4娘の帰還
お待たせしました、それではどうぞ!
村に入ると慌ただしくしている数人の村人が目にはいる。構成からして恐らく家族だと思われる集団は、何事かを話していてそのうちの一人─母親にあたる人なのだろうか、手で顔を押さえて泣いているように見える。その隣では心配そうな顔をしつつ母親の肩をそっと抱いて宥めている若い女性がいる。彼女たちの正面ではなんとも厳つい顔にシワを寄せ腕組みをして熟考している男性の姿がある。
そんな団体の様子を足を止めて見ていた俺の様子にリラが、
「あ、あの…どうしたんですか?」
と心配げに聞いてくる。
それに俺はああ、と集団の様子を見せるために、身体を傾けて背中におぶさるリラに見えるような体勢になる。
「ほら、あそこで何か話している人たちがいるんだけど──」
と。そこまで言ったところで様子を見たリラの様子が一変する。
「あ、おとうさん!おかあさん!おねえちゃん!」
──ぎゃー耳がー!
唐突にリラが叫ぶように集団に呼び掛ける。それに気付いたその集団は声の主を探すようにキョロキョロと辺りを見回す。そして俺の背中にその声の主を発見すると──
「リラ!」
「リラちゃん!」
厳つい顔した男性と若い女性が声を上げる。
それでようやく脳みそを回転させて理解した俺は背中のリラをそっと下ろす。
するとリラは集団の元へと駆け出す。
顔を伏せていた母親らしき女性は愛娘の名前が呼ばれたことに反応してハッ、と顔を上げる。
「ああ、リラ、リラ!」
「おかーさぁん!」
お互い駆け寄った母に娘は飛び込むように抱きつき、母はそれを優しく受けとめ厚く抱擁する。それに追随するようにして厳つい男性と若い女性も駆け出して輪に加わった。
──なんか、いいなぁ。
ほのぼのするドラマのワンシーンのような光景に心がほっこりとする。その光景は俺の心を満たしてくれた。今までの苦労がすべて報われるようだった。
抱擁は暫く続き、ゆっくりと母親が解放するとリラは家族から質問攻めに合う。
「リラ、大丈夫か?どこか怪我したりしていないか?」
「え?ううん、怪我なんてして─うっ」
「まぁ、足首が腫れているじゃないの!アーリィ、お願い!」
「任せて!」
そう言うとしゃがんでいた若い女性─アーリィは徐ろに立ち上がると少し離れてゆっくりとリラへと手を伸ばした。するとアーリィの手は淡い翠の光を帯びていく。
「『#癒し__ヒール__#』」
アーリィの手はそう唱えた瞬間に、一瞬強く光りリラの足首へと光が移る。するとリラの足首の痛々しい腫れが縮むように小さくなっていく。そして光が収まる頃にはすっかりと腫れがひいていた。
──おい。おいおいおいおい!マジかよ!まさか『魔法』が使えるなんて!
その光景を見ていた俺は興奮していた。異世界っぽいし『魔法』なんてあったらいいなぁ、とか思っていたが、本当にあったことに思わず──
「うおお……!」
感嘆の声を洩らしていた。すると、それを聞きつけた家族のご一行がこちらを見る。それに気付いたリラがハッと何かを思い出したように喋り始める。
「あ、あのね、あの人にここまで連れてきてもらったの!」
「そうなのか。」
とリラの言葉を聞いた厳つい男性が、
「おおい!すまない、少しこちらに来てもらえないか!?」
と俺を呼ぶ。俺は未だ『魔法』の存在を発見して呆然としていたが、声に我を取り戻した。
そして俺が声に素直に従い近付くと、厳つい男性が、
「家の娘が世話になった、ありがとう!」
とこちらに頭を下げてくる。
「い、いやいや!大したことはしてないですよ、気にしないでください!」
と、照れつつ答える。
「いや、話を聞いたところによれば君は娘の命の恩人だ、何か礼をしないわけにもいくまい」
──え~と、どうするか。……そうだ、
「あの、ではどこか寝泊まりできる場所はありませんか?とは言ってもお金も無いので安全に寝られるところならどこでもいいのですが。」
「ふむ、そうか………。……よし、なら家に泊まるといい。丁度部屋も余分に空いているんだ。お前たち、それでいいか?」
クルッと振り返り家族に同意を求める。すると反対の声は上がらなかった。むしろ歓迎されていると言っても良いぐらいだ。
俺は内心ほっとしていた。外で狼を目撃してしまった今、外で野宿など出来るはずもない。下手すれば寝ている間に襲われて喰われてしまうだろう。
それを踏まえて考えると中々破格の待遇ではないだろうか。
「─で、後は君さえよければなんだがどうだね?」
俺の答えはひとつしかない。
「あ、大丈夫です、よろしくお願いします」
こうして俺の今日の宿泊先が決まった。
おい君!早く…早く次の話をタァァァップするんだ!