼。」
二人の話しについていってない玖礼は、ノーチラスに近寄り、
遊んでいた。
1番、驚いたのはアスビー。
獰猛で私や、ヨミ。キャトルくらいにしかなつかない魔獣。
その魔獣を、玖礼は、撫でていた。
ノーチラスは、気持ち良さそうに玖礼の手にすり寄る。
アスビーが、ぽかんと目の前の光景に目を奪われている。
ヨミは、クスクスと笑う。
「ほらなぁ、やっぱただ者ちゃうやろぅ。」
玖礼が、ノーチラスに跨がろうとするのを見て、
アスビーは、魔法を放ち
それを阻止する。
玖礼は、
何するんじゃ!?
と言うが、アスビーは玖礼を睨み。
ノーチラスの毛を撫でる。
ヨミは、玖礼に近寄り。
人のもん奪っちゃアカンでと言い聞かせる。
こうして、領主にもある意味で一目置かれた玖礼は、
玖礼を探して占い館を訪れて、ヨミも目当ての者もいないで途方に暮れて帰ってきたキャトルと、琥太郎に騎士の詰所に連れられいった。