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異世界怪奇譚  作者: 春ウララ
五尺様
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「イディオンの朝は遠い。」

「イディオンの朝は遠い。」





こちらに来て、与えられた部屋には向こうにいた頃には見たこともない豪華なベッド、簡素だが素材の良さが伝わってくる木の机と椅子。

今はそれしかない、面白味のない部屋で安楽島琥太郎ウラシマ コタロウは眼を覚ます。

 外からは、フクロウの様な生き物の鳴き声が聞こえる。

 

 「違う、あれは絶対フクロウじゃない。だってフクロウは、あんなガチムチじゃないし、だいいち二足歩行じゃない。」

 

 琥太郎が窓を開け身を乗り出すと、フクロウの様な生き物はその、丸太の様な手足でしがみついていた木から降り、ホー、ホーと取って付けたように鳴きながら走り去って行った。

 暫くして、フクロウの様な生き物の悲鳴と共に草木の揺れる音がした。

 

 「今日のノーチラスの餌はいらないな、と。」

 

 琥太郎は気だるげに上着を羽織ると、主の部屋を目指した。

 

 

 

 琥太郎は、心底運だけは良いと思っている。

 産まれてこのかた19年。

 高校デビューしてから吸いだしたタバコで1度も補導されたことがない。

 親は放任主義なので、バイトで稼いだお金で買った酒やタバコにはとやかく言ってこなかった。

 いや、とにもかくにも今の話である。

 バイトをバックレて入った喫茶店で、まさか異世界に飛ばされるとは。

 しかも、この異世界。

 俺に優しい。

 

 

 そんな、回想に耽りながら琥太郎は目的の部屋に着いた。

 残念なことに灯りがついている。

 実に残念だ、しかし、うちの主はもっぱら夜行性だ仕方がない。

 琥太郎はノックをして部屋の扉を開けた。

 

 「アスビー、夜這いにきた・・・よ!?」

 

 琥太郎が全てを言い終える前に、琥太郎の顎をキレイに拳が撃ち抜いた。

 膝から崩れる琥太郎の膝に細足のヒールが刺さる。

 

 「琥太郎よ、ああ、琥太郎よ、琥太郎よ。」


 「この世界の松尾芭蕉はとても美しい御身足でございますね」


 「嘆かわしいな、安楽島琥太郎。ノーチラスは丁度。腹ペコのようだ。」


 「さっき、フクロウを頭から齧りついてたので、それはないかと。」

 

 ふむ。と言いながら足をどかし、機嫌の良さげなヒールの主は、それはそれは豪華な深紅のソファに腰かけた。そのソファよりも濃く、鮮やかな紅色の髪、少し癖の付いた毛先を弄りながら、肉食の獣の用に鋭く、朝焼けのように美しい金色の瞳が俺を見据える。

 この人こそ俺をこの世界へ召喚した主"アスビー"

 スラッとした体型の超絶美人である。

 脚を組め!

 俺の念が伝わったのか、ローブ姿のアスビーは脚を組む。

 くそ! 見えない!

 さすが、主。鉄壁の絶対領域。

 しかし、それがいい。誰にも崩せぬ気高く美しい、難攻不落の城。それを我が物にすることにこそロマンがあるのだ。

 

 「その眼で私を観るときのお前は決まって下らなく、下世話な事に脳を働かせているのであろう?」


 「その眼で俺を観るときのアスビーは決まって欲求不満なんだよな?」


 「主の意思を汲み取れるようになったか、琥太郎よ。さぁ、私を満足させてみよ。」

 

 そういうと、アスビーは部屋の灯りを消した。

 

 

 しばしの沈黙。

 積み重なる沈黙。

 アスビーの瞳が揺らいだ。

 

 「何を黙っている」


 「いや、どちらなのかと」


 「なに?」


 「いつも、みたいに怪奇譚を望むのか? それともその他かと」


 「その他とは?」

 

