8俺たちの文化
連続です!
俺の目の前に並んでいるのは野菜のスープにパンだった。流石にファンタジーな世界なだけあってカレーとかが出てくる気配はない。
アーリィがニコニコしながらこちらの様子を窺っている。
──何か気になることでもあるのか?
そう考え、ふとひとつの解答に辿り着く。
──もしかして、この料理はアーリィの手作り、か?
となれば先程から視線をグッと料理に注いでいるのも頷ける。まぁ言っても本人に確認を取らなければいつまでも真相は分からないままではあるが。
ともあれ小さな疑問も解決したことだし、俺も改めて料理に視線を向ける。
俺の視線の先にある乳白色のスープが、ほわほわとたちのぼる湯気と共に漂う匂いで俺の鼻腔をくすぐる。それと同時に腹の音がまるで女性のか細い悲鳴のように鳴る。
…どうしてだろうか。こういうときに限って耳に痛い静寂が広がっていく。見ればアーリィは口に手を当てて声が漏れるのを防いでいる。顔の表情は見たところ変わらなかったので、マナーとして口を軽く塞いだようだった。
それを見ていた俺は必死に平静を装いながらスプーンを手に取り何事もなかったかのように、スプーンをスープの海へと沈め、取り出したものを口に含む。
「…うまい」
「ほ、ほんと?」
「ああ良かったぁ~」
「ん?と言うことはこれはアーリィが?」
「ええそうよ」
「凄いな、とても美味しいよ!」
「フフッありがと」
と話から分かる通りやはりアーリィの手作り料理だったようだ。ちなみに味は─さらさらとした食感の具沢山のシチューを想像してもらえばいいと思う。
──ん、そうかシチューなら─
一旦スープの入った器から手を離し、代わりに少し固めのパンを手に取る。それを小さくちぎって口の中に放り込む。その後、口の中に更にスープを流し込んだ。
「ん~やっぱり旨い!」
これは地球にいた頃よくやった食べ方だ。ただしその時はいつもシチューに直漬けだったが。ちなみにカレーでも同じことをした。
「あら?どうしたの?」
「え、なにが?」
「涙、出てるわよ?」
ふと自身の目元に触れてみると確かに涙が溢れていた。それを自覚すると共に涙が頬を伝う感触があるのに気付く。
「あれ、ホントだ」
──よくフィクションではありがちだけど、まさか自身が経験することになるとはなぁ。
さっき思い出を回想していただからだろうか。たったそれだけで涙が出てくるとは。どんだけ涙もろいんだ俺。
「大丈夫?」
「ん、ああ大丈夫。あまりにも美味しすぎて涙が出てきたみたいだ」
「あら、それは本心?なら嬉しいけど」
「いやホントだって。信じられない?」
「ん~ん、信じてあげるわ♪」
何とか笑ってごまかすことに成功したようだ。最も、そう見えただけなのかもしれないが。
それからは残る料理をうまいうまいと言い続けつつ、食事の間、アーリィと他愛もない会話をした。
ちなみにこの時に話をしている途中に俺の名前を聞いてきたときには軽く驚いた。お互いこんなに話しているのにも関わらず俺とアーリィは自己紹介すらしていなかったようだ。
「そうだ、あなたの名前聞いていなったわね?」
「ん?ああ確かに!こんなに話してるのに全く気付かなかったなぁ!」
「私もよ。ねぇ、教えてくれる?」
「もちろん!俺は宮間燐だ。燐って呼んでくれ」
「分かったわ、じゃあ次は私の番ね」
「ああ」
「私はアーリィよ、ただのアーリィ。よろしくね」
「ああ、よろしく!」
と、こんな感じの探せばどこにでも転がっていそうな話題で盛り上がっていた。
そして食事が終わりいつものように、
「ごちそうさまでした」
合掌をしてお辞儀をする。するとアーリィは興味津々な目で俺に聞いてきた。
「あら?それは何かしら?」
「ああ、これは俺がいた場所の、風習みたいなものかな。命を頂きました、ありがとう、ていう感謝の言葉だよ」
「それは素晴らしい風習ね!今から私もやって間に合うかしら?」
「ああ、まだ間に合うよきっと」
「フフッ、じゃあ私も」
と、先程の俺と同じように合掌して「ごちそうさまでした」と言った。