5告げられた言葉
待たせたな!
さて、軽く返事した俺ではあったが、俺は内心気が気では無くなっていた。理由は至極単純だ。
──今まで誰かの家に泊まった事なんてねぇぞ!?
そう、俺は今まで生きてきたなかで友達の自宅に宿泊、どころか上がったことすらない。そんな俺がまともに返答できただけでも凄い、と自らに言わざるをえない程だ。……悲しいことに。
そんな俺だったが、今夜の寝床を自力で確保できない以上救いの手に縋る以外の選択肢は俺には初めから無かった。
俺は厳つい男性に促されリラとその家族の家へとお邪魔した。いつもの癖で玄関で靴を脱ごうとする。が、リラ一家はなんと土足のまま家の中へと入っていく。
俺はそれを靴を脱ごうとしたままの姿勢で唖然として見ていた。それを不思議に思った厳つい男性が、
「ん?どうかしたかい?」
と怪訝そうな視線を向けつつ聞いてきた。俺は少し頭を振るい、
「あ、いえ、大丈夫です」
といい、一家の様に土足でリビングへと入室する。
すると部屋の中は土足だと言うのに中々綺麗にされていて、所々に鉢植えで数種類の花が存在を誇張するように咲いていた。お陰で武骨な暖炉にシンプルな食卓が置いてあるだけの殺風景な室内が可憐に彩られている。
思わずまじまじと室内に手当たり次第視線を投げていると、
「どうかしましたか?」
とアーリィが話しかけてきた。
「いや、そこの花たちと部屋がとても似合っていたのでつい見いってしまったんです」
「あら、それはそれは、リラも鼻が高いでしょうね」
「ということはこの花はリラちゃんが?」
「ええ。あの子は昔から花が大好きで、よく摘んでくるんです。最初は頻繁に摘んで来るのでよく家が花だらけになっていたのですが、ある日、「そんなに摘んできたらお花が可哀想でしょう?」と軽く叱った日があったんです。するとその日以来家が花だらけになることは無くなりました。ですがその代わりにリラがとても気に入って摘んできた花だけはこうして飾ることにしたんです。」
「ふ~ん、そうなんですか。確かにここに飾られた花はどれも思わず目がいってしまいますね」
「そうでしょう?リラはきっと花の妖精に好かれているんでしょうね」
──花の妖精?
普段聞き慣れない単語に思わず質問する。
「あの、妖精、とは一体?」
「あら、ご存じありませんか?」
「はい、生憎とここにたどり着くまでの記憶が曖昧でして。宜しければ色々教えてもらえませんか?」
「あらあら、それは大変だったでしょう。分かりました、私の知っていることなら教えて差し上げましょう」
「あ、ありがとうございます」
──やった!
これで何とか情報収集の目処がたちそうだ!
「では早速、先程の妖精のことからですね」
「はい」
「妖精とはこの世の全ての物質に宿るマナに自我が宿った精神体のことです。」
「精神体、ですか?」
「はい。分かりやすく言えば肉体を持たない意思疎通の出来る生物、といったところでしょうか。」
「意思疎通の出来る生物、ですか。つまり肉体を持つ意思疏通の出来る生物もいる、ということですか?」
「その通りです。そうですね、例えば竜等がそれに当たります。他にも#名指し__ネームド__#と呼ばれる魔物にも当てはまります。」
「魔物、ですか?」
「はい、#名指し__ネームド__#以外の魔物と意思疎通は例外を除いて不可能ですが、#名指し__ネームド__#はほぼ例外もなくスライムでさえも意思疎通が可能です。」
「なるほど」
「過去には魔物であるにも関わらず英雄として祭り上げられた#名指し__ネームド__#も存在しているみたいです。」
「へぇぇ!」
なるほど、どうやらこの世界には魔物が存在するようだ。それを知ることが出来ただけでもかなり大きな収穫だ。
「因みに#名指し__ネームド__#は他の同じ種族の魔物でも例外を除いてかなり強力です。ですから#名指し__ネームド__#との接触は死を覚悟せざるをえないでしょう。」
「え?意思疏通が出来るなら襲われないんじゃ?」
「それが、#名指し__ネームド__#は弱肉強食の世界を生き抜いてきた魔物ですので、命乞いなどは一切通用せず間違いなく、襲ってきます。大体の人間はそのただの一撃で命を落としてしまうので、彼らにとっては格好の餌だといえる存在なのです。そんな狩りやすい獲物を逃す魔物はいないのです。」
「そうなんですか…」
──俺も気を付けないと。
そう自らに言い聞かせると、ふと少し前の光景が脳裏に浮かぶ。もし、俺の戦った相手が#名指し__ネームド__#だったなら恐らく俺はここにはいなかったのだろう。
そう考えると足の爪先から頭の先まで一気に気持ちの悪い怖気が駆け抜ける。
それを見越したからなのか、それとも初めから言うつもりだったのか、アーリィは急に真剣な顔になると誰かに語りかけるように言葉を紡いだ。
「もし、リラが襲われたのが#名指し__ネームド__#であったのなら、そして貴方が#名指し__ネームド__#の存在を知っていたのなら、恐らく貴方はリラを助けようとはしなかったでしょう。」
と言い切った。
「そんなこと──!」
と俺は反論しようとした。が──
──ホントにそうか?知らないふりをして逃げたりはしないのか?
自身に問い掛ける。が、そんなことはない、と強く言い切ることは出来そうになかった。
誰だって死ぬのは怖い。言葉で怖くない、と言ってみたところで己の奥底にある本心は偽れない。俺はそんな人間の一人だった。
後の言葉が続かない。続けようとして口を動かそうとするものの、喉を伝わるだけの声にならない空気を吐き出すしかない俺を見てアーリィは、
「やっぱり、怖いでしょう?」
「……はい 、怖い、です…」
優しい声色で聞かれ、反射的に答えてしまう。
「いいんです、私だってもしかしたら動けないかもしれませんから。……でも、貴方はリラを見捨てなかった。理由はどうであれ、です。だから私は貴方に心からの感謝を捧げます。妹を助けて下さり、本当にありがとうございました」
そう言って、アーリィは深々と俺に対して頭を下げた。
「え、ちょ、そんな、頭をあげてください!」
あたふたととりあえずそう告げる。そう俺に言われて頭をあげたアーリィの頬は、涙で濡れていた。
ハハハなにこいつめっちゃウケるんだけど、おもしろっ!……ン?………!!
ドタバタドタバタ(・・;φカキカキカキカキ………………………………………………
ま、またつぇたな!つぎのあ、話にGOだ!