  アスビーの目が鋭さを増すのが気配で伝わる。

 が、それでも我が口上は止められぬ。

 

 「いや、つまりこれは御誘いなのかと。肉体的に欲求不満な主からのセック・・・」


 「ライトニング!」

 

 雷が我が身を貫いた。

 もう、素直じゃないんだから。

 

 

 

 

 

 数拍の気絶のうち。

 俺は眼を覚ますと、身体に心地のよい痺れが、流石、主。今朝方の、鬼族とのリアル鬼ごっこの疲れも吹き飛んだ。


 「ふむ。目覚めたとは残念だ。生きの良い死に餌をノーチラスにやれると思っていたのに。」


 「生きの良いのに死んでるのか。」


 「お前ら、異界の者なら可能であろう」


 「アスビーは異界にどんな冒険と異常を求めてるんだ? 俺にとったらこの世界の方がよっぽど異界異界してるけどな。人を喰う巨大な一角獣がいたり、美女の手から雷が飛び出たり。」


 アスビーは俺が気絶している間に汲みに行ったであろう、コーヒーを啜りながらタメ息をつく。

 あぁ、これ以上焦らすと餌になるな。

 主の苛立ちを汲み取った俺は今日も主のために語る。

 

 「安楽島怪奇譚その6 "八尺様"」

 

 語りだした俺にコーヒーを差しだしアスビーは怪奇の世界に耳を傾ける。

 

 

 

 

 「八尺様」

 

 ある、田舎町での出来事。

 春休み。祖父母に会うためその町に遊びに来た中学生の太郎(仮名)は

縁側でスイカをかじりながら寛いでいると、どこからか奇妙な音がするのに気づいた。


「ぽ、ぽぽぽ、ぽっ、ぽっぽ。ぽっ・・・」


ふと、目の前の生垣をみると白い帽子と白い傘が見えた。

 しかし、妙だ。この生垣高さは2メートルくらいあるのに、何で帽子が? どこかの子供が買って貰った帽子と傘が嬉しくて高々と掲げているのだろか・・・

不思議に思いながらも帽子を目で追っていると、生垣の切れ目からそれが見えた。白いワンピースの大きな女が傘をさして歩いている姿を。

帽子はその大きな女のものだった。

大きな女はそのままどこかに消えさり、気がつくと奇妙な音も聞こえなくなっていた。


田舎は凄いなぁ。そういえばここに来るときも身長3メートルの毛むくじゃらのおっさんがいたなぁ・・・あ、あれは熊か! てへ! などと軽く考えていた太郎だったが、祖父母にその熊女(太郎命名)のことを話した途端、二人の態度が急変。


 「それ、熊やない! 太郎! "八尺様"や!」

 

 じいちゃんはそう言うと、どこかへ電話をかけだした。

 

 「何も、心配せんでいい太郎。何も心配せんでいい。心配せんでいい。」

 

 ばあちゃんはそう繰り返して太郎を強く強く抱き締めた。

 しばらくすると、祖父母の家にたくさんの大人がやってきた。

 大人たちが、じいちゃんと話してるのを聞くと

 八尺様とは、この村に昔から存在する神のようなもので、気に入った子供を見つけては連れ去っていくのだと。

 そして、太郎は八尺様に見初められてしまったと・・・


 俺が、喜々と語っていると突然、上方から美女の気配が。

  

 

 「なにそれ、何処が怖いの?」


 「もっと前屈みに寄りかかれキャトル。そうすれば、俺もお前も気持ちがいい・・・いたっ! おい! 家に入ったら鎧は脱げ! シャツも脱げ!」


 「・・・ライトニング」

 

 

 今夜、二度目の雷が我が身体を貫いた。

 

 

 「うわ! 危ない、アスビー。アタシ、鎧着てるんだから!」


 「人様の家に鎧姿で訪れるとは、不作法だぞキャトル。」


 「ここは、アタシの家でもあるんだけど、もう。」

 

 

 そう言い、コーヒーを啜るアスビー。

 渋々と行った様子で鎧を外すキャトルと呼ばれた少女。

 銀色の髪を短く切りそろえ、種族特有の長い耳が目立つ活発系美人である彼女は、黒焦げの俺をチラリと盗み見る。

 

 「あ、ごめん。琥太郎。怪奇の続きだったよね。続けて続けて。」

 「もういい、興が削がれた。それに話としても30点だ。」

 

 

 俺はムクリと起き上がると、未だ痺れる脚にむち打ちソファに腰かける。

 キャトルも俺の隣にきっちり一人ぶんの距離を空けて腰かけた。

 

 

 「おいおい、今からが本番だってのに。」


 「お前の話は脚色や、無駄なボケやら、とにかく、無駄が多い。かい摘まんで起承転結だけ話せ。」


 「こればかりは才能の問題だ。それは、おいおい磨くとして」


 「そうそう、折角の怪奇も話し手の技量で駄作になる。まるで"デスナトのつま楊枝"のように」


 「デスナトってだれだ?」 


 「高名な召喚師よ。デスナトは昔、究極のつま楊枝を創ろうと異世界からの知識をかき集めようしてたの」


 「はぁ・・・で?」


 「つまり、いかに力を持ったものでも使い手の使い方次第で無用の産物となるということか」


 「さすが! ほらね」


 「ほらねじゃないだろう・・・ごほん。では、かい摘まんで。見初められた太郎の身代りとなる物を創るまでの間、太郎は安全な場所に匿われた。そこで、太郎には色々な恐怖が襲い来るんだが、何とか乗りきり太郎は無事その土地を脱出する。でも、その10年後祖母から祖父が死んだと連絡を受け、しかも、身代りとしていたものも何故か壊れてしまったと。それを聞いた太郎の背後から『ぽっ、ぽっぽ、、ぽ・・・』と音が聞こえた。おしまい。」


 「ふーん、八尺様の怪奇は続くとね」


 「ふむ。なかなかの怪奇であった。褒めてやろう」

 

 

 そういうと、アスビーは俺の頭を撫でだした。

 

 

 「はいはい、お粗末様でした。ガキ扱いはやめてくれよ。」


 「少し顔が紅いよ、琥太郎。熱でもある?」


 「問題ない。」


 「さて、"八尺様"か、何処かで似たような怪奇を聞いたような気がするな」

 

 

 そう言いながら、ナデナデを辞めたアスビーはおもむろに、部屋を出ていった。

 

 

 「琥太郎、ついてかなくていいの?」


 「あの後ろ姿は、しばし、待っておれのサインだ。」


 「時には待つのも大事。押して駄目なら押し倒せとは良く言ったものだよ」


 「キャトル。お前はほんとに言葉の意味を知って話しているのか?」


 「ふわぁー。何か眠くなってきた、アタシもコーヒー飲もうっと。琥太郎着いてきて」


 「コーヒーくらい一人で淹れれるだろう」


 「いやそれは、あのさ・・・」

 

 

 キャトルはそう言い、ハハと空笑いをしながら長い耳を弄る。

 なるほど、キャトルのこれは困っているだな。

 

 

 「・・・そうだな、アスビーのコーヒーもしっかり冷めてしまったし淹れ直すとするか」

 

 

 そう言い、俺はアスビーと自分のカップを手に取った。

 

 

 「それもそうだね! じゃあ、一緒に行こうか!」


 「まったく、怖いもの見たさとは良く言ったモノだ。」


 「何か言った?」


 「いや、何も」

 

 

 そういい、俺はキャトルと共に部屋を後にした。

 こんな、可愛いエルフっ娘と、美しい主。共に暮らせる俺の異世界暮らしは、やはり素晴らしいものなのである!

 

 

 そう、"暮らし"という観点ではだが・・・

初投稿です。

今後もそこそこのペースで投稿していきたいと思います。

以後お見知りおきを。

